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[2022.10]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」㉗】 João Cavalcanti 『Ivone Rara 100 Anos da Dona do Samba』

文:中原 仁

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 ジョアン・カヴァルカンチ(1980年、リオ生まれ)は、レニーニの息子。リオのラパ地区のライヴハウスから羽ばたいた21世紀サンバ新世代のアイコンとなるグループ、カズアリーナ(Casuarina)の中心メンバーとして人気を確立した。

 ラパ新世代の盟友、ペドロ・ミランダ、モイゼイス・マルケス、アルフレッド・デル・ペーニョとのプロジェクト、セグンダ・ラパでも活動。2012年、サンバだけなくポストモダンなMPBにシフトした、シンガー・ソングライターとしてのファースト・ソロ・アルバム『Placebo』を発表。2017年、カズアリーナを抜け、2018年、アコーディオン奏者/歌手、マルセロ・カルヂ(Marcelo Caldi)とのデュオ・アルバム『Garimpo』を発表。2019年、父レニーニと共作・共演したシングル「Bicho Saudade」、その曲を含む自作のサンバ6曲入りEP『Samba Mobiliado』をリリースした。

 2020年、小野リサのブルーノート東京でのライヴのゲストとして初来日することが発表された。歓喜して、空き日にグルーポ・カデンシアとのセッションを、などと企みかけたのだが、コロナ禍で来日が中止になってしまったことが残念だ。

 漢の色気あふれる歌声がトレードマーク。快調に活躍してきたジョアン・カヴァルカンチの2022年新作『Ivone Rara 100 Anos da Dona do Samba』は、サンバ界のお母様、イヴォニ・ララ(1922~2018。“女主人” の尊称をつけてドナ・イヴォニ・ララとも呼ばれる)の生誕100周年を祝う作品集。ジョアンが歌手に徹したアルバムだ。

 ドナ・イヴォニ・ララは、長年にわたってマチズモに支配されてきたサンバ界において最初に名を成した、女性シンガー・ソングライターだ。名門エスコーラ・ヂ・サンバ、インペリオ・セハーノの創立メンバーで、女性として初めてエスコーラのアラ・ドス・コンポジトーリス(作詞作曲家チーム)に入り、1965年のカーニヴァルでインペリオのサンバ・エンヘード「Cinco Bailes Tradicionais na História do Rio」の作者の一人となり、インペリオは準優勝した。

 イヴォニのサンバは、自身の歌のみならず、ベッチ・カルヴァーリョ、クララ・ヌネス、マリア・ベターニアなど大勢の人々が歌い継いできた。

 1988年、フンド・ヂ・キンタルのゲストとして初来日。母性愛とアフリカのDNAを伝える素晴らしい歌声を聴かせてくれた。オフ・ステージでは、つねに控えめで謙虚。こういう女性こそ “ドナ” の尊称がふさわしい、そう実感させてくれた。


 さて、イヴォニ・ララの名曲を、男性のジョアン・カヴァルカンチが歌う、このアルバム・・・。ん? イヴォニ・ララは Ivone Lara と表記するが、ジャケットのアルバム・タイトルは Ivone Rara とクレジットされている。raraは “珍しい、稀な/特別の” といった意味。なぜ?と思いきや、聴けばわかる。raraの理由は、楽器編成だ。

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