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[2021.03]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2021年3月|20位→1位まで【無料記事 聴きながら読めまっせ!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。

  20位から1位まで一気に紹介します。

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※レーベル名の後の()は、先月の順位です。

「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 Eliseo Parra · Cantar y Batir

レーベル:Dalamix (15)

(上記の曲はアルバムに収録されていませんが、冒頭部分にエリセオがpandero cuadradoを演奏する部分があります。かっこいい!)

 スペインのベテラン音楽家、研究家、パーカッショニストであるエリセオ・パラの新作。スペインの伝統的なダンス・ジャンルを再現し、パーカッションとヴォーカルをふんだんに盛り込んだ新構成となっている。
 スペインの伝統音楽のプロモーターとしての長いキャリアが認められ、2018年にはヨーロッパ・フォルクローレ賞アガピト・マラズエラを受賞している。エリセオは生涯の大部分をイベリア半島を構成するすべての文化、また失われつつある少数の文化、民俗学と伝統を研究することに費やしてきた。今回のアルバムにもスペイン各地で収集した音楽を彼ならではの手法で作り収録した。
 アルバム最後の曲「Mediterráneo」は、同じくスペインの偉大な音楽家・詩人のジョアン・マニュエル・セラット(Joan Manuel Serrat)が作った曲であり、エリセオが22歳の頃から歌っていた。今回ジョアンへのオマージュとして収録されている。71歳でこのパワー、恐るべし!

19位 Las Lloronas · Soaked

レーベル:Muziekpublique (8)

 Las Lloronasは、2017年冬、ブリュッセルの路上で自然発生的なプロジェクトとしてスタートした女性トリオ。今回の作品は彼女たちの最初のアルバムとなる。EP『Take Space』を2018年7月にリリースすると、そこから各国のフェスに呼ばれ知名度を上げてきた。フェスでは、アルゼンチンのバンド Perotá Chingó のオープニングアクトとしても出演。この1stアルバムは、クラウドファンディングで資金を調達し作り上げた。知名度を上げた成果でもある。
 クラリネット、ギター、ウクレレ、ときにアコーディオンによるアコースティック音楽と、擬声語、ポエトリーを見事に融合させた音楽で、独特の世界観がある。3人の声は、スペインのフォークやヒップホップのリズム、クレズマーのソノリティ、ブルースなどを感じさせ、哀しみ、白昼夢、戦いの叫びを表現している。彼女たちのハーモニーとメランコリックなメロディー、何よりもクラリネットのなんとも言えない音色が、世界観をさらに広げている。今後の創作活動がとても期待される三人だ。
 擬声語が特に面白く、「La bruja mariposa」ではサビ部分は「ダメ、ダメ、ダメ〜」(日本語で!)と聞こえる。これがずーっと後を引く感じである。いい意味でクセになる音楽かもしれない。

18位 Liraz · Zan

レーベル:Glitterbeat (2)

 歌手と女優の両方で活躍するイラン系イスラエル人アーティスト、リラズのセカンドアルバム。タイトルの『Zan』はペルシャ語で "Women"という意味で、まさに彼女の祖母や母など家族の女性たちのために書かれたもの。「彼女たちは自由のために戦った。私は自分の自由のために戦っている。彼女たちの物語を歌にして伝えている」と語っている。そして、彼女の2018年の作品『Naz』からの物語の第二章だとも。
 このアルバムでは、現在イスラエルとは国交の無いイランの音楽家らと、テヘランのイスラム教徒や秘密警察からの視線を避けながら秘密裏にオンラインでコラボレーションを行った。(安全のため名前を明かしていない音楽もいるようだ)煌びやかなエレクトロポップをアンダーグラウンドで展開している作品である。

↓国内盤あり〼。

17位 Smadj · Dual

レーベル:Pschiit (-)

 チュニジア生まれフランス育ちのウード奏者、スマッジの最新作。
 1994年にバンド名義で1stアルバムをリリース。1999年にソロ名義でリリースしたアルバム『Equilibriste』では、アコースティックとエレクトロニックを融合させ、国際的に認知されるようになった。それ以降、多くのソロプロジェクトをリリースする一方、仲間のウード奏者 Mehdi Haddab とのデュオ「DuOuD」を結成したり、他の音楽家たちともユニットを組む等、精力的に活動している。アコースティックとエレクトリックをミックスすることが彼の特徴であり、彼のレパートリーは、伝統的なウードからエレクトリックウードへ、古典的な巨匠の方法で作曲されたものから電子的な影響を受けたものまで、多岐にわたっている。
 今回の最新作は、世界的なパンデミックから生まれたアルバムである。ツアーで訪れたポルトガルでパンデミックになり、ツアーが中断。その間にこのアルバムの制作を始め、最終的に戻れたフランスで仕上げることとなった。フルート奏者のSylvain Barou、サックス奏者のDenis Guivarc'hもサポートとして参加している。エレキウードと打ち込みとの融合が実に見事で、ウードの可能性が更に広がっている作品といえるだろう。

16位 Sofia Labropoulou · Sisyphus

レーベル:Odradek (5)

 ギリシャのカヌーン(アラブ音楽で伝統的に使われる撥弦楽器)奏者であるソフィア・ラブロポウローのソロ一作目。
 ギリシャと地中海の民族音楽、古典的なオスマン、西洋中世、実験的な現代音楽の世界を融合させることで、独特のサウンドを開発し、ソリストとして、アフリカ、ヨーロッパ、中東の様々な音楽の伝統を持つ世界的に有名なミュージシャンと頻繁に共演している。旅をしていない時は、映画やドキュメンタリーのために作曲をしたり、カヌーンやギリシャ民族音楽のマスタークラスを世界各地で開催。現在はオーストリアのウィーンとギリシャのアテネを行き来する。
 ギタリストのヴァシリス・ケッテンツォグルーと長年の共演し、2013年には、二人でのアルバム『Butterfly』をリリースした。
 今回のソロアルバムは、様々な時代や場所からインスピレーションを受けた制作された。アルベール・カミュの「Sisyphus and Other Essays」や、ギリシャ神話や民族様式、トルコやアラブの音楽、セックス・ピストルズなど。上記動画で、セックス・ピストルズのカバーを演奏しているが、まるで織物を織るかのようにカヌーンを演奏している。そして奏でる音と姿が本当に美しいこと! 実力派とも言える彼女のこの美しいアルバムを聴くと、心が洗われる。

15位 Luedji Luna · Bom Mesmo É Estar Debaixo d’Água

レーベル:Luedji Luna (11)

 ブラジルディスク大賞2020の、関係者投票で2位にラインクインしたバイーア出身の女性SSW、ルエジ・ルナ(Luedji Luna)のセカンド・アルバム『Bom Mesmo É Estar Debaixo D’Agua(一番いいのは水の中にいること)』が、本チャートにもランクインした。
 サウンド面での本作の意図は、アルバム全体を通して、アフリカとブラジルの間、より正確にはケニアとブラジルの間で、ジャズからの影響とアフリカのリズムをミックスすること。そのために音楽プロデュースは、ケニア人ギタリストのKato Changeとルエジが務めた。録音バンドのメンバーは、Kato(ギター)の他、サンパウロでコンゴ人の両親の下に生まれたFrançois Muleka(ギター)、キューバ出身ののAniel Somellian(ベース)、バイーアのRudson Daniel de Salvador(パーカッション)、バイーアに住むスウェーデン人のSebastian Notini(パーカッション)。バンドからして多文化を象徴するメンバーとなっている。
 このアルバムに込めた物語は、黒人女性の人間性を取り戻すことだとルエジは言う。
「映画の中で黒人女性が愛されていたり、ミューズになっていたり、一人称で話していたりするのを見ることはほとんどありません。私はその物語を構築したいのです」
※前作リリース時には、本誌で彼女へのメールインタビューを行ないました。

14位 Gájanas · Čihkkojuvvon

レーベル:Bafe’s Factory (32)

 フィンランド最北端のイナリとウツヨキ出身の4人組バンド、ガジャナス(Gájanas)のデビューアルバム。2016年のはじめに結成され、メンバー(ヴォーカルのHildá LänsmanとベースのErkki Feodoroff)はサーミ人(スカンジナビア半島北部ラップランド地方の先住民族)の血をひいている。バンド名である “Gájanas” は北部サーミ語で “エコー”を意味する。
 ヴォーカルのヒルダ・ランスマン(Hildá Länsman)はサーミ古来の伝統に囲まれて育った。そのバックグラウンドを現代のワールドミュージックと結びつけ、ヘルシンキのシベリウス音楽院で学術的研究を行っている。サーミ音楽のユニットをいくつか組み、世界各地で演奏活動を行い、サーミ音楽の第一線で活躍する。
 バンドのサウンドとスタイルの方向性は、フランチェット兄弟(ギター:Nicholas Francett、ドラム:Kevin Francett)によって作られている。彼らの音楽は、伝統的なサーミ音楽と現代的なプログレッシヴ・ロックが見事に融合する。ヒルダ独特の唸り、透明感、浮遊感があるヨイク(サーミ人の文化における伝統歌謡あるいはその歌唱法)がサウンドに乗り、多様性文化を強調するかのような音楽だ。
 サーミ人の民族衣装を想像させるかのような衣装や、アルバムがサーミ人の国民の日(2021年2月6日)にリリースされたことを考えると、彼らの文化に対するリスペクトが強く感じられる。これがデビューアルバムというから、これからの活動にも期待したい。

13位 Ánnámáret · Nieguid Duovdagat

レーベル:Uksi Productions (-)

 フィンランドのウツヨキを拠点に活動するサーミ音楽家、アンナマーレの3枚目のアルバム。これもまたサーミ人の国民の日(2021年2月6日)にリリースされた。(14位のGájanasもサーミ人でしたね)
 サーミ人である彼女はフィンランドのシベリウス音楽院を卒業後、サーミ音楽家として幅広く活躍してきた。アンサンブル編成で、2011年と2016年に2枚のアルバムをリリース。今回のアルバムにもヨウヒッコ(jouhikko:フィンランドの竪琴)で参加しているイルッカ・ハイノネン(Ilkka Heinonen)とのデュオ活動も行なっている。
 近年は、サーミ音楽のアーカイブテープを研究することにより、彼女の家族のヨイク(サーミ人の文化における伝統歌謡あるいはその歌唱法)の伝統を改めて研究していた。その結果として製作されたのが今回のアルバムとなる。彼女のヨイクと、イルッカのヨウヒッコ、トゥルッカ(Turkka Inkilä)のライブ・エレクトロニクスと尺八(なんと!)により、ヨイクの伝統の特徴を残しつつ、新旧を融合させた作品となっている。上記動画ではライブ・ビデオ・アートとのコラボレーションも行なっている。これも新しい取組みだが、サーミの世界観が見事に表現されている。
 ライブ・エレクトロニクスを使っているが、このアルバムは私たちを空想の森に連れて行き、豊かなヨイクの伝統とサーミ人が生きた文化、自然、生活を描き出す。これらの要素を組み合わせることで、アンナマーレは現代に響く音楽を展開し、ルーツの探求と伝統の復活を表現している。

12位 Transglobal Underground · A Gathering of Strangers 2021

レーベル:Mule 20 (-)

 トランス・グローバル・アンダーグラウンド(以下TGU)は90年代にイギリスで結成されたユニット。インド、アフリカ、中近東などをはじめとするワールド・ミュージックのエッセンスに、ダブ、ブレイク・ビーツなどの現在進行形のダンス・ビートを融合させたオリジナリティ溢れる作品を、国際色豊かなメンバー構成で発表してきた。
 10年以上前、TGUメンバーのHamid MantuとTim Whelanが、ヨーロッパ大陸内外の移民や移民の歌を見つけるために、プロジェクト「U.N.I.T.E.(Urban Native Integrated Traditions Of Europe)」を立ち上げた。多くの協力者を集めるべく、ヨーロッパ中を旅し、プラハ、ブダペスト、ソフィアを中心に各地で音楽のコラボレーションを行った。その結果として、2010年にアルバム「A Gathering of Strangers」(U.N.I.T.E. 名義)を発表。ヨーロッパの不確かな過去を見つめ、それが不確かな未来へと移行していく様子を表現した作品となった。
 本作品は、コロナ禍で世界的に不確かな未来の真っ只中にある今、そのプロジェクトを再構築し、過去に国境を越えなければならなかった人々から今日も国境を越え続ける人々へのオマージュとして、トラックをリミックスし、全体をリマスタリングしたもの。
 アラブ風、クラブミュージック、アイリッシュ…、音楽のジャンルは何かはっきりとは言えない。すなわち国境が無いということをこのアルバムをもって感じることができる。ヨーロッパ全土が幻想的で独創的であることを、改めて見事に表現した一枚である。ずっと聴いていてもまた聴きたくなる、クセになる一枚だ。

11位  L’Alba · À principiu

レーベル:Buda Musique (-)

 フランス領コルシカ島の男性6人組ユニット、L'Alba(ラルバ)の最新作。2005年にメジャーデビュー以来、5枚目のアルバムとなる。アルバムタイトル「À principiu」はコルシカ語で「初めに」を意味する。 
 コルシカ島伝統の音楽を尊重しつつも、3部構成のポリフォニー・コーラスと、インドの楽器ハルモニウムや地中海地方の弦楽器サズを使うなどして、伝統を進化させるべく新たな音の融合に挑戦している。
 一見すると男臭いが、彼らの美しい歌声と多彩な楽器の音色が心に響く。
北アフリカから東地中海まで、伝統的なものから現代的なものまで、様々な時代や地域を訪れることができるような印象。ポジティブなエネルギーを持った芸術的な作品である。

10位 Anansy Cissé · Anoura

レーベル:Riverboat / World Music Network (-)

 マリ出身のギタリスト、アナンシー・シセのセカンドアルバム。1stアルバムから7年ぶりのリリースとなる。2017年初頭からこのアルバムの制作に取り組み、4年の歳月をかけて完成した。アルバムタイトルの「Anoura」とは「光」を意味する。
 2018年、故郷で開催された平和の祭典に招かれていたが、彼とバンドメンバーが武装グループに襲われ、楽器や機材を壊されたという事件があった。この衝撃的な事件で、彼のミュージシャンとしての人生観が変わってしまい、それ以来自宅のスタジオに引きこもる仕事ばかりを行なっていた。しかし、子供の誕生により、彼の創作意欲は再燃した。マリの深刻化する政治的危機に焦点を当てるのではなく、彼が経験してきたこと、そして彼の心に近いテーマにも焦点を当てるようになった。アルバムに収録されている「貧困」と訳される「Talka」や、「教育」を意味する「Tiawo」などの曲では、すべての子供たちが学校に通い、機会を得られるようにする必要性を強調しておりメッセージ性の高いものとなっている。
 このアルバムでは、全てナイル・サハラ語派に属するソンガイ語で歌い、伝統的なリズムや楽器と、現代的なサウンド、魅惑的なギターのリフとソロをミックスし、“砂漠のブルース”を見事に表現している。
 世界的なコロナウイルスの流行により悪化したマリでの長年の紛争と暴力に加えて、現在も政権は不安定だが、彼は故郷のマリが生まれ変わり安全になることを願って、新しい世代の若いマリ人たちにポジティブなメッセージを伝えている。喜びと希望に満ちており、まさにタイトル通り「光」を感じさせるアルバムだ。

9位 Hossein Alizadeh & Rembrandt Frerichs Trio · Same Self, Same Silence

レーベル:Just Listen (-)

 イランのペルシャ音楽巨匠ホセイン・アリザデと、オランダのピアニスト、レンブラント・フレリヒスのトリオとのコラボレーション作品。
 録音は古代の教会の中で行われ、ペルシャの旋律と東洋の音階がジャズの響きと混ざり合い、歴史や地理を超えた世界観を表現している。
 アリザデはペルシャのリュートの第一人者であり、この作品で弾いている聴けるシュランギス(shourangiz)は、タールとシタールを参考に彼が独自に開発した楽器である。レンブラントはアンティークのハルモニウムを、コントラバス奏者のトニー・オーバーウォーターは古典楽器のヴィオローネを演奏するなど、ペルシャ音楽の音色とリズムとバロック時代の楽器の融合を見事に作り上げている。
 曲は彼らオリジナルのもので、アリザデがイランの隅々まで旅をして、伝統的な民謡のメロディーを見つけては楽譜を書いていたものがベースとなっている。これらのメロディーと即興を組み合わせて4人で作成していった。「私たちが演奏を始めるとき、私たちは彫刻家になってステージ上で形を作り、少しずつ彫刻を彫っていくのです」とアリザデは言う。通訳がいないと言葉でのコミュニケーションは難しかったそうだが、まさに音楽が共通言語になっていると言えよう。
 アルバムタイトルは、イランの有名な詩から引用されているとのこと。それは音楽がもたらす共通の理解、文化、時代、言語の間の溝を埋め、人々を調和の中で一緒にすることを語っているように思える。

8位 Elida Almeida · Gerasonobu

レーベル:Lusafrica (3)

 カーボベルデ出身の27歳のシンガー・ソングライター、エリーダ・アルメイダの4枚目のアルバム。アルバムタイトルはカーボベルデのクレオール語で「新世代」という意味。カーボベルデのサンティアゴ島出身で、現在はポルトガル在住。様々な音楽的影響を取り入れており、アルバムタイトル通りまさに新世代のミュージシャンである。
 1stアルバム『Ora Doci Ora Margos』(2014年)に収録された「Nta Konsigui」は、 YouTubeで300万回以上再生されるほど大絶賛された。
今回のアルバムは、ツアー中に世界中で作曲されたものであるが「カーボベルデの中心にある私の作品には、その土地の振動と音楽が染み込んでいました」と彼女が言うようにカーボベルデの伝統音楽(バトゥーケ、フィナソン、フナナ、タバンカなどリズム重視のものから、モルナまで)が根底にあり、キャリアを積んだ彼女の才能が溢れる作品となっている。
 何より、歌っている姿は、観ているこちらまで幸せになるような笑顔が堪らない。
(2021/3追記)入れ替りが激しいこのチャートの中で、4ヶ月間もトップ10に入っているのはすごい! 本当に期待される新世代のアーティストに違いない!

7位 Stella Chiweshe · Ambuya!

レーベル:Piranha (9)

 シンバブウェ独立前の70年代より活躍し、80年代には世界的な注目を集めるようになった女性ンビーラ奏者ステーラ・チウェーシェ。男性が支配してきた伝統的な音楽の分野で名声を得てきた最初の女性アーティストの一人であり、ンビーラの女王と呼ばれ、「アンブヤ・チンヤカレ」(伝統音楽の祖母)の愛称で親しまれている。
 1987年にリリースした1stアルバム『Ambuya!』が、今回33年の時を経てリイシュー盤としてリリースされたのがこのアルバム。1987年当時は、イギリスのワールドインディー界のレジェンド、3 Mustaphas 3と共演し、伝統的なアコースティック・ムビラの代わりにエレクトリックを演奏するなど、伝統楽器の境界線を取り払った。このアルバムは彼女の国際的なブレイク・アルバムとなった。
 今回のリイシューに加えて、ステーラは、彼女の故郷であるハラレから北東に1時間の丘陵地帯に戻るプロジェクトにも取り組んでいる。そこで彼女は、伝統的なンビーラとショナ(シンバブウェの人口の4分の3を占める多数派民族)の文化を保存し、深め、それを国やシンバブウェの国境を越えて未来の世代に伝えていくために、ンビーラ音楽に特化した学習と文化交流の場を作る計画を立てている。彼女は、ンビーラの形が進化し、ンビーラを取り巻く社会が発展していくことを願っている。ンビーラに携わり続ける活動はまだまだ続く。

6位 Mariza · Mariza Canta Amália 

レーベル:Taberna da Música / Warner Music Portugal (-)

 20年のキャリアを持ち、今作で8作目。アフリカの旧ポルトガル領モサンビークに生まれ、幼い時にポルトガルに移り住んできたマリーザ(Mariza)は、伝統と洗練を両立し、揺るぎない人気を確立してきた。20年のキャリアの節目に彼女が取り上げるのは、ファド愛好家にとっては避けて通れない偉大な存在「アマリア・ロドリゲス」が歌ったヒット曲群 ──『Mariza Canta Amália(マリーザ、アマリアを歌う)』は、タイトルにも明らかなようにアルバム全体がアマリア・ロドリゲスに捧げられている。
 この大きな挑戦の共作者に、アマリアは、ブラジル人音楽家/編曲家のジャキス・モレレンバウムを選んだ。ジャキスとは、彼女のこれまでのキャリアのハイライトの1つでもある2005年のアルバム『Transparente』でも共演していた。アルバムは、2019年の12月〜2020年2月に、リオで録音された。「バンド編成+管弦楽」という大きな編成だが、ポルトガル・ギター奏者以外は、ブラジル人音楽家が占めているいるようだ。例えば、ピアノは、クリストーヴァォン・バストス、ギターはルーラ・ガルヴァォン、ドラムはハファエル・バラータといった、超の付く一流メンバーで固められている。その演奏をバックに堂々たる歌声で、マイーザは、アマリアの名曲にとっても新鮮な息吹を吹き込んでいる。過度にファドな親密さや伝統にこだわらない自由な展開。しかしながら、ポルトガル・ギターの響きやマイーザの歌声は、ファドが生まれた古い町並みであるリスボンのアルファマ地区の中心部に、聴くものを確かに運んでくれる。

5位 Altın Gün · Yol

レーベル:Glitterbeat (-)

 オランダ/トルコ混成グループ、アルトゥン・ギュンの最新作!
 2019年に発表した前作『ゲジェ〜夜』が大注目され、2020年のフジロックにも参加予定だったが、残念ながらコロナにより中止となった。さらに人気テレビ番組「アメトーーク」(テレビ朝日)の“夏フェス芸人”でハライチの澤部が大きく紹介し、SNS上でもかなり話題となっていたアーティストである。
 クラフトワーク系のレトロ・エレクトロ・ユニット〈Asa Moto〉がプロデュースに参加した本作は、トルコ民謡の重要なレパートリーを、これまでのサイケ・ロック風味溢れるアレンジだけでなく、80年代風シンセ・ポップのテイストも加えて、前作以上に素晴らしい内容に仕上がっている。トルコの伝統を若い世代にも分かり易く紹介してくれる、何とも完成度の高い1枚だ!やはり期待されていたのだろう、2月リリースで3月のランキングでいきなり5位!今後のランキングの行方にも注目したい。

↓国内盤あり〼。

4位 V.A. · Zanzibara 10: First Modern, Taarab Vibes from Mombasa & Tanga, 1970-1990

レーベル:Buda Musique (1)

 ザンジバル(現在のタンザニア連合共和国)で生まれ、東アフリカのスワヒリ文化圏一帯の大衆音楽であるターラブ。他のアフリカ音楽とはかなり異なるテイストを持ったこの音楽は、東アフリカ沿岸のスワヒリ文化に花開き、ペルシャやインドの諸言語、またポルトガル語など交易を行なっている国・地域の言語の語彙なども取り入れられて発展し、様々な文化が混じりあって生み出された混血音楽とされている。そんな多彩なサウンドを持つターラブの魅力を存分に感じさせてくれるBuda Musiqueレーベルの人気シリーズ “Zanzibara” の最新作。本作で10作目となる。
 ケニアのモンバサと、タンザニアのタンガにおいて1970年代初頭からの20年間に登場したポップなテイストを持つターラブを様々な角度から紹介した編集盤。タンガのシーンで活躍した女性歌手シャキーラをはじめ、モンバサのマタノ・ジューマやズフラ・スワーレーといった歌手らの70年代音源のほか、80年代にシーンを席巻した女性歌手マリカやンワナヘラまで、この地域でもっともポップ・ターラブが盛り上がりを見せた時代をダイジェストに紹介している。アフリカ〜アラブ〜インド洋のテイストが絶妙に入り混じった上に、欧米音楽からの影響が加味され独自の混血サウンドを作り出した時代の勢いが凝縮されており、まさにワールド・ミュージック・ファンの食指が動く内容である。これは見逃せない一枚だ!

↓国内盤あり〼。
(詳細なデータや貴重な写真が満載の32ページのブックレット付き!)

3位 David Walters, Vincent Ségal, Ballaké Sissoko, Roger Raspail · Nocturne

レーベル:Heavenly Sweetness / Six Degrees (-)

 アフロ・カリビアンにルーツを持つフランス人コンポーザー/ギタリスト/ヴォーカリストのデヴィッド・ウォルターズの最新作。マリを代表するコラ奏者バラケ・シソコ、フランス出身のチェロ奏者ヴァンサン・セガール、40年のキャリアがあり、コンゴのファンクやサヘルのヌワ音楽、ジャズなど様々なジャンルで活躍しているグアドループ(フランスの海外県)のパーカッショニスト、ロジェール・ラスパイユとのコラボ作品となっている。
 彼のルーツの一つでもあるマルティニークのクレオール語をベースにした革新的なフォークソングである「Papa Kossa」から始まるこのアルバム。マノ・ネグラを思わせるようであり、でも彼ら独自で確立したものである。アルバムの多くはマルティニークのクレオール語で歌われている。
 デヴィッドの柔らく繊細なファルセット、それと相対するラップ、そこに哀愁漂うチェロ、連動する魅惑的なパーカッション、そしてコラの美しい音色が重なると、魂を揺さぶられるものがある。とても美しいアコースティックのアルバムだ。
 デヴィッド前作品に収録された「Mama」が新たなバージョンで収録されていることも注目したい。彼の祖母へのオマージュだが、アフロカリビアンの女性全員へのオマージュでもある。多様性の中で生きた彼だからこそ伝えるべきメッセージがこのアルバムに込められているようだ。

2位 Warsaw Village Band / Kapela ze Wsi Warszawa

レーベル:Waterduction / Uwodzenie · Karrot Kommando (-)

 2018年に日本でもリリースしたアルバム「Mazovian Roots」が大好評で注目を集めたポーランドの若手ミクスチャー・バンド、ワルシャワ・ヴィレッジ・バンドの最新作。
 首都ワルシャワにて1997年に結成された彼らはポーランドを中心とした中欧の伝統音楽を、若い感性で現代化させた。ポーランドに生まれた古い弦楽器スカやポリフォニックなヴォーカル・スタイルなどを駆使し、伝統と現代の融合を図るミステリアスなサウンドを展開している。
 最新作のキーワードは「川」と「水」。アルバムジャケットも川を思わせるデザインとなっている。故郷ポーランドのヴィスワ川、その両岸に広がるワルシャワ近くの民族的に微小地域のウルゼッツェからも作品のインスピレーションを得ている。バンドのヴァイオリニスト兼歌手であるシルヴィアは「支流のある川は血流の一部であり、現代都市の憩いの場でもある。音楽でそれを捉えたかった」と語っている。筏によってマゾヴィア(ポーランド北東北部の歴史的な地域)にポーランドや世界との接触の機会を与えた。それは自由、近代性、独立性の息吹をもたらし、活気に満ちた文化的モザイクを作り出した。その様子がこのアルバムでは見事に表現されている。
 タイトル曲「Waterduction」では、ポーランド南部の都市クラクフ出身の詩人であり音楽家でもあるMarcin Świetlickiとのコラボレーションが実現した。彼は実際にヴィスワ川を筏で下り、魅力的なスポークン・ワードと詩でバンドをサポートしている。

1位 Omar Sosa · An East African Journey

レーベル:Otá (-)

 ジャズとアフロ・キューバンを軸に、アフリカ音楽やヒップホップを取り入れ活躍しているピアノ奏者/作曲家、オマール・ソーサの最新作がいきなり1位に登場。さすがです。
 2008年の傑作『アフリーカノス』の発表後、2009年に東アフリカ7カ国でのツアーを行なった。同時に、各地で伝統音楽のミュージシャン達と出会い、録音(フィールドレコーディング)も行なっていた。今回のアルバムは、その録音にアコースティックピアノ、パーカッション、キーボードベース、ハープを微妙に追加し、編曲してできた作品。2010年のドキュメンタリー映画「Souvenirs d'Afrique」の中で、オマールは実際にこのプロジェクトを完成させるには10年かかるかもしれないと予測していたが、2016年から本格的に取り組みようやく出来上がった作品だ。
 オマールがツアーで訪れた多くの国の伝統的な音と、ジャズや西洋のクラシック音楽の微妙なタッチを絶妙に組み合わせた、「これぞワールドミュージック!」というべき作品が生まれた。

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(ラティーナ2021年3月)

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