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[2020.12]アルゼンチン音楽特集 コルドバ・シーンの今 (Vol.1)

文●宮本剛志

 首都ブエノスアイレスから北西に約700km、国土の中央部に位置するアルゼンチン第2の都市コルドバ。アルゼンチンの音楽について語られる場合、ブエノスアイレスや、カルロス・アギーレやセバスティアン・マッキなどが活動する中北部パラナー、アカ・セカ・トリオやクリバスを輩出したブエノスアイレスにほど近いラ・プラタが日本では中心的に語られてきた。しかしロドリゴ・カラソやアシィなどを中心に、昨今のコルドバ・シーンはアルゼンチンの音楽を語る上では欠かせない存在になってきている。
 とはいえコルドバに音楽シーンがなかったわけではない。コルドバといえば、COVID-19の影響で惜しくも亡くなった、フォルクローレとジャズやクラシックを結びつけた偉大なピアニスト、マノロ・フアレスを生んだ地であり、フォルクローレの一大フェスティバルであるコスキンが行われる地であり、クンビアにも似た大衆音楽クアルテート発祥の地でもある。しかし今回のディスクセレクションに選んだ作品はそうではない。あくまでも筆者の関心によるものだが、現在のコルドバ音楽の中心は、インディペンデントな音楽であり、それはつまりシンガーソングライターやインディーのバンドやミュージシャンたちだ。
 筆者は一度しかコルドバに行ったことがない。それはロドリゴ・カラソが2015年末に発表した2ndアルバム『Oír e ir』のリリースライブだったが、なぜこんなにもコルドバの音楽が2010年代後半から2020年現在にかけて面白くなっているのか、という具体的な答えはわかりかねる。それは大学が多くあり、なかでも17世紀に創立された南米最古の大学であり、チェ・ゲバラの出身校としても知られるコルドバ国立大学のような学校の存在かもしれないし、ブエノスアイレスに次ぐ人口の多さや経済によるものかもしれないし、都会的なブエノスアイレスに比べて自然豊かで広々とした土地柄によるものかもしれないし、シンガーソングライターやインディーのそれぞれのシーンの連帯によるものかもしれない。ここで筆者が過去行ったインタビューから一部抜粋する。

●ロドリゴ・カラソ

 「コルドバは強力な都市です。世界中の多くの都市と同じく、自らの表現を発展させながら活動しているアーティストがとても多いですし、そこに住む人々には政府が行う文化事業という枠を超えて文化的な活動を支える強い精神があります。そしてそれらが人類的な価値を共有することを可能にしていると思います。」 (月刊ラティーナ2016年4月号掲載のインタビューより)

●クララ・プレスタ
 「コルドバには音楽、そして作曲家が大勢います。特に感じるのは”うた”のスタイルの成長です。それは多様なサウンドやジャンルを内包しています。際立って素晴らしいのは、そのアーティストの間に同じ問題に取り組むコレクティヴが生まれているということ。 我々は常に共に歩み、手助けし、力を合わせ、外へ向かうためにコミュニケートしています。」 (月刊ラティーナ2018年7月号掲載のインタビューより)

 また同じく筆者が過去行った下記のインタビュー記事では直接的にコルドバ・シーンについて語っている訳ではないが、コルドバの音楽についてよりよく知るためのテキストにはなっているはずだ。

●カンデラリア・サマール (月刊ラティーナ2015年12月号海外ニュースページ掲載)
●デ・ラ・リベラ (月刊ラティーナ2017年7月号掲載)


●アシィ (月刊ラティーナ2018年11月号掲載)

 それではここからはコルドバ・シーンのアーティスト、作品について書きたい。ジャンルを超えての連帯やひとつのジャンルに収まらない音楽性の場合もあるが、ここではディスクガイド的にジャンルごとに書いているので、まずはジャンルごとにでもぜひ聴いていただきたい。このディスクセレクションがコルドバの豊穣な音楽を知るための助けになれば幸いだ。

■シンガーソングライター


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Rodrigo Carazo『Octógono』(2020)

 まずご紹介したいのがシンガーソングライターのシーンだ。筆頭はコルドバ・シーンのハブであり、カルロス・アギーレのレーベル、シャグラダ・メドラから新作『Octógono』をリリースしたロドリゴ・カラソだ。インディーフォーク〜ロック、アフリカ音楽がなめらかに融合したその音楽性は唯一無二。コルドバの音楽家のみならず、世界各地の音楽家もゲスト参加した本作こそコルドバを代表するマスターピースだ。Spotifyには本作に影響を与えた曲をプレイリストとして本人が公開しているが、アルゼンチンの音楽が半数を占める中、ニック・ドレイク、パンチ・ブラザーズからジェイコブ・コリアー、ダーティー・プロジェクターズとロドリゴがかなり広範囲に音楽を聴いていることがわかるだろう。ロドリゴの作品とともにこちらもぜひ一聴いただきたい。


『オクトゴノ』にインスピレーションを与えた作品


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Así『Compartidas』(2020)

 また、そのロドリゴの親友であるゴンサ・サンチェスのプロジェクト、アシィもコルドバを語る上では欠かせない存在だろう。当初は4人組ロックバンドとして結成されたが、次第にソングライターでシンガーであるゴンサのソロ・プロジェクトへと変貌しつつある。しかし全体を通して存在するジャズ的なイディオムやインディー的なサウンドとスピネッタを思わせるAORなソングライトが融合した音楽性はまさに21世紀のアルゼンチン・ロック。


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Banti『Proyecciones』(2019)

 次に挙げたいのが、ロドリゴ、アシィともにアルバムに参加している、鍵盤奏者サンティアゴ・バラバジェのプロジェクト、バンティだ。彼の音楽はミルトン・ナシメントやトニーニョ・オルタといった、かつてのミナス派「クルビ・ダ・エスキーナ(街角クラブ)」と呼ばれる音楽性に近いが、リズムにおいてはウルグアイ伝統のリズムであるカンドンベを取り入れている所に意外性がある。


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L'Esec『Los objetos en el espejo están más cerca de lo que parece』(2016)

 L'Esecはアシィにも参加する鍵盤奏者、エセキエル・ベルティーノのソロプロジェクト。ヴェイパーウェイヴ的なシンセサウンドや80年代的な打ち込みのトラックが特徴だ。とはいえ、インストゥルメンタルではなく、あくまでも歌ものというのがコルドバ・シーンの連帯を感じさせる。またL'Esecは同郷のインディーデュオ、バルデスの作品でもゲスト参加やリミックスを手掛けてもいる。


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Clara Presta - Fede Seimandi『Casa』(2018)

 歌手、鍵盤奏者のクララ・プレスタとコントラバス奏者のフェデ・セイマンディは、ともにロドリゴのアルバムにもゲスト参加する間柄だが、彼らのアルバム『Casa』も歌心にあふれた素晴らしい1枚。透明感あふれる歌、そしてピアノの響きは、編成は違うがフレッド・ハーシュとノーマ・ウィンストンの名作『Songs & Lullabies』やECMの諸作をも思い起こさせもする。

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