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[2022.8] 【連載 シコ・ブアルキの作品との出会い㉜】お家芸サッカーの名選手に捧ぐ - 《O futebol》

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

 中村安志氏の好評連載「シコ・ブアルキの作品との出会い」と「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い」とは、基本的に毎週交互に掲載しています。今回は、じつは熱狂的なサッカー・ファンでもあるシコ・ブアルキのサッカーに関する曲の登場です。ブラジルでは、アーティストでサッカーの大ファンでという人は数多いのです。
 これも、外交官として長くブラジルに滞在した中村氏だから書けるエピソードです。お楽しみ下さい。

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 今回は、サッカーを題材に作られた、シコの楽しい歌、「O futebol(1989年作)」をご紹介します。

 ブラジルといえば、世界に誇る数々の天才プレイヤーを生み出し、ワールドカップでも通算5度の優勝を果たしたサッカーは、伝統あるお家芸。そんなこの国では、ポップソングの歌詞にも、古くからサッカー(futebol)という言葉やそれをめぐる人物名などが、よく登場します。

↑「ノエル・ローザが歌う名曲『酒場のおしゃべり』」

 例えば、1920年代から活躍し、短命で他界したものの伝説的存在となっているリオの伝説的シンガーソングライター、ノエル・ローザが残した名作「酒場でのおしゃべり(Conversa no botequim)」という歌(1935年作)の一部を覗いてみましょう。

 おい、ボーイさん、頼むから早く持ってきて/温め直したやつじゃないコーヒーをね/熱いパンにバターをたっぷり添えて/ナプキン、それと、きりりと冷たいお水もね/右側のドア閉める時は気をつけて/僕は陽の光に当たる準備はできていない/隣の常連さんに聞いてみて/サッカーの試合結果どうだったのか

75歳となった2019年、元気にサッカーに興じるシコ・ブアルキ

 リオ生まれのシコは、熱狂的なサッカーファン。「サッカーをプレーするというのは、実はあなたもそうであるはずだが、犬のようになりきって、ひたすらプレーするということだ。サッカーを頭脳の技巧に喩える人もいるが、それは馬鹿げている。私は、サッカーの分析など、僅か2分間も語っていられない。」という、彼が1995年に地元新聞のインタビューで語った言葉にもよく表れています。

 2歳で家族とともにサンパウロに引越した頃から、近所の幼友達と毎日のようにボールを蹴りあっていたのだそうです。テーブル上でおはじきのようにプレーする手づくりのゲームで使う自らのチームを、ポリテアーマ(Politheama:ギリシャ語で「エンターテイメントの数々」という意)と命名し、そのチーム・ソングまで自作していました。

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