[2022.2] 青木菜穂子 ⎯ ソロピアノ・アルバム『Tardes lejanas(遥かなる午後)』
文●花田勝暁
「セレステ・セプテット(Celeste Septet)」「クアルテート・コンフェイト(Cuarteto Confeito)」「オルケスタ・アウロラ(Orquestra Aurora)」などで活躍するピアニストの青木菜穂子が、ピアノ独奏を中心とするソロアルバム『Tardes lejanas(遥かなる午後)』を2月15日、リリースした。
収録曲は以下の通りで、タンゴの名作①③⑦⑩の他、青木のオリジナルの新曲②⑥⑨、ワルツの名作④、フォルクローレ・ピアニストのアリエル・ラミレスによるサンバ⑧、熊田洋の作品⑤は熊田とのピアノデュオの演奏だ。
音楽的には、日本でクラシックとジャズを、アルゼンチンでタンゴとモダン・フォルクローレを吸収してきた青木が、それらすべてを作編曲と演奏表現に還元しつつ、淡々と日々を過ごす中での等身大の希望が、青木菜穂子の、装飾の少ない、しかし一音一音の冴えたピアノの音によって表現されていると思う。
本作の制作に関して、青木菜穂子にインタビューを行った。
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⎯⎯ 今回のアルバムを録音することになった経緯を教えてもらえますか。
青木菜穂子 以前よりソロピアノでのCDを作ったらどうかというお声を少しいただいていて、でも難しいなとなかなか実現しなかったのですがコロナ禍でいろいろ中止になり時間が出来たので1人書いたり弾いたりしていたものをミニアルバムにしてみようと思いつきbishop recordsさんに相談したところとんとんと話が進みました。思ったよりコロナが長引いて曲がたまったのでもう一度スタジオで録音し、ミニアルバムからフルアルバムに変わりました。
⎯⎯ カバー曲の選曲基準を教えてください。
青木菜穂子 ピアノソロに合いそうなメロディの綺麗なタンゴやサンバの曲、今回しっとりしたアルバムを作りたかったのもあります。作曲家は被らないようにしました。
7曲目「Tierra querida (Julio De Caro)」だけはピアノソロで弾くイメージが個人的に無かったのですが1枚目の自己名義のアルバムタイトルでやはり好きなのもあり試しに編曲してみたものです。
有名曲を入れなければ等は全然考えませんでしたが、熊田さんとのピアノデュオだけは始めから入れたいと考えていました。
⎯⎯ オリジナル曲3曲の作曲のきっかけを教えてください。
青木菜穂子 「Florece en la madrugada」⎯ 特にないのですが何となく弾いていて出来た曲で、後半で曲が止まるあたりで花がポンと咲くような場面があったのでこのタイトルに。この曲をvibで弾いてもらいたくて相川さんに入ってもらいました。
「Tardes lejanas」⎯ 何も起こらない平和なパンパの午後をイメージしています。ブエノスにいた頃、エスタンシア(大きな農園・家)にたまに遊びに行っていてそのゆったりした時間の流れを曲にしています。milonga pampeanaのリズムで。(とはいえアルバムではcbがジャズ寄りの方なのでリズムはあまり前面に出ていません。ソロではもっとミロンガの感じです)懐かしさも込めてこのタイトルに。
「La Estanciera」⎯ ブエノスで一緒のバンドにと声をかけてくれたコントラバス奏者が亡くなって10年近くなり、その友人とのたくさんの想い出を曲にしました。
今回、ピアノソロのアルバムの予定でしたが、やはりこの曲はコントラバスに入っていただきたいなと、学生時代からの友人コントラバス奏者河崎純さんにお願いしました。「エスタンシエラ」とは車のメーカー名で彼自慢のエスタンシエラで仕事に気分転換にとよく乗せてくれました。エアコン無しワイパー動かず不穏な音がいつも聞こえるボロボロの愛車(クラシックカー)の懐かしく楽しい思い出からこの曲名にしました。
⎯⎯ プロデューサーの近藤秀秋さんから、何かアドバイスはありましたか?
青木菜穂子 近藤さんからは、音作りはもちろん、演奏以外の全てにおいてご意見いただきまして、このアルバムは私の名前になっていますがほとんど近藤さんとの共作です。
⎯⎯ ジャケットのアートワークについて教えてもらえますか?
青木菜穂子 以前よりお世話になっている古谷悠子さんにデザインをお願いしました。こちらからは特に何も希望を出さずに曲を聴いた印象でデザインしていただきとても素敵な作品になりました。「楽曲とタイトルからピアノの鏡面に映った明るい午後の日差しをイメージして制作しました」(古谷さん談)。中面は夕暮れのイメージとの事でこの色合いもすごく綺麗なのでこちらも是非開けて見ていただきたいです。
(ラティーナ2022年2月)
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