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[2021.09]【島々百景 第64回】厳島(宮島)|広島県【文と写真 宮沢和史】

文と写真●宮沢和史

 宮沢和史のソロ活動を支えてくれていたバンドのメンバー全員とともに、10人の大所帯多国籍バンド『GANGA ZUMBA』を結成した2005年から並行して『寄り道』と称する弾き語りコンサートツアーを始めた。というのも、この大所帯では小回りをきかせて小さな町を周ることが難しい。ならば、バンドは大都市でコンサートを行い、日本中に点在する小中の町は宮沢含め3~4人のスタッフで細かく周り、小規模で、それでいてその土地を象徴するような個性的な会場を探してコンサートを開催しようというそんな趣旨である。基本的にスタッフは機材車で自走し、乗れる時には宮沢もそれに乗っかり、時には自家用車を走らせ、ギター数本と三線と何本かの釣竿を乗せて、日本中のたくさんの町を周った。その移動中にさらに小さな町や村に遭遇すると、小さな島国でありながら、山間の平地に点在するすべての集落で歌うことは一生かけても不可能だろうな、なんて思いながら日本列島縦断・横断の距離感を体感しながらの旅の面白さにどんどんのめり込んでいき、いつしかライフワークのようなものになっていった。ツアーのたびに事前に詩集を作り、ステージで出来たての詩を披露するのも恒例になった。国内外でのバンド活動の谷間を『寄り道』でつないでいくペースが何年か続いていたが、2011年の東日本大震災を経験し、重く深い衝撃を受け、歌の無力さ、音楽の力の無さを実感しつつも、歌うたいである自分には今何ができるだろうと考えに考え抜いた挙句、東の人には西の思いを、西の人には東の人たちの言葉を届けようと思い立ち、2012~2013年にかけて47全都道府県を周って歌を届けた。震災の1年前に全都道府県での思い出を47篇の詩にしたためようと思い立ち、詩集『紀行詩 日本四七景』を刊行したことにも何か意味があったのだろうとその時に思ったものだ。

 コンサートホールやライブハウスで『寄り道』を開催することもあるが、コンサート制作を一緒に行う各地のイベンターのみなさんも、このツアーの意義や面白味を徐々に理解してくれ、その町ならではのユニークな会場を次々と探して出し提案してくれた、酒蔵や芝居小屋、能楽堂やプラネタリウムなどもあった。普段はなかなかコンサートが行われることのないところであっても、独りきりのアコースティックの弾き語りというミニマルさがうまくマッチし、物理的に縛られることが少なく、やればやるほど可能性は大きく広がった。しかし、前例のない場所でのコンサートが多かったので、ハプニングが多かったのも事実。野外で弾き語りコンサートをするには季節的に遅すぎたライブで自分も含め、ほとんどの人がトイレに行きたくなり、ほぼ全員がソワソワしながら進行していく日もあった。福岡の太宰府天満宮ではステージを外に配置し、お客さんには建物の内部で鑑賞してもらう形を組んだのだが、その日は超悪天候になるということで、ステージにテントを張ったものの、ライブが始まるとそのテントの屋根にバケツをひっくり返したような雨がブチ当たり、自分の歌声が全く聞こえないほどの轟音が鳴り響き、そのうち何度も雷が鳴りはじめ、「いつここに落ちてもおかしくないな」と、生きた心地がしないままセットリスト通り、SMAPの「青いイナズマ」を弾き語りしたことは一生忘れない。

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