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[2011.03] 新旧ウルグアイ名盤30選

選●谷本雅世・西村秀人
文●江利川侑介・谷本雅世・西村秀人

①El Kinto 『El Kinto』

マテオとラダを中心に結成されたバンド、エル・キント。欧米ロックからの影響を始点としながらも、ここで聴ける音楽は全くもってオリジナルである。マテオの図抜けた作曲編曲能力、ラダの湧き出るファンクネスが出会った結果、ウルグアイや南米といったカテゴライズを超越した名盤が生まれたのだ。(江利川)


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◆Lion Productions <US>
LION 612(2006年)
(Original: Clave 1969-1969)


②Totem 『Totem』

様々な音楽を咀嚼しつつも、カンドンベを中心としたラダ流ファンクネスに染め上げてしまうのが、一貫したラダの作風といえる。初期キャリアにあたる本作、トーテムの1stアルバムでも、その色合いは既に濃厚。ロックやソウルにラダ汁がたっぷりと注ぎ込まれ、多彩なリズムが何の違和感もなく同居している。(江利川)

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◆Vampi Soul
CD035 (2004年)
(Original: Discos de la Planta 1972)


③Diane Denoir - Eduardo Mateo 『Inéditas』

マテオとディアン・デノアが1967年に録音した未発表音源を中心にボーナスを加えた作品。マテオの代表曲M1、M15なども無論素晴らしいが、面白いのはM5からのボサノヴァ名曲カバー。ボサノヴァの誕生はウルグアイの音楽家達にも刺激を与えたが、ここで聴けるカバーは明らかにマテオ色に染まっている。(江利川)

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◆Los Años Luz
LAL 076 (2008年)
(Original:Vade Retro 1966-1968)
※日本盤:BNSCD-750

④Rubén Rada 『Montevideo Dos』

ウルグアイ音楽を代表するアーティスト、ルベン・ラダ名義のアルバムながら、もう1つの才人ウーゴ・ファトルーソのファンク・ジャズ・アレンジと、モダンなキーボード・ワークが結実した密月的作品。ラダのプリミティブ・アフロとソウル・ファンクのバランスを絶妙に惹き立てる内容で、豪華メンバーのサポートぶりも最高。(谷本)

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◆Big World <US>
BW2018(1999年)

⑤Hugo Fattoruso & Rey Tambor
 『Puro Sentimiento』

カンドンベ太鼓グループ「レイ・タンボール」とウーゴのピアノによるカンドンベ+ジャズ・プロジェクトの3作目。強烈な呪術性を伴ったカンドンベと、メロディアスで印象に残りやすく、かつ自由度の高いウーゴのピアノが生み出すグルーヴは唯一無二。本作によって日本の多くの音楽ファンにカンドンベの言葉を知らしめた。(江利川)

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◆Barca <AR>
SLC690(2010年)
(Original: Sondor 2010)


⑥Jaime Roos 『Clásicos - Todos Sus Hits』

ウルグアイ・ロックの雄でSSW、優れたプロデューサー&アレンジャーとしても活躍のハイメ・ロスによるSONY BMGからの1977~2006年音源・ベスト盤。ウルグアイ音楽界・重要アーティストの大半がゲスト参加し、ムルガやカンドンベも本格的にフィーチャーしている名曲集でまさにこの時代のウルグアイ音楽史が堪能出来る必携の一枚。(谷本)

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◆Sony=BMG <AR>
8869 73221-1
(Original: Orfeo 1977-2007)

⑦Fernando Cabrera
 『El Tiempo Está Después』

リリアナ・エレーロ、ホルヘ・ドレクスレルなど大物アーティスト達から今なおリスペクトを集めるフェルナンド・カブレラの過去3枚のアルバムからのベスト盤。若き日のカブレラ節炸裂、カーニバル直後のどことなく寂しげなモンテビデオの街を描写したM2など美しい詩も評価が高い。ゲストにエドゥアルド・マテオ、マリアナ・インゴルド他。(谷本)

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◆EMI=Orfeo <AR>
724386319821(2004年)
(Original: Orfeo 1985-1989)

⑧Washington Canario Luna
『Todo a Momo-Otra Vez Carnaval』

「ムルガの声」と呼ばれた名歌手カナリオ・ルナがハイメ・ロスのプロデュースで発表した初期の2枚をカップリング。名曲「ピエロに乾杯」、タンゴからのアレンジ「帰郷」などを素晴らしい節回しで聞かせる。ムルガをベースにしたウルグアイ・ポピュラー音楽の展開という観点からも重要な作品。(西村)

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◆Orfeo 8594912
(1991年)
(Original: 1986 & 1989)

⑨Jorginho Gularte Bando Sur
 『La tambora + Influencia』

稀代のパーカッショニスト、ホルヒーニョのポップ・カンドンベの傑作(1984年)とロック主体の1987年作品のカップリング。冒頭の「タンボール・タンボーラ」は永遠の名曲。2002年に謎の多い事故で障害を負い演奏活動から退いている。母マルタ・グラルテはカーニバル史に名を残すベデーだったが、事故直後に世を去っている。(西村)

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◆Sondor 8244-2
(Original: 1984 & 1987)

⑩Dino 『Montevideo Blues』

ロス・ガトスの活動でも知られるディノことGastón Ciarloが1971年に結成したバンド、モンテビデオ・ブルースのオリジナル・アルバムに、ボーナストラックを加えたもの。ブルージーなロックを基本としつつ、前進バンド、ロス・オルティコネス時代に比べると、楽曲のオリジナリティが格段に高まったのがわかる。(江利川)

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◆Lion Productions <US>
LION 614(2009年)
(Original: Macondo 1972)

⑪Pippo Spera 『A Buen Puerto』

エル・キントへの曲提供やファトルーソ兄弟によるバルカローラ、更には「クルビ・ダ・エスキーナ2」への参加でも知られるSSW、ピッポ・スペラ。本作は彼の1stアルバムにシングル曲を加えたもので、マテオ直系の内省的な世界観を繊細な詩情で表現している。97年リリース作『Alguien Someone』も名盤。(江利川)

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◆Lion Productions <US>
LION 635(2009年)
(Original: Sondor 1977)

⑫Raíces 『30 años - Candombe Funk』

スピネッタ・ハーデはじめ、名だたるアーティストをサポートし自身のルーツであるウルグアイ性を追求し続け、2010年9月19日 55才で惜しくも亡くなったベト・サトラグニ。彼が主宰したカンドンベ・ファンク的アフロウルグアイ・ジャズ・フュージョン・バンドの結成30周年アルバム。グルーヴィな中に確かなテクニックとカリスマ性を宿す。(谷本)

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◆Melopea <AR>
CDMSE-5182(2008年)

⑬Osvaldo Fattoruso, Mariana Ingold, Leonardo Amuedo 『Ta’ vol.2』

1992年の第1集に続き、翌年録音されながら未発売となっていた傑作。エルメート、コルトレーン、ファトルーソの父に捧げられた曲を始め、カンドンベを中心としたパーカッシヴなサウンドに、パワフルなマリアーナのボーカルとアムエドのギターが冴える。ルベン・ラダも1曲参加。もちろん第1集も大傑作。(西村)

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◆Melopea<AR>
CDMSE5180(2008年)
(Orginal: 1993)

⑭Jorge Nasser 『Dúos』

NIQUELでの活動を経てソロで活動する国民的ロックSSW、ホルヘ・ナセルが全曲にゲストを迎えたオリジナル録音アルバム。ハイメ・ロス、ルベン・ラダといったウルグアイのアーティストからレオン・ヒエコ、テレーサ・パロディといったアルゼンチン人脈までが参加。彼の求心力の高さがうかがえる。(江利川)

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◆Acqua <AR>
AQ247(2009年)

⑮Daniel Drexler 『Micromundo』

海が好き・旅が好き・母国が大好き!という声が聞こえそうなラプラタ川流域ポップスのトップSSWに成長したダニエル・ドレクスレルの最新盤。多種多様な楽器を駆使したバンドによる重厚なアンサンブル、爽やかで良質なオリジナル曲はもはや兄ホルヘを超えた感さえある。(谷本)

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◆Aqcua Records <AR>
AQ240(2009年)

⑯Martín Buscaglia 『Temporada de Conejo』

抜群の楽曲センスと独創的な歌詞が同世代の若者に大人気のマルティン・ブスカグリア最新作。デジタル&テクノを駆使しつつ懐かしげだったり、泥臭さ感じさせる曲のさじ加減もさすが!近年は子供向けアルバム制作にも熱心。父はエル・キントのメンバーで名曲プリンシペ・アスールを作曲した故オラシオ・ブスカグリアで、母ナンシー・ググイッチはオラシオと共に “Canciones para no dormir la siesta” で子どものための歌のみならず「新しい歌運動 Canto Popular Uruguay(CPU)」を先導した功労者。(谷本)

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◆Los Años Luz<AR>
LAL085(2009年)

⑰Travesía, Asamblea Ordinaria, G.Lamolle
『Ni un Minuto Más de Dolor』

1980~90年代に活躍した3グループのカップリングCD。マイラ・ウーゴ、マリアナ・インゴルド、エステラ・マニョーネの女性コーラス・トリオ「トラベシア」のアルバムは素朴な透明感がきらめく歌唱の美しさが秀逸。このトリオはウルグアイ初の女性ボーカル・グループであり、男性優位のウルグアイ・カーニバル音楽に風穴を開けた記念碑的作品。(谷本)

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◆Ayuí PD2014
(1999年)

⑱Susana Bosch 『Las Canciones de Mateo』

長年子供のための音楽をやってきたスサーナ・ボッシュが制作した子供のためのエドゥアルド・マテオ曲集。といっても内容にはなんら子供っぽいところはなく、むしろマテオの音楽のエッセンスをよりよく伝える名盤といえる。ゲストとしてポポ・ロマーノ、フェルナンド・カブレラがそれぞれ1曲ずつ参加。(西村)

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◆Ayuí A/E 288CD
(2005年)

⑲Ana Prada 『Soy Sola』

女性バンド「ラ・オトラ」の活動を経た後、ルベン・ラダ等のバックコーラスや学生への音楽指導などしつつ発表したアナ・プラダのソロ・デビュー作。虫の鳴く声をバックにしっとりと癒しの歌声を聞かせる1に始まり、歌とギターを軸にシンプルに構成されつつも完成度の高さに目を見張る、オリジナル中心の秀逸アルバム。(谷本)

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◆Los Años Luz<AR>
LAL048(2006年)

⑳Dogliotti 『Candombe』

1939年生まれの音楽家/ピアニスト、ドグリオッティの1970年ウルグアイ・リリース作にボーナスを加えたもの。オルガンにカンドンベ・ビートを加えウルグアイのヒット・ソングを演奏したという輸出用ラウンジ音楽の類だが、カンドンベ+ジャズとしては先駆的。M19など今聴いても抜群にカッコイイ。(江利川)

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◆Vampisoul CD074
(2006年)
(Original: Sondor 1970-1972)

㉑Popo Romano 『Susurro Montevideano』

晩年のマテオとも共演、現在のウルグアイ音楽界で重要な活躍を続けるベーシスト、ポポの自己のグループによる4枚目のアルバム。バンドネオン、サックス、ピアノ、ドラムとのキンテート編成でのライヴで、ジャズやラテンをベースにした音楽だが、独自のウルグアイ色を感じさせるサウンドはベテランならでは。(西村)

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◆Ayuí A/E 345CD
(2009年)

㉒Daniel Maza en Trío 『Música Destilada』

ウルグアイを代表するベーシスト、ダニエル・マサをリーダーに、オズバルド・ファトルーソ(dr)、アベル・ロガンティーニ(key)を加えたトリオによるジャズ作品。卓越した技術に支えられた複雑多彩なアレンジの妙と、活き活きとした三者の個性。本当にいいフュージョンを聴いているという感じだ。(江利川)

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◆Mon Musique <AR>
No number(2003年)

㉓Nico Ibarburu 『Anfibio』

国内外著名アーティストをサポートする名門音楽一家・イバルブル家の若きギタリスト、ニコラス・イバルブルのソロ・デビュー作。スピネッタ、アンドレス・ベアウサエルト(アカ・セカ)、フリエタ・ラダ、ハビエル・マロセッティらが参加、ウルグアイ性をベースに新しい個性を発揮するニコを応援。M5は松田美緒の最新アルバム収録曲。(谷本)

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◆Barca <AR>
SLC681(2009年)

㉔Trío Mora-Etchenique-Ibaruburu 『Candelino』

1967年生まれのギター/バンドネオン奏者ニコラス・モーラをリーダーとしたジャズ・トリオ作品。典型的編成でありながら、ドラムのアクセントひとつとってみても、ウルグアイらしい個性を強く感じることができる。レオ・マスリアがピアノで1曲、そしてウーゴ・ファトルーソもアコーディオンで3曲ゲスト参加。(江利川)

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◆Ayuí A/E 355CD
(2008年)

㉕Daniel Libito Lagarde 『Ciudadela』

ウルグアイ音楽史上の重要バンド“トーテム”のメンバーで、その後欧州でも活動したベーシスト・歌手による、帰国後のアルゼンチン録音に95年のパリ録音2曲をボーナスとして加えたアルバム。アルベルト・マニョーネ、ニコラス・モラなどの強力メンバーをバックにしたがえ、ディアン・デノアも2曲に参加。(西村)

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◆Producciones Vade Retro
LL2154-2(1999年)

㉖Gustavo Ripa 『Calma』

30年近いキャリアをもつ名ギタリストが満を持して発表した、ありそうでなかったウルグアイ音楽ギター・インストゥルメンタル名曲集。エドゥアルド・マテオ、レオ・マスリア、マリアナ・インゴルド、フェルナンド・カブレラ、ハイメ・ロス、ホルヘ・ドレクスレルらウルグアイ音楽代表曲の数々を、湿度を帯びない優しさ慈しみを感じさせるギター・ワークで端正に演奏。(谷本)

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◆Ayuí A/E 357CD
(2009年)

㉗Alfredo Zitarrosa, Numa Moraes, etc 『Pa’l que se va』

アルフレド・シタローサの名曲を、本人の録音と、シタローサのオマージュ・アルバムからの音源でつづる編集盤。ヌマ・モラエス、カルロス・ビダル、ラルバノア=カレーロなど「新しい歌」系のアーティストによる先駆者シタローサのレパートリーの再創造が興味深く、本人との聴き比べも。(西村)

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◆Montevideo Music Group
2889-2(2003年)
(Original: Varios)


㉘El Kinto, Dianne Denoir, Eduardo Mateo, etc  『Musicación 4 y 1/2』

1966年から69年までに録音された、ウルグアイ・ポピュラー音楽初期の重要音源を含む1971年発表のコンピレーション。エドゥアルド・マテオとエル・キントを中心にディアン・デノア、ウルバーノ、ベロニカ・インダルトなどが登場。マルティン・ブスカグリアの父オラシオの作品や語りも。(西村)

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◆Sondor S1010
(1998年)

㉙Fernando Cabrera, Malena Muyala, Hugo Fattoruso, etc 『Regularte』

ある事件に巻き込まれ音楽活動出来なくなったパーカッショニスト、コンポーザーであるホルヒーニョ・グラルテを応援する意味を込め、ホルヘ・ドレクスレル、マレーナ・ムラジャな等各界を代表するウルグアイのアーティスト達が彼に捧げたオムニバス曲集。楽曲の素晴らしさとこのアルバムでしか聴けないレア・トラックに注目。(谷本)

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◆Tambora Records
No Number
(2004年)


㉚Jorge Galemire, Popo Romano, Liliana Herrero, etc 『Una de Cabrera-15 Artisitas Versionnan a Fernando Cabrera』

現代屈指のコンポーザー、フェルナンド・カブレラの名曲をジャンルを超えたアーティストたちがカバーしたアルバム。ウーゴ・ファトルーソ、ディノ、エステバン・クリスチ、フェルナンド・ウリビ、リリアーナ・エレーロ、ホルヘ・ガレミーレなどが登場、彼の幅広い影響力を感じさせる素晴らしい企画アルバム。(西村)

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◆SADDHU Records
SAD 3856-2(2007年)

月刊ラティーナ2011年3月号掲載に、若干の修正を加えました。

(月刊ラティーナ2011年3月号掲載)







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