[2021.06]【傑作『CHICHIBU』リリース】笹久保 伸 1万字ロング・インタヴュー
インタビュー・文●松山晋也
笹久保伸『CHICHIBU』
ギタリスト笹久保伸のニュー・アルバムがリリースされた。タイトルは『CHICHIBU』。生まれ育った秩父の文化や風土に徹底的にこだわってきた笹久保なれば、この正面きってのダイレクトなタイトルには逆に驚かされる。そして今作は、コラボ作なども含めたリーダー作としてはなんと通算30作目。経済的困窮を常日頃公言しつつも、創作意欲はまったく衰えを見せない。泳ぎ続けないと死んでしまうマグロのごとく、作り続けることでしか生きられない業を背負った音楽家なのだろう。今作でもネット等でサポーターを募っており、CDのジャケット裏には彼らの氏名が列記されている。
さて、今作の最大のポイントは、笹久保書き下ろしの全6曲すべてがコラボ・ワークであるということだ。他の音楽家とのコラボイションはこれまでも頻繁におこなってきたし、昨年出た前作『Perspectivism』でも、marucoporoporo(マルコポロポロ)、仲野麻紀、高岡大祐と3人の日本人音楽家とコラボしていたわけだが、この新作でのコラボ相手はマルコポロポロ以外の5人はすべて海外の音楽家だ。ブラジルからモニカ・サウマーゾ、ジョアナ・ケイロス、アントニオ・ロウレイロ、フリデリコ・エリオドーロの4人、そして昨今熱い注目を集めているアメリカの異能サックス奏者サム・ゲンデル。“新感覚派オールスターズ” とでも呼びたくなる素晴らしい面子だが、それら全員、直接顔を合わせることなく、参加交渉からデータのやりとりまですべてをメールだけでおこなったという。このフットワークの軽さ、直接性も笹久保らしい。
インタヴュー前日にはNHKの報道番組が秩父を訪れ、「コロナ禍時代の音楽家の新しい挑戦」というテーマで取材されたと喜ぶ笹久保に、新作について詳しく語ってもらった。
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■コロナ禍をチャンスに
⎯⎯ 『CHICHIBU』というストレートなタイトルにまず驚いたんですが……。
笹久保 伸 みんな驚くと思いますよ。秩父の音楽家でこのタイトルって、ダサいし(笑)。
⎯⎯ いや、ダサいというよりは、これまでさんざん秩父をテーマにして活動していたのに、ここにきてこのタイトルというのが……。
笹久保 伸 実は、ミルトン・ナシメントのアルバム『Minas』(75年)の影響なんです。あれも当時、ミルトンじゃなかったらダサいって感じで受け取られていたタイトルだと思うんだけど、元々、彼のように「秩父」ってタイトルのアルバムをいつか出したいなと思っていたんです。敢えてそれをやっても、秩父、カッコいいんじゃね?と受け取られる、そんなアルバムが今回はできたかなと思ったから、このタイトルにした。だから、今回はCDだけじゃなくLPも作りました。この作品は内容的にLPで聴くのにも合っていると思うんですよ。
⎯⎯ これまでもコラボは積極的にやってきましたが、今作では全曲それぞれで違うゲストとコラボしているし、6人中5人が外国人です。ある種のコンセプトがあってのことですよね?
笹久保 伸 最初からそう考えていたわけじゃないんです。ソロ曲も入れようかなと思っていたけど、海外の音楽家たちとどんどん連絡がとれるようになってゆき、この人が入るんだったらあの人もいいんじゃないかな、とやっているうちに、全曲がコラボになってしまったんです。
⎯⎯ 最初に声をかけたのは誰ですか?
笹久保 伸 アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)。彼とは一緒に演奏したことはなかったけど、ちょっと面識があったし。2013年の《スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド》に出た時に知り合い、彼の2作目のアルバム『Só』は特に気に入っていた。自分との接点はないかな、と思いつつも、素晴らしい音楽家だとずっと思っていたんです。
Antonio Loureiro 「Pelas águas」(『Só』から)
Antonio Loureiro
⎯⎯ そもそもなぜ、海外の音楽家とやろうと思ったんですか?
笹久保 伸 コロナ禍によって、去年からずっと一人で演奏することが多かった。ネット上で配信ライヴをやったり、画面を分割してコラボを楽しむミュージシャンも増えましたよね。でもそれを観てて、海外とのコラボでアルバムを作っている人はいないなと思ったんです。
⎯⎯ 直接会うことなく、データのやり取りで曲を作るのはだいぶ前から普通になっていますが、コロナ禍の中、そういうやり方だけでアルバムを作っている人は…… 記憶にないですね。
笹久保 伸 そう。だから、今そういうことをやればタイムリーというか、ある種、社会性も帯びた作品になるなと思った。音楽が社会とどう関わるか、どう影響を受けるかということも本作のテーマだったので、挑戦したかったんです。でも実際の作業は、思いのほか楽でした。メールで送った音源に彼らが自分の音を加えただけだし。日本人とだったら、スタジオでいろいろやったりするから、もっと手間がかかる。以前、ロンドン在住の現代音楽作曲家・藤倉大さんともデータのやりとりでアルバム『マナヤチャナ』(2014年)を作りましたが、あの時は何度もデータをやりとりした。今回は、送りも受け取りもそれぞれ1回きりです。
■山並みの稜線でつながった『Minas』と『CHICHIBU』
⎯⎯ ロウレイロ以外の海外勢とも面識はあったんですか?
笹久保 伸 いや、他の4人は面識はなく、どんな音楽家かということを知っていた程度ですね。モニカ・サウマーゾ(Mônica Salmaso)は元々有名だし、ギンガとも一緒に来日していた。フレデリコ・エリオドーロ(Frederico Heliodoro)は、アントニオ・ロウレイロと一緒にやっている人だから知ってた。ジョアナ・ケイロス(Joana Queiroz)も来日していたし。サム・ゲンデル(Sam Gendel)のことはあまり知らなかったけど、去年出たアルバム『Satin Doll』を聴いて面白いと思っていた。
⎯⎯ 海外勢はサム・ゲンデル以外は皆ブラジル人ですが……
笹久保 伸 特に理由はないんだけど……実は制作開始時、ブラジル人というかミナス系だけでまとめようかと思った瞬間もありました。ミナスは鉱山の街で、武甲山のある秩父も鉱山の街です。石灰岩だけでなく、昔は金山もあったし。だから、「山」というコンセプトでいこうかなとも思ったんだけど、一番最後にサムも誘ってしまったから(笑)。だから、サムに声をかけてなかったら、アルバム・タイトルも別のものになっていた可能性がある。
⎯⎯ ミナス的感触は前作『Perspectivism』にも感じられました。それまではアンデスと秩父という大きな柱があったけど、前作は違った。ミナス音楽に惹かれるようになったきっかけは何かあったんですか?
笹久保 伸 ミナスの音楽はわりと最近まで知らなかったんですよ。初めてちゃんと聴いたのは3~4年前です。秩父の友人がミルトン・ナシメントの70年代のLPをいろいろ聴かせてくれて。それこそ『Minas』とか。あと、行きつけの秩父の喫茶店のマスターがミナス音楽のファンで、彼からもトニーニョ・オルタなどを聴かせてもらって。
そもそも僕は、ブラジル音楽にあまり馴染みも関心もなかったし。聴いていたのはギター音楽だけかな。バーデン・パウエルとかエグベルト・ジスモンチとか。ブラジルは避けて通ろうと思っていたぐらいなんです。南米といってもブラジルだけはポルトガル語でカルチャーが違う。僕はスペイン語文化圏だけにしとこうと思っていた。
⎯⎯ 南米の人々にとっても、一般的に、ブラジルとそれ以外という意識はあるのかな?
笹久保 伸 あると思います。ブラジルは南米というよりも、ブラジル。人間的にもだいぶ違う。たとえばペルー人がブラジル人とコラボするなんて考えられない。見たことない。音楽的接点があまり見いだせないから。ジャズ系ぐらいでしょう。ブラジルの場合、音楽は基本的に陽気で明るいけど、アルゼンチンもチリもボリビアもペルーも、もっと哀愁がある。ブラジルのサウダーヂは哀愁というよりは郷愁。哀しみの質が違う。
⎯⎯ なのに、ミナス音楽だけには惹かれた?
笹久保 伸 そうなんです。2017年にヤマンドゥ・コスタと対バンしたことがあったんです。それが入り口の第一歩になったと思う。その時、彼とショーロを2曲共演し、楽屋でもいろいろ話しました。ヤマンドゥはかつてトニーニョ・オルタから「ミナスの山並みの稜線が俺のメロディなんだ」と言われたことを語ってくれたんですが、それを聞いて、「俺のメロディは秩父の山並みの稜線だ」といつか言ってみたいなと思い、さっき出たレコード体験につながっていったんです。ブラジル音楽はサンバとかショーロとかパーカッシヴな要素が目立つけど、ミナス音楽はパーカッションよりもピアノやギターが目立つ。だから、僕にとってはミナス音楽は入りやすかったんだと思う。
■ミルトン・ナシメントやシコ・ブアルキにもアタック
⎯⎯ 今作の6曲はすべて笹久保さんが新たに書き下ろしたオリジナル曲ですが、最初から各コラボ相手を想定して書いたんでしょうか?
笹久保 伸 いえ。違います。OKの返事が来た人に作った曲を順次送っていったというか……あまり厳密ではなく、気楽に考え、依頼した感じなんです。たとえば②「Arorkisne, una cancion de febrero アロルキスネ、2月の歌」は最初自分で弾き語り(ハミング)していたけど、女性の声の方がいいから誰かいないかな…と考えていた時、ジョアナ・ケイロスを思い出し、すぐにメールを出した。他の曲もだいたいそんな感じです。で、声をかけて断られたら別の人に当たろう、と。実際、声をかけたけど返事がなかった人も何人かいたし。ミルトン・ナシメントとか。⑥「Chichibu 秩父」は最初ミルトンに歌ってほしいと思い、HPの連絡先にメールと音データを3回送ったけど、返事がなかったんです。まあ歳だし、マネジャーなどのところで止まり、本人までメールが届かなかったのかもしれないけど。
⎯⎯ ミルトン以外にも、メールしたけど返事が来なかったのは?
笹久保 伸 メールしたけど返事がなかったのは5~6人かな。本人のホームページ、FB、ツイッターなど、いろいろ使って。クリス・デイヴ(ロバート・グラスパーやディアンジェロ、アデル等との共演で評価の高い米国人ドラマー)とか。クリスは前作の時もメールしたんだけど返事がなかったなあ(笑)。あと、シコ・ブアルキもだめだったし、ロー・ボルジェスもだめだった。
⎯⎯ すごい面子ですね。度胸がある(笑)。
笹久保 伸 クリス・デイヴ以外はもうSNS世代じゃないので、最初から無理だろうなとは思っていたんだけど。モニカ・サウマーゾあたりからようやくSNS世代じゃないかな。ミュージシャン本人とつきあいのある人に仲介してもらうという手もあったんだけど、絶対に自分で直接連絡をとる、と今回は決めていたんです。自分に課していたというか。その方が結果的にうまくいく気がして。今回参加した人たちは皆、すぐに返事をくれました。
⎯⎯ 海外勢で笹久保 伸のことを知っていた人は?
笹久保 伸 アントニオ・ロウレイロだけですよ。他の人たちは僕のことを全く知らなかったし、最初にメールを出す時も、僕のキャリアなどについては全然説明しなかった。伝えたのは「今こんな音を作っているんだけど、コラボしませんか?」みたいなことだけ。「これが30枚目のアルバムです」なんて書いても、彼らにとってはあまり意味がないと思って。音源データもiphoneで簡単に録ったものだし。
⎯⎯ この音だけでその気になってくれるか、ある意味、実験だったわけだ。
笹久保 伸 そうです。だからこそ、OKの返事が嬉しかった。音だけで判断されたわけだから。僕のメールを受け取った後も、誰も僕のことをネットで調べたりはしなかったんじゃないかな。そういうことには興味なさそうな人たちばかりだし。あと、やはり、皆かなり暇だったんだと思いますよ。それは大きい。だからコロナ禍は逆にチャンスなんです。あと2年もして状況が落ち着くと、こういうコラボはもうできないかもしれない。逆転の発想というか。やったぜ、という感じですよ。
■体得した浮遊感の秘密
⎯⎯ サム・ゲンデルとやったオープニング曲の①「Cielo People 空の人々」だけが18分もの長い曲ですが、サムの特長がうまく出ていますね。
笹久保 伸 あれは、今作中で最初に書いた曲で、コラボではなく唯一ソロ曲として入れるつもりだったんです。でも急に気が変わってサムに送り、結果的に最後に完成しました。ちょっと長すぎるかなとも思ったけど、よくぞああいう感じにまとめてくれたと思う。素晴らしいですよね。音源を送ったら「いいじゃん!」とすぐに返事が来て、コラボ音源も速攻で送ってくれた。サムとすんなりコラボできた要因の一つは、彼がスペイン語ができるということだったと思います。メキシコ系移民が多いLAで暮らし、ブラジル人とも共演したり、彼の中にはラテン文化との壁がないからかな。彼は、サックスという普通の楽器とありきたりのエフェクターを使いながらジャズを大胆に再定義しているような趣がある。
Sam Gendel
⎯⎯ 特別な演奏テクニックがあるわけじゃないんだけど、トーン自体が極めて特殊ですよね。音そのものが幽体離脱しながら宙をふわふわと漂っている感じがある。そういう点でも、この曲では彼の個性が全開し、ぴったりはまっています。
笹久保 伸 まだ詳しくは言えないんだけど…サムとはこの後も秘密のプロジェクトが進行中です(笑)。
Joana Queiroz
⎯⎯ ②「Arorkisne, una cancion de febrero アロルキスネ、2月の歌」ではジョアナ・ケイロスがヴォーカルだけでなく室内楽的クラリネットも演奏してますね。
笹久保 伸 彼女はけっこう前衛的な作品を作る人なので、このアルバムには合いますよね。普段は演奏がメインだけど、歌っている映像をYoutubeで観て、いいなと思って。ハミングで歌ってもらい、更に、僕のギターが終わる曲の途中からは自由にクラリネットを吹いてもらった。とてもきれいな形で一体化しているし、質感にも軽さがあって気に入ってます。
⎯⎯ ③「Luz ambar 琥珀色の光」のモニカ・サウマーゾの歌もさすがとしか言いようがない。
笹久保 伸 モニカは僕の中ではレジェンドでした。バーデン・パウエルとヴィニシウス・ヂ・モラエスの作品をカヴァした97年のデビュー・アルバム(Mônica Salmaso & Paulo Bellinati『Afro-Sambas』)が大好きで。まさか一緒にできるとは。ミルトンみたいにシカトされるだろうなと思ってた。とにかく声が好きなんです。ブラジルそのものの声だと思う。1週間ぐらいで音を送ってくれました。
Mônica Salmaso & Paulo Bellinati「Canto De Ossanha」(『Afro-Sambas』より)
Mônica Salmaso
Frederico Heliodoro
⎯⎯ 男性ヴォーカルものは、④「Rioella リオエージャ」のアントニオ・ロウレイロと、⑥「Chichibu 秩父」のフレデリコ・エリオドーロの2曲ですね。
笹久保 伸 ロウレイロはパーカッションだけでなくピアノもギターもなんでも上手いマルチ・プレイヤーだけど、僕は特にピアノとヴォーカルが好きです。だから今回も、ヴォーカルだけでなくピアノも入れてもらうつもりだったんだけど、「ギターとヴォーカルだけの方がこの曲はいいと思うよ」と言われて。とにかく、皆、スキルが高く、作業が速いことに驚かされましたね。⑥「Chichibu 秩父」のデモ音源では、フレデリコ・エリオドーロが歌いやすいように、基本的メロディ・ラインを僕が歌っていたんですが、自分の曲ながら、けっこう難しかった。それをたった2日で返してきたから、凄いですよ。
⎯⎯ ①以外の5曲のヴォーカル・パートに関しては、だいたい笹久保さんのデモ音源どおり?
笹久保 伸 ほぼほぼ、そうですが、部分的に自分の好きなように変えてもらったりしている。特に③のモニカ・サウマーゾと⑤「Lilium ユリの記憶」のmarucoporoporo は、かなり自由にやっています。③では、僕が気づいてなかったメロディをモニカが入れてきたし。なるほど、この音もあるな、と。あと、marucoporoporo にだけは、一切何もガイド・ラインは示していません。完全に自由。その方がいいと思ったし、だいたい彼女がどうやって歌い、録音しているのか僕にはさっぱりわからないから。何度の音高で声を重ねているのか、どういうハーモニーなのか。本人もやっている時はわかっていないんじゃないかな。彼女の才能にはずっと前から驚いてばかりだったけど、今回改めて凄いなと思いました。あんな風に音を入れてくるとは思わなかった。
marucoporoporo
⎯⎯ ⑥のフレデリコ・エリオドーロは、歌だけでなく本職のベースも素晴らしいですよね。
笹久保 伸 この曲では僕のギターは特殊な調弦になっており、音を下げてベース・ラインも弾いている。だからフレデリコはメロディ・ラインをベースで弾いてきた。つまりヴォーカル・ラインをベースでもユニゾンで弾いている。結果、僕ひとりでは出せない浮遊感があるんです。
⎯⎯ その浮遊感こそが、全体を通して今作のキモですよね。
笹久保 伸 うん。僕の音楽はわりと湿気があるんだけど、今回ブラジルの音楽家たちとやることよって、軽味が出た。なんで俺だけだとこうならないんだろうと改めて考えさせられました。marucoporoporo との曲も湿気があるから、やはり日本人の特性なのかもしれないと思う。今回はほぼミナス系の人たちなので、特に浮遊感が強いですよね。一緒にやって、学ぶことが多かったです。これは和声ではなく感覚の問題なんだなと。メロディとちょっとずらして歌うとか。そういう微妙な感覚。彼らがどういう感覚でやっているのかが今回わかったので、これからは自分ひとりでもそういう音を作れるかもしれない。一緒にやって本当に良かったと思っています。
⎯⎯ あと曲名ですが、②の「アロルキスネ」と④の「リオエージャ」って何ですか?
笹久保 伸 「アロルキスネ」はアイヌ語で「こっそり」という意味なんです。この曲を作っている時に知り合ったアイヌの人に聴かせたら「アロルキスネだね」と言われて。「2月の川は表面は凍っているけど、その下では水が静かに流れている。その情景をアイヌ的宇宙観で表現すると“こっそり(アロルキスネ)”になる」と。その説明に感動して曲名に使ったんです。なぜアイヌの人とやりとりしていたかというと、秩父研究の一環です。秩父にはアイヌの風習やアイヌ語の地名が残っているんですよ。④の「リオエージャ」は造語で、秩父の川の中州に僕が勝手につけた名前です。
⎯⎯ 前作では新しいフェイズに入ったような印象を受けました。笹久保伸=ペルー/アンデス、そして秩父という強固なイメージがあったわけですが、もうそういうことも考えなくていいような新しい地平に立ったような気がしたんです。自分でも「笹久保伸という当事者になれた気がした」と語っていたし。そういう認識を前提に、今回の新作はどんな感じでしょうか?
笹久保 伸 音楽的内容は別だけど、当事者意識という意味では、前作の続きと言っていいでしょうね。自分と対峙しているし、既に自分自身が秩父そのものになっているから、ペルーとか秩父とか敢えて出さなくてもよくなっていると思う。だからこそ、もっと大きなステージで活動したいという思いがますます強くなっているんです。海外のレーベルからも出せるようになればいいんだけど……。
CDだけでなくLPもリリースされた『CHICHIBU』
取材日:2021年5月27日
笹久保伸の写真:花田勝暁
(ラティーナ2021年6月)
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