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[2017.08]MORELENBAUM²/SAKAMOTO〜ジャパン・ハウス サンパウロ開館記念コンサート

文●中原 仁 写真●Rogério Cassimiro

 外務省が日本文化の発信拠点として海外で展開する施設「ジャパン・ハウス」の1号館「ジャパン・ハウス サンパウロ」が5月6日、パウリスタ通りにオープンした。7日と8日、イビラプエラ公園内のイビラプエラ劇場(オスカー・ニーマイヤーの建築作品)で開館記念のコンサートが行なわれ、7日の無料野外コンサートには1万5千人もの市民が詰めかけた。

 出演は、世界規模で活躍を続け、ブラジル音楽との関わりも深い2人の音楽家、三宅純と坂本龍一。三宅純は16人編成のアンサンブルを率いて出演し、坂本龍一はジャキス&パウラ・モレレンバウム夫妻と共演した。2001年にリオ録音のアントニオ・カルロス・ジョビン作品集『CASA』を発表し、足かけ3年かけて日本を含むワールドツアーを行なったユニット、モレレンバウム2/サカモト(以下M2S)の、実に14年ぶりのリユニオン・ライヴとなった。

 ここではM2Sのライヴ・レポートをお届けするが、最初に登場した三宅純の多国籍アンサンブルにはバイーア出身の歌手、ブルーノ・カピナン(今回が初共演)、同じくバイーア出身でパリ在住のパーカッション奏者、ゼー・ルイス・ナシメントも参加。三宅純の独創的でハイブリッドな音楽性が聴衆を魅了し、最後は熱狂的なスタンディング・オヴェーションに包まれたことを報告しておく。

 休憩をはさんで坂本龍一がステージに登場し、オリジナル曲をソロで演奏。7日の野外公演では演奏が始まった瞬間、それまでザワザワしていた聴衆が水を打ったように静まり返り、ピアノの音に集中する波動が伝わってきて鳥肌が立った。

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 続いて、ジョビンのトレードマークでもあったパナマ帽をかぶったジャキス・モレレンバウムが登場。自分のポジションに座ってパナマ帽を外しスタンドにかける粋な演出には〝マエストロ、ここで私たちの演奏を楽しんでください〟とのメッセージもこめていたのだろう。ジャキスのジョビンに対する深い想いを感じた。

 ピアノとチェロのデュオで、ジャキスが弾くメロディーに坂本が即興的に反応しながら展開した「白と黒のポートレート」、『CASA』で録音した「シャンソン・プール・ミシェル」と、2曲の坂本オリジナル曲を演奏。M2Sはパーマネントなユニットではないが、坂本とジャキスは約25年にわたり、バイオリン奏者を含むトリオをはじめ様々な形で共演を続けてきたソウルメイトであり、何を演奏してもこの2人にしか交わすことのできないスペシャルな会話が成立する。途中、坂本がジャキスから教わったポルトガル語で照れくさそうに挨拶、歓声に包まれた。

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 そしてパウラ・モレレンバウムが登場、M2Sが揃った。曲は「アス・プライアス・デゼルタス」、そして坂本が以前から〝ドビュッシーの遺伝子を受け継いだ、ジョビンの作品の中で最も好きな曲〟 と力説してきた「サビア」。さらにルーラ・ガルヴァォン(ギター)とマルセロ・コスタ(パーカッション)が加わり、「アモール・エン・パス」「インセンサテス」「オ・グランヂ・アモール」と、ジョビンの名曲が続いた。

 ここでいったんブラジル勢が去り、一人ステージに残った坂本がピアノを弾き始めた瞬間、場内から割れんばかりの拍手が巻き起こった。「メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス」。ちなみにこの曲のイントロのメロディーは、ヴィニシウス・ヂ・モライス作「ペラ・ルース・ドス・オーリョス・テウス」をジョビンがミウシャとの共演盤で録音した際、イントロで弾いたメロディーにインスパイアされて生まれたとも言われている。

 再び全員が揃い、フィナーレは「ヂザフィナード」そして聴衆も合唱した「シェガ・ヂ・サウダージ」。2曲とも、ヴァースの部分での坂本とジャキスのデュオが圧巻で、ジョビンの音楽に対峙する2人の演奏がさらに深化していることが聴きとれ、2人だけのライヴを聴いてみたい思いにもかられた。

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 実は、ジョビンの没後20年にあたる2014年、東京でM2Sのリユニオン・コンサートが企画されていたが、直前に坂本龍一の中咽頭癌が発覚し、中止になってしまった経緯がある。それから3年を経て、ジョビンの生誕90年を迎えた2017年に「ジャパン・ハウス サンパウロ」が開館し、このコンサートが実現したのも、何かの巡り合わせなのだろう。

(月刊ラティーナ2017年8月号掲載)

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