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[2020.03]先人を偲び、島唄を未来へと継承する「島唄継承」 〜歌の情けが染み入る前川朝昭の世界〜

文●岡部徳枝/写真●奥西 奨
text by NORIE OKABE / photos by SHO OKUNISHI

 2015年から沖縄市の「ミュージックタウン音市場」にて毎年12月に開催されている「島唄継承」。沖縄民謡界に名を残す偉大な先人たちにリスペクトの意を表して、彼らが遺した曲を現役の唄者が歌い弾き、島唄を未来へ継承していこうというイベントだ。毎回ある人物にフォーカスするシリーズ公演で、第5回目となる2019年12月8日は「前川朝昭まえかわちょうしょうの世界」をテーマに開催。〝イチャリバチョーデー(出会えばみな兄弟)〟の心を綴った名曲「兄弟小節チョーデーグヮーブシ」で知られる前川朝昭は、1912年沖縄県本島南部の与那原町生まれ。1953年、丸高レコードにて照屋林山、糸数カメ、船越キヨらと共に歌声を吹きこみ、人気を博した。享年77歳。

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知名定男

 公演は「誘い役」である知名定男のMCから始まった。「朝昭さんはとても厳格な人でした。喧嘩が強く親分肌。登川誠仁のぼりかわせいじん師匠も嘉手苅林昌かでかるりんしょうさんも彼を慕い彼のもとで頑張ってきた。民謡界のリーダーでした」。唄者のトップバッターを飾ったのは、本公演のプロデューサーであり、師匠・知名定男のもとで島唄の心を学ぶ島袋辰也。深く良く響く唄声で「恋し沖縄」をしんみりと聞かせた。歌い終わると「今回は今までで一番選曲に悩みました」と苦笑い。誰に何を歌ってもらうか。出演者の声質や技術的な特徴に合わせて決める選曲は、島袋辰也の仕事だ。「朝昭さんの唄は7割が情歌ですが、ここで喜友名朝樹きゆなともきと2人にぎやかな曲を歌ってみます」と、「流れ船」で軽快な掛け合いを披露。その後は喜友名朝樹のソロへ。唄者がソロと共演をリレー形式でつないでいくステージスタイルは本公演の見どころのひとつだ。小浜守栄こはましゅえいの孫弟子で、嘉手苅林昌を敬愛する若手唄者、喜友名朝樹。ここで歌った「永良部千鳥」は、第3回目出演時に拍手喝采をさらった「下千鳥」の感動を思い起こさせ、鳥肌ものだった。

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島袋辰也

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喜友名朝樹

「僕の憧れの創さん」と呼び込まれ、笑顔でバトンタッチしたのは仲宗根なかそねはじめ。「朝昭先生の数ある教訓歌の中からこの曲を。歌う身として諭されます」と「謡ぬ道」を披露。幼い頃から松田弘一ひろかず、登川誠仁に師事し、芸を磨いてきた仲宗根創。先人が残した道、その後に続く彼の道を思いながら、奥行のある歌声にしみじみ聞き入った。続いて、松田一利かずとしと「名護の七曲がい」を共演。囃子を交えてテンポよく運ぶ愉快な掛け合いに、観客の手拍子が重なり、一気ににぎやかな雰囲気に。師匠である松田弘一の遺した芸を一心に継ぐ松田一利。ソロでは、身分の違う男女の恋を切なく綴った歌劇曲「比翼節」を歌い、その甘く美しい声で魅了した。

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仲宗根創

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松田一利

「沖縄が誇るくまのプーさんです」と登場し、どっと沸かせたのは知名定人さだひと。笑いから一転、祖父・知名定繁ていはんの曲「別れの煙」のモチーフとなった親子の別れの歌「白い煙 黒い煙」を味わい深いふくよかな声で聞かせ涙を誘った。「お寺から来ました」と、またも自らの風貌を笑いのネタにするよなは徹が加わり「プーさんと住職で毛遊びもうあしびです」と「与那原の浜」を共演。「この格好でアレですが(笑)」と続けたのは、前川朝昭の代表曲「除夜ぬ鐘」。しんと静まる会場で渋みの利いた唄三線に聞き惚れるが、途中で太鼓の伊波はづきが鐘をゴーンと鳴らすと会場からクスクス笑い声が。師走に染み入るいい歌なのに、なぜか笑ってしまう和やかな場面だった。

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知名定人

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よなは徹

伊波はづき

伊波はづき

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