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[2021.04]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2021年4月|20位→1位まで【無料記事 聴きながら読めまっせ!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。

  20位から1位まで一気に紹介します!

※レーベル名の後の()は、先月の順位です。

「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Transglobal Underground · A Gathering of Strangers 2021

レーベル:Mule 20 (12)

 トランス・グローバル・アンダーグラウンド(以下TGU)は90年代にイギリスで結成されたユニット。インド、アフリカ、中近東などをはじめとするワールド・ミュージックのエッセンスに、ダブ、ブレイク・ビーツなどの現在進行形のダンス・ビートを融合させたオリジナリティ溢れる作品を、国際色豊かなメンバー構成で発表してきた。
 10年以上前、TGUメンバーのHamid MantuとTim Whelanが、ヨーロッパ大陸内外の移民や移民の歌を見つけるために、プロジェクト「U.N.I.T.E.(Urban Native Integrated Traditions Of Europe)」を立ち上げた。多くの協力者を集めるべく、ヨーロッパ中を旅し、プラハ、ブダペスト、ソフィアを中心に各地で音楽のコラボレーションを行った。その結果として、2010年にアルバム『A Gathering of Strangers』(U.N.I.T.E. 名義)を発表。ヨーロッパの不確かな過去を見つめ、それが不確かな未来へと移行していく様子を表現した作品となった。
 本作品は、コロナ禍で世界的に不確かな未来の真っ只中にある今、そのプロジェクトを再構築し、過去に国境を越えなければならなかった人々から今日も国境を越え続ける人々へのオマージュとして、トラックをリミックスし、全体をリマスタリングしたもの。
 アラブ風、クラブミュージック、アイリッシュ…、音楽のジャンルは何かはっきりとは言えない。すなわち国境が無いということをこのアルバムをもって感じることができる。ヨーロッパ全土が幻想的で独創的であることを、改めて見事に表現した一枚である。ずっと聴いていてもまた聴きたくなる、クセになる一枚だ。

19位 Anansy Cissé · Anoura

レーベル:Riverboat / World Music Network (10)

 マリ出身のギタリスト、アナンシー・シセのセカンドアルバム。1stアルバムから7年ぶりのリリースとなる。2017年初頭からこのアルバムの制作に取り組み、4年の歳月をかけて完成した。アルバムタイトルの「Anoura」とは「光」を意味する。
 2018年、故郷で開催された平和の祭典に招かれていたが、彼とバンドメンバーが武装グループに襲われ、楽器や機材を壊されたという事件があった。この衝撃的な事件で、彼のミュージシャンとしての人生観が変わってしまい、それ以来自宅のスタジオに引きこもる仕事ばかりを行なっていた。しかし、子供の誕生により、彼の創作意欲は再燃した。マリの深刻化する政治的危機に焦点を当てるのではなく、彼が経験してきたこと、そして彼の心に近いテーマにも焦点を当てるようになった。アルバムに収録されている「貧困」と訳される「Talka」や、「教育」を意味する「Tiawo」などの曲では、すべての子供たちが学校に通い、機会を得られるようにする必要性を強調しておりメッセージ性の高いものとなっている。
 このアルバムでは、全てナイル・サハラ語派に属するソンガイ語で歌い、伝統的なリズムや楽器と、現代的なサウンド、魅惑的なギターのリフとソロをミックスし、“砂漠のブルース”を見事に表現している。
 世界的なコロナウイルスの流行により悪化したマリでの長年の紛争と暴力に加えて、現在も政権は不安定だが、彼は故郷のマリが生まれ変わり安全になることを願って、新しい世代の若いマリ人たちにポジティブなメッセージを伝えている。喜びと希望に満ちており、まさにタイトル通り「光」を感じさせるアルバムだ。

↓国内盤あり〼。

18位 Altın Gün · Yol

レーベル:Glitterbeat (5)

 オランダ/トルコ混成グループ、アルトゥン・ギュンの最新作!
 2019年に発表した前作『ゲジェ〜夜』が大注目され、2020年のフジロックにも参加予定だったが、残念ながらコロナにより中止となった。さらに人気テレビ番組「アメトーーク」(テレビ朝日)の“夏フェス芸人”でハライチの澤部が大きく紹介し、SNS上でもかなり話題となっていたアーティストである。
 クラフトワーク系のレトロ・エレクトロ・ユニット〈Asa Moto〉がプロデュースに参加した本作は、トルコ民謡の重要なレパートリーを、これまでのサイケ・ロック風味溢れるアレンジだけでなく、80年代風シンセ・ポップのテイストも加えて、前作以上に素晴らしい内容に仕上がっている。トルコの伝統を若い世代にも分かり易く紹介してくれる、何とも完成度の高い1枚だ!やはり期待されていたのだろう、2月リリースで3月のランキングでいきなり5位!今後のランキングの行方にも注目したい。

↓国内盤あり〼。

17位 Katerina Papadopoulou & Anastatica · Anástasis

レーベル:Saphrane (-)

 ギリシャでは数少ない、伝統的な歌の巨匠たちの芸術を今も受け継いでいる歌手の一人であるカテリーナ・パパドプールの新作。アルバムタイトルの「Anástasis」はギリシャ語で「復活」を意味する。
 彼女は、様々なボーカルスタイルを自在に操り、独自のボーカルと音楽表現でそれらを融合させていることで評価されている。また、ギリシャの伝統音楽分野の著名な巨匠や、国際的に活躍している音楽家たち、スペインのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者/指揮者のジョルディ・サヴァールや、ヨーロッパのバロックグループ「L' Arpeggiata」ともコラボレーションしている。また歌うだけでなく、ヨーロッパでギリシャ語の歌唱セミナーを開催したり、ギリシャアテネ国立カポディストリア大学の大学院で、ギリシャの伝統的な歌とレパートリーを教えてもいる。才媛!
 このアルバムは、2020年3月にアテネ(ギリシャ)のバウムシュトラーセ劇場で行われたライブ録音である。ギリシャの音楽がどのように旅し、変化し、そして生き続けるかを表現している。彼女の歌声を引き立たせるのは一流音楽家によるアンサンブル。エーゲ海のリラ、クレタ島のリラ、カーヌーン、ウードなどの伝統楽器を使っている。エーゲ海、トラキア(バルカン半島南東部)、マケドニア、ポントス(黒海南岸)、南イタリアなどの歌や曲が収録されており、かつてギリシャ人が定住していた地域や時代に我々を連れていってくれるアルバムだ。

16位 L’Alba · À principio

レーベル:Buda Musique (11)

 フランス領コルシカ島の男性6人組ユニット、L'Alba(ラルバ)の最新作。2005年にメジャーデビュー以来、5枚目のアルバムとなる。アルバムタイトル「À principiu」はコルシカ語で「初めに」を意味する。
 コルシカ島伝統の音楽を尊重しつつも、3部構成のポリフォニー・コーラスと、インドの楽器ハルモニウムや地中海地方の弦楽器サズを使うなどして、伝統を進化させるべく新たな音の融合に挑戦している。
 一見すると男臭いが、彼らの美しい歌声と多彩な楽器の音色が心に響く。
北アフリカから東地中海まで、伝統的なものから現代的なものまで、様々な時代や地域を訪れることができるような印象。ポジティブなエネルギーを持った芸術的な作品である。

15位 Sakili · Creole Sounds from the Indian Ocean

レーベル:ARC Music (-)

 Sakiliは、インド洋に浮かぶモーリシャス領ロドリゲス島出身の3人組バンド。カボシー(マダガスカルの弦楽器)、大きなフレームドラム、コンパクトサイズのアコーディオンによるトリオ。
 彼らの音楽は、ヨーロッパとアフリカの影響を受けたロドリゲス島の歴史を反映している。17世紀から19世紀にかけて、アフリカやマダガスカルから、意に反してモーリシャスやロドリゲス島に奴隷として連れて来られ、この地で徐々に自分たちのアイデンティティを確立していった。奴隷とともに渡ってきたアフリカのリズムと、ポルカ、ワルツ、マズルカなどのヨーロッパの植民地のリズムが混ざり合い、この地の伝統的なリズムである“セガ”が生まれた。アフリカの奴隷たちの過去の音楽的伝統と西洋の世界とが、クレオールのサウンドとして彼らの活気ある演奏の中で融合している。とても心地よいアルバムだ。

14位 Dom La Nena · Tempo

 レーベル:Six Degrees (-)

 チェロを弾きながら囁くように歌う姿が動画サイトでも注目されてきた才女ドン・ラ・ネナ(Dom La Nena)。本名はドミニキ・ピント(Dominique Pinto)で、ブラジルの南部のポルトアレグリで生まれのブラジル人。
 研究者の父の仕事の関係で8才の時にパリに移住し、そこでチェロを学び始め、10才でチェリストになりたいと強く思った。その1年後、家族でブラジルに戻ることになるが、ブラジルでは、彼女が学びたいと思う学校が見つからず、当時アルゼンチン、ブエノスアイレスに住んでいた、米国人チェリストChristine Walevskaに師事するために単身、ブエノスアイレスに移り住んだ。ブエノスアイレスで5年間学んだ。
 チェロを習得した彼女は、パリで音楽活動をすることを選択し、ジェーン・バーキンやジャンヌ・モローらのコンサートツアーでチェロを担当し、キャリアを重ねた。
 2013年のアルバム『Ela』で、ソロデビュー。本作『Tempo』は、2015年『Soyo』に続く3作目のアルバムで、これまでの同様、本作でも多くの楽曲は母語のポルトガル語よりも音楽的な影響の大きいスペイン語で歌われている。Tr6では、メキシコ出身の歌姫フリエタ・ヴェネガスとのデュエットも。6年ぶりのアルバムとなるが、前作と本作の間で出産を経験している。
本作は、初のセルフ・プロデュース作。より人生の深いテーマを扱い、電子楽器も取り入れ、「チェロがチェロじゃないように聞こえる」ような実験もたくさん行っている。「チェロ」と「声」に愛される複雑なルーツを持つ才女によるチェンバー・ポップは、世界に開かれている。

13位 Mariza · Mariza Canta Amália

レーベル:Taberna da Música / Warner Music Portugal (6)

 20年のキャリアを持ち、今作で8作目。アフリカの旧ポルトガル領モサンビークに生まれ、幼い時にポルトガルに移り住んできたマリーザ(Mariza)は、伝統と洗練を両立し、揺るぎない人気を確立してきた。20年のキャリアの節目に彼女が取り上げるのは、ファド愛好家にとっては避けて通れない偉大な存在「アマリア・ロドリゲス」が歌ったヒット曲群 ──『Mariza Canta Amália(マリーザ、アマリアを歌う)』は、タイトルにも明らかなようにアルバム全体がアマリア・ロドリゲスに捧げられている。
 この大きな挑戦の共作者に、アマリアは、ブラジル人音楽家/編曲家のジャキス・モレレンバウムを選んだ。ジャキスとは、彼女のこれまでのキャリアのハイライトの1つでもある2005年のアルバム『Transparente』でも共演していた。アルバムは、2019年の12月〜2020年2月に、リオで録音された。「バンド編成+管弦楽」という大きな編成だが、ポルトガル・ギター奏者以外は、ブラジル人音楽家が占めているいるようだ。例えば、ピアノは、クリストーヴァォン・バストス、ギターはルーラ・ガルヴァォン、ドラムはハファエル・バラータといった、超の付く一流メンバーで固められている。その演奏をバックに堂々たる歌声で、マイーザは、アマリアの名曲にとっても新鮮な息吹を吹き込んでいる。過度にファドな親密さや伝統にこだわらない自由な展開。しかしながら、ポルトガル・ギターの響きやマイーザの歌声は、ファドが生まれた古い町並みであるリスボンのアルファマ地区の中心部に、聴くものを確かに運んでくれる。

12位 David Walters, Vincent Ségal, Ballaké Sissoko, Roger Raspail · Nocturne

レーベル:Heavenly Sweetness / Six Degrees (3)

 アフロ・カリビアンにルーツを持つフランス人コンポーザー/ギタリスト/ヴォーカリストのデヴィッド・ウォルターズの最新作。マリを代表するコラ奏者バラケ・シソコ、フランス出身のチェロ奏者ヴァンサン・セガール、40年のキャリアがあり、コンゴのファンクやサヘルのヌワ音楽、ジャズなど様々なジャンルで活躍しているグアドループ(フランスの海外県)のパーカッショニスト、ロジェール・ラスパイユとのコラボ作品となっている。
 彼のルーツの一つでもあるマルティニークのクレオール語をベースにした革新的なフォークソングである「Papa Kossa」から始まるこのアルバム。マノ・ネグラを思わせるようであり、でも彼ら独自で確立したものである。アルバムの多くはマルティニークのクレオール語で歌われている。
 デヴィッドの柔らく繊細なファルセット、それと相対するラップ、そこに哀愁漂うチェロ、連動する魅惑的なパーカッション、そしてコラの美しい音色が重なると、魂を揺さぶられるものがある。とても美しいアコースティックのアルバムだ。
 デヴィッド前作品に収録された「Mama」が新たなバージョンで収録されていることも注目したい。彼の祖母へのオマージュだが、アフロカリビアンの女性全員へのオマージュでもある。多様性の中で生きた彼だからこそ伝えるべきメッセージがこのアルバムに込められているようだ。

11位 V.A. · Zanzibara 10: First Modern, Taarab Vibes from Mombasa & Tanga, 1970-1990

レーベル:Buda Musique (4)

 ザンジバル(現在のタンザニア連合共和国)で生まれ、東アフリカのスワヒリ文化圏一帯の大衆音楽であるターラブ。他のアフリカ音楽とはかなり異なるテイストを持ったこの音楽は、東アフリカ沿岸のスワヒリ文化に花開き、ペルシャやインドの諸言語、またポルトガル語など交易を行なっている国・地域の言語の語彙なども取り入れられて発展し、様々な文化が混じりあって生み出された混血音楽とされている。そんな多彩なサウンドを持つターラブの魅力を存分に感じさせてくれるBuda Musiqueレーベルの人気シリーズ “Zanzibara” の最新作。本作で10作目となる。
 ケニアのモンバサと、タンザニアのタンガにおいて1970年代初頭からの20年間に登場したポップなテイストを持つターラブを様々な角度から紹介した編集盤。タンガのシーンで活躍した女性歌手シャキーラをはじめ、モンバサのマタノ・ジューマやズフラ・スワーレーといった歌手らの70年代音源のほか、80年代にシーンを席巻した女性歌手マリカやンワナヘラまで、この地域でもっともポップ・ターラブが盛り上がりを見せた時代をダイジェストに紹介している。アフリカ〜アラブ〜インド洋のテイストが絶妙に入り混じった上に、欧米音楽からの影響が加味され独自の混血サウンドを作り出した時代の勢いが凝縮されており、まさにワールド・ミュージック・ファンの食指が動く内容である。これは見逃せない一枚だ!

10位 Urban Village · Udondolo

レーベル:Nø Førmat! (22)

 南アフリカ出身の4人組ユニット、アーバン・ヴィレッジのデビューアルバム。パリのレーベル「Nø Førmat!」からリリース。
 アパルトヘイト政策によって迫害されたアフリカ系住民の象徴の地も言えるソウェト出身の4人。アパルトヘイト時代の最後の年に生まれた彼らは、ソウェトに同化した文化、音楽、儀式などとの融合を意識している。ギタリストのLerato Lichabaは、労働者の家の周りで、ズールー族のミュージシャンと彼らの特別なスタイルを耳にしたのがきっかけで、近所の人たちを観察したり、話を聞いたりするようになった。これにより彼らのサウンドは新しいものへと変化していった。
 民族楽器のムビラとフルートから始まるオープニング曲は、ムビラとズールー族のハーモニーがとても美しく、彼らが受けた影響を明らかに理解することができる。また、上記動画の「Dindi」(Dindi=肌の色が黒い人たちを表す口語的な言葉)は、生まれつきの肌に誇りを持つべきだというメッセージを伝えていたり、「Ubusuku」は、1976年に起きたソウェトの暴動と、小学生が殺害されたことを追悼している。
 アルバム全体としては、民族音楽、ズールー語のロック、コーサ語のファンクなどを融合させ、彼らの住む地域で鳴り響くソウルフルなヴォーカルを重ね合わせている。一貫性、強さ、そしてアイデンティティがあり、90年代に南アフリカがアパルトヘイトから解放された時期を生きてきた彼らだからこそ表現できる音楽と言えるだろう。これからの活躍が期待できるグループだ!

9位 Femi Kuti & Made Kuti · Legacy + 

レーベル:Partisan (39)

 アフロビートを生み出した伝説のミュージシャン、フェラ・クティの息子であるフェミ・クティと、フェミの息子(フェラ・クティの孫)メイド・クティのアルバム・プロジェクト。フェミのアルバム『Stop The Hate』とメイドのデビューアルバム『For(e)ward』の2枚組とし『LEGACY +』としてリリース。
 フェラ・クティは自らの音楽で、故郷のナイジェリアの社会的不正や政治的腐敗を憂いてきた。ナイジェリア国内はもとより全世界にも影響を与えたが、息子のフェミとその息子のメイドにも受け継がれている。
 それはフェミの長年のキャリアを通して、さらに独自のものに変化しており、疾走感あるビートと社会的メッセージ性が込められた音楽は今回のアルバムでも存分に表現されている。
 そして今回がデビュー作品となるメイドのアルバムが、これまた良い!ヴォーカル、リズム・セクション、サックスなどほぼすべてのパートを彼自身で演奏しているそう(すごい才能!)。グルーヴ感は現代的だが、ベースには受け継がれてきたサウンドが感じられる。まさに三代にわたって繋いできた「レガシー」をさらにその先に繋いでいくアルバムとなっている。

8位 Antonis Antoniou · Kkismettin

レーベル:Ajabu! (-)

 キプロスの人気バンド、Monsieur DoumaniとTrio Tekkeのメンバーであるアントニス・アントニウの初めてのソロアルバム。
 アルバムタイトル「Kkismettin」は運命や宿命という意味である。紛争で分断されたキプロス島の二つのコミュニティに対し、この苦しい状況を島の運命として受け入れることはできないという政治的なメッセージを込めて作られた。またこのアルバムは、コロナでロックダウン中に制作され、分断されたこの国では、移動の自由やその他の基本的な自由が制限されていることを思い知らされたという。
 アントニウは、母国語であるギリシャ・キプロス語で、クラシック音楽からジャズ、ロック、伝統音楽、実験音楽、サウンドアートまで、サウンドスケープとテクスチャーを融合させている。キプロスの主要な伝統楽器のひとつであるリュートの中近東風のメロディーが、アナログシンセサイザーのグライドやエッジの効いたギターリフと共鳴し、境界線を押し広げ、独特の現代音楽のモザイクを形成している。分断された都市ニコシアの検問所の樽が、文字通り楽器となり、リズムの基盤となり、錆びたような陰鬱な雰囲気を醸し出している。
 今後、この分断の象徴とも言える樽が、解体される“運命”になることを願いたい。

7位 Jupiter & Okwess · Na Kozonga

レーベル:Zamora Label (-)

 2017年リリースのアルバム『KIN SONIC』が大好評だった、コンゴのバンド、ジュピター&オクウェスの最新作。
 これまでのバンドの旅の成果とも言える作品で、世界で出会ったアーティストたちとのコラボレーションが収められている。ニューオリンズのプリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド(Preservation Hall Jazz Band)、アメリカのシンガー、マイヤ・サイクス、ラティーナとしては、ブラジル人アーティスト、ホジェー(Rogê)、Marcelo D2、チリのヒップホップ・アーティスト、アナ・ティジュ(Ana Tijoux)が気になるところ。(上記動画はアナとのコラボ曲でキレッキレ!最高!)それぞれのアーティストのカラーになりつつも、彼らのバンドのサウンドは根底にあるのがすごい。
 アルバム名にもなっている「Na Kozonga」とは、コンゴの言語であるリンガラ語で「帰還」という意味で、同タイトルの曲は、先日亡くなったバンドリーダーのジュピター・ボコンジの父親に捧げられたものである。ミュージックビデオ(上記動画二つ目)が面白い!

6位 Hossein Alizadeh & Rembrandt Frerichs Trio · Same Self, Same Silence

レーベル:Just Listen (9)

 イランのペルシャ音楽巨匠ホセイン・アリザデと、オランダのピアニスト、レンブラント・フレリヒスのトリオとのコラボレーション作品。
 録音は古代の教会の中で行われ、ペルシャの旋律と東洋の音階がジャズの響きと混ざり合い、歴史や地理を超えた世界観を表現している。
 アリザデはペルシャのリュートの第一人者であり、この作品で弾いている聴けるシュランギス(shourangiz)は、タールとシタールを参考に彼が独自に開発した楽器である。レンブラントはアンティークのハルモニウムを、コントラバス奏者のトニー・オーバーウォーターは古典楽器のヴィオローネを演奏するなど、ペルシャ音楽の音色とリズムとバロック時代の楽器の融合を見事に作り上げている。
 曲は彼らオリジナルのもので、アリザデがイランの隅々まで旅をして、伝統的な民謡のメロディーを見つけては楽譜を書いていたものがベースとなっている。これらのメロディーと即興を組み合わせて4人で作成していった。「私たちが演奏を始めるとき、私たちは彫刻家になってステージ上で形を作り、少しずつ彫刻を彫っていくのです」とアリザデは言う。通訳がいないと言葉でのコミュニケーションは難しかったそうだが、まさに音楽が共通言語になっていると言えよう。
 アルバムタイトルは、イランの有名な詩から引用されているとのこと。それは音楽がもたらす共通の理解、文化、時代、言語の間の溝を埋め、人々を調和の中で一緒にすることを語っているように思える。

5位 San Salvador · La Grande Folie

レーベル:La Grande Folie / Pagans / MDC (-)

 南フランスの小さな村サン・サルヴァドール出身である男女6人編成ユニットのデビュー作。彼らは、兄弟、友人同士で、子供の頃から一緒に歌っていたそう。だからこそのチームワークというか、阿吽の呼吸みたいなものが作品から感じられる。
 彼らが住む地方の民族音楽を、6人の声、2つのドラム、1つのタンバリン、そして力強い手拍子により、彼ら独自の音楽として生み出している。シンプルで、美しく、繊細、パワフルでもあり、そしてシャーマニックでもある。何しろ圧倒的なエネルギーを感じる。
 歌っている言葉は、フランス南部で使われているオック語(他にもイタリア・ピエモンテ州の一部やスペインのカタルーニャ州の一部でも話されている)。中世の頃から使われている言語なのだが、地方言語が弾圧され現在窮地に立たされており、若い世代にどうやって継承するかが問題となっている。その言語をあえて使うということが、エネルギーとして歌に表現されている気がする。6人によるポリフォニーが素晴らしい、エネルギッシュな作品だ。

4位 Ballake Sissoko · Djourou

レーベル:Nø Førmat! (-)

 マリの作曲家/コラ奏者であり名手である、バラケ・シソコのニューアルバム。今回はソロ作品だが、何人かのアーティストをゲストに迎えコラボレーションしている。ゲストは、デュオアルバムもリリースしている盟友のヴァンサン・セガールを筆頭に、マリの巨匠サリフ・ケイタ、フランス人歌手のカミーユ、アフリカ系イギリス人でコラ奏者のソナ・ジョバルテ、フランス人MCのオキシモ・プッチーノなど。コラの音色とゲストによる音(声だったり楽器だったり)の融合が素晴らしく、心に沁み渡る優しい作品。もちろん、ソロでの曲も素晴らしいことは言うまでもない。
 アルバム名の「Djourou」は、マリで話されている言語であるバンバラ語で「糸」という意味。バラケ自身とゲストや、リスナーたちと音楽の糸で繋がっているということを表している。まさに、このアルバムに織り込まれている糸を、聴くことによって感じられる名盤である。

3位 Christine Salem · Mersi

レーベル:Blue Fanal (-)

 インド洋上、マダガスカル島東方にある、フランス海外県のレユニオン出身で、島の伝統音楽「マロヤ」を歌う代表的な存在であるクリスティーヌ・サレムの新作。6年ぶり7枚目のアルバムとなる。
 「マロヤ」は「セガ」と共にレユニオンの伝統音楽で、伝統的な打楽器と弓による伴奏、レユニオン・クレオール語で歌われる。1980年頃まで禁止されていたが、それを復活させた歌手でもあるのがクリスティーヌだ。
 アフロヘアに青い口紅と、とってもインパクトのあるジャケット(でも好き!)で、前方を見据えている瞳の強さにとても惹かれる。その強さが作品に表れているとも言えるだろう。シブい低音ボイスで、マロヤ、ブルースやロックなど多彩なサウンドとなっている。
 上記動画の「Tyinbo」は、DVの被害者である女性を支援するメッセージが込められており、彼女が幼少期に住んでいた街、サン=ドニで撮影されたもの。登場する女性たちの眼差し、馬に跨ったクリスティーヌを先頭に行進する姿はとても美しく、かつ強さを感じる。
 アルバム最後の曲でタイトル名にもなっている「Mersi」は、アカペラでマロヤの祈りを唱えており、彼女の重低音ボイスが、島の人々の鼓動や優しさを伝えているかのよう。しなやかな強さとマロヤに対する愛が込められた名盤だ。

2位 Omar Sosa · An East African Journey

レーベル:Otá (1)

 ジャズとアフロ・キューバンを軸に、アフリカ音楽やヒップホップを取り入れ活躍しているピアノ奏者/作曲家、オマール・ソーサの最新作。
 2008年の傑作『アフリーカノス』の発表後、2009年に東アフリカ7カ国でのツアーを行なった。同時に、各地で伝統音楽のミュージシャン達と出会い、録音(フィールドレコーディング)も行なっていた。今回のアルバムは、その録音にアコースティックピアノ、パーカッション、キーボードベース、ハープを微妙に追加し、編曲してできた作品。2010年のドキュメンタリー映画「Souvenirs d'Afrique」の中で、オマールは実際にこのプロジェクトを完成させるには10年かかるかもしれないと予測していたが、2016年から本格的に取り組みようやく出来上がった作品だ。
 オマールがツアーで訪れた多くの国の伝統的な音と、ジャズや西洋のクラシック音楽の微妙なタッチを絶妙に組み合わせた、「これぞワールドミュージック!」というべき作品が生まれた。

1位 Warsaw Village Band / Kapela ze Wsi Warszawa

レーベル:Waterduction / Uwodzenie · Karrot Kommando (2)

 2018年に日本でもリリースしたアルバム『Mazovian Roots』が大好評で注目を集めたポーランドの若手ミクスチャー・バンド、ワルシャワ・ヴィレッジ・バンドの最新作。先月は2位でしたが、今月は堂々1位に!
 首都ワルシャワにて1997年に結成された彼らはポーランドを中心とした中欧の伝統音楽を、若い感性で現代化させた。ポーランドに生まれた古い弦楽器スカやポリフォニックなヴォーカル・スタイルなどを駆使し、伝統と現代の融合を図るミステリアスなサウンドを展開している。
 最新作のキーワードは「川」と「水」。アルバムジャケットも川を思わせるデザインとなっている。故郷ポーランドのヴィスワ川、その両岸に広がるワルシャワ近くの民族的に微小地域のウルゼッツェからも作品のインスピレーションを得ている。バンドのヴァイオリニスト兼歌手であるシルヴィアは「支流のある川は血流の一部であり、現代都市の憩いの場でもある。音楽でそれを捉えたかった」と語っている。筏によってマゾヴィア(ポーランド北東北部の歴史的な地域)にポーランドや世界との接触の機会を与えた。それは自由、近代性、独立性の息吹をもたらし、活気に満ちた文化的モザイクを作り出した。その様子がこのアルバムでは見事に表現されている。
 タイトル曲「Waterduction」では、ポーランド南部の都市クラクフ出身の詩人であり音楽家でもあるMarcin Świetlickiとのコラボレーションが実現した。彼は実際にヴィスワ川を筏で下り、魅力的なスポークン・ワードと詩でバンドをサポートしている。

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(ラティーナ2021年4月)


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