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世界の音楽情報誌「ラティーナ」

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#タンゴ

[2025.1]Best Albums 2024 ④

2024年のベストアルバムを選んでいただきました!第二弾です。 (カタカナ表記のものは国内盤として発売されています) ●清川宏樹 もちろん音楽に技術や質が大切なのは言うまでもない。だが結局の所、リスナーは文脈や物語性を排して音楽を聴くことはできないし、聴覚を通して表現者の人生観や独自性に触れることを望み、それを喜びとする。いかなる情報・記録へのアクセスも容易になった今、技術の保存だけではもはや音楽は残らない。音楽に新たな価値を与え、その枠組みを押し広げる人こそが、これからの

[2024.11]【タンゴ界隈そぞろ歩き⑲】《タンゴ・ロマンサ》はタンゴの《無言歌》なのか?

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura アルゼンチンタンゴには《タンゴ・ロマンサ (tango romanza)》と呼ばれる形式がある。1920年代以降に作られたロマンティックな楽曲を指し、日本では《タンゴの無言歌》と訳されたりもする。 最初にタンゴ・ロマンサという形式名が使われたのは、1924年(ちょうど100年前!)にエンリケ・デルフィーノが作曲し、ホセ・ゴンサレス・カスティージョが作詞した「グリセータ(Griseta)」だった。グリセー

[2024.11]デビュー25周年公演を控えた小松亮太にインタビュー 〜タンゴという音楽が無くなるかもしれない危機感〜

インタビュー・文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura  昨年より続くメジャーデビュー25周年記念の締めくくりとして12月にオルケスタ・ティピカ公演を行う小松亮太氏に話を聞いた。公演に向けての想いや意気込みを語ってもらうつもりだったのだが、蓋を開けてみれば彼の口から出てくるのはタンゴの置かれた現状への強烈な危機感と、今後に向けた焦燥感、そして見出した一縷の希望。おそらくラティーナ以外では読めないであろう彼の言葉を、ぜひ受け止めていただきたい。 (

[2024.10]【タンゴ界隈そぞろ歩き⑱】札幌でタンゴ三昧〜Sapporo Tango Festival〜

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura 今回はいつもと目先を変えて、リアルなそぞろ歩きの記録など書いてみようと思う。歩いたのは北海道札幌市。素敵なフェスティバルに参加してきた。 同窓会で帰札の予定が札幌は私が幼児期から大学受験浪人生までの期間を過ごした地である。10月19日(土)に出身高校の同窓会総会・懇親会が開催されるので、それに合わせて帰札を予定していたのだが、それと重なる10月18日(金)〜20日(日)に Sapporo Tango F

[2024.9]【タンゴ界隈そぞろ歩き⑰】現代タンゴを作ったのはピアソラだけではないのだ

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura 前回の記事の結びで と書いた。 では実際にどのような人が現代タンゴを創ってきたのかについて、今回は書いてみたい。とはいえ、そこはあくまでそぞろ歩き。筆者が個人的に気になる人を紹介する程度にとどめたい。年代的にも今回は1960年代頃までに登場した人に限ることにする。 ピアソラのその後他の人の話に入る前にまずはアストル・ピアソラ(1921-1992)。前回の記事で1955年にパリ留学から帰国してスタート

[2024.9]新しいモビスター・アレーナでの感動の再始動!!!アジア勢も大活躍!!!新チャンピオン決定!!!

レポート●本田 健治  今年のタンゴダンス世界選手権は、なかなかファイナルの場所も発表されず、今まで準決勝までやっていた USINA DEL ARTE で、小さく行われてしまうのか、と案じていたが、日本出発の直前になって凄いニュースが飛び込んできた。巨匠プグリエーセの出身地、ブエノスアイレス、ビジャ・クレスポ地区のモビスター・アレーナ・スタジアムで開催と発表があった。  世界の大都市に見るスーパー・アリーナ並、最大16,000人収容のまだ完成4,5年の新しい会場だ。クラブ

[2024.8]【タンゴ界隈そぞろ歩き⑯】タンゴはピアソラと古典タンゴでできている…のか??

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura 個人的に最近時々気になっているのが、ライブやコンサートなどで演奏者が「今日はピアソラだけでなく古典タンゴも演奏しますよ!」などと言うケースがあること。あるいはリスナーの方で「ピアソラばかりじゃなく古典タンゴも聴きますよ」とか。話し手の認識では、タンゴは《ピアソラ(の現代タンゴ)》と《古典タンゴ》に二分されるのだろう。 いえ、気持ちはわかるのですよ。確かにピアソラ以前と以後でタンゴは変わった。でもちょっと

[2024.7]アルゼンチンギター音楽の新たな指標〜カルロス・モスカルディーニ 25年ぶりに来日、初のソロツアー開催!

文:森井ヒデ 近年、アルゼンチンはギター音楽を中心とした新たな音楽的スタンダードを確立しつつあるように思える。ソロギターでは、フアン・ファルーは未だ衰え知らずの活動を行ない、キケ・シネシ、リカルド・モヤーノ、ギジェルモ・リソットらの音楽は日本に浸透してきている。すこし範囲を広げると、ACA SECA TRIOのヴォーカルであるフアン・キンテーロがギターの名手でもあるのは周知の事実だし、カルロス・アギーレは近年ギター5重奏団のアルバムをリリースした。 しかし上記に挙げたギタ

[2024.6]【タンゴ界隈そぞろ歩き⑮】G7サミット開催記念、プーリアゆかりのタンゴ人

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura 6月13日~15日にイタリアのプーリアでG7サミットが開催されたことは皆様ご存じかと思う。プーリア (Puglia) というのはイタリア南部の州の一つで、イタリアをブーツになぞらえるとかかとの部分に相当する地域である。平地が多くイタリアの穀倉地帯に相当し、ワインの生産も盛んだ。州都はバーリ。 ミラノの人をミラネーゼと言うように、プーリアの人を表す言葉はプーリエーゼで、puglieseと綴る。これをスペイ

[2024.5]【タンゴ界隈そぞろ歩き⑭】66年越しのプロローグ

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura 恐れのない動き現代のジャズ・シーンを牽引する人物の一人、サックス奏者のカマシ・ワシントンは今月 (2024年5月)、アルバム『Fearless Movement』をリリースした。娘が生まれたことで得た喜びやインスピレーション、自身の人生観の変化などが反映された、従来の彼の作品よりもオープンで親しみやすい印象のアルバムだ。アルバムのタイトルについて、彼はこう語る。 CD2枚にわたる充実した楽曲群のラストに

[2024.5]これが噂のイスタンブール・タンゴ・フェスティバル!

文と写真●なかやまたけし texto por Takeshi Nakayama         東京での1週間のツアーを終え、羽田空港でTango Bardoのメンバーを見送ったあと、僕は物凄い虚無感に襲われていた。今までも幾度かイベントを企画してきたが、こんなことは初めてだった。ツアーは成功だったように思う。しかし、はっきりと自分の中での限界を感じてしまったのだ。  それから2ヶ月が過ぎた頃、SNSでイスタンブールのタンゴフェスティバルの投稿を読んだ。ゲストダンサーはいま

[2024.4]【連載タンゴ界隈そぞろ歩き ⑬】バンドネオン・バリアシオンのあれこれ

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura 今回取り上げるのはタンゴの演奏の中でも最も華やかな要素の一つ、バンドネオン・バリアシオン。今回も思いつくままにふらふらと歩き回ってみようと思う。 そもそもバリアシオンって何?タンゴが好きな方にとっては説明など不要かもしれないが、まずは認識をそろえておこう。いろいろ語るより実際に見聞きしていただくのが一番早い、ということで、華麗なバンドネオン・バリアシオンが付いている演奏の定番、アニバル・トロイロ楽団の

[2024.3]【連載タンゴ界隈そぞろ歩き ⑫】タンゴからタンゴを取ったらどうなる?

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura タンゴがタンゴであるために最も重要なものは何だろうか。大半の人は「リズムだ」と答えるのではないかと思う。歯切れの良いスタッカートで刻まれるリズム、一小節の中で伸縮しながらも一定のテンポを保って進行する粘りのあるリズム、低音部の動きのグルーヴ感を伴うリズム、3-3-2のリズム、など色々なスタイルはありつつも、このリズムがタンゴの要と言って差し支えないだろう。では、タンゴからそのようなタンゴのリズムを取り去っ

[2024.2]【連載タンゴ界隈そぞろ歩き ⑪】酔っぱらいとクルド人とカボチャとロマ

文●吉村 俊司 Texto por Shunji Yoshimura 2023年11月の本連載でタンゴと酒の関係について取り上げたが、その中で紹介した "De puro curda", "La última curda", "El curdela", "Duelo curda" といった曲のタイトルに含まれる "curda" という語 ("curdela" は派生語) が今回のテーマである。 「酔い」「酔っぱらい」を意味するこの言葉、語源が「クルド人」だ、という説を聞いた