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[2024.4]【境界線上の蟻(アリ)~Ants On The Border Line〜18】イタリアン・ライブラリー・ミュージックの激レア5作品復刻

文●吉本秀純 Hidesumi Yoshimoto

「すでに世界中のあらゆる音楽は掘り尽くされた」とも言われて久しいレア・グルーヴですが、掘り起こす基準や観点が変わればフレッシュなものに化ける未知の音源、あまりにも発売当時のプレス枚数が少なかったりしたために陽の目を見ていないグレイトな作品というのはまだまだ存在するもの。1960年代末から70年代前半にかけてイタリアで〝ライブラリー・ミュージック〟として制作されながらも、オリジナル盤はあまりにも希少なために見つけることはほぼ不可能とされる極め付けのレア作ばかりを選りすぐって世界初の紙ジャケットCD仕様で復刻した〝イタリアン・ゴールデン・モンド〟シリーズは、そんな〝レア・グルーヴ〟に出会う楽しみをあらゆるジャンルの聴き手に再認識させてくれるだろう秀逸なアルバム揃い。イタリアのこの手の音楽といえば、渋谷系の定番アイテムとして愛されたアルマンド・トロヴァヨーリが手がけた映画『黄金の七人』のサントラ盤を筆頭に、当時のテレビ番組、広告、ドキュメンタリーなどで使用されることを意図した匿名性の高いライブラリー音源でもエンニオ・モリコーネやピエロ・ピッチオーニといった巨匠までも名を連ねたポップな実験性に溢れたラウンジ系の佳曲が掘り起こされてきたが、今回の5枚はサイケ・ロック、プログレ、ファンク、ジャズ、室内楽、プレ・フュージョンなど多角的な視点から良作が選ばれているのも特徴的だ。

https://diskunion.net/black/ct/detail/1008830007

●サイケグラウンド・グループ『サイケデリック・アンド・アンダーグラウンド・ミュージック』(71年)

 この唯一作を発表したこと以外にはまったく謎に包まれた存在だったサイケグラウンド・グループだが、最近になってようやくイタリアン・ロック界を代表するバンドとして知られるヌオーヴァ・イデアのメンバーたちがデビュー直前に覆面バンドとして録音した作品であったことが判明している。他にもレ・オルメなどを手がけた大物プロデュ―サー、後述するサンドロ・ブルニョリーニをはじめとするライブラリー系の作曲家たちも本作に関わっていたとされ、オルガンやファズ・ギター、手数の多いドラムなどを中心としたサイケ・ロック・セッション的な内容ながらも、曲によって洗練された作編曲センスを覗かせる点にも納得がいく。ハービー・ハンコックやヤードバーズが参加したアントニオーニ監督の名作『欲望(Blow-Up)』のサントラ、あるいは初期のCANなどがお好きな方はお試しを。

●サンドロ・ブルニョリーニ『鏡張りの眼鏡をかけた男』(75年)

 ダリオ・アルジェントとも共演歴のあるマリオ・フォグリッティが75年に監督したテレビ向けのスリラー映画のサントラとして制作された本作は、華麗な弦楽アレンジを配したバカラック風のテーマ曲から、アクション・シーンを連想させるフリーキーなジャズ、ファンク、サイケ・ロック、現代音楽タッチなど…。映画の様々なシーンに合わせて多彩な楽曲が用意され、70年代イタリアのサントラやライブラリー物コレクター達が探し求め続ける〝聖杯〟として定評のあるレアな名作。サンドロ・ブルニョリーニは1950年代初頭にジャズ・サックス奏者としてキャリアをスタートさせ、その傍らで数多くのサントラなどを手がけるようになっていった音楽家で、本作からもそんなバックボーンが強く聴き取れる。要所で起用されたトロンボーン奏者のジャンカルロ・スキアッフィーニの快演も聴きもの。

●ジュリアーノ・ソルジーニ『ポンペルモの下で』(71年)

 今回の5枚の中でも、グルーヴィーさを重視するならどれよりも突出しているのが本作だろう。ジュリア―ノ・ソルジーニは変名も含めて数多くの作品をイタリアのライブラリー界に残してきた作曲家兼プロデューサーだが、そのなかでもとりわけ本作が世界中のレア・グルーヴ・マニアから熱い注目を集めてきた理由は、LP盤ではA面すべてを使って収録されていた17分弱に及ぶ長尺のキラーなタイトル曲を聴けばよくわかる。本人が弾くモッド・ジャズ調のオルガンに、シンプルだが切れ味の鋭いドラミングとベースラインで飽きのこないグルーヴをキープするリズム隊、絡み合いも絶妙な2本のサイケなギターが繰り出す演奏は、いつまでも聴く者に針を上げることを許さない魔力に満ちている。LPではB面に相当する短めの5曲も、怪しい女性スキャット入りやロッキンな佳曲揃いで素晴らしい。

●アレッサンドロ・アレッサンドローニ『リトモ・デルインダストリアNO.2』(69年)

 エンニオ・モリコーネが手がけた西部劇映画のサントラにおける口笛でもよく知られ、これまでに数多くの作品リイシューや編集盤でも親しまれてきたアレッサンドロ・アレッサンドローニは伊ライブラリー界を語る上で外すことのできない重鎮だが、69年に発表された本作こそマルチ奏者である彼の記念すべき初ソロ・アルバム。タイトルやジャケットから工場で稼働する機械にインスパイアされた作品だと思われるが、決して無機質なものではなく、反復的なリズムや旋律をトリッキーに重ね合わせ、ミニマル音楽的な現代性とイタリアらしいエレガントさを兼ね備えた彼ならではのユーモアに満ちた作品集となっている。洗練されたタッチのピアノ・ジャズ的な演奏にスキャットやチェンバロ、ヴィブラフォンなどが軽快に絡み、室内楽的なアプローチもみせる楽曲の数々は、洒脱にして斬新!

●ダニエラ・カーサ『アメリカ・ジョバネNo.2』(75年)

 ダニエラ・カーサは歌手としても活躍した作曲家で、同じくライブラリー・ミュージック界で活躍したレミジオ・デュクロスの妻。本作はその夫が発表した『America Giovane』の続編として制作されたもので「ニューヨーク42丁目」「コロラド川」「ケンタッキー・フライド・チキン」といった曲名からも窺えるように、米国の各都市や南米大陸、カリブ海なども題材としながら奔放に〝アメリカ〟を描いた架空の小旅行的なアルバムとなっている。とりわけフュージョン黎明期らしいアレンジを施し、浮遊感のあるシンセなども用いながら独特のジャジーなテイストを示した楽曲群がユニーク極まりなく、ガトー・バルビエリの人気曲「ラスト・タンゴ・イン・パリ」を良い意味でライトにしたような「サード・ワールド・タンゴ」など。意表を突くアイデアを含んだ楽曲の数々に引き込まれる。

吉本秀純(よしもと ひですみ)●72年生まれ、大阪市在住の音楽ライター。同志社大学在学中から京都の無料タウン誌の編集に関わり、卒業後に京阪神エルマガジン社に入社。同名の月刊情報誌などの編集に携わった後、02年からフリーランスに。ワールド・ミュージック全般を中心に様々な媒体に寄稿している。編著書に『GLOCAL BEATS』(音楽出版社、11年)『アフロ・ポップ・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック、14年)がある。

(ラティーナ2024年4月)


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