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[2018.02]メキシコの混血性を象徴する抵抗の音楽〜ソン・ハローチョ

文●長屋美保 texto por Miho Nagaya

 メキシコで、反体制の音楽として、ブルースのように禁じられていた音楽がある。それが、350年以上の歴史を持つ、メキシコ湾沿岸のベラクルス州発祥の伝統音楽ソン・ハローチョだ。同州が位置する場所には、古代文明オルメカが栄え、1519年には、スペインからの征服者、エルナン・コルテスがたどり着いた。重要な貿易港であったため、植民地化によって、カリブ経由でアフリカから連れてこられた奴隷たちや、この地に何千年も前から暮らす先住民たちが、農園で働き、労働の合間に、音楽を奏で、歌うようになった。ヨーロッパから伝わる弦楽器を真似た自作の木製楽器(それが、ハラーナや、レキントギターとなっている)や、アフリカ由来のパーカッション(キハーダ=ロバや馬の顎の骨をギロやカスタネットのように使う、マリンボル=親指ピアノ、タリマ=木の台で、靴を踏み鳴らしてパーカッションの役割を果たす)、そしてスペイン語を基調に、随所に先住民・アフリカ系の言語を用いた歌詞が融合した、メキシコおよびラテンアメリカの混血性を象徴する音楽だ。新スペイン時代には、ソン・ハローチョのアフリカ色の濃厚な踊りや、ファンダンゴという歌と踊りのジャムセッションが、快楽的で不道徳とみなされ、異端尋問にかけられた。その結果、ソン・ハローチョの演奏は、1766年から40年にわたって禁じられてきたのである。

Grupo Mono Blanco

 数々の曲が禁じられ、消滅していったなかで、当時から現在まで歌い継がれる曲が、〝Chuchumbé(チュチュンベ)〟だ。タイトルは、アフリカ起源のクンベ(下腹部をすり合わせて踊るセクシュアルな踊り)を由来とする。性行為のメタファーだが、大きな意味では人生の喜びを表している。ここでは、現代ソン・ハローチョの代表グループ、モノブランコの演奏バージョンの歌詞を紹介しよう。

「チュチュンベを禁じたメルセの修道士ですらも、チュチュンベを楽しんでいる。人生に快楽があるのは当然である」と歌っているが、この奥には、表現を検閲し、人々の喜びまで奪おうとする体制批判がある。

 ソン・ハローチョでは、伝承曲を歌うのが基本だが、重要なのはその演奏者が即興を交えながら新しいスタイルを築き上げていく点だ。ラップのフリースタイルのように、時勢を反映した詞が盛り込まれる。

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