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[2020.01]フィッシャーマンズ・ソング 〜コーンウォールから愛をこめて〜

文●圷 滋夫 text by SHIGEO AKUTSU

 イギリス映画には、労働者階級の名もなき人々が力を合わせ、皆で奮闘しながら1つの目標を達成するという、お家芸とでも言うべきカタルシスを持った作品が多く存在する。例えば少し考えただけでも『ブラス!』(96)や『フル・モンティ』(97)、『パレードへようこそ』(14)などの名前が思い浮かぶが、これら3作品の登場人物たちの心を奮い立たせるのはいずれもワクワクするような音楽であり、厳しい状況を絶妙なユーモアを交えながら温かな眼差しで見つめた作品ばかりだ。しかも実話がベースになった、嘘のようで本当の話だということにも驚かされる。

 本作もこれらの系譜に連なる作品と言えるが、大きく違う点もある。それはこの3作品には、サッチャー政権による国営事業の民営化政策が労働者階級を極端な貧困状態に陥れたという社会背景があるが、本作の背景は政治的なものではない。つまり登場人物たちが共通の貧困に喘いでいるのではなく、音楽業界のいけ好かない悪友たちとの享楽的な都会の生活と、地味ながら毎日を丁寧に生きる伝統的な田舎の生活という対比の中で、主人公が〝人生の選択〟について悩みながらも本当の幸せを追い求めるという、実は今風の物語でもあるのだ。その意味ではイギリスの何の変哲もない小さな港町の物語だが、だからこそあらゆる国のどんな地方にも通じる普遍性を獲得しているとも言えるのではないだろうか。もっとも今の日本では、むしろ貧困が背景の方にこそリアリティーがあるのだが……。

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©︎FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

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