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[2024.7]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年7月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】
e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。
※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。
20位 V.A. · Congo Funk! Sound Madness from the Shores of the Mighty Congo River (Kinshasa / Brazzaville 1969-1982)
レーベル:Analog Africa [14]
アフリカ音楽のメッカとみなされたコンゴ音楽の黄金期である70年代の音源を中心としたコンピレーションアルバムがランクイン!アフリカ音楽のレア音源を復刻することで人気のドイツのレーベル “Analog Africa” からのリリース。
アフリカ中央部を流れるコンゴ川沿いにあるコンゴ民主共和国(旧ザイール国)の首都キンシャサと、対する北岸にあるコンゴ共和国の首都ブラザヴィルに実際に行って集めた音源約2000曲から厳選した14曲のファンク系ナンバーが収録されている。二つの都市のさまざまな側面を紹介し、有名無名を問わず、ルンバを新たな高みへと押し上げ、最終的に大陸全体、そして世界の音楽に影響を与えたバンドやアーティストにスポットを当てている。
当時の音源にどっぷり浸れる貴重な作品!
↓国内盤あり〼。(日本語解説付き、LPもあり〼)
19位 Dario Muci · Talassa
レーベル:Zero Nove Nove [-]
イタリアの音楽家、ダリオ・ムーチの最新作。イタリア南部のナルドー(ブーツの踵部分!)生まれ、コンサート活動を行いながら、サレント地方における口承伝承の研究を両立させている。音楽家であり研究者でもある彼は、ライブやスタジオでの音楽活動と、サレントの伝統的な歴史的人物とのコラボレーションにつながる研究活動を結びつけてきた。サレント地方で収集された民族音楽の資料と、独創的な芸術的プロジェクトとを組み合わせ、再構築した作品をリリースするために独立レーベルも設立している。
本作では、彼のフィールドワークであるサレント地方の伝統音楽から、歴史や、自然、人々、仕事、そこに発生する矛盾や問題を提言すべく彼自身が制作した楽曲が収録されている。一連の流れが物語のように感じられる作品。語り部のように歌い、効果的なコーラス、ドラマティックなメロディ、訴えかけるようなラップも入り、彼の物語に入り込んでいるかのような感覚さえ覚える。彼は、映画やドキュメンタリーのサウンドトラックにも参加しているそうで、その効果なのだろう。また、サレント地方はイオニア海に面し、バルカン半島やヨーロッパ、北アフリカとも近い地域で、各地の音楽がミックスされているのがとても魅力的。ゲストには、イタリアで有名な伝統音楽歌手の1人であり口承伝承の研究者でもあるEnza Pagliara(エンツァ・パリアーラ)も参加。ダリオのストーリーに花を添えている。
これまでの彼のキャリアが充分に活かされ、表現されている作品。とても惹き込まれる。
18位 Barcelona Gipsy balKan Orchestra · 7
レーベル:Satélite K [-]
スペイン・バルセロナで2012年に結成されたバルセロナ・ジプシー・バルカン・オーケストラ(Barcelona Gipsy balKan Orchestra:BGKO)の最新作、本作が7作目となるアルバム(タイトル通り!)。結成時のグループ名は、バルセロナ・ジプシー・クレズマー・オーケストラだったが、グループ創設者の脱退により2015年に現在の名前に改名(省略名は変わらないように改名したもよう)。改名以降も海外公演も行い、精力的に活動している。何人かのメンバーの脱退、新メンバーの加入があり、現在は8人構成で、カタルーニャ、バスクを含むスペインの他、イタリア、フランス、セルビア、ウクライナ出身の多国籍バンド。今まで多くのミュージシャンとコラボし、様々なスタイルを取り入れながら彼ら独自のサウンドを追求してきた。
伝統的なバルカン音楽をはじめ彼らのオリジナル曲も演奏する。ヨーロッパだけでなく、世界各地で演奏し聴衆の心を掴んできた。なんと、彼らのYouTubeのフォロワー数は約19万人で、再生回数は1億回を超えるそうだ!
本作も今まで以上にエネルギー溢れる作品で、聴いていると自然に身体でリズムを刻んでしまう。躍り方を知っていれば踊りたくなるのだろうが…。陽気な楽曲だけでなく、哀愁漂うメロディもあり、ロマ(ジプシー)音楽の特徴が感じられる。何よりグループの結束力が、音に反映されているのが一番いい!これは是非ライヴを体験したい!
17位 Atanda · Ọ̀mọ̀nílẹ̀, Son of the Soil
レーベル:One World [34]
ナイジェリアのSSW/ギタリスト、Atanda(アタンダ)の最新作。前作のデビュー作は2019年リリースで、本作はそれ以来となる2作目。
2016年に結成されたバンド「Afrojazz Messengers」の創設者/リーダーで、ナイジェリアをはじめアフリカ各地でのフェスやイベントで演奏してきた。同じナイジェリア出身のアフロビート・キング、フェミ・クティに賞賛され一緒に演奏もしてきた実力派ミュージシャン。アフロビートやジャズ、ブルース、アフリカの伝統音楽をスタイリッシュにミックスしたサウンドを展開している。
本作は、アフリカ人たちに自分たちの文化や遺産について目覚めさせることを目的とした意識的なコンセプト・アルバムとして制作された。アルバム最後の曲「Wake up Africa」でそれを物語っている。この楽曲では本ランキングにも登場したことのあるナイジェリア人ミュージシャン、アデデジ(Adédèjì)が、ギターとソウルフルなヴォーカルで参加している。ナイジェリア(ヨルバ人地域)発祥のポピュラー音楽ジュジュや、ガーナ発祥の音楽ハイライフなどの要素が散りばめられており、先人たちが築いてきたアフリカ伝統的な音楽ジャンルが表現されている。
パーカッション、ホーン隊、コーラスが贅沢に使われ、洗練されたサウンドに釘付けになる。アフリカの底力を感じさせる作品。
16位 Tarwa N-Tiniri · Akal
レーベル:Atty [16]
2012年幼なじみ達で結成したモロッコの5人組バンド、タルワ・ン=ティニリの最新作。本作が2作目となる。バンド名は「砂漠の息子たち」を意味し、「砂漠の民の文化と尊厳を永続させる責任を持つ世代」としてバンドの使命が凝縮されている。ベルベル族の遊牧民である彼らは、自分たちのルーツを讃え、豊かな遺産を世界と分かち合うために音楽活動を始めた。
本作タイトル「Akal」は、タマジグト語で「土地」のこと。自由な土地への帰属を表現し、文化を広め、モロッコのベルベル族の文化遺産を紹介するために、さまざまな土地へ音楽とともに旅をすることを表現している。
「砂漠のブルース」を演奏するバンドは近年よく耳にするが、彼らは他のバンドとは一線を画している。伝統的なベルベル族の音楽、北アフリカ特有のメロディーが、ブルース、ジャズ、レゲエやロックのリズムとシームレスに融合している。もちろんモロッコの伝統音楽であるグナワ音楽もミックスされ、彼ら独自の魅惑的なサウンドを生み出している。
本作ではゲストでモロッコの NUKAD、オランダの Thijs Borsten、ノルウェーの Elin Kåvenなど、多彩なミュージシャンも参加。モロッコだけでない世界観も表現している。
15位 A Cantadeira · Tecelã
レーベル:Repasseado [-]
ポルトガルのSSWジョアナ・ネグラォンのソロプロジェクトとしては1作目、「A Cantadeira」名義としてのリリース作品となる。
1983年ポルトガルのセトゥーバル生まれで、ポルトガルの伝統音楽、口承音楽を追求してきたミュージシャン。1999年に結成したポルトガル伝統音楽のバンド Dazkarieh に所属し、2014年まで活動(現在は活動休止中)。その後、ポルトガルの口承伝統音楽だけに基づいた音楽グループ Seiva を結成し、現在も活動している。バンドでは彼女は、歌と、ポルトガルのバグパイプ、ポルトガル、スペイン周辺の伝統楽器である角型タンバリンのアドゥフェ(Adufe)を担当している。本作でもバグパイプやアドゥフェも彼女自身が演奏している。
本作タイトルは「織り手」という意味が込められており、女性をテーマにした内容で、網のように織りなすということで制作された。今までの音楽活動の中で触れてきたポルトガルの伝統的な歌と、それにインスピレーションを受けた彼女自身のオリジナル作品が収録されている。フィールドワークを行った時に知り合ったポリフォニックな歌を歌うポルトガル中北部出身の女性たちも参加。伝統的な音楽を守ってきた彼女のこれまでのキャリアが充分に反映された形となっている。
先祖伝来のサウンドスケープと現代的なサウンドスケープを美しく織り交ぜ、その中心には彼女の圧倒的な歌声がある。そして、バグパイプや伝統的な打楽器も美しく重なり、とても見事な仕上がり。ポルトガルの作品なのだが、どこだかわからなくなるような不思議な感覚を覚える。とても惹き込まれる美しい作品。
14位 Kiran Ahluwalia · Comfort Food
レーベル:Six Degrees [7]
インド生まれでカナダ在住の女性ミュージシャン、キラン・アフルワリアの8作目となる最新作。現在はニューヨークとトロントを行き来しながら音楽活動をしている。カナダの音楽アワードである、JUNO賞を二度も受賞している実力派アーティスト。 子供の頃一家でカナダへ移住し、幼少の頃からインド音楽をはじめとした音楽を習得、大学卒業後には実際にインドにも行きあらゆるインド音楽の勉強を行った。デビュー後は世界中で公演し、これまでティナリウェンやジャスティン・アダムズなど多様なジャンルのミュージシャンたちとも共演、高く評価されている。
彼女を支えるバンドは、エレキギター、アコーディオンやオルガン、タブラ、ベース、ドラムからなる6人編成。リーダーは、彼女の夫でもあるパキスタン系アメリカ人ギタリストのレズ・アバシ。毎年開催されるダウンビート国際批評家投票で常にトップ10に入る名ギタリストである。
彼女の音楽は、インドの伝統的な歌唱法と、西洋のロックやジャズなどがミックスされた楽曲で、彼女の大陸を越えた生い立ちを反映している。本作でもそれが表現されており、聞いていてとても不思議な感覚。歌い方一つで聴こえ方がこんなに変わることに驚く。マサラミックス(スパイスみたい!)の音楽と言われるのも納得だ。
ポップなワールドミュージックとなっているが、本作ではプロテストソングも歌われている。ヒンドゥー原理主義や民族ナショナリズムに抗議する力強い曲、インドでのニューデリーで行われた女性だけの平和的抗議活動で、警官が女性たちに暴力を振るったことに対して抗議している曲など、大陸を超えて活動してきた彼女の情熱やエネルギーが感じられる作品。
13位 Quintet Bumbac · Héritages
レーベル:Collectif Çok Malko [15]
フランス出身の音楽家ダヴィッド・ブロシエ(David Brossier)を中心に2015年に結成された5人組、クインテット・ブンバックの最新作。ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバス、チェロなど弦楽五重奏のユニット。
ダヴィッドはバルカン半島や中東の音楽を独自の方法で表現する音楽家、作曲家、編曲家、演奏家であり、革新的なプロジェクトで現在の芸術シーンに関わっている。彼らが演奏するのもルーマニアやブルガリア、ギリシャ、トルコの伝統音楽やポピュラー音楽などで、ダヴィッドが作曲/編曲を手がけている。
5つの弦楽器は、超越的なループの中でそれぞれの音色がブレンドされている。リズミックなモザイクを構築し、それぞれの音が統合され5人でひとつの音を形成しており、何より音色が非常に豊か。ダヴィッド以外のメンバーたちのキャリアも多彩で実力派。拡がりのある音に驚かされると同時に説得力もある。ポピュラー音楽も収録されており、聴いたことがあるフレーズも!ダヴィッドのアレンジテクニックも堪能できる。
聴いていると、とても豊かな気分が満たされ、弦楽器で心が癒されるかのようだ。これはいいです。
12位 Ahmed Moneka · Kanzafula: Afro-Iraqi Sufi Soul
レーベル:LulaWorld [-]
バグダッド出身、アフリカのルーツも持つイラク人で、音楽/俳優/執筆とマルチな才能を持つアーティスト、アフメド・モネカのデビュー作。
音楽一家に育ち、アフリカとイラクの文化と伝統を尊重しバグダッドでアーティスト活動を行なっていたが、命を狙われたため2015年カナダへ亡命し、現在はトロント在住。故郷や家族、伝統から引き離された彼は、自分のルーツを思い出し、トロントでも音楽活動を続けた。
トロントでは地元のミュージシャン達とコラボレーションし、ユニット「Moneka Arabic Jazz」を結成、アラブの音階「マカーム」とアフロ・ジャズを融合させたサウンドを演奏、結成から僅か1年でトロント・ジャズ・フェスティバルで賞を受賞するなどトロントの音楽シーンに衝撃を与えた。
その勢いは本作で充分堪能できる。メロディはアラブ音階、グルーヴがアフロ・ジャズというあまり聴いた事のない組み合わせが実に面白い。イラクの伝統的な楽曲も彼独自のアレンジで、またアフメド自身のオリジナル曲も収録されている。伝統楽器も使われており、現代的な楽器との合わせ技も効いている。トロントに彼のルーツがうまく橋渡しされているなと実感できる作品。ファンキーでハマります!
11位 Sam Lee · Songdreaming
レーベル:Cooking Vinyl [3]
「サム・リー&フレンズ」で来日したこともある、イギリスのフォークミュージシャンで民俗学者のサム・リーの最新作。2012年にデビュー、本作が4作目となる。昨年、一年かけてレコーディングされ、プロデューサーのバーナード・バトラー(Bernard Butler)、長年のコラボレーターでありアレンジャー/作曲家のジェイムズ・キー(James Keay)とともに本作を作り上げた。
コントラバスやパーカッション、ヴァイオリンをベースに使っているが、アラビアのカヌーン、スウェーデンのニッケルハルパ、スモール・パイプなど、様々な楽器を取り入れている。また、ロンドンを拠点に活動するトランスジェンダーの合唱団、トランス・ヴォイセズ(Trans Voices)とフィーチャーした先行シングルも一曲目に収録されており、コーラスを交えた壮大な楽曲からスタートする。
彼はこのアルバムを、「屋外で過ごした時間に感じた感情のモザイクであり、私が目撃し、責任を感じているすべての複雑さを語り、表現することを許された内省的な瞬間に、芸術的に浮かび上がるものだ」と評している。
英国諸島の自然に直接関連し、その存在そのものを織り込んだ曲を歌うことで、サムは歌を通して土地と交わる伝統を再発明し、同時代化し続けている。まさに大地、自然を感じられ、何より彼の声が癒される。サムの新たな境地が見出された作品だ。
10位 Dobet Gnahoré · Zouzou
レーベル:Cumbancha [-]
コートジボワール出身、世界的にも活躍している女性シンガー/SSW、ドベ・ニャオレ(Dobet Gnahoré)の7作目となる最新作。2021年リリースの前作『Couleur』も本ランキングにランクインし高評価を得たが、本作はそれ以来のリリースとなる。前作に続き、アフリカの音楽と文化を称えながら、アフリカの社会問題も取り上げ、コロナ禍を経て社会の回復や団結力、コミュニティの力といったテーマを探求した楽曲の数々が収録されている。
本作のタイトル「Zouzou」とは、精霊や天使という意味で、実際にアルバムタイトルとなっている楽曲のMVでは、ドベたち出演者が天使の姿で登場している。このアルバムを通して、私たちが守らなければいけない天使(子供たちや弱い立場にいる人々のこと)の存在、目に見えない精霊たち、スピリチュアルなエネルギーの存在を認識すること、それらに寛大さを持つことをメッセージとして込めている。
アフリカの伝統的な音楽と現代的なアレンジや楽器がうまくミックスされて、洗練された現代アフロポップ作品に仕上っている。ドベの歌唱力もお見事で、彼女のエネルギーが存分に感じられる作品。今回10位で初登場だが、来月はもっと上位に食い込むのでは?と予想できる良作!
↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)
9位 Aziza Brahim · Mawja
レーベル:Glitterbeat [6]
西サハラ出身で現在はスペイン・バルセロナ在住のSSW、アジザ・ブラヒムの最新作。EPも含めると本作が6作目のアルバムとなる。
彼女の出身地である西サハラは未だ領土問題が解決しておらず「アフリカ最後の植民地」と言われているところ。アルジェリアと西サハラの国境近くの難民キャンプで生まれ育った彼女は、ラジオで世界から流れてくる音楽を聴きながら過ごした。10代でキューバに留学し、1990年代の深刻なキューバ経済危機を経験。1995年に19歳で難民キャンプに戻り音楽家としての道を歩み始め、2000年からはスペインで亡命生活を送っている。
2019年リリースの前作『Sahari』は各方面で高評価を博した。このアルバムのリリースツアーを行おうとしたところでパンデミックとなりツアーは中止となった。そして、2020年にはモロッコ軍とサハラ・アラブ民主共和国との衝突が激化、停戦していた西サハラでの戦争が始まってしまう。悲しみに暮れていた彼女に追い討ちをかけるように、彼女の最愛の祖母が亡くなってしまい、悲しみは頂点を迎えてしまう。それを救ったのが音楽制作で、本作のきっかけとなった。悲しみや喪失感から徐々にインスピレーションが生まれていったそうだ。
収録曲はアフリカの民族音楽や砂漠のブルースをベースにしているが、ロックやスペイン、キューバといった彼女が歩んできた要素もうまくミックスされ、彼女の生き様が表現されている。深い感情がこもった歌声は、今なお紛争が続いている故郷の人々へのメッセージが込められているように静かに胸に響く。
↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)
8位 Olcay Bayir · Tu Guli
レーベル:ARC Music [13]
ロンドンを拠点に活動するトルコ出身クルド人SSWオルカイ・バユルの最新作。フルアルバムとしては三作目となる。
10代の頃家族とともにロンドンに移住し、ロンドンの大学でオペラを学んだが、クラシック音楽は自分の進む道ではないと悟った。自身のルーツであるアナトリアの民謡を探究し、2014年1stアルバムをリリース。彼女独自のアレンジで5ヶ国語で歌った作品はは高評価を博し、イギリスのワールド・ミュージック・シーンで最も素晴らしく、最も魅力的なシンガーの一人と評された。
本作もアナトリアの伝統音楽をもとに、現代的なアレンジと西洋的な歌い方でアナトリアとロンドンの現代的なサウンドが絶妙にミックスされたサウンドとなっている。歌っている歌はどれもアナトリアの伝統音楽で、結婚式のダンス音楽、アナトリアの歴史を通して多くの女性が共有した経験を歌った歌、戦争の悲惨さを訴える歌など、女性に纏わる楽曲を集めている。
タイトル「Tu Gulî」とはクルド語で「あなたは薔薇(You are a Rose)」という意味。かつての女性達に敬意を表しながらも、時を超えて語り継がれてきたアナトリアの女性たちの物語を、彼女自身の世界観で表現している。これまでの彼女が拓いてきた豊かな音楽性を美しい歌声で披露している。言葉はわからなくとも、物語にどっぷり浸れるような作品。
7位 Aynur · Rabe
レーベル:Dreyer Gaido [4]
クルド出身のトルコ人歌手/作曲家/楽器奏者アイヌールの8作目となる最新作。20年以上にわたる彼女のキャリアの集大成とも言える作品で、ドイツとスペインで20人近いミュージシャンの協力を得てレコーディングされた。その面々は、スナーキー・パピーのマイケル・リーグ(エレクトリック・ギター)、中国出身の有名なピパの名手ウー・マンなど、注目すべきゲストも参加している。
愛や精神性、自由といったテーマを探求し制作された本作は、クルド音楽における卓越した声としての地位を再確認し、21世紀のクルド芸術の真髄を体現した。クルドの伝統的な要素と現代的な西洋の楽器や、クラシックやジャズなどのジャンルをミックス、東洋的な楽器も加わり文化的な融合を実践している。クルドの伝統音楽はもちろん、アップテンポなダンス音楽もあり、瞑想的な楽曲や、即興演奏もあり、それを優雅に美しくミックスし、多彩なサウンドが現代的に展開されている。
6位 Asmaa Hamzaoui & Bnat Timbouktou · L’Bnat
レーベル:Ajabu! [5]
モロッコの民族音楽グナワ音楽の女性として第一人者である若手ミュージシャン、アスマー・ハムザウィと彼女のバンドであるブナット・ティンブクトゥによる最新作。本作が2作目となる。
モロッコ・カサブランカで音楽家の父とダンサーの母から1998年に生まれたアスマーは、幼い頃からゲンブリ(3弦のリュート)を習ったり、父親のバンドにも加わったりしてきた。グナワの儀式に女性は欠かせないが、グナワ・ミュージシャンとしての女性はほとんどおらず、ましてや女性だけのバンドはなかったそうだ。2012年に女性だけのメンバーでバンドを結成、2017年グナワ音楽のメッカであるエッサウィラで開催されたグナワ・フェスティバルに出演しブレイクした。以降世界のフェスにも出演、世界に新世代のグナワ音楽を紹介している。今年のWOMADにも出演予定で、期待されている存在。一方で、伝統を重んずる一部のグナワ伝統主義者に反対されてもいる。
低音のゲンブリとリズミカルなカルカバ(鉄製のパーカッション)が催眠術のように続きググッと引き込まれる。「砂漠のブルース」とも言われるグナワ音楽特有の楽曲に、アスマーの表現力豊かなリードヴォーカルと、メンバーのコーラスが加わりじっくりと陶酔できる作品。グナワ音楽の不思議な感じが体感できる内容だ。伝統を存続させたいと願う彼女たちの熱い思いが伝わってくる。このまま活動を続けて欲しいと願うばかりだ。
↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり)
5位 Huun-Huur-Tu, Carmen Rizzo & Dhani Harrison · Dreamers in the Field
レーベル:Dark Horse / BMG [11]
ロシア連邦トゥヴァ共和国の4人組ユニット、フンフルトゥの最新作。トゥヴァの伝統楽器と喉歌を演奏する、1992年結成のベテランミュージシャンたち。日本での公演実績もあり、様々なミュージシャン達とコラボし、世界に広くトゥヴァの音楽を広めている。
本作では、グラミー賞に2度ノミネートされたプロデューサー/ミュージシャンのカルメン・リッツォと、ジョージ・ハリソンの長男でありシンガー・ソングライターとして活躍するダニ・ハリソンとコラボし、現代的なプロデュース、インストゥルメンテーションとの融合を試みている。
フンフルトゥの喉歌も充分堪能できるが、それだけでなくカルメン、ダニが加わったことによって、世界中を旅した気分になる楽曲に仕上がっている。レコーディングはトゥヴァをはじめとし、LA、ヨーロッパ、ロンドンで行われ、まさに楽曲も世界を旅してきた。
喉歌やトゥヴァの伝統楽器が現代的なサウンドと見事に融合し、魅力的な世界が広がっている。ゆったりと自然を感じられ、リフレッシュできる作品。
4位 Bassekou Kouyate & Amy Sacko · Djudjon, l’Oiseau de Garana
レーベル:One World [-]
マリのグリオミュージシャン、バセクー・クーヤテ(Bassekou Kouyate)と、その妻エイミー・サッコ(Amy Sacko)の夫婦名義の最新作。
バセクーは西アフリカの伝統的な弦楽器ンゴニの名手で知られており、アリ・ファルカ・トゥーレ、トゥマニ・ディアバテ、ポール・マッカートニーやU2など多くのアーティストと共演している。また、音色が異なるンゴニを演奏するバンド、ンゴニ・バ(Ngoni ba)を2005年に結成、世界各地のフェスでも演奏している。そのバンドのヴォーカルは妻のエイミーで、エイミーは「マリのティナ・ターナー(!)」と称されマリの人気シンガーの1人。
本作は、バセクーの故郷であるガラナ村(マリのセグーから60キロ離れたニジェール川の辺りにある他民族村)で録音、息子のマドゥ・クーヤテ(Madou Kouyate)も参加した。バセクー自身と友人のイブラヒム・カバ(Ibrahim Kaba)が共同プロデュースした作品。彼らのルーツを辿り、普遍的な物語を伝えることに重点を置いた自然なサウンドに仕上げた。そのためか、ンゴニの音色やパーカッション、エイミーの歌も実にシンプルで心地よい。
インストだけの楽曲もあるが、歌はマリの言語バンバラ語とフラニ語で歌われている。アルバム最後の曲「Macina」はバセクー自らが朗読のような形で思いを綴っている。言葉は理解できなくとも、魂から何か伝わってくるものがある。まさにマリのブルースと言える作品。彼らの故郷への旅に同行しているような気分にさえなる。
3位 The Zawose Queens · Maisha
レーベル:Real World [-]
東アフリカのタンザニア、ワゴゴ族のペンド・ザウォセとその姪リア・ザウォセによるデュオ、ザウォセ・クィーンズのデビュー作品。
ワゴゴ族はタンザニア中央部の丘陵地帯におり、優雅なポリリズムで、ポリフォニーの声楽、そしてフィドルのような弦楽器チゼゼ(chizeze)、指ピアノのような楽器イリンバ(illimba)、パーカッションのンゴマ(ngoma)などの伝統楽器を演奏することで知られている。1990〜2000年代にフクウェ・ザウォセが、世界にその音楽を知らしめた。そのフクウェの娘ペンドと孫娘にあたるリアが、このデュオ2人となる。フクウェは厳格で保守的だったため、かつてバンドでの女性の役割はバックコーラスを歌い、ンゴマの一部であるパーカッションのムヘメ(muheme)を叩くことしか許されなかった。しかし変化はゆっくりと訪れ、2002年から2009年ザウォセ・ファミリーとして若い世代も含めて再結成したとき、女性たちはコンサートでイリンバを演奏した。そして今回初めて、彼女たち二人がデュオとして前面に立ち、リード・ヴォーカルとパフォーマンスをすることになった。
イギリス人プロデューサーのオーリー・バートン・ウッドとトム・エクセルがプロデュースし、レコーディング、ミックスも行っている。オーリーらと彼女たちを繋げたのが、タンザニアを代表するギタリスト/シンガーのレミー・オンガラの娘アジザ・オンガラで、彼女はタンザニアの伝統を守り世界に発信する活動を行っている。また、タンザニアのバンド、ワムウィドゥカ・バンド(Wamwiduka Band )もゲスト参加しており、タンザニアの伝統音楽の今後も期待できそうだ。
本作では、伝統楽器だけではなく、現代の電子楽器との融合も行われている楽曲もあり、伝統的なサウンドがより印象強くなっている。そして、二人のハーモニーと伸びやかな歌声、催眠的な繰り返しがとても気持ち良い。イリンバの音色が二人を大きく包み込んでいて、その中で伸び伸びとダンサブルに歌っている姿が想像できる。いきなり3位に登場するのも納得で、全世界のファンが待ち焦がれていただろう作品だ。この夏はヨーロッパツアーも行われるとのこと、ぜひ彼女たちのパフォーマンスを体感したいものだ!
2位 Bab L’ Bluz · Swaken
レーベル:Real World [1]
2018年モロッコ・マラケシュでモロッコ/フランスの混成メンバーにより結成されたバンド、Bab L' Bluzの最新作。本作が2作目となる。2020年にリリースされた、デビューアルバム『Nayda』は、仏ル・モンド紙や、ニューヨーク・タイムズから称賛を受け、2021年のソングラインズ賞のフュージョン部門を獲得し、世界的にも高い評価を得た。
モロッコのグナワ音楽など、アフリカ北部マグレブのトランス的で推進力のあるリズムに根ざしており、サイケデリック、ブルース、ロック、ヘビメタにまで通じ、アクセル全開で楽曲が展開していく。MVではモロッコの弦楽器ゲンブリを弾いており、ゲンブリを現代の国際音楽シーンに広めるという夢を持つバンド。ぶっ飛びっぷりがとても気持ち良い!先月いきなり1位で登場したが、それが納得できるほどエネルギー溢れる作品。
自分自身を見失うことで自分自身を見つけるというのが、本作の中心的な信条だそうだ。温かみのあるアナログ・サウンドは、ジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリンなど70年代のロック・アイコンに、アフリカのトランスの美学をミックスさせており、神聖な霊の憑依を目的としたモロッコの儀式の影響を感じさせる。これらの融合したサウンドに説得力さえも感じられる。
フロントウーマンであるモロッコ出身のヴォーカル、ユスラ・マンスールの歌声が素晴らしい。シンプルな歌声ではなく複数音が混ざっているかのような歌声で、多様なメロディを歌いこなす技術に圧巻。そして、激しいリズムで強さを、ゆったりした楽曲では彼女の優しさも感じられる。聴いていて、頭がスッキリ覚醒し、だんだんとハマってしまう作品。堪らない!
1位 Ali Doğan Gönültaş · Keyeyî
レーベル:Mapamundi Música [2]
イスタンブール出身のトルコ系クルド人バンド Ze Tijê のリードヴォーカル Ali Doğan Gönültaş のソロ二作目となる最新作。前作『Kiğı』は2022年リリースで、本チャートにも5ヶ月間ランクインしていた。
クルドの弦楽器タンブールと、彼の歌だけでとてもシンプルな音。しかし、幻想的な彼の歌声と、魅惑的なタンブールの深い音色が絶妙に織り成されている。クルドの歴史や文化、そして個人的な経験を反映した歌で、ザザキ語やトルコ語などで歌われおり、豊かで魅惑的な作品。
アルバムタイトル『Keyeyî』とは、彼の母国語であるザザキ語で「家」を意味する。自身の故郷を思い出し、実家で過ごした時間や、そこで得た喜びや悲しみなど様々な思いを表現したアルバム。
彼の民族の物語に不可欠な音楽的遺産を受け継いでおり、豊かで魅惑的な音楽の物語を形成している。シンプルだからこそ刺さってくる作品。
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(ラティーナ2024年7月)
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世界の音楽情報誌「ラティーナ」
「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活…