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[2022.4]【沖縄・奄美の島々を彩る歌と踊り21】 女が布を織り、男を守る歌―「うりずんグェーナ」、「かせかけ」を例に―

文:久万田くまだすすむ(沖縄県立芸術大学・教授)

 沖縄も4月を過ぎると、暖かく湿った南風の吹く日が増え、日差しがさらに強くなり、いよいよ夏の到来を予感する季節となる。沖縄ではこの旧暦2、3月頃の時期を指して「うりずん」という。この初夏を意味する「うりずん」という語は沖縄の古歌謡集「おもろさうし」にも現れる古語であり(「おれづむ」、「おれづも」と表記される)、沖縄の風土に基づく長い歴史と深い文化的背景を持つ言葉なのだ。
 15世紀初頭から19世紀後半まで450年にわたり琉球国の王都であった首里では、女性たちの間で首里すいクェーナという歌謡が伝えられていた。これは女性たちの夫や息子が公務で中国や大和(日本本土)に出かけている間、彼らの旅の安全と健康を祈願するために歌い踊られてきたものだ。これを琉球沖縄音楽研究の先駆者山内やまのうち盛彬せいひんが記録に残し、彼の著作(『琉球王朝古謡秘曲の研究』)によって私たちはその姿をうかがい知ることができる。
 その首里クェーナの中に「うりずんグェーナ」(うりづぃんぐゎいにゃ)という曲があり、士族の女性が夫や男子のために布を織り衣を仕立てる過程を詳細に歌った内容となっている。その歌い出しは、

うりじんがはつ 若夏わかなち真肌まはだ
(訳:うりずん、初夏の頃に繁茂する苧麻ちょまの茎から糸を取って)

と始まる。これに続いて二十読、三十読(「読」とは織り幅に入る縦糸の密度を表す単位)と紡ぎ車に紡ぎ、綛枠かしわく(糸を巻き取るH型の道具)に操り、良い日を選んで機に掛けて布を織り始め、3日4日と織り上げ、織り上げた布を井戸で濯ぎ、竿に提げて乾かし、布を畳んで砧に置いて練り上げ、良い日を選んで着物に仕立て、里之子さとぬし(琉球国位階制度で王に仕える士族の若者の呼称)が大和(日本本土)奉公に行く御衣として、それを召して百二十歳までもの長寿を願い、お願いしたらそのように実現する…… というように、衣を織り上げ着物を仕立てる具体的な作業工程を数十節にわたって歌い継いでいくのである。これはまさに本連載でも何度か紹介してきた生産叙事歌謡の形式であり、女性たちが夫や男子のために衣を織りながら、同時に旅の安全や健康、長寿を祈願する思いを込めた歌謡なのである。

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