見出し画像

[2020.09]【ピアソラ再び~生誕100年に向けて】「超」実用的ピアソラ・アルバム・ガイド on Spotify Part 1

文●斎藤充正 texto por MITSUMASA SAITO

[著者プロフィール] 斎藤充正 1958年鎌倉生まれ。第9回出光音楽賞(学術研究)受賞。アメリカン・ポップスから歌謡曲までフィールドは幅広い。世界のピアソラ・ファンがピアソラのバイブル本として認めている『アストル・ピアソラ 闘うタンゴ』の著者であり、ピアソラに関する数々の執筆や翻訳、未発表ライヴ原盤の発掘、紹介などまさにピアソラ研究の世界的第一人者。

 本稿を仕上げようとしていたまさにその時、大変悲しい知らせが届いた。エンリケ・マリオ・フランチーニやアントニオ・アグリらと並ぶタンゴ・ヴァイオリンの最高峰で、1978年から88年までアストル・ピアソラのキンテート・タンゴ・ヌエボで重責を担ったフェルナンド・スアレス・パスが、9月12日にその生涯を閉じたのだ。享年79歳。その業績については改めて振り返るとして、今は大きな喪失感に包まれているというのが正直な気持ちだ。心からの冥福を祈りたい。
 さて本題。何はともあれ、今ピアソラについて語るには、本人の遺した膨大な数の演奏を、系統立てた上でしっかりと聴き直すところから始めるのが最善だろう。そのために、実はSpotify(あるいは他のサブスクリプション・サービス)はかなり有効なのである。最初に言ってしまうと、現時点でほとんどすべての録音が揃っている。ここにないのは、作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスとの『エル・タンゴ』など1960年代のフィリップス~ポリドールの一部作品、ジェリー・マリガンとの『サミット』、『タンゴ:ゼロ・アワー』などアメリカン・クラーヴェでの3作、ライヴ・イン・トーキョー・シリーズの2/3ぐらいなものである(他にもいくつかあるので、その都度文中で紹介していく)。ただしスムーズな検索を妨げているとしか思えないようなSpotifyの構造的な問題もあるほか、膨大な数の無秩序な編集もの(トロイロ楽団など、ピアソラの音源ではないものも平気で紛れ込んだりしている)などが検索の邪魔をして、必要なアルバム群へのアクセスの障害になってしまっている。というわけで、どれを聴けばいいのかきっちり整理しながら、時代に沿う形で数回に分けて紹介していこうと思う。

続きをみるには

残り 9,051字 / 11画像

このマガジンを購読すると、世界の音楽情報誌「ラティーナ」が新たに発信する特集記事や連載記事に全てアクセスできます。「ラティーナ」の過去のアーカイブにもアクセス可能です。現在、2017年から2020年までの3.5年分のアーカイブのアップが完了しています。

「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活…