[2021.09]【沖縄・奄美の島々を彩る歌と踊り14】 奄美大島のショチョガマ・平瀬マンカイ −夏の節目における稲魂の招来−
文:久万田 晋(沖縄県立芸術大学・教授)
奄美では旧暦8月の初丙をアラセツ(新節)、その後の初壬をシバサシ(柴挿)と呼び、一年で最も重要な節目(折目)となっている。これにドゥンガ(シバサシ後の甲子)を加えてミハチグヮチと呼ぶ。アラセツやシバサシは、たんに奄美にとどまらず南島の島々に広範囲にひろがる夏の大きな節目の行事である。この夏の節目、区切りの時期に後生から戻り来る先祖の霊を歓待する一方で、悪霊を祓い家屋の厄災を祓い清める。そのために奄美各地で行われるのが八月踊りという太鼓輪踊りで、これを踊りながら地域の家々を廻るのである。
奄美大島北部に位置する龍郷町秋名のショチョガマ・平瀬マンカイは、旧暦8月のアラセツに行われる行事であり、1985年に国の重要無形民俗文化財に指定されている。両行事ともかつてはこの地域一帯に分布していたが、現在では秋名(幾里を含む)でしか見られなくなっている。
ショチョガマは、山の斜面に作られた仮屋を揺り倒して豊作を乞い願う行事である。ショチョガマと呼ばれる仮屋は、アラセツの前日までに集落西側の山の斜面に組み立てられる。アラセツの早朝、男性のグジと呼ばれる男性の役がショチョガマの先端で稲魂の招来を祈願する。ショチョガマの上には集落の男性や子供達が寄り集まり、「ヨラ、メラ」というかけ声に合わせて揺り動かす。これが男達の太鼓による歌声と交互に数度繰り返され、日の出と共にショチョガマは揺り倒される。その直後、倒されたショチョガマの上で男性だけの八月踊りが踊られる。この行事は稲魂の招来によって豊作となり、収穫した稲の重みで仮屋が倒れるさまを予祝的に表すものと言われている。
龍郷町秋名のショチョガマ(2010年) 撮影:久万田晋
アラセツの夕方、集落の浜辺で平瀬マンカイが行われる。これは浜辺にある岩上で歌い祈り稲魂を呼び寄せ豊穣を希う行事である。二つの岩のうち、西の神平瀬には白装束をつけた女性達、東の女童平瀬には数人の男女が上がり、《平瀬マンカイの歌》を交互に掛け合い歌う。この時、海の彼方から稲魂を招き寄せるような手の所作を行う。この手の所作を「マンカイ」というのだと伝えられている。歌が終わると女童平瀬の上で八月踊りを数曲踊る。次に一同は二つの岩から浜に降り、集落の諸役も交えて再び八月踊りを踊る。その後は集落の人々が互いに持ち寄ったご馳走をつまみながら、家族や友人同士でハマオレの宴を楽しむ。日が暮れる頃には公民館前に移動し、集落の人々を交えて夜遅くまで八月踊りが踊られる。
龍郷町秋名の平瀬マンカイ(2010年) 撮影:久万田晋
かつては早朝のショチョガマは子供と男性のみ、夕方の平瀬マンカイはノロを中心とする女神役たちが主体となって執り行ったという。
ここでショチョガマ・平瀬マンカイで歌われる歌詞を紹介してみよう。
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