[2021.09]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」⑭】Mallu Magalhães『Esperança』
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[2021.09]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」⑭】Mallu Magalhães『Esperança』

文●中原 仁

───── 中原仁の「勝手にライナーノーツ」─────
 近年、日本盤の発売が減少し、日本における洋楽文化の特徴である解説(ライナーノーツ)を通じて、そのアルバムや楽曲や音楽家についての情報を得られる機会がめっきり減った。
また、盤を発売しない、サブスクリプションのみのリリースが増えたことで、音楽と容易に接することが出来る反面、情報の飢えはさらに進んでいる。
 ならば、やってしまえ!ということで始める、タイトルどおりの連載。
リンクを通じて実際に音楽を聴き、楽しむ上での参考としていただきたい。
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 8月29日、29歳を迎えたシンガー・ソングライター、マルー・マガリャンイス。サンパウロで生まれ、2007年、15歳の誕生祝にもらった金を使ってスタジオに入り、自作の曲(歌詞は主に英語)を録音。MySpace(今や死語か)にアップしたところ一気にバズり(当時は「バズる」という言葉はまだ一般的でなかった)、2008年にマリオ・カルダートJrのプロデュースでファースト・アルバム『Mallu Magalhães』を発表した。16歳でデビューした、ブラジルにおけるSNS世代の筆頭と呼べる音楽家だ。

 カシンがプロデュースしたセカンド・アルバム『Mallu Magalhães』(2009年/SONY)にも参加していたマルセロ・カメーロがサード・アルバム『PITANGA』(2011年/SONY)をプロデュースし、マルーは20歳を迎えた2012年にカメーロと、年齢差14歳で結婚。2013年、夫婦はポルトガルのリスボンに転居し、2014年、ドラマーを加えた夫婦バンド、バンダ・ド・マール(Banda do Mar)のアルバムを発表。2015年、娘のルイーザが誕生した。

 2017年、カメーロのプロデュースで発表した秀逸な “MPopB” アルバム『Vem』は日本でも話題を呼び、「2017年ブラジル・ディスク大賞」で一般投票9位、関係者投票2位にランクインした。ただブラジルでは、ヒット曲「Você Não Presta」のミュージック・ヴィデオが人種差別だと非難される騒ぎになり、それを否定し謝罪したマルーの発言が炎上を呼んだのは、SNS時代の功罪だ。

 2019年、通算5枚目の新作を録音。2020年3月に『Felicidade』と題してリリースの予定だったが、コロナ禍で発表を延期。タイトルも「希望」を意味する『Esperança(エスペランサ)』に変え、1年余りを経て2021年7月、自身のレーベルから配信でリリースした。

 全12曲、マルーが作詞作曲し、プロデューサーはファースト以来となるマリオ・カルダートJr.。夫カメーロは制作にタッチしておらず、ゴージャスなサウンドに包まれた前作に比べて音像がシンプルになっている。

 インディー・フォーク、ソフト・ロックといったマルーのルーツとなる音楽と、キャリアを重ねるに連れて濃度を増してきたサンバの要素を加えて進行。愛らしいロリータ声は、20代の末を迎えても健在だ。

 主な参加メンバーは、バンダ・ド・マールのメンバーでもあったフレッヂこと、フレデリコ・フェヘイラ(ドラムス他)。カエターノ・ヴェローゾのバンダ・セーの元メンバーで現在はリスボン在住のヒカルド・ヂアス・ゴメス(ベース)。2008年のジルベルト・ジル来日公演のメンバーだったクラウヂオ・アンドラーヂ(ピアノ、キーボード)。リスボン在住のドメコニ・ランセロッチ(パーカッション)など。曲によりマルーもギターやピアノを演奏している。

 現住所のリスボンに即し「私はラテンアメリカから来た」と英語で歌う「América Latina」で始まり、愛娘ルイーザがテーマのサンバソウル「Deixa Menina」では、ジルベルト・ジルの長女プレタ・ジルをゲストに迎える。

 スペイン語で歌う「Regreso」、ライトなジャズ・テイストの「Cena de Cinema」、英語で歌うロックの「I’m OK」、エレクトロニカを上品に生かした「Fases da Lua」など多彩に展開する。

 「Quero Quero」のMVでは、インスタグラムでパンデミックの時期を生きる人たちに呼びかけ、募集した動画を組み入れた。マルーは「家で踊りたい、現実から逃れたい思いから、曲に乗って踊ったり、ステイホームで楽しんでいる動画が送られてきました」とコメントしている。

 華やかなサウンドだった前作『Vem』と比べると地味な印象を受ける人も多いかもしれない『Esperança』だが、シンプルなサウンドはローファイではなく、緻密に丹念に練りこまれている。アナ・フランゴ・エレトリコ、本連載の6月号で紹介したアルル・パラーニョスといった、“いたいけ” 声の20代シンガーの先駆者にあたるマルー・マガリャンイス。愛らしさを残しながらも、母親となって地に足がついた安定感が増したことが頼もしい。

[勝手にボーナストラック]
 チン・マイアの伝記映画『Tim Maia』(2014年)にナラ・レオンの役で出演、ヴィニシウス・ヂ・モライス作詞作曲の「Medo de Amar」を歌うマルー

(ラティーナ2021年9月)


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