[2015.10]今一番見たかったブラジルの若手女性歌手 最高の表現力と技術を持つチャーミングな歌姫 Tatiana Parra タチアナ・パーハ
[月刊ラティーナ2015年10月掲載記事]
文●ヂエゴ・ムニス texto por DIEGO MUNIZ
ブラジルポピュラー音楽界は、ここ数十年、様々な女性歌手を輩出してきた。ヴァネッサ・ダ・マタ、ホベルタ・サー、マリアナ・アイダールなどはそのなかでもブラジル音楽の伝統を再確認させた歌手たちである。
多様性豊かで競争率の高いこのシーンで、そのパーソナリティと音づくりの丁寧さが評判を得たのが、タチアナ・パーハだ。クリスタルのように透き通った声の持ち主で、数年のキャリアを有し、しっかりとした音楽的形成がなされた、歌手そして作曲家タチアナ・パーハは、最も折衷的なディスコグラフィーを携えてノーヴァ(新)MPBの世界に姿を現した。
2010年のデビューはMPBのノヴォス・コンポジトーレスに賭けた、アルバム『Inteira』を携えて登場。(『Inteira』リリース時のインタビューは月刊ラティーナ2010年9月号に掲載)その後は、アルゼンチン出身のピアニスト、アンドレス・ベエウサエルトと共に『Aqui』(2012)を発表し、ラテンアメリカの音を探求。『Lighthouse』(2014)では、アルメニア出身ピアニストのヴァルダン・オヴセピアンと多様なメロディの探求をした。
11月に、そのヴァルダン・オヴセピアンとともに「ザ・ピアノエラ2015」に参加するために初来日するタチアナにインタビューができた。
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──ブラジルに多くの女性歌手が登場した年にあなたもデビューしましたね。MPBに女性歌手が多く登場して盛り上がっているその時を過ごすのはどうでしたか?
タチアナ・パーハ こんなにいろいろな女性がブラジル音楽を作曲し歌っていることは最高だと思いました。私自身はあの時期、やりたいと思っていたほどブラジル音楽に関わることができず、アルゼンチンの音楽に魅せられて、あちらの音楽家との交流に夢中でした。ブラジル音楽とディスコネクトしてしまった感じでしたが、音楽は常に聴いていましたし、ニュースも追っていました。私は、ブラジル音楽の女性歌手たちのファンの一人だし、新たに登場している歌手たちも大好きです。
──スタジオで初めて録音をしたのが、広告音楽を録音した5歳の時だったそうですね。いつ、歌手になる可能性に目覚めたのですか?
タチアナ・パーハ 5歳の頃って、なんでも遊びみたいなものです。私は、耳が良いらしく、難なく録音ができました。とても楽しかったのを覚えています。それから音楽への興味が絶えることはなく、ピアノを習いはじめて、音楽大学で学び、そうして人生が音楽へと導いていってくれました。
──音楽的形成はどのように行ったのですか?
タチアナ・パーハ 音楽大学で学んで、その時にたくさんの素晴らしい人たちと出会って良い経験ができました。母が歌手なので、母を観て学んだこともたくさんありますし、祖父が優れたギター奏者であり歌手だったので、彼からボサノヴァ以前の古い素晴らしいブラジルの曲をいろいろ教わりました。それと、長い間ピアノを勉強しました。
──あなたの特徴のひとつとして、音楽家の間で評されるということがありますね。他の音楽家たちとの関係性はどのように築いていったのですか?
タチアナ・パーハ 音楽一家に生まれて、幼い頃から音楽家の世界にいました。ずっと様々な音楽の形態、解釈について関心をもっていました。音楽的に高く評価される音楽からポップスまでなんでも好きなので、結果、幅広いミュージシャンと仕事をすることになりました。
── これまでにイヴァン・リンス、オマーラ・ポルトゥオンド、ヒタ・リー、シコ・ピニェイロ、トキーニョ、サンディ&ジュニオール、アンドレ・メマーリ、ダンチ・オゼッチなどと共演されてきましたね。彼らからどんなことを得ましたか?
タチアナ・パーハ いろいろなことを学びました。彼らそれぞれのレパートリーをよく理解して、技術的に、表現的に乗り越えることとか。複数のミュージシャンと個人的な関わりも多かったし、一緒に旅したり、みんながどんなことを考えているのかを知るために、対話をするチャンスもたくさん作りしました。すべて私の仕事に生かされています。
──いろいろな人たちのバックでコーラスを務めるのはどうでしたか?
タチアナ・パーハ 最高でしたよ。自分の声が他の人の声に重なっているのを聴くのが好きなのです。誰の声も余計に飛び出すことなく、懸命に音を合わせていこうとしていく感じ。合唱団にも参加していたことがあるし、音楽的に、とても気持ちのいい経験でした。
──今日までどの女性歌手の声とも同じ分類にされず、独自のキャリアを築いてこられていると思います。どのようにして自らの歌唱法を築いたのですか?
タチアナ・パーハ 私は、モニカ・サウマーゾの下の世代に属していると思います。大学でも、目標にしたのは彼女でした。一定期間、清い、透明感のある、穏やかな、精度の高い、それでいて簡素な歌唱を研究しました。ある時、マリア・ジョアンというポルトガルの女性歌手をCDで知り興味を惹かれ、その後共演する機会があって、それがとても心に残る共演となりました。歌唱についての私の理解をまるっきり変えてしまったのです。もともと活発な気質なのに、件目に穏やかさを求めても仕方がないのだとわかりました。
──あなたの完成度の高さは、これまでの3作品にも通じるものですか?
タチアナ・パーハ その3作品は仕上げに心を砕きました。音符を完璧に仕上げて、あるべきところに配置して……という感じに。いまは、異なった場面を想定しはじめたところです。インプロヴィゼーデョンに関心がいっていて、いろいろと試してみているところです。インプロヴィゼーデョンと、音楽的な限界点を探っていて、包容力のある表現を見つけたいです。
──具体的にはどんな方法で?
タチアナ・パーハ 音の使い方をもっと研究するなどして、歌唱において一般的ではない方法を探求しているところです。声は、非常に優れた楽器のひとつで、ヴォーカルは大きな可能性をもった表現方法だと思っています。何でも試してみたいと、今とてもオープンマインドな状態です。いわゆる〝完璧な歌唱〟や、〝卓越した作曲〟、〝美しいハーモニー〟からはちょっと距離をおいているような人たちとの関係を開拓中です。
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