文●編集部
ブラジル音楽の豊富なカタログを有する Sony Music(RCA、 CBS )の音源から16タイトルが厳選され、定価1400円(税込)という購入しやすい価格で販売される「ブラジル音楽の秘宝」シリーズが9月6日にリリースされました。大変話題になった2016年7月の「ブラジル・コレクション1000」以来、Sony Musicから、7年ぶりに登場したブラジル音楽CDコレクションです。 選盤はブラジル音楽ガイドブック「MUSICA LOCOMUNDO」で、世界中から再評価され、今、音盤化が待ち望まれていた名盤がセレクトされています。全16タイトルをまとめて購入しても「ハズレ」は1タイトルもないです。安心してください。それほどの質の高い作品ばかりですが、全16のうち、世界初CD化が3作品、日本初CD化が11タイトルです ⎯⎯ ブラジリアン・ソウルの名盤や、近年 “発見” され世界中から注目されているカルト盤、まだ隠されていた「ボサノヴァの秘宝」などなど……、本稿で ・《世界初CD化3タイトル》 ・《ブラジリアン・ソウルの最重要人物たちの作品が日本初CD化》 ・《ブラジリアン・ソウルの極めてレアな名盤の日本初CD化》 ・《「ブラジル音楽の秘宝シリーズ」の目利きが光るブラジリアン・ソウル名盤の日本初CD化》 ・《世界的に再評価著しいサイケ盤のCD化》 ・《大御所たちの残した宝がCD化》 ・《まだ残されていたボサノヴァの秘宝》 と分類して紹介させていただいたので、各タイトル詳細はそちらをご確認下さい。
また、1400円という購入しやすい価格での国内盤CD化ながら、全タイトルに、ブラジル音楽に造詣の深い執筆者陣による新規書き下ろしの解説原稿が付いてくるのも、なんとも有難いです。各タイトル詳細にそのタイトルの解説執筆者を記してありますが、解説陣はこちらの面々です。入魂の解説もぜひ読んでいただきたい。 ・Willie Whopper ・坂尾英矩 ・島田愛加 ・ケペル木村(中南米音楽/MPB) ・秋葉裕介 ・ディスクユニオン新宿ラテン・ブラジル館 金田 ・江利川侑介
過去、こんなディープ・ゾーンにフォーカスしたブラジル音楽の廉価版シリーズはありませんでした。これまでと一味違った切り口で、ブラジル音楽の豊かさを味わおうではありませんか!!!
《世界初CD化3タイトル》 Dom Salvador / Dom Salvador(1969) ■ドン・サルヴァドール/ドン・サルヴァドール(1969年作品) ■Dom Salvador / Dom Salvador 解説書き下ろし:坂尾英矩
■ジャズ・サンバ(サンバ・ジャズ)・ムーヴメントの中心人物といえる黒人ピアニスト、ドン・サルヴァドールの初の個人名義のアルバム(1969年)が、世界待望の初CD化。プロデュースは、タンバ・トリオの打楽器奏者、エルシオ・ミリートで、ジャズ・サンバのマナーを継承した新世代のブラジリアン・ファンク・サウンドを展開。自作曲とカバー曲のバランスも良く、ブラジル音楽ファンなら馴染みがある②「アザ・ブランカ」、⑩「パイス・トロピカル(熱帯の国)」といった楽曲のカバーの演奏も胸熱。
Carlos Walker / A Frauta De Pa(1975年) ■カルロス・ワァルケル/ア・フラウタ・ヂ・パォン(1975年作品) ■Carlos Walker / A Frauta De Pa 解説書き下ろし:Willie Whopper
■表舞台で活躍することを拒否し、2010年代にようやくアシッド・フォーク/サイケ・ロックの文脈で発見された才能、カルロス・ワァルケル。幻のデビュー作(1975年)が、世界初CD化。カエターノの初期曲のカバー⑩「Um Dia」や、同じく再評価著しいシンガーソングライターのピリ・レイスとの共作曲⑥「Cidade Americana」、②「Serenata Do Meio Dia」はジョアン・ボスコとアルヂール・ブランキの書き下ろし曲。アレンジ陣も豪華で、巨匠ハダメ ス・ニャタリまでもが参加している(⑥⑦⑨⑩)。非常に繊細な歌声と流麗なストリングが配された静謐な世界をご堪能を。
Silvio Cesar / Som E Palavras(1977年) ■シルヴィオ・セーザル/ソン・エ・パラヴラス(1977年作品) ■Silvio Cesar / Som E Palavras 解説書き下ろし:秋葉裕介
■ミナス生まれのクルーナーが、ソウル/ファンクの時代に、ジャズはフュージョンの時代へと変わる時代の転換期に、アジムスらの面々をバックに生み出したメロウ・ソウル/MPBの極上アルバム。コー ラス・グループ、アクエリアスの面々の参加も効いている。イヴァン・リンスやジャヴァン、ミルトンが好きな人にもおすすめ。
《ブラジリアン・ソウルの最重要人物たちの作品が日本初CD化》 Cassiano / Imagem E Som(1971年) ■カッシアーノ/イマジェン・イ・ソン 日本初CD化 1971年作品 ■Cassiano / Imagem E Som 解説書き下ろし:Willie Whopper
■「ブラジルのソウル御三家」の1人、カッシアーノの初ソロ作品(御三家の他の2人は、チン・マイアとイルドン)。チン・マイアへ提供し大ヒットした⑧「プリマヴェーラ(ヴァイ・シュヴァ」のセルフ・カバーも含むブラジリアン・ソウルの傑作アルバム。単独で作曲の曲も、チン・マイアやマルコス・ヴァーリらの共作曲も何も素晴らしい。オス・ヂオゴナイス(本シリーズで同時発売)の面々も、コーラスで参加している。
Hyldon / Nossa Historia De Amor(1977年) ■イルドン/ノッサ・イストリア・ヂ・アモール 日本初CD化 1977年作品 ■Hyldon / Nossa Historia De Amor 解説書き下ろし:島田愛加
■チン・マイア、カッシアーノと並び「ブラジルのソウル御三家」の一角をなすイルドンが、ソウル・ムーブメント満開時の1977年に、ソウル・ミュージックの理解者であるトニ・ビザーホやホブソン・ジョルジらと作りあげたブラジリアン・ソウルの名作。全編に、イルドンの若者の心を掌握してしまうようなセンチメンタルな風が吹く。タイトル曲「ノッサ・イストリア・ヂ・アモール(僕たちの愛の物語)」の美しさも輝いている。
Banda Black Rio / Saci Perere(1980年) ■バンダ・ブラック・リオ/サッシ・ペレレ 日本初CD化 1980年作品 ■Banda Black Rio / Saci Perere 解説書き下ろし:島田愛加
■デビュー作『Maria Fumaça』でインストゥルメンタルなブラジリアン・ファンクの完成形を提示したバンダ・ブラック・リオが、歌入りのブラジリアン・ファンクの完成形を提示した名盤が日本初CD化。3作目のアルバムであり、リーダーの交通事故死により活動休止する前、最後のアルバム。ブラジルのEW&F、クール&ザ・ギャングとも言われるブラジル・ナンバー1のファンク・バンドによるファンク・マナーをご堪能あれ。
《ブラジリアン・ソウルの極めてレアな名盤の日本初CD化》 Junior Mendes / Copacabana Sadia(1982年) ■ジュニオール・メンデス/コパカバーナ・サヂア 日本初CD化 1982年作品 ■Junior Mendes / Copacabana Sadia 解説書き下ろし:ディスクユニオン新宿ラテン・ブラジル館 金田
■80年代のブラジリアン・ソウル/ブラジリアン・ブギーの代表的作品で、近年世界的に再評価されている人気の1枚が、日本初CD化。メロウ・グルーヴ・マエストロ、リンコルン・オリヴェッチやクラウヂオ・ステヴェルソン(バンダ・ブラック・リオ)をアレンジャーに迎え黄金に光るブラジリアン・ブギーを聴かせる。ブラジリアン・ソウルの黄金期を裏で支えた重要人物、ジュニオール・メンデスが残した唯一のアルバム。
Helio Matheus / Helio Matheus(1975年) ■エリオ・マテウス/エリオ・マテウス 日本初CD化 1975年作品 ■Helio Matheus / Helio Matheus 解説書き下ろし:江利川侑介
■ジャケットからは、ギタリストのソロ・ギターのアルバムの匂いがするけれど、内容はメロウ・ファンクの大名盤。しかも、当時のRCAビクターが力を入れて、総勢100人以上の腕利きミュージャンが参加したゴージャスな作品。世界的に人気のあるアジムスやバンダ・ブラック・リオの参加もフックになって、本作の再評価を決定づけた。
《「ブラジル音楽の秘宝シリーズ」の目利きが光るブラジリアン・ソウル名盤の日本初CD化》 Carlos Dafé / De Repente(1983年 ■カルロス・ダフェ/ヂ・ヘペンチ 日本初CD化 1983年作品 ■Carlos Dafe / De Repente 解説書き下ろし:島田愛加
■重鎮ジャーナリストのネルソン・モッタが 「ブラジリアン・ソウル界のキングがチン・ マイアなら、プリンスはダフェだ」と言ったブラジリアン・ソウルの隠れた名ヴォーカリスト、カルロス・ダフェの1983年の4作目。アジムスやバンダ・ブラック・リオの面々が参加し、華やかでファンキー&メロウなサウンドに乗せて艶やかな歌声を披露する。
Tony Bizarro / Nesse Inverno(1977年) ■トニ・ビザーホ/ネッシ・インヴェルノ 日本初CD化 1977年作品 ■Tony Bizarro / Nesse Inverno 解説書き下ろし:Willie Whopper
■ブラジルでのソウル・ミュージック・ ブームがまさに頂点だった1977年に、当時のメロウ・グルーヴ・マエストロが豪勢に参加したブラジリアン・ソウル王道盤。若くしてユニットでデビューし、その後、裏方としてプロデューサー活動を続けていたトニ・ビザーホのソロ・デビュー作。一級のソウルを知り尽くしたトニと共に、アジムスの面々や、やリンコルン・オリヴェッチ、ホブソン・ジョルジらが、スタジオでアイデアを出し合いながら、曲が作られていった。
Os Diagonais / Cada Um Na Sua(1971年) ■オス・ヂアゴナイス/カダ・ウン・ナ・スア 日本初CD化 1971年作品 ■Os Diagonais / Cada Um Na Sua 解説書き下ろし:ケペル木村(中南米音楽/MPB)
■カシアーノ、イルドンらが巣立っていったレジェンド・グループ、ヂアゴナイスが1971年に残したパーティ感あふれるソウル・サウンドが溢れる2作目のアルバムで、ラストアルバム。ベースのルイザォン・ マイア、ドラムのパウリーニョ(パウロ)・ブラーガ、鍵盤奏者のオズマール・ミリート等、ブラジル音楽を支えることになる名手たちの卓越した演奏をバックに、カシアーノが軽やかに、多幸感たっぷりに歌う。ブラジルで初CD化された時に収録されたボーナス・トラック2曲を本作にも収録。
《世界的に再評価著しいサイケ盤のCD化》 Karma / Karma(1972年) ■カルマ/カルマ 日本初CD化 1972年作品 ■Karma / Karma 解説書き下ろし:ケペル木村(中南米音楽/MPB)
■ブラジル音楽ファンの枠を超えて、コアなSSWファン&サイケデリック・ロック・ファンにも世界的に語られるようになった静謐かつ幽玄な世界を展開する名盤。「カルマ」は、ブラジルのプログレッシブ・ロックの草分け的なバンド、オ・テルソのメンバー、ジョルジ・アミデンが結成したサイケデリック・フォーク・トリオで、何と言ってもこのバンドの聴きどころはファルセットによる美しいコーラス・ワーク。アレンジには、アルトゥール・ヴェロカイが参加する。
Pedro Santos / Krishnanda(1968年) ■ペドロ・サントス/クリシュナンダ 1968年作品 ■Pedro Santos / Krishnanda 解説書き下ろし:江利川侑介
■打楽器奏者ペドロ・サントスが、自身が発明した楽器も含む様々な打楽器を中心に使って、自身の頭の中で完成した"ぶっ飛んだ" 世界観を表現した再評価著しい脅威の作品。アフロ・ブラジル音楽を下敷きにスタジオ・ワークの限界に挑んだ。プロデューサーのタンバ・トリオのエルシオ・ミリートの「芸術的に信じられるアルバムを残したかった」という思いは現在でも有効だ。
《大御所たちの残した宝がCD化》 Novos Baianos / Farol Da Barra(1978年) ■ノヴォス・バイアーノス/ファロル・ダ・バーハ 日本発CD化 1978年作品 ■Novos Baianos / Farol Da Barra 解説書き下ろし:ケペル木村(中南米音楽/MPB)
■ノヴォス・バイアーノスの一貫した音楽性と、一体感を増したバンド・サウンドが堪能できる良盤が日本初CD化。ノヴォス・バイアーノスの(復帰前)最終作で、活動10年目にして8枚目のアルバムだった。タイトル曲であるオープニングの「Farol Da Barra」は、サルヴァドールを象徴する燈台で、ノヴォス・バイアーノスの精神的支柱だったルイス・ガルヴァンの歌詞に、同郷のカエターノ・ヴェローゾが曲をつけた胸を締め付られる名曲。ガットギターの音色に、ベイビーのソフトな歌声が乗る。
Cesar Camargo Mariano&Cia / Sao Paulo・Brasil(1977年) ■セーザル・カマルゴ・マリアーノ&CIA. /サンパウロ・ブラジル 1977年作品 ■Cesar Camargo Mariano&Cia / Sao Paulo・Brasil 解説書き下ろし:Willie Whopper
■エリス・レジーナ黄金期の公私のパートナーとしても知られるブラジルを代表する鍵盤奏者のセーザル・カマルゴ・マリアーノが、当時のエリス・バンドの仲間たちと、多忙を極めるツアーの合間にスタジオに入って制作したブラジリアン・フュージョンの最重要作。1977年、セーザルが34歳の時の作品。当時のエリスのバンドは、サンパウロ系のメンバーが中心で、プログレッシブ的要素やカイピーラ・テイスト等、エリスのサウンドがより多彩になっていた。そのメンバーで、アルバム・タイトルにあるように「ブラジルのサンパウロ」を、ある時はとてもファンキーに、インスト曲で描いていく。
《まだ残されていたボサノヴァの秘宝》 Mario Telles / Mario Telles(1964) ■マリオ・テレス/マリオ・テレス 日本初CD化 1964年作品 ■Mario Telles / Mario Telles 解説書き下ろし:坂尾英矩
■名匠モアシール・サントスの極上のオーケストレーション・アレンジによるバーデン・パウエル&ヴィニシウス・ヂ・モラエス共作の最強曲群を存分に楽しめる名作。歌うのは、ボサノヴァ界の秘宝、作詞家マリオ・テレス。歌姫シルヴィア・テレスの実兄であり、ボサノヴァ・マナーに則った渋い歌声で名曲を聴かせてくれる。