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[2024.1]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」 ㊷】 Marisa Monte 『Portas (Ao Vivo)』

文:中原 仁

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 マリーザ・モンチが2023年12月、「2021年ブラジル・ディスク大賞」第1位を獲得した『Portas』のコンサートのライヴ・アルバムをデジタル・リリース、同時に公式映像もYouTubeに公開した。2022年から23年にかけて国内と欧米をめぐり、80超の都市で150超の公演を行ない、トータル50万人以上を動員した大規模なコンサート・ツアーの前半、2022年10月にマリーザの自宅があるリオのガヴェア地区、ジョッキークラブ(競馬場)内の会場、Arena Jockeyで行なったコンサートのライヴだ。

 まず注目したいのが、バンドのメンバー。

Dadi - Bass, Guitar, Piano
Davi Moraes - Guitar
Pupillo - Drums
Pretinho da Serrinha - Percussão, Cavaquinho, Chorus
Chico Brown - Keyboard, Guitar, Chorus
Antonio Neves - Trombone, Hone Arranje
Eduardo Santanna - Trumpet, Flugelhorn
Oswaldo Lessa - Sax, Flute

 95年以来、マリーザのバンドにずっと参加している不動の重鎮ダヂ。故モライス・モレイラの息子でマリーザの元恋人、『Memórias,Crônicas e Declarações de Amor(アモール、アイ・ラヴ・ユー)』(「2000年ブラジル・ディスク大賞」第1位)のツアー以来の公式共演となったダヴィ・モライス。『O Que Você Quer Saber de Verdade(あなたが本当に知りたいこと)』(「2012年ブラジル・ディスク大賞」1位)とそのツアーに参加した、ナサォン・ズンビのドラマー、プピーロ。2019年の来日公演にも参加していたサンバ界の俊英プレチーニョ・ダ・セヒーニャ。カルリーニョス・ブラウンの息子で、『Portas』で多くの曲をマリーザと共作した27歳のシコ・ブラウン。新旧の才人が揃ったセレソン級のバンドだ。

 さらに特筆したいポイントが、マリーザの35年のライヴ・キャリアを通じて初めて、3人のホーン・セクションがバンドにいることだ。しかもホーン・アレンジを担当したのが、2019年に快リーダー作『A Pegada Agora É Essa』を発表した若きトロンボーン奏者(ドラマーでもある)、アントニオ・ネヴィス。3管入りの音像が新鮮で、レパートリーもマリーザの歌声もソウル濃度がアップしたことが、このライヴ・アルバムの最大の聴きどころと言える。

 ステージは『Portas』収録曲を中心に進行。マリーザが初めて録音したカルリーニョス・ブラウンの作品「Maria de Verdade」(『Verde Anil Amarelo Cor de Rosa e Carvão(ローズ・アンド・チャコール)』94年より)が懐かしい。ソウルフルな「Ainda Lembro」(『Mais』91年より)を久々に歌ったのは、ホーン隊が入ってバンドのソウル度がアップしたことから選曲したのだろう。

 なお映像には、デビュー・ライヴ盤で歌ったカンデイアの名曲「Preciso Me Encontrar」も収録されている。

 ウルグアイの才人ホルヘ・ドレクスレルと共作した「Vento Saldo」では、ホルヘが声だけ参加のヴァーチャル・デュエット。シコ・ブラウンとの共作「Déjà Vu」「Calma」に続き、映像には「Eu Sei」(『Mais』より)が収録されている。

 マリーザがプレチーニョ・ダ・セヒーニャ、ハシェル・ルースと共作した「Feliz, Alegre e Forte」は『Portas』のCDリリース後にデジタル・リリースした曲だ。

 そしてクライマックスへ。マリーザがプレチーニョと共作したポルテーラ讃歌「Elegante Amanhecer」から、デビュー・ライヴ盤でサンバヘギのリズムに乗って歌ったインペリオ・セハーノ76年のサンバ・エンヘード「Lenda das Sereias」へとメドレーで展開する。ポルテーラもインペリオも本拠地はマドゥレイラ地区でご近所同士。プレチーニョはインペリオのミリン(ジュニアチーム)育ちだ。

 本編のフィナーレは、ブラウン、ナンド・ヘイス(ダヴィ・モライスの前の時代の恋人)と共作した「Na Estrada」(『Verde Anil Amarelo Cor de Rosa e Carvão』94年より)、そしてブラウン作「Magamabalares」(『Barulhinho Bom(Great Noise)』96年 /「97年ブラジル・ディスク大賞」1位より)。ブラウンの名曲を息子シコが演奏しているのもグッとくる。

 このあと、映像に収録された「Vide Gal」がアンコールの1曲目。カルリーニョス・ブラウンが作詞作曲、ダニエラ・メルクリが『Feijão com Arroz』(96年)で録音したリオ讃歌で、マリーザは2020年にデジタル・リリースした『Hotel Tapes(1996)』(『Barulhinho Bom』のホテル・セッション)でブラウンのパーカッションとのデュオで歌った。ここではプレチーニョが6/8拍子で演奏するコンガとの共演で歌う。

 そして『Portas』収録曲の中でSpotify再生回数NO.1、セウ・ジョルジ&フロール父娘と共作した「Pra Melhorar」。明るい未来への希望を歌う曲だ。
 
 映像にはさらに、『Tribalistas』からの大ヒット曲「Já Sei Namorar」と、オーディエンスが大合唱するお約束の「Bem Que Se Quis」も収録されている。

  デジタル・アルバムに収録された「Pra Melhorar」以降の9曲は、先行してデジタル・リリースされたボーナス・トラックで、『Portas』のツアーのセットリストに入っていない曲もある。

 まず、10月末にシングルでリリースした「Doce Vampiro」は故ヒタ・リーの作品で、2023年5月、75歳で世を去ったヒタへのオマージュ。デビュー・ライヴ盤でヒタのムタンチス時代の名曲「Ando Meio Desligado」を歌っていたマリーザにとって、ヒタは尊敬する先輩だっただろう。

 残り8曲は11月下旬にデジタルで先行リリースしたミニ・アルバム『Portas Raras(Ao Vivo)』から。リオ以外の各地でのステージからピックアップした、珍しい(rara=ハラ)なカヴァー曲が中心で、映像には風景やリハーサルの模様も写っている。

 「A Lua e Eu(月と私)」は2021年に77歳で世を去った元祖ブラジリアン・ソウルマン、カシアーノの70年代の名曲で、カシアーノの出身地、北東部パライーバ州でのライヴから。マリーザはカシアーノの91年盤『Cedo ou Tarde』にゲスト参加、タイトル曲をデュエットした。

 ここからは曲順に沿わず紹介する。「Lamento Sertanejo(田舎の嘆き)」はジルベルト・ジルとドミンギーニョスが70年代に共作。「A Vida do Viajante(旅人の人生)」はルイス・ゴンザーガの50年代の名曲。北東部セアラー州生まれのアコーディオン奏者/歌手、ワルドニーズ(Waldonys)をゲストに迎える。『Barulhinho Bom(Great Noise)』のライヴ・パートがよみがえる北東部祭で、北東部でのライヴかと思いきや意外にも(?)、リスボンでのライヴ収録。

  一転して「Felicidade(幸せ)」は南部ヒオグランヂ・ド・スル州生まれの作曲家、ルピシーニオ・ホドリゲスの40年代の名曲。同州の州都ポルトアレグリでのライヴ収録。

 カヴァー曲の中で最大のハイライトが、カエターノ・ヴェローゾの70年代の名曲「O Leãozinho」だ。リスボンでのライヴ収録で、カエターノがこの曲を捧げたダヂのベースを軸とする演奏に乗って、ホルヘ・ドレクスレルとリアルにデュエットする。

 残る2曲がマリーザの自作(共作)。ホドリーゴ・カンペーロと共作した「Pernambucobucolismo」は『Infinito Particular』(「2006年ブラジル・ディスク大賞」2位)から。

  「Seo Zé」はカルリーニョス・ブラウン、ナンド・ヘイスとの共作で、ブラウンがファースト・アルバム『Alfagamaberizado』(「96年ブラジル・ディスク大賞」2位。同関係者投票1位)で歌い、マリーザがゲスト参加した。

  パンデミックの期間を経て再び、音楽家と聴衆がひとつの場を共有できる時代が戻ってきたことの喜びが、マリーザの歌声と表情からも、聴衆の大合唱からも伝わってくる、特別な背景から生まれたライヴ・アルバム。このメンバーによるバンドでの、マリーザの通算4度目の来日公演の実現を、心の底から祈りたい。

(ラティーナ2024年1月)







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