[2021.07]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2021年7月|20位→1位まで【無料記事 聴きながら読めまっせ!】
e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。
20位から1位まで一気に紹介します!
※レーベル名の後の()は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。
20位 Arsen Petrosyan · Hokin Janapar: Music Performed on Armenian Duduk
レーベル:ARC Music (23)
1994年生まれのアルメニア出身、アルメニアン・ドゥドゥクの主唱者の一人として注目を集めているアーティスト、アルセン・ペトロシアンのセカンド・ソロ・アルバム。A.G.AトリオやArsen Petrosyanカルテットなどのユニットでヨーロッパや中東などでも演奏しており、ソロでは北米でもツアーを実施、ワークショップ等も開催し世界で活躍している。
アルバムタイトル「Hokin Janapar」とは、アルメニア語で「私の魂の旅」を意味している。魂を揺さぶる音楽を彼がノスタルジックに探究したもので、アルメニア国家の継続的なオデッセイを反映している。アルメニアン・ドゥドゥクを使い、アルメニアの歴史的な時系列の中で、さまざまな時代やジャンルを超えた多様な曲を紹介している。
彼はアルメニアのチャレンツァバンで生まれ育ち、現在もそこに住んでいるが、アルメニア民族の飛び地であるジャヴァフク(グルジア共和国)をルーツとし、エルズルム(現在のトルコ)を先祖代々の故郷としている。
2020年の夏からこのアルバムのレコーディングを行っていたが、2020年9月から11月にかけて、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争が再燃し、アルバム制作に困難が生じた。その上で出来上がった作品。
ドゥドゥクの音色が優しくそして刹那的でもあり、アルメニアの歴史と文化の一面に触れることができるアルバムだ。
19位 Wasis Diop · De la Glace dans la Gazelle
レーベル:Editer à Paris / MDC (22)
セネガル人の偉大な詩人であり、稀に見る緻密なソングライターでありパフォーマーであるワシス・ディオップの最新作。約30年間のソロでのキャリアで6枚のアルバムを制作。映画音楽にも多く携わり、1999年にアメリカでリメイクされた映画『The Thomas Crown Affair』でも彼の曲「Everything is Never Quite Enough」が使われ世界的なヒットとなった。2014年発表の前作『Séquences』では、彼が携わった映画音楽などを集めて作られたアルバム。オリジナルアルバムとしては、2008年『Judu Bek』以来となる。
今回の作品は、フランス語で作られており、パリからドバイを経由してマリまで、自分の音楽を見直し、自らがストーリーテラーとしてアルバムを展開している。難民問題、パンデミック、気候や経済などアフリカに降りかかる現在の問題や困難などを喚起する内容の詩だが、彼の深く渋い声と、音節と詩のバランスが洗練されたものとなっている。
アルバム最初の曲「Voyage à Paris」のPV(上記動画)は、彼の娘で映画監督として活躍している(長編映画『アトランティック(Atlantique)』が2019年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞)マティ・ディオップ(Mati Diop)が監督したものであり、とても美しい作品となっている。こちらもオススメ。
18位 Natacha Atlas · The Inner & The Outer
レーベル:Wise Music Publishing (-)
エジプト系ベルギー人歌手ナターシャ・アトラスの最新作EP。プロデューサーであるサミー・ビシャイとのコラボレーション作品。
ナターシャは、イギリスのワールドフュージョンユニット「Transglobal Underground」のメンバーとして活動を開始、1995年にエレクトロニカのデビューアルバム『Diaspora』で大ブレイクし、ソロ活動に専念することとなった。西洋と中東の伝統的なヴォーカルを巧みに融合させることで知られており、様々な文化圏の多くのミュージシャンとコラボレーションしてきた。
本作品は、COVID-19のパンデミックが始まって以来、社会が抱えている不安や不確実性、断片化された社会や、喪失感を反映した歌詞が特徴的で、社会のディストピアをテーマにした作品となっている。
ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカを融合させた、ビシャイの実験的な領域に一歩踏み込んだ作品で、ナターシャの魅惑的なヴォーカルと見事に融合している。静寂と空間を巧みに利用し、想像力を掻き立てられ、リスナーを感情的で魅力的な旅に連れて行き、瞑想的な雰囲気で精神を充電させてくれるかのような作品。中東のサウンド、エレクトロニカ、ジャズが交差するこのアルバムは、大変美しい作品となっている。
17位 Femi Kuti & Made Kuti · Legacy +
レーベル:Partisan (30)
アフロビートを生み出した伝説のミュージシャン、フェラ・クティの息子であるフェミ・クティと、フェミの息子(フェラ・クティの孫)メイド・クティのアルバム・プロジェクト。フェミのアルバム『Stop The Hate』とメイドのデビューアルバム『For(e)ward』の2枚組とし『LEGACY +』としてリリース。先月は30位だったが、今月またランクイン。
フェラ・クティは自らの音楽で、故郷のナイジェリアの社会的不正や政治的腐敗を憂いてきた。ナイジェリア国内はもとより全世界にも影響を与えたが、息子のフェミとその息子のメイドにも受け継がれている。
それはフェミの長年のキャリアを通して、さらに独自のものに変化しており、疾走感あるビートと社会的メッセージ性が込められた音楽は今回のアルバムでも存分に表現されている。
そして今回がデビュー作品となるメイドのアルバムが、これまた良い!ヴォーカル、リズム・セクション、サックスなどほぼすべてのパートを彼自身で演奏しているそう(すごい才能!)。グルーヴ感は現代的だが、ベースには受け継がれてきたサウンドが感じられる。まさに三代にわたって繋いできた「レガシー」をさらにその先に繋いでいくアルバムとなっている。
16位 Luís Peixoto · Geodesia
レーベル:Groove Punch Studios (20)
ポルトガルで最も優れた弦楽器(カヴァキーニョ、マンドリン)奏者の一人であるルイス・ペイショットの最新アルバム。ポルトガルのコインブラ出身の41歳の音楽家で、学生時代からイベリア半島のフォークや民族音楽のシーンで活躍し、様々なアーティストやユニットで演奏してきたが、ソロ作品としては2017年『Assimétrico』以来、二枚目の作品となる。
ポルトガルをはじめとしたイベリア半島の伝統的な音楽を学んできたペイショットによるこのアルバムは、その伝統的な音楽をベースとしたオリジナル曲で構成され、彼のマンドリンを中心としたアコースティックなサウンドで、2人の友人(ギター&ヴァイオリン)とのトリオでの作品となっている。また、イベリア半島、カナリア諸島、カーボベルデ、フィンランドなど各地からのゲストミュージシャンも参加。ガイタ(ガリシア地方のバクパイプ)、バウロン(アイルランドのフレームドラム)、ティン・ホイッスル(アイルランド発祥の笛)、オクタビージャ(6本の複弦を持つギターのような形の弦楽器)など、ゲストの民族楽器による音色が伝統音楽の世界をさらに広めている。ポルトガルやスペインの各地方の伝統音楽から、ケルト音楽までを巡る旅、そして最後は自身の子供たちに捧げた曲が我々の心に寄り添うかのように締めくくられている。弦楽器の響きが何とも心地よい一枚。
15位 Dagadana · Tobie
レーベル:Agora Muzyka (18)
ポーランドとウクライナ出身の男女4人組ユニットによる、5枚目のアルバム。ポーランドのクラクフで行われたジャズワークショップで知り合い、2008年に結成された。それ以来、ジャズ、エレクトロニック、ワールドミュージックを通して、ポーランドとウクライナの文化の要素を見事に融合させている。2人の女性ヴォーカル、Daga Gregorowicz(エレクトロニクスも担当)とDana Vynnytska(ピアノ、キーボードも担当)の名前がバンド名となっている。2010年リリースのデビューアルバムはポーランド国内だけでなく、世界的にも評価され、今までに4大陸25カ国で1000回以上ライヴを行ってきた。
本新作はあらゆる人たちと「やさしさ」を共有し、「やさしさ」を目覚めさせる必要性から生まれたとのこと。コロナ禍で世界が混乱していることを憂いたのだろうか。様々な国を旅して得られたスタイルの豊かさと、自分のルーツに敬意を払いながら音楽の世界を融合させることへの寛容さが込められたアルバムとなっている。
伝統的で民族的なメロディー、ポリフォニーをベースにしつつ、ジャズのグルーヴやダンス・エレクトロニクス、ラップなどと融合し、現代的な音楽となっている。これはハマりそう!期待できるユニットである。
14位 Comorian · We Are an Island, but We’re Not Alone
レーベル:Glitterbeat (17)
世界中の知られざる音楽をフィールド・レコーディングによって記録した『ヒドゥン・ミュージック・シリーズ』の第8弾。アフリカ大陸東南部マダガスカル島とモザンビークの間に浮かぶコモロ諸島の人々のオリジナル・ソングにフォーカスが当てられた。
ボックス型ツィター〈Ndzendze〉やリュート型撥弦楽器〈Gambussi〉による煌びやかなストリング・サウンド、あるいは〈Guma〉と呼ばれる両面太鼓のプリミティヴなリズムに情感豊かなヴォーカルが乗せられたこのサウンドは、西洋音楽の持つ叙情性と土着的な儀礼音楽の間を自在に往来するような不思議な魅力を放つ。
録音はティナリウェンのプロデューサーなどで知られるイアン・ブレナン。本当は、ンヅマラ(ndzumara :ダブルリードのパイプ、または原始的なオーボエ)の音を求めてこの島に来たのだが、ンヅマラの最後の奏者が亡くなってしまい、その録音は不可能となってしまった。でもせっかく来たのだからということで、現地の人を頼り、最終的にはコモロ人でミュージシャンのSoubiとMmadiを見つけ、今回の録音に至った。
コモロ諸島は、地元では「月の島々」として知られており、島の人々は漁で生計を立てている。シンプルな暮らしの中から産み出され、生活に根付いたローカルな音楽を聴く機会はなかなかない。しかもこの地域からリリースされた初めてのオリジナルアルバムということだから、非常に貴重なアルバムといえよう。
↓国内盤あり〼。
13位 Hamdi Benani, Mehdi Haddab & Speed Caravan · Nuba Nova
レーベル:Buda Musique (27)
フランス系アルジェリア人のエレクトリック・ウード奏者、メフディ・ハダブと彼のグループ「Speed Caravan」が、アルジェリアのヴァイオリニストで歌手のハムディ・ベナーニを迎えて制作した作品。ハムディ・ベナーニはマルーフの巨匠でありアルジェリアの古典音楽の名手であったが、2020年9月にコロナにより亡くなってしまい、この作品が遺作となってしまった。
アルジェリア東部の街コンスタンティーヌからチュニジアの地域で親しまれている伝統的な音楽、マルーフが、エレクトリック・ウードとミックスすることでロック調になっている斬新な作品。でもベースには、マルーフの精神が宿っており、伝統に忠実な側面も持っている。「マルーフ」はアラビア語で「伝統に忠実な」という意味があるそうだが、実際にそれをアルバムで表現している。
ハムディ・ベナーニの歌も収録されているが、彼の息子が歌った曲も収録されている。このアルバムには父が守ってきた伝統を息子が引き継ぐという物語も込められている。
12位 Sofía Rei · Umbral
レーベル:Cascabelera (-)
ブエノスアイレス出身で、現在はニューヨークを拠点に活動し、グラミー賞にノミネートされたこともあるシンガーソングライター、ソフィア・レイの5作目となる最新作。今作は、アンジェリーク・キジョー、リチャード・ボナのプロデューサーでもある、JC Maillardのプロデュースによるもの。本作にも収録されている「La Otra」がシングルとして先行リリースされた。この曲は、チリの女流詩人であるガブリエラ・ミストラルの詩へのオマージュとして作られた。
アルバムでは、チリのエルキ渓谷の山奥で、世界の中で自分の居場所を求めて戦う女性の姿を親密に描いている。エルキ渓谷は、ガブリエラ・ミストラルの生誕地でもある。実際に録音機材を詰め込んだバックパックとチャランゴを持って、エルキ渓谷を単独でトレッキングし、旅の途中で出会ったミュージシャン仲間から影響を受ける中で、民族音楽を収集・録音しながら旅を進めた。それをベースに作られたのが今回のアルバム。伝統的な民族性とデジタルな未来性を融合した傑作と言えるだろう。
現在はニューヨーク大学でも教鞭をとっている。リズムトレーニングとラテンアメリカ音楽のスタイルや特性に焦点を当てたコースを開設したり、また南米の芸術に対する一般の認識を高めることを目的としたアート集団「El Colectivo Sur」の共同設立者も担うなど、活動の幅を広げている。そして彼女の根底にあるものは、故郷であるアルゼンチンをはじめとしたペルー、コロンビア、ベネズエラなど南米諸国の民族音楽を深く探求し続けていること。それらのサウンドをジャズ、クラシック、ポップス、電子音楽の影響と融合させ、独自の進化し続けるサウンドを生み出してきた。
才能ある彼女の活動から得られた大きなエネルギーがこのアルバムに詰め込まれている。素晴らしい作品。
11位 Kasai Allstars · Black Ants Always Fly Together, One Bangle Makes No Sound
レーベル:Crammed Discs (12)
コンゴ・カサイ州出身の5つの異なる部族から生まれたバンド、カサイ・オールスターズの最新作。2008年のデビュー以来、電気親指ピアノによるエレクトロニックコンゴ伝統音楽(コンゴトロニクス)で、リリース作品は世界中で評価されてきた。
今回の作品では、ギタリストのMopero Mupembaが初めてプロデューサーとして参加、アルバム収録曲の約半分を作曲している。また、複雑なプログラミングも担当しており、伝統的なトランス音楽や儀式音楽に由来するカサイ・オールスターズの独特のリズムパターンに完璧にマッチしている。また、新しい若手のボーカルBijouが加わり、新たなエネルギーが注入されたことにも注目すべきである。
今までの作品よりポップになった印象を受けるが、根底にあるリズムは変わらない。メロウな曲もあり、リズムが速い曲もあり、緩急ついた内容。コンゴの伝統的な音楽の多様性を見事に表現しているアルバムと言える。
10位 Jupiter & Okwess · Na Kozonga
レーベル:Zamora Label (7)
2017年リリースのアルバム『KIN SONIC』が大好評だった、コンゴのバンド、ジュピター&オクウェスの最新作。
これまでのバンドの旅の成果とも言える作品で、世界で出会ったアーティストたちとのコラボレーションが収められている。ニューオリンズのプリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド(Preservation Hall Jazz Band)、アメリカのシンガー、マイヤ・サイクス、ラティーナとしては、ブラジル人アーティスト、ホジェー(Rogê)、Marcelo D2、チリのヒップホップ・アーティスト、アナ・ティジュ(Ana Tijoux)が気になるところ。それぞれのアーティストのカラーになりつつも、彼らのバンドのサウンドは根底にあるのがすごい。
アルバム名にもなっている「Na Kozonga」とは、コンゴの言語であるリンガラ語で「帰還」という意味で、同タイトルの曲は、先日亡くなったバンドリーダーのジュピター・ボコンジの父親に捧げられたものである。
9位 Samba Touré · Binga
レーベル:Glitterbeat Records (3)
ソンガイ・ブルースのスタイルを今に受け継ぐ正統な伝承者でマリ人ギタリスト、サンバ・トゥーレの最新作。2018年リリースの『ワンデ〜愛する人よ』以来3年ぶりとなる。コロナ禍の2020年夏にマリの首都バマコで録音され、ソンガイの伝統に根ざしたサウンドとなっている。
タイトルの『ビンガ』とは、マリのサハラ砂漠の下に広がる広大な地域のこと。彼が育った場所であり、今でも彼の心の拠り所となっている場所で、彼のルーツとも言える。そのルーツを前面に押し出し、シンプルな編成で純粋なソンガイ・ブルースを表現している。また、故郷マリの現実、クーデター、反乱、民族間の虐殺が繰り返され近年は悪化していること、医療や学校のシステムはただでさえ非常に遅れているのに、コロナのせいで更に状況は悪化し、子供たちが教育を受けられていないことをこのアルバムで訴えている。シンプルなサウンドがよりその深刻さが伝わってくる。ソンガイ・ブルースの伝統曲とオリジナル曲で、今彼が世界に伝えたかったことをしかと受け取めたい。説得力のある傑作だ!
↓国内盤あり〼。
8位 V.A. · Henna: Young Female Voices from Palestine
レーベル:Kirkelig Kulturverksted (-)
今もなお紛争が続いているパレスチナの新世代の女性アーティスト達による作品。7人の若いシンガーとグループが、それぞれ1〜2曲を収録。カヌーンや、ウード、ネイなどの民族楽器が使われ、占領下での生活を反映した歌だけでなく、強い抵抗の意志と永続的な希望についても歌っている。
これらの若手アーティスト達が学んだパレスチナにあるエドワード・サイード国立音楽院(ESNCM)のディレクター、スハイル・クーリー氏によって制作されたアルバムである。録音はESNCMのスタジオで行われ、ノルウェーのレーベルKKVとの共同作業により8年間かけてつくられた。(スハイル・クーリー氏は、2020年7月にイスラエル警察により身柄を拘束されてしまった)
このノルウェーのレーベルは、リム・バンナやテレス・スリマンなど、パレスチナの重要な他のアーティストの作品もリリースしており、今回のリリースは、ノルウェー外務省の助成を受けている。ノルウェーは文化的側面からパレスチナをサポートしていることがうかがえる。
イスラエルの軍事占領下で最も影響を受けやすい存在である女性、しかも若い女性たちが、自ら歌を通して意思表示をしているということに強く応援したい気持ちになる。彼女たちをはじめとした若い人々に明るい未来があることを祈り続けたい。
7位 Balkan Taksim · Disko Telegraf
レーベル:Buda Musique (5)
ルーマニアのブカレストを拠点に活躍する、2人組ユニット(マルチ・インストゥルメンタリスト/アーティストのサーシャ=リヴィウ・ストイアノヴィッチと、エレクトロニカ・プロデューサーのアリン・ザブラウツァーヌ)のデビューアルバム。
サーシャは、旅をしながらバルカン半島の音楽や文化を探求し、曲や物語、そして楽器を集めてきた。彼が収集した楽器の音と、伝統的な曲や物語を基にして新しい曲を作り、それをアリンのエレクトロニカのスキルと融合させ、「グルーヴィー・バルカン・ストーム」を生み出した。
アルバム収録曲は、民族性とそれに関連する物語の背景を尊重しており、時にはロマンチックに、時にはメランコリックに表現している。サズ(ブズーキに似た3弦のリュート)、ネイ(先の尖ったフルート)などの伝統的な楽器とエレクトロニクスが見事に融合し、革新的な音楽となっている。「トラディショナル+エレクトロニック」が成功している作品と言えるだろう。とても魅力的な音楽が詰まったアルバムだ。
6位 Dobet Gnahoré · Couleur
レーベル:Cumbancha (-)
コートジボワール出身の女性シンガー、ドベ・ニャオレの最新作。本作で6枚目のアルバムとなる。2010年にグラミー賞を受賞し、アフリカの歌姫として愛されている1人である。2007年にアルバム『Na Afriki』をリリースして高い評価を得たアメリカのCumbanchaレーベルへの復帰作でもある。
フランス在住であったが、コロナのパンデミックで地元コートジボワールに戻り録音したアルバム。地元の若い才能を活かすため、彼女は地元で人気の作曲家/プロデューサーである21歳のTam Sirに制作を任せた。現代アフリカの都会的なエネルギー、華やかさがあるアフロポップ作品に仕上がっている。
また、女性の権利や、強さ、創造性、そして困難な時代にもかかわらず前向きで勇敢な女性を称えている作品ともなっている。アフリカの女性たちへの語りかけているような存在感のある歌声、グルーヴ感がとても心地よい。MVでの彼女のダンスはとても素晴らしい。そして何よりもアフリカン・ポップな色彩が溢れる作品ばかりであることにとても惹かれる。まさにアルバムタイトル『Couleur』(フランス語で色)通りの作品だ。
(ちなみに昨夜これを聞きながらウォーキングしたら、リズムに乗って大きな歩幅でサクサク歩けました。ウォーキングにもオススメです。)
↓国内盤あり〼。
5位 Ben Aylon · Xalam
レーベル:Riverboat / World Music Network (6)
イスラエル出身のパーカッショニスト/音楽家であるベン・アイロン。国境を越えるミュージシャン、パーカッショニストとして定義されるベンは、自身のソロプロジェクト「One Man Tribe」において、彼の革新的なドラミング・スタイルを紹介しており、10種類のアフリカン・ドラムのセットを同時に演奏し、現地の音楽家たちをも凌駕してきた。
2020年1月、ベンはセネガルの首都ダカールを中心に単独公演を行い、数百万人が視聴するセネガルの有名テレビ番組で紹介され、セネガルで全国的な知名度を得た。セネガルの「次世代パーカッショニスト」と期待されている存在。
この作品は、7年の歳月をかけて制作され、国際的なデビュー作品となるもの。2018年に亡くなったマリの歌姫カイラ・アービーと、サバール・ドラミングの伝説的存在であるドゥドゥ・ンジャエ・ローズが参加している。セネガルとマリの伝統的な音楽と楽器を、新鮮で現代的なものに変えている。
上記動画は、彼が過去10年間に西アフリカを旅したときの貴重な映像を使ったこのショート・ドキュメンタリー。このアルバム制作の過程がわかる非常に興味深い内容となっている。これからの活躍が期待できる「次世代」のアーティストだ。
↓国内盤あり〼。
4位 Ballake Sissoko · Djourou
レーベル:Nø Førmat! (2)
マリの作曲家/コラ奏者であり名手である、バラケ・シソコのニューアルバム。今回はソロ作品だが、何人かのアーティストをゲストに迎えコラボレーションしている。ゲストは、デュオアルバムもリリースしている盟友のヴァンサン・セガールを筆頭に、マリの巨匠サリフ・ケイタ、フランス人歌手のカミーユ、アフリカ系イギリス人でコラ奏者のソナ・ジョバルテ、フランス人MCのオキシモ・プッチーノなど。コラの音色とゲストによる音(声だったり楽器だったり)の融合が素晴らしく、心に沁み渡る優しい作品。もちろん、ソロでの曲も素晴らしいことは言うまでもない。
アルバム名の「Djourou」は、マリで話されている言語であるバンバラ語で「糸」という意味。バラケ自身とゲストや、リスナーたちと音楽の糸で繋がっているということを表している。まさに、このアルバムに織り込まれている糸を、聴くことによって感じられる名盤である。
3位 Toumani Diabate and The London Symphony Orchestra · Kôrôlén
レーベル:World Circuit Records (10)
グラミー賞を受賞したマリのコラの名手トゥマニ・ジャバテと、レコードや映画、舞台でのオーケストラ演奏で世界的に活躍するロンドン交響楽団のコラボレーション作品。ロンドンのバービカン・センターの特別プロジェクトとして依頼され、ワールド・サーキットによって制作されたアルバム。
何世代にもわたって音楽を受け継いできたグリオであるジャバテは、フラメンコ、ブルース、ジャズなどの異文化と交流し、マリの伝統音楽を現代に、そして世界へと発信し続けてきた。今回はクラシックとのコラボ。マリの著名な音楽家たちがいるジャバテのグループが参加し、ニコ・ミューリーとイアン・ガーディナーの編曲とクラーク・ランデルの指揮によるものとなっている。
タイトルの「Kôrôlén」は、マンディンカ語で「先祖代々」を意味する。伝統的なメロディーとコラの音色の美しさが、西洋のオーケストラ・アレンジと見事に融合されている。アフロ・ネオ・クラシック・サウンドと言える作品で、とにかく美しい!
(ちなみに、今月4位のバラケ・シソコと共演しているコラ奏者のソナ・ジョバルテは、トゥマニ・ジャバテのいとこだそうです。凄いファミリー!)
2位 CGS Canzoniere Grecanico Salentino · Meridiana
レーベル:Ponderosa Music & Art (1)
Canzoniere Grecanico Salentino(CGS)は、1975年にイタリアの作家リナ・ドゥランテによって結成された、イタリア南東部サレント地方の伝統音楽アンサンブルグループ。その最新作。
7人編成によるこのグループは、南イタリアの伝統的な音楽と踊りを現代風にアレンジしてパフォーマンスを行う。これまでに18枚のアルバムを発表し、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、中東などで多くの公演い、高く評価されてきた。2007年には、バンドリーダーだったダニエレ・デュランテから息子のマウロ・デュランテに引き継がれた。
アルバムタイトル「Meridiana」は「日時計」という意味。アルバムのデザインも日時計を表現、日時計の時間が12であるように曲数も12曲ということで表現している。今回のアルバムでは、サレント地方の伝統的な曲と、ピッツィカ(イタリア・サレント地方に伝わる伝統的な踊りで男性と女性によるペアの踊り)を使った現代的なオーケストレーション作品を収録している。過去と現在が重なり合い、時間が拡大したり縮小したりしながら、12曲が流れていくイメージのアルバムだ。
アルバムのホームページを見ると、このアルバム自体が、時間をテーマにした幅広いプロジェクトとなっている。科学と文化の世界の著名人から提供されたビデオ、画像、テキスト、寄稿文が集まり、マルチメディアと学際的なオリジナルのモザイクを構成している。稀に見る困難な年だからこそ生まれたプロジェクトではないだろうか。全体を通して聴いてみると、物語の全体が見えてくるかのようだ。必聴です。
1位 Antonis Antoniou · Kkismettin
レーベル:ajabu ! (4)
キプロスの人気バンド、Monsieur DoumaniとTrio Tekkeのメンバーであるアントニス・アントニウの初めてのソロアルバム。4月以来チャートインしていたが、今月遂に1位!
アルバムタイトル「Kkismettin」は運命や宿命という意味である。紛争で分断されたキプロス島の二つのコミュニティに対し、この苦しい状況を島の運命として受け入れることはできないという政治的なメッセージを込めて作られた。またこのアルバムは、コロナでロックダウン中に制作され、分断されたこの国では、移動の自由やその他の基本的な自由が制限されていることを思い知らされたという。
アントニウは、母国語であるギリシャ・キプロス語で、クラシック音楽からジャズ、ロック、伝統音楽、実験音楽、サウンドアートまで、サウンドスケープとテクスチャーを融合させている。キプロスの主要な伝統楽器のひとつであるリュートの中近東風のメロディーが、アナログシンセサイザーのグライドやエッジの効いたギターリフと共鳴し、境界線を押し広げ、独特の現代音楽のモザイクを形成している。分断された都市ニコシアの検問所の樽が、文字通り楽器となり、リズムの基盤となり、錆びたような陰鬱な雰囲気を醸し出している。
今後、この分断の象徴とも言える樽が、解体される“運命”になることを願いたい。
(ラティーナ2021年7月)
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