[2021.07]【沖縄・奄美の島々を彩る歌と踊り12】 沖縄の木遣り歌 「国頭サバクイ」
文:久万田晋(くまだ・すすむ 沖縄県立芸術大学・教授)
沖縄の民謡の目立った特徴として、労働歌、作業歌が少ないということがある。日本本土の民謡なら、たとえば田植唄、田草取り唄、麦刈唄、麦搗唄、糸紡ぎ唄、地曳網唄、馬追唄、杭打唄…… というように、ありとあらゆる仕事、作業の工程に関わる民謡が存在する。その裾野の広がりを明らかにすることは、これまでの日本民謡研究の重要な目的のひとつでもあった。ところが、沖縄ではなぜか労働歌、作業歌が少ない。ここでその理由を明らかにすることはできないが、そのめずらしい事例が今回取り上げる「国頭(くんじゃん)サバクイ」である。これは沖縄を代表する木遣り歌であり、首里城を建てるために使われる材木を山原(やんばる:沖縄本島北部)の山から切り出し海岸まで運ぶときに歌われた歌である。発祥は国頭村奥間とされ、1600年前後に生まれたといわれている。法螺貝や指笛ではやしたてながら陽気な労働歌を歌うことで、過酷な作業の疲れを癒やして気持ちを高めたという。ちなみにサバクイ(捌理)とは、琉球国時代の地方役人の役職名である。
三重県の伊勢神宮では、式年遷宮といって20年に一度社殿の建替えが行われ、そのための材木運搬のために各地で歌われる木遣り唄が有名である。では首里城を建てるために材木を運ぶ機会はこれまでにどれほどあったのだろうか。琉球国の王城の中心であった首里城正殿はこれまでに5回焼失している。近代以降、1945年の沖縄戦、2019年10月の焼失を別にすれば1453年、1660年、1709年に焼失している。「国頭捌理」は、おそらく1660年か1709年の焼失後の再建時に成立したのではないか。それなら、「1600年前後に生まれた」という伝承ともさほど矛盾しないと考えられる。
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