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[2021.08]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ⑬】 ソロモン諸島のパンパイプ・アウ ’au の現代的合奏 ―「呪術性」の継承―

文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)

 「あのパンパイプ合奏をもう一度聴きたい」― 期待を胸に、私は2012年ソロモン諸島国ホニアラ空港に降り立ちました。目的は、オリンピックと同年に太平洋諸島各地持ち回りで開催される、第11回太平洋芸術祭 The Festival of Pacific Artsに参加するため。事の発端は、さらにその4年前。第10回太平洋芸術祭主催国のアメリカ領サモアには、次期開催をアピールするためにソロモン諸島国代表団111人が参加し、若い男性グループが現代的なパンパイプ合奏の舞台公演を行いました。私は、瞬く間にその虜になったのです。

 リーダーのパンパイプ奏者が、曲の試し吹き(ハコ・アウ hako ’au)をすると、スタンピング・チューブの奏者がビーチサンダル状の桴で、ドラムとベースのパートを兼ねたリズム打ちを始めます。もともと、ビーチサンダルを使っていたのがわかります(笑)。小ぶりなパンパイプは、メロディのような高音部、太くて長いパンパイプは、ベースのパート。現代的な合奏用のパンパイプは、西洋風にド、レ、ミ、ファ…の7音が出るようチューニングされているので、現地の音楽に馴染みがなくても抵抗なく耳に入ってきます。ノリの良いリズムに合わせて踊りながら演奏するので、奏者のスキップやステップに伴って、足首に巻いたラトル(木の実で作ったガラガラ)が軽快にリズムを刻みます。その技量の高いこと!在来の要素を程よく取り入れながらも、グローバルな観客を意識した「外向き」の演奏に、ただただ、圧倒されたのでした。

 アメリカ領サモアのメディアが、開会式での彼らのパフォーマンスを撮影した映像が見つかりました!サモア語での解説ですが、しきりとソロモン諸島の奏者を讃えているのは、わかりますよね。

ソロモン諸島国の現代的なパンパイプ合奏 
於:パゴパゴ、アメリカン・サモア 
撮影: Tuiātaga Fa’afili A.L Fa’afili t/a VIDEO AAU

 元来、村では祖先崇拝に関わる儀礼や祭礼で、パンパイプ合奏が行われてきました。その特徴は、膝を曲げて腰を落とした奏者が、円を作って中心を向いたり2列で向かい合ったりして互いを視野の中に入れつつ、「内向き」に演奏すること。今日では、観光客向けの公演でも、在来の様式を組み込んだ合奏が行われます(写真1)。

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