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[2021.01]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2021年1月|20位→1位まで【無料記事 聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。

  20位から1位まで一気に紹介します。

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※レーベル名の後の()は、先月の順位です。

「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Leyla McCalla · Vari-Colored Songs: A Tribute to Langston Hughes

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings (18)

 ニューヨーク生まれのハイチ系のアフリカ系アメリカ人で、ニューオーリンズ在住。シンガーソングライターでもありチェロ奏者の、レイラ・マッカーラが2013年にリリースした限定盤デビュー・アルバムのリイシュー盤。
 2013年リリースされた当時、ニューヨーク・タイムズ紙に「マッカーラの壮大で透明感のある音楽は、家族、記憶、孤独、そして時間が容赦ないことを保持している」と絶賛された。
 本作はアフリカ系アメリカ人作家/思想家であるラングストン・ヒューズに捧げられたオマージュ作品となっている。白人のステレオタイプが横行する時代に黒人自身の視点からリアルなブラック・アメリカン・カルチャーを描き出したヒューズの作品を基に、チェロ、テナー・バンジョウなどのアコースティック楽器を駆使し、オリジナリティ溢れるアメリカーナ・サウンドを構築している。また、自身のルーツであるハイチ民謡も加え〈ハイチ系アフリカ系アメリカ人〉という彼女のアイデンティティをナチュラルに表現している。ブラック・カルチャーや人間の普遍性について再考させられる強力な一枚だ。

↓国内盤あり〼。

19位 Nakany Kante · De Conakry a Barcelone 

レーベル:Kasba Music (26)

 ギニアのマリンケ族でコナクリ出身28歳のシンガーソングライター、ナカニー・カンテの4枚目のアルバム。8歳から作曲をしていたが、その才能が前面に出てきたのは2009年にスペイン・バルセロナに移住してから。
 ギニアの伝統的な音楽とポップ・マリンケを融合させた躍動感あふれるオリジナル作品で、2016年に発表されたソロアルバムも好評を得た。テーマが幅広く、伝統や宗教的、道徳的な問題、ジェンダーの不平等や育児放棄などの問題から、希望へのポジティブなメッセージまでを表現している。
 今回のアルバムでは、コナクリとバルセロナそれぞれで録音し、それをミックスしている。タイトル通り、彼女自身のコナクリからバルセロナへの音楽活動を記録した作品といえる。
 チャーミングな姿の裏に芯の強さが感じられる歌声だ。

↓国内盤あり〼。

18位 Sutari · River Sisters

レーベル:AAUU (-)

 Sutariは、ポーランドの女性3人組ユニット(2020年春よりメンバーの一人が交代)である。2012年にポーランドラジオの "New Tradition "フォークフェスティバルでデビューし、そこで審査員の2位と観客賞を受賞し、その後ポーランドで2012年の最も興味深い新しいフォークグループに選ばれた実力派ユニット。歌手、楽器奏者、パフォーマーである3人の若い女性が、それぞれ異なる音楽的・演劇的背景を持ちながら、ポーランドの伝統音楽を受け継ぎ、その上で様々なヴォーカルテクニックやリズムを探求し、独自のフェミニズムや環境主義的な解釈を提供し活動している。
 本作は3枚目のアルバムであり、川と水の循環を見つめる作品となっている。このアルバムについて彼女たちは「自然は常に私たちの作品の中に存在していますが、今回は自然を大切にしたいという私たちの愛情と願望をより明確に表現したいと思いました。地球は私たちにとって大切な存在であり、だからこそ、地球の自然と生命を守る環境運動に全力で取り組み、心を込めて応援しています。これらの動きの一つ、環境と芸術的なものから、私たちはアルバムの名前をポーランド語で "Siostry Rzeki"(River Sisters)としました。このアルバムに収録されている8曲は、ポーランドの様々な地域の歌を再解釈することで、その思いを伝えています。ポーランドと世界の歴史に足跡を残し、政治、科学、芸術、活動を通じ、未来の世代の生活を向上させようとしている女性たちへのオマージュです。」
 CDも環境に配慮した素材を使い作成したものだそう。音楽、作品ともに環境運動に取り組んでいる彼女たちをぜひ応援したい。

17位 Djely Tapa · Barokan

レーベル:Label 440 / Disques Nuits d’Afrique / DT Productions (14)

 アフリカ・マリでグリオ(西アフリカの祖先の伝統や習慣を歌や語りなどを通じて伝える伝統伝達者)の家系の生まれ、現在モントリオール在住シンガーソングライターとして活動するジェリー・タパのデビューアルバム。このアルバムは、カナダで歴史あるJUNO賞の2020年最優秀ワールド・ミュージック・アルバム賞を受賞した。
 彼女は学業のためモントリオールに移住したが、そこにはアフリカンコミュニティのグリオがなかったため、伝統の継承の必要性を感じ、両親から受け継いだ使命を再開するべく、音楽家への道へ進むこととなる。10年ほど活動したのち、今回のアルバムのプロデューサーでもあるミュージシャンのAfrotroniXと出会い、このアルバム制作に繋がった。
 彼女のパワフルでソウルフルな歌声と、プロデューサー AfrotoniX により巧みに作られたエレクトロサウンド、そしてコラやアフリカの伝統楽器が見事に融合している。今後の活躍が期待される超新生ディーバだ!

16位 A.G.A. Trio · Meeting

レーベル:Naxos World (8)

 A.G.A.とは、アルメニア(Armenien)、グルジア(Georgien)、アナトリアの略(Anatolien.)。
 ミケイル・ヤクト(Mikail Yakut、グルジア人/アコーディオン)はベルリン在住、デニズ・マヒール・カルタル(Deniz Mahir Kartal、トルコ人/カヴァル、ギター)はベルリン在住、アルセン・ペトロシアン(Arsen Petrosya、アルメニア人/ドゥドゥーク)はエレバン近郊在住。
 A.G.A. Trioは、国境を越えて故郷の古いメロディーを再解釈し、演奏には地域の平和のための祈りが込められている。

15位 Eliseo Parra · Cantar y Batir

レーベル:Dalamix (-)

(上記の曲はアルバムに収録されていませんが、冒頭部分にエリセオがpandero cuadradoを演奏する部分があります。かっこいい!)

 スペインのベテラン音楽家、研究家、パーカッショニストであるエリセオ・パラの新作。スペインの伝統的なダンス・ジャンルを再現し、パーカッションとヴォーカルをふんだんに盛り込んだ新構成となっている。
 スペインの伝統音楽のプロモーターとしての長いキャリアが認められ、2018年にはヨーロッパ・フォルクローレ賞アガピト・マラズエラを受賞している。エリセオは生涯の大部分をイベリア半島を構成するすべての文化、また失われつつある少数の文化、民俗学と伝統を研究することに費やしてきた。今回のアルバムにもスペイン各地で収集した音楽を彼ならではの手法で作り収録されている。
 アルバム最後の曲「Mediterráneo」は、同じくスペインの偉大な音楽家・詩人のジョアン・マニュエル・セラット(Joan Manuel Serrat)が作った曲であり、エリセオが22歳の頃から歌っていた。今回ジョアンへのオマージュとして収録されている。71歳でこのパワー、恐るべし!

14位 Tara Fuki · Motyle

レーベル:Indies Scope (-)

 結成20周年を迎えたチェコ出身、チェロの女性デュオ、タラ・フキの最新作。前作の『Winna』から6年ぶりの新作である。二つのチェロの音と、二人の声による音楽は、詩的であり、儚くもあるように聞こえるが、20年一緒に活動し続けている強さや柔軟性も滲みでていると言える。
 今回のアルバムでは、10曲中3曲が彼女たちの故郷であるチェコ語で歌われている。(普段はポーランド語なのですがその違いが聞き取れなく、正直わかりませんでしたが...でも珍しいことのようです!)また、二人以外にも珍しくパーカッションのサポートが参加している曲もある。
 アルバムタイトルは「蝶」という意味。蝶がアルバム全体のキーワードになっている。
 新型ウィルスの影響でレコーディングが遅れたそうだが、無事20周年を祝うアルバムが完成し良かった!美しい名盤です!

13位 Sofia Labropoulou · Sisyphus

レーベル:Odradek (-)

 ギリシャのカヌーン(アラブ音楽で伝統的に使われる撥弦楽器)奏者であるソフィア・ラブロポウローのソロ一作目。
 ギリシャと地中海の民族音楽、古典的なオスマン、西洋中世、実験的な現代音楽の世界を融合させることで、独特のサウンドを開発し、ソリストとして、アフリカ、ヨーロッパ、中東の様々な音楽の伝統を持つ世界的に有名なミュージシャンと頻繁に共演している。旅をしていない時は、映画やドキュメンタリーのために作曲をしたり、カヌーンやギリシャ民族音楽のマスタークラスを世界各地で開催している。現在はオーストリアのウィーンとギリシャのアテネを行き来している。
 ギタリストのヴァシリス・ケッテンツォグルーと長年の共演し、2013年には、二人でのアルバム『Butterfly』をリリースしている。
 今回のソロアルバムは、様々な時代や場所からインスピレーションを受けた作成された。アルベール・カミュの「Sisyphus and Other Essays」や、ギリシャ神話や民族様式、トルコやアラブの音楽、セックス・ピストルズなど。上の二つ目の動画で、セックス・ピストルズのカバーを演奏しているが、まるで織物を織るかのようにカヌーンを演奏している。そして奏でる音と姿が本当に美しいこと!実力派とも言える彼女のこの美しいアルバムを聴くと、心が洗われる。

12位 Bantu · Everybody Get Agenda

レーベル:Soledad Productions (5)

 バントゥー(BANTU)は、ナイジェリアのラゴスを拠点に活動する13人組バンド。リーダーは、バンドのボーカルを務めるAde Bantuだが、リーダー牽引型のグループではなく、共同で音楽を作っているバンドだという意識が強いという。演奏するのは、アフロビート、ヒップホップ、アフロファンク、ハイライフ、ヨルバ音楽が融合した都会的でファンキーな音楽。
 最新作『Everybody Get Agenda』は、1999年のデビューアルバム『Fufu』から数えて、7枚目のアルバム。13人のアンサンブルは最高の状態。ゲストにシェウン・クティ(Seun Kuti)も参加しており、バントゥーがより広範に、より国際的に知られている布石となりそうなアルバムだ。

11位 Zedashe · Silver Sanctuary 

レーベル:Electric Cowbell (32)

 ジョージア(グルジア)のポリフォニック声楽合唱団とダンスグループであるゼダシェによる9枚目のアルバム。共産主義時代の間に大部分が失われたジョージア特有のポリフォニックな聖歌を歌うため、1990年代半ばに設立され、ジョージア東部にある中世の要塞都市シグナギを拠点に活動している。ジョージアでは数少ない男女混合の合唱団で、女性がリーダーを務めている。彼らのレパートリーは、古い出版物から収集した民謡、器楽的なメロディーと付随する踊りも含まれており、国の多くの多様な地域の村人たちから学び伝統を保存している。
 今回のアルバムもジョージアの12の地域から集められた22曲が収録されており、古代の聖歌、バラード、結婚式の歌、仕事の歌、中世の寓話、ダンスのメロディー、ごちそうの歌、楽器のメロディーなど、数十年にわたる彼らの研究と熱心な歌の収集がここに反映されている。聖歌隊の強力な歌唱力と、正確な編曲が、21世紀の音楽を新鮮なものにしている。

10位 Songhoy Blues · Optimisme

レーベル:Transgressive / Fat Possum (36)

 マリ出身の4人組によるアフリカン・ロックンロールバンド、ソンホイ・ブルースの3枚目のアルバム。
 マリの内戦により故郷を離れざるを得なくなり難民となった4人は、彼らが持っている最も強力な武器である音楽を使って反撃することとし、10年前にバンドを結成した。難民となったことで学んだ痛みや教訓をもとに、バンドは人権という概念が、自分たちの目で見てきたものをはるかに超えて、マリの国境をはるかに超えて広がっていることに気づく。そこから生まれる音楽は強い。彼らの2枚目のアルバム『RESISTANCE』(2017)は、広く世界に評価され、注目すべきグループとしての地位を確立した。
 今回のアルバムについてのメッセージも強い。今の世界に立ち向かっている女性たちのエンパワーメント、何百年も前からの女性差別的な慣習の撤廃を求める曲「Balada」や「Gabi」、「Worry」では、若い人にも年配の人にも、前向きな気持ちと粘り強さが闘争に立ち向かうための最良の手段であるとアドバイスしている。「Assadja」では、地域社会の改善のために日々汗を流して目を覚ます戦士たちを称え、感謝し、「Dournia」では、物質主義や利己主義の高まりに直面している現代人の思いやりや共感の欠如を嘆く。「Bon Bon」ではキラキラした約束事に騙されないように、「Barre」では若者に変化を求め、「Fey Fey」では分裂を望む人たちを戒める。
 彼らがマイクを握るたびに、対峙し、慰め、賞賛し、感謝し、リスナーを励まし、明日のより良い世界へと導いていく。

9位 Coco’s Lunch · Misra Chappu

レーベル:Coco’s Lunch (-)

 オーストラリアで活動している5人組女性コーラスグループ Coco's Lunchの7枚目のアルバム。90年代後半から活動を始め、世界中でも公演し各国の聴衆を魅了している実力派グループ。オリジナル曲を作り、アカペラで歌う。オーストラリアで、複数の賞を受賞してきた。
 5人はそれぞれ個人でも活動しており、その経歴も見事。今回のアルバムでも多くの曲を作曲しているリサ・ヤングは、インドやアフリカの要素を取り入れた創造的なヴォーカル・スタイリスト、即興演奏家として、ワールド・ミュージックやジャズ・ミュージックのリスナーによく知られている。また、ジャクリーン・ガウラーもイタリア、ブラジル、アフリカでも活躍しているフリーのシンガー/パーカッショニストでもある(大学時代には日本への留学経験も!)。各自の活動がこのグループの実力に繋がっていることは言うまでもない。このチャートにいきなり上位に食い込んでくることから世界で人気があることは一目瞭然だ。
 今回のアルバムはアカペラだけでなく、彼女たちによる打楽器も入っているが、ハーモニーととてもマッチしていて心地よい。彼女たちの美しいハーモニーは、今の私たちを癒してくれる。心に沁みる名盤。

8位 Star Feminine Band · Star Feminine Band

レーベル:Born Bad (17)

 ベナン北西部の辺境の地ナティティングー出身の10歳から17歳までの7人の少女たちのグループ「スター・フェミニン・バンド」のデビューアルバム。ガレージロック、ポップス、故郷の伝統音楽などのスタイルを、ユーモアとエネルギー、軽やかなタッチで融合させており、フランス語だけでなく、ワーマ語やディタマリ語など現地の言語でも表現している。
 彼女たちが育ったのは緑と岩だらけの対照的な風景が広がる地域で、この地域の若い女の子のほとんどは、強制結婚や早期妊娠が一般的となっている。この状況を知った音楽家アンドレ・バレグエモンが、北ベナンの社会で女性の価値を示すため、問題意識に根ざした女性だけのグループを結成することを決意し、自治体の支援を得てメンバー募集すると地元FM局で発表した。そこで選ばれた7人の少女が、彼女たちである。中には楽器を持ったこともない子もいたが、トレーニングを実施し驚異的な進歩を遂げることになった。このプロジェクトは地元も応援しており、ナティティングー博物館の別館には、バンドのためのリハーサル室が設置され、彼女たちは学校に通いながら週3回、午後4時から7時までリハーサルを行い、また学校が休みの期間は、月曜日から金曜日まで毎日朝9時から夕方5時までみっちりリハーサルをしているそう。(すごい!)
 彼らの日常的な闘いや、平等、エンパワーメント、強制結婚の圧力、女性の性器切除などのテーマが中心となっており重いイメージだが、歌ったり踊ったりそして演奏している姿を見るとその姿に惹きつけられ思わず微笑んでしまう。ヨーロッパツアーも予定されているとのことで、これからの活動が大変楽しみである。

7位 Afel Bocoum · Lindé

レーベル:World Circuit (3)

 国際的に活躍したマリの歌手/ギタリストのアリ・ファルカ・トゥーレのグループ「ASCO」に13歳で参加し音楽家としてのキャリアをスタートしたアフェル・ボクムは、1955年、マリのニアフンケ生まれた歌手/ギタリスト。アリ・ファルカ・トゥーレもニアフンケ生まれだった。ソロデビュー作は、1999年の『Alkibar』。
 本作は、エグゼクティブ・プロデューサーであるデーモン・アルバーン、ニック・ゴールドのサポートを得て録音。スタジオアルバムとしては2009年の『Tabital Pulaaku』以来11年ぶりのアルバムで、キャリア4作目となる。収録したのは、マリ南東部ニジェール川北部のニジェール・ベンドで古くから演奏される音楽。寡作なマリ音楽の至宝による、土着的で乾いた土の香りがする砂漠のブルースの傑作が誕生した。

追伸:アフェル・ボクムは、地元で暮らすために、農業関係で公務員をしている(or していた)という。もしかして、今、65歳前後なので、定年して音楽活動に集中できるようになったのかな……。

↓こちらで購入可能です。

↓音楽ブログの「サナコレ」でも詳しく取り上げられていました!

6位 The Rheingans Sisters · Receiver

レーベル:Bendigedig (2)

 2019年のBBCラジオ2・フォーク・アワードで「ベストバンド」にノミネートされたザ・ラインガンズ・シスターズ(The Rheingans Sisters)は、今日のイギリスのフォークシーンで最も将来が期待されるアクトの1つだ。ザ・ラインガンズ・シスターズは、フィドル奏者でシンガー/マルチ奏者の Anna Rheingans と Rowan Rheingans 姉妹によるデュオ。フォークの伝統に支えられながらも、遊び心たっぷりに完全に現代的な音楽を生み出しているラインガンズ・シスターズは、フィドル、声、バンジョー、バンシタール、タンブリン・ア・コードス(別名プサルテリウム、古代の弦楽器)、詩、パーカッションなどを駆使した冒険的でアイデアに溢れた演奏で観客を魅了している。
 ヨーロッパの伝統を深く学んできた2人は、それらの知識を常に新しい音楽を生み出すために再構築している。古い音楽風景が新しい曲を形作る。

5位 Elida Almeida · Gerasonobu

レーベル:Lusafrica (20)

 カーボベルデ出身の27歳のシンガー・ソングライター、エリーダ・アルメイダの4枚目のアルバム。アルバムタイトルはカーボベルデのクレオール語で「新世代」という意味。カーボベルデのサンティアゴ島出身で、現在はポルトガル在住。様々な音楽的影響を取り入れており、アルバムタイトル通りまさに新世代のミュージシャンである。
 1stアルバム『Ora Doci Ora Margos』(2014年)に収録された「Nta Konsigui」は、 YouTubeで300万回以上再生されるほど大絶賛された。
今回のアルバムは、ツアー中に世界中で作曲されたものであるが「カーボベルデの中心にある私の作品には、その土地の振動と音楽が染み込んでいました」と彼女が言うようにカーボベルデの伝統音楽(バトゥーケ、フィナソン、フナナ、タバンカなどリズム重視のものから、モルナまで)が根底にあり、キャリアを積んだ彼女の才能が溢れる作品となっている。
 何より、歌っている姿は、観ているこちらまで幸せになるような笑顔が堪らない。

4位 Derya Türkan & Sokratis Sinopoulos · Soundplaces

レーベル:Seyir Muzik (10)

 トルコの古典弦楽器ケメンチェ(3弦バイオリン)奏者のデリヤ・チュルカン(1973年生)と、ギリシャの民族楽器リラの奏者であり作曲家のソクラティス・シノプロス(1974年生)の共演アルバム。演奏家としてはそれぞれ30年近く活動しているが、最初の出会いは10代後半で、それ以来友人であり、またギリシャとトルコの間で、2つの文化の共通点を探るコラボレーションの先駆者としても活動している。
 各々の活動も精力的に行っているが、共演作としては二枚のアルバムを制作しており、本作は2018年以来の三作目となる。
 長年の二人の関係性が音楽にも表れており、二人の弦の音色が素晴らしく心に沁みる。

3位 Kronos Quartet · Long Time Passing: Kronos Quartet & Friends Celebrate Pete Seeger

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings (1)

 サンフランシスコを拠点に活動している弦楽四重奏団クロノス・クァルテット。1973年の結成以来、ミニマル・ミュージックなどの現代音楽に加え、ロックやジャズなどをはじめとするポピュラー・ミュージックとのクロスオーバーにも取り組み、幅広い音楽ジャンルに渡って演奏し、クラシックの演奏家のみならずあらゆるジャンルのアーティストからリスペクトされている。世界中で演奏活動を行ない、精力的に新しい作品の録音や、アーティストとのコラボレーションなど、様々なプロジェクトを進め、弦楽四重奏団として無限の可能性を明示してきた。
 このアルバムは、アメリカで著名なフォーク・シンガー、故ピート・シーガーのトリビュート・アルバムで、6名のヴォーカル・ゲストと共にシーガーの名曲の数々の再構築に挑戦している。
 結成50年を前に、今年9月17年ぶりの来日予定だったが、コロナで公演は中止となった。せめてこのアルバムで、次回公演への思いを馳せよう。

↓国内盤あり〼。

2位 Wowakin · Wiązanka

レーベル:Baba Studio (13)

 2016年春に結成されたポーランドのトリオ「WoWaKin」(グループ名は彼らの名前の頭文字からとって命名)のセカンドアルバム。2016年ポーランドで最も重要な民族音楽コンクール「The New Tradition」でデビューし、3位に入賞。それ以来、多くのコンサートを行っている。
 クラシック、ジャズ、現代音楽や演劇など多様なバックグラウンドを持つ、パウラ・キナシェフスカ(ヴァイオリン、ヴォーカル)、マテウス・ヴァチョヴィアク(アコーディオン)、バルトロミエイ・ウォズニアック(パーカッション、ヴォーカル)の3人で編成され、ポーランドの村の民族舞踊音楽(マズルカ、オベルカ、ポルカ、クヤヴィアクなど)のルーツを探求し活動している。来日経験もあるヤヌシュ・プルシノフスキのトリオにもゲスト出演するなど、ポーランドでも期待されているグループの一つである。
 インストゥルメンタルもありながら、女性ヴォーカルの曲もあり、男性ヴォーカルの曲もあり、という具合にレパートリーが豊かなアルバムである。

1位 Liraz · Zan 

レーベル:Glitterbeat (9)

 歌手と女優の両方で活躍するイラン系イスラエル人アーティスト、リラズのセカンドアルバム。タイトルの『Zan』はペルシャ語で "Women"という意味で、まさに彼女の祖母や母など家族の女性たちのために書かれたもの。「彼女たちは自由のために戦った。私は自分の自由のために戦っている。彼女たちの物語を歌にして伝えている」と語っている。そして、彼女の2018年の作品『Naz』からの物語の第二章だとも。
 このアルバムでは、現在イスラエルとは国交の無いイランの音楽家らと、テヘランのイスラム教徒や秘密警察からの視線を避けながら秘密裏にオンラインでコラボレーションを行った。(安全のため名前を明かしていない音楽もいるようだ)煌びやかなエレクトロポップをアンダーグラウンドで展開している作品である。

↓国内盤あり〼。

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(ラティーナ2021年1月)

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