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[2022.9]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ㉖】 破壊と再生―ハワイ島の溶岩流と人々のダイナミックな暮らしとメレ・フラ―

文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)

 今、世界中で「地球にやさしい」取り組みが広がっています。それは、人間が将来にわたって、地球上で快適で豊かな暮らしを保持するため。しかし、昔も今も、自然は必ずしも人々にやさしくはありません。日頃、便利な生活をしている私たちですら、度重なる自然災害に対して無力感にさいなまれます…。

 ハワイ諸島では、キリスト教化する以前、万物に宿る神への畏怖からカプ kapu(戒律)を定めていました。深海で隔てられたハワイ諸島に移住してきたポリネシアの人々は、土地、海、水の様子を注意深く観察し、バランスを考えて動植物の栽培や採集をして自然を改造し、厳しい環境に再適応してきました(2022年7月号)。

 ハワイ島(ビッグアイランド)のキラウエア Kīlauea 火山は、1986年から噴火を繰り返し、溶岩流で小さな町や森を蔽いつぶしてきました。それは、火と火山の女神ペレ Pele の気まぐれな情熱と怒りによるものと見なされています。ペレはハワイ火山国立公園のハレマウマウ Halema‘uma‘u クレーターに住んでいるとされますが、その存在が感じられるのは国立公園内だけにとどまりません。

 ペレは、美しい若い女性や白い犬を連れた老女の姿で現われ、溶岩流の中にその顔が浮かび上がることもあるとも言われます。写真1は、ゲリー・スレイク Gary Sleik さんが2009年、ご自宅から2㎞ほどの海岸で100メートル吹き上がった溶岩流を撮影したものですが、何だかペレの顔のように見えませんか?

写真1 ペレの顔?
(カラパナ・ガーデンズ 地区パホア村 2009年2月10 日 撮影:ゲリー・スレイク)

 もともと大工をしていたスレイクさんは、2003年に家も全ての財産も処分して、1年半ほど車上生活を送りながらアメリカ西部で土地を買って自ら家を建てましたが、生活水に不自由したため2005年ハワイ島に移住して、また家を建てました。その家と財産が2010年の溶岩流で焼き尽くされたため、一旦、ジョージア州の娘さんたちのところに避難しました。その後、3年半ほどまた車上生活を送り、2014年に戻ってきて溶岩の上に現在の家を建て、写真による溶岩流ツアーガイドをしています(写真2)。

写真2 ゲリー・スレイクさんと現在の家(パホア Pahoa 村カラパナ・ガーデンズ Kalapana Gardens 地区 2022年9月11 日 撮影:小西潤子)

 スレイクさんの家だけではなく、周囲には自力で建設中とおぼしき家がだんだん増えています。また、サラさんという若い女性は、溶岩流で壊滅した地区でたった1軒残った家を購入して、修理しながら暮らしています。どこが安全とも確証しがたいなかで、人々は溶岩上の新しい環境にたくましく再適応して、暮らしているのです。

 溶岩流のスピードはカタツムリが移動するくらいゆっくりで、じわじわと押し寄せてきます。人は逃げられても、建物などの構造物を動かすことはままなりません。2014年溶岩流に襲われたパホア村のごみ焼却所付近では、溶岩流を見定めながら、木製の電柱の周囲を土で覆って保護する作業が行われました。

Lava flows in Pahoa - Eruption Update

 2014年の噴火では、パホア日系人墓地の大部分も、溶岩流に埋もれてしまいました(写真3)。棒が立てられているのは、埋もれたお墓の場所です。しかし、溶岩の隙間からオヒア・レフア ʻōhiʻa lehua (Metrosideros polymorpha) やクプクプ Kupukupu (Nephrolepis cordifolia) というタマシダといったパイオニア植物が育っているのが見えます。

 オヒア・レフアは、30m以上に成長して分水嶺や土着の動植物を保護し、家やカヌーの材木になり、花はレイ lei (首飾り)にも用いられる有用な植物です。オヒア・レフアがペレの化身と言われるのは、その情熱的な赤い花の色によるだけでなく、溶岩に覆われた大地から芽生え、生態系を形成するからだとも言えましょう。

写真3 パホア日系人墓地(パホア村 2022年9月11日 撮影:小西 潤子)

 オヒア・レフアは、2022年にハワイ固有種として公式に認められました。そのニュース番組で、日系のデービッド・ユタカ・イゲ David Yutaka Ige ハワイ州知事が植樹する様子が紹介されています。

ʻŌhiʻa lehua becomes official Hawaii endemic tree

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