[2021.12]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」⑰】 Thiago Amud 『São』
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[2021.12]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」⑰】 Thiago Amud 『São』

e-magazine LATINA

文●中原 仁

    ───── 中原仁の「勝手にライナーノーツ」─────
 近年、日本盤の発売が減少し、日本における洋楽文化の特徴である解説(ライナーノーツ)を通じて、そのアルバムや楽曲や音楽家についての情報を得られる機会がめっきり減った。
 また、盤を発売しない、サブスクリプションのみのリリースが増えたことで、音楽と容易に接することが出来る反面、情報の飢えはさらに進んでいる。
 ならば、やってしまえ!ということで始める、タイトルどおりの連載。
リンクを通じて実際に音楽を聴き、楽しむ上での参考としていただきたい。

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Thiago Amud 『São』
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 カエターノ・ヴェローゾの新作のタイトル曲「Meu Coco」でホーン・アレンジを行なったチアゴ・アムーヂが11月、4枚目のリーダー作『São』をデジタル・リリースした。


 2016年、来日したカエターノ・ヴェローゾへのインタビューで、注目している新世代の歌手やバンドを尋ねたところ、ファンキ・カリオカやバイーアの音楽に続いて「よりソフィスティケートされた音楽の中では、まだあまり知られていない若手だが、チアゴ・アムード(注:アムードと発音)を気に入っている」と答え、2013年のリーダー作『De Ponta a Ponta Tudo É Praia-palma』を参考にあげた。

 さっそく聴いたところ、、、これが面白い! 作曲、作詞、歌、ギター、アレンジ、いずれも芯が通っていて、シンガー・ソングライターとしてはもちろん、サンバからバイーア、北東部、内陸部へと多彩に広がるサウンド・クリエイターとしての才能も豊か。基本的にはMPBの伝統に根ざした正統派だが、作風にはギンガやゼー・ミゲル・ヴィズニッキに通じるヒネたところも多々あり、エレキギターがアグレッシヴに響く前衛的な曲もあり、一筋縄ではいかない重層的な音楽が、凛と屹立している。

 最初にバイオグラフィーを紹介しよう。チアゴ・アムーヂ(Thiago Mattos dos Santods Amud)は1980年4月26日、リオデジャネイロ生まれ。13歳でギターを弾き始め、UNI-RIO(リオデジャネイロ州連邦大学)で音楽を学んだ。在学中、複数の音楽祭に出場し上位に入賞、ギンガなどに絶賛された。
 2007年、ギンガと共作した「Contenda」をギンガが『Casa da Vila』で録音。トマス・サボガと共作した「Baião de Câmara」を、女性歌手シモーニ・ギマランイスが『Flor de Pão』でミルトン・ナシメントとのデュエットで録音、チアゴもアレンジを行ないギターを演奏した。
 2010年、ファースト・アルバム『Sacradança』を発表。全曲のアレンジを行ない、ギンガを歌のゲストに迎えた。

 その後もギンガとの共作を続け(チアゴは作詞を担当)、主にギンガが録音してきた。

 また、ギンガとのコンビ作品「Atlantica」を、セルジオ・メンデスが『Magic』(2014年)で録音した(歌はアナ・カロリーナ)。

 2013年、冒頭で触れた『De Ponta a Ponta Tudo É Praia-palma』を発表した。

 2016年、仲間の音楽家たちとのバンド、コレチーヴォ・シャマ(Coletivo Chama)のアルバム『Todo Mundo É Bom』を発表。自身のオリジナル曲は共作を含み4曲だが、鍵盤奏者のイヴォ・センラと共同で全曲のプロデュース、アレンジを行なった。ソロ作に比べてプログレ色が濃いサウンドだ。

 2018年、3作目『O Cinema Que o Sol Não Apaga』を発表。ギンガとの共作もあり、タイトルのとおり映画音楽を思わせる壮大な音絵巻が展開する。
 近年のチアゴはミナスのベロオリゾンチにも拠点を置いており、ラストの曲「Nascença」にはアレシャンドリ・アンドレス、ハファエル・マルチニ、クリストフ・シルヴァ、レオノラ・ヴァイスマンといったミナス新世代がコーラスに参加している。
 また、ルイーザ・ブリーナの『Tenho Saudades Mas Já Passou』(2019年)でも1曲、共作しており今後、ミナス勢とのコラボから新たな方向性が見えてくるかもしれない。

 そして2021年の最新作『São』。現在はデジタル・リリースだが、LPの発売も予定されている。曲は全て自作だ。過去3作と比べてシンプルな編成で録音した曲が多く、彼の音楽の源流と輪郭に触れやすい。リオで録音を行ない、主な共演者はエリージオ・フレイタス(ギター、ヴィオラ)、ヴォヴォー・ベベー(ベース)、ロウロンソ・ヴァスコンセロス(ドラムス)、ルイジーニョ・ド・ジェジェー(パーカッション)、マルロン・セッチ(トロンボーン)。その他、60~70年代に活躍したヴォーカル・グループ、トリオ・テルヌーラのジュレーマとジュサーラをはじめ、曲によってゲストも迎える。
 それでは歌詞のアウトラインも含め、曲順に沿って紹介していこう。

 「Graça」はギターの弾き語り。”君のために、歌は死ぬことはない” と未来への夢を歌い、7分余りに渡って数コーラスを繰り返す。

 「Mar de Minha Mãe」は、バイーアの母なる海がテーマ。イジェシャーのリズムを基調に途中、ルイジーニョがアフロ・バイーアのリズムを叩きあげる。

 「Candeeiro,Mariposa」はバイーアのサンバ・ヂ・ホーダ調で、その道の名手モレーノ・ヴェローゾが “皿とナイフ” の妙技を披露。歌詞もバイーアを含む北東部内陸の民話を思わせる。

 物語性は、詩情豊かな「Mães」に引き継がれる。歌詞の一節 ”海がセルタンの喉元に落ちた後” が、グラウベル・ホーシャの映画を想起させる。

 「E A Galera Ria」は、カルリーニョス・セッチ・コルダス(7弦ギター)、プレチーニョ・ダ・セヒーニャ、ネネ・ブラウン(パーカッション)らを迎えたサンバ。曲調と展開、皮肉とユーモアをこめた社会派の歌詞は、往年のジョアン・ボスコ&アルヂール・ブランキの名コンビ直系だ。

 ヒネた曲想に難解な歌詞が乗った「Chega de Retranca」は、あえて言うならギンガ+カエターノ。過去のアルバムではよく耳にしていたが本作では初登場のロッキンなエレキギター、サンバとイジェシャーとマラカトゥをミックスしたようなサウンドも含め、チアゴの一筋縄ではいかない音楽性を象徴している。

 「Levante Sul」は、シバの女王とサロモン王を歌ったオロドゥンの曲「Olodum Ologbom」の一節で始まり、5拍子のリズムに展開、シバとサロモンの物語を歌う。

 「História da Revolução Caraíba」は自作のサンバ・エンヘード。「カリブ革命の歴史」と題しているが、ブラジルの今を舞台に現代社会の問題を鋭く突いた、これもジョアン・ボスコ&アルヂール・ブランキのコンビに通じる曲だ。

(ラティーナ2021年12月)


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