[2021.03]日本盤販売決定 至高のカンドンベ・ジャズ・アンサンブル Nair Mirabrat 『Juntos Ahora』
文●宇戸裕紀
Text By Hironori Uto
昨年このグループがエドゥアルド・マテオの「El Tunguelé」のカバーをしていて注目していたのだが、今回リリースされたアルバム全体を聴いてみて驚いた。「現代のOPA」を想起させる管楽器、打楽器セクションを贅沢に取り入れた10人のミュージシャンによるアンサンブルの完成度の高さ、スタイリッシュな電子音に食い込むクエルダ・デ・タンボーレス(カンドンベの打楽器隊)が生み出すカンドンベ特有のグルーヴ…。何と言ってもブラジルからアントニオ・ロウレイロがプロデューサー(最後にコメントあり)として全面バックアップしており、個性的な楽曲の中に全体への統一感をもたらしている。そこにウーゴ・ファットルーソ、ニコラス・イバルブル、ラミーロ・フローレス、ペロタ・チンゴー、ジョアナ・ケイロスがゲストとして名を連ねるという豪華なラインナップ。国内盤CDとウルグアイからの輸入盤LPの発売を記念してウルグアイ音楽シーンの最前衛に立つグループとプロデューサーのアントニオ・ロウレイロに話を聞いた。
── ナイール・ミラブラットとは何を指すのでしょう。
Nair Mirabrat ナイール・ミラブラットはマルティン・イバラのオルター・エゴ(他の我)でありバンドの名前です。
── バンドの結成はどうやって?イニシアティブをとったのは誰でしょうか?
Nair Mirabrat モンテビデオ出身のマルティン・イバラがリーダーで、現在までにウーゴ・ファットルーソ、ギジェルモ・クレイン、ホルヘ・トラサンテ、ニコ・アルニチョ、ピノチョ・ロウティン、サラ・サバ他と共演してきました。2018年1月にメルセデス市(ウルグアイ西部の小都市)で行われたジャズ・ア・ラ・カジェ・フェスティバルでの演奏のため2017年末に結成されました。これまでにEP『Sondor』をリリースし、今回の『Juntos Ahora』が初めてのアルバムとなりました。
── 今どんな音楽を聴いていますか?
Nair Mirabrat 最近はシャイ・マエストロ、デヴィッド・クロスビーの『Here if you listen』、ソフィア・ガバール、ヴァネッサ・モレーノですね。
── アントニオ・ロウレイロをプロデューサーに迎え、アルバム全体で非常に重要な役割を担っていると思うのですがどういう経緯で知り合ったのでしょう。ブラジルのミュージシャンと積極的な交流があるのでしょうか。
Nair Mirabrat アントニオ・ロウレイロはメルセデスのジャズフェスティバルで知り合いました。アントニオはジョアナ・ケイロス、ハファエル・マルチニ、フレデリコ・エリオドロがメンバーのアソシアサォン・リヴリのドラム奏者として参加していました。そこからメンバーの全員と常に連絡を取り合っていてインスピレーションを与えてくれます。ウルグアイ音楽は常にブラジル音楽から湧き出る水を飲んできていて、逆にブラジルでもミルトン・ナシメントがエドゥアルド・マテオやレオ・マスリアーの楽曲を演奏してきたりしました。アントニオがこのアルバムに与えてくれたものは絶大で、プロデューサーとして非常に真剣に、自分のプロジェクトとして大きくコミットメントしてくれました。
── 同時にウルグアイ音楽のマテオ、カブレラ、ドレクスレル、ファットルーソといった先人たちの影響も強く感じます。ウルグアイの音楽家としてこれらの音楽家をどう位置付けていますか。
Nair Mirabrat ウルグアイ音楽のアイデンティティにおいてキーとなる人たちです。彼らはこの場所(モンテビデオ)のエッセンスを曲に上手く反映させ、さらにユニバーサルな言語を用いて語りかけることに長けています。絶大な影響を与えてくれたハイメ・ロースの名前もここに加えたいと思います。
── 日本人リスナーにとって、ウーゴ・ファットルーソの参加は決定的な要素です。ウーゴこそがウルグアイ音楽を日本に広めた張本人ですが、彼の存在は現代のウルグアイのアーティストにとって何を意味しますか。
Nair Mirabrat エドゥアルド・マテオと同じレベルで非常に重要な音楽家ピッポ・スペラが語るには、「ウーゴ・ファットルーソは音楽家ではない。音楽そのものだ」と。ウーゴはそこに存在するだけで多くのことを教えてくれ、彼との演奏は至福の時です。彼の音楽に対する感じ方、生き方は僕らの人生において決定的なものがありました。OPAの演奏は広大な音楽の園への鍵となり、そこには詩心が満ちあふれています。ウーゴのピアノという側面だけに耳を傾けがちですが、歌詞も実に美しい。
── 日本で非常に評価が高いジョアナ・ケイロス(クラリネット)の参加も驚きでした。
Nair Mirabrat ジョアナは長年の親友です。2009年に知り合い、その音楽性とたたずまいの美しさに驚きました。僕らは当時はまだ音楽家になる途上にあったのですがジョアナは当時からエルメート・パスコアルの流れを汲んで表現していました。彼女の存在は非常に大きく意義のあることなので参加してもらうことにしました。
── 現在新しい世代のウルグアイ音楽が次々と届いていて、カンドンベやウルグアイポピュラー音楽のフロンティアが拡大しています。アントニーノ・レストゥシア、トリオ・ベンタナ、ゴンサロ・レビン、マテオ・オットネーロやマヌエル・コントレーラのGAS、SOA …といったアーティストやグループの名前が挙げられると思います。このムーヴメントを構築していくに際してどんな要素がありましたか。またカンドンベをアイデンティティの一部に位置付けていますか。
Nair Mirabrat みんな友人で、小さい頃から知っていてお互いに影響を与えあっています。バックグラウンドとして道を拓いてくれた人たちがいて、僕らもその後を追いながら自分たちの道を拓き、パレットに新しい音楽を描いている。それはこの世代の振動としてモンテビデオという場所の中で呼応しあっています。
カンドンベは通りに満ち溢れていて、好むと好まざるに関わらず耳にするし、目にするもの。自分からカンドンベに近づいて心を開けば複雑にシンコペーションし、スウィングするリズムが血の中に脈々と流れていく。そういった接触を経るとカンドンベのリズムやタンボール(*)の有無に関わらず我々の音楽の中に流れる。カンドンベのエッセンスはこどもの頃から生きてきた全てを通して身体に流れているのです。
*タンボール:カンドンベで用いられる打楽器。ピアノ、レピーケ、チコの三種類が主に使用される。
Antonio Loureiro
プロデューサーのアントニオ・ロウレイロよりコメント
Q1.大きなインパクトを残しているこの作品の出来をどう感じていますか?
アントニオ・ロウレイロ プロデューサーを務めた中で最も誇りに思う作品の一つです。マルティンの音楽は新しく、フレッシュで、イノベーティブ。現代ウルグアイ音楽シーンの根幹となりうる作品の一員となれたことは誇りです。この機会が与えられると知って嬉しく思いましたし、制作プロセスも楽しめました。何よりも学んだことが多かった。マルティンは兄弟のような存在です。
Q2.ウルグアイジャズやウルグアイ音楽の印象、ポテンシャルをどう感じていますか?
アントニオ・ロウレイロ 正直なところこのアルバムはジャズシーンを超越していると思います。マルティンは類稀な音楽家、ギタリストでジャズやウルグアイ音楽の知識も尋常ではない。でもジャズでは分類はされないでしょう。ウルグアイジャズは非常に豊かで、現地に行って驚くのがリスナーがジャズをどれほど愛しているかということ。ベロオリゾンチの90年代から00年代にかけても同じようなことがありました。豊かな音楽シーンにおいて多くの音楽家が演奏していて、さらに優れた聴き手という土壌があった。
Nair Mirabrat: 『Juntos Ahora』
①Algarrobo
Martín Ibarra - vocal, guitars
Antonio Loureiro - piano, synthesizer, drums, percussion, vocal
Juan Ibarra- drums.
Rodrigo Fernández- base
Walter Gianótti- speaking voice
②Cando 2
Martín Ibarra - vocal, guitars, keyboard
Antonio Loureiro - synt, keyboard, percussion
Juan Ibarra - drums
Rodrigo Fernández - base
Ramiro Flores - alto sax
Jhonny Neves - tambor repique
Ricardo Nuñez - tambor piano
Leroy Perez - tambor chico
③Para Vencer
Martín Ibarra - vocal, keyboards, vaquero
Antonio Loureiro - base synthesizer, keyboards, electric drums, percussion, programming
Perotá Chingó - vocal
Rodrigo Fernández - ring modulator
Sara Sabah - chorus
Santiago Olariaga- iniciation message
④Hermano
Martín Ibarra - vocal, guitars
Antonio Loureiro - piano, synthesizer, base synthesizer, programming
Juan Ibarra- drums
Sara Sabah - chorus
⑤Grillo
Martín Ibarra - vocal, guitars, chorus, base, keyboard
Antonio Loureiro - drums, synthesizer
Juan Ibarra - drums
Sara Sabah - chorus
⑥En los verdes
Martín Ibarra - vocal, guitars, chorus, side guitars & solista at the end
Antonio Loureiro - drums, synthesizer, piano
Juan Ibarra - drums, chorus
Rodrigo Fernández - base, chorus
Santiago Acosta - tambor chico.
Sara Sabah - chorus
Joana Queiroz - clarinete, bass clarinete
Nicolas Ibarburu - solista guitar in the middle
Dolores Aguirre – voz en parte media
⑦Abriéndose camino
Martín Ibarra - vocal, guitars, chorus, base, keyboard
Antonio Loureiro - drums, synthesizer, vocal
Juan Ibarra - drums
Hernan Peyrou - vocal
Mauricio Rosencof - poem & recital
⑧Casa Rodante
Martín Ibarra - vocal, guitars
Hugo Fattoruso - keyboard
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Written by Martín Ibarra
Arranged by Martín Ibarra and Antonio Loureiro
Art production by Antonio Loureiro except “Casa rodante” produced by Martín Brizolara
Mix- Marcelinho Guerra
Mastering- Kiko Klaus
Sound engineer- Martín Brizolara & Emilio Ferraro
(ラティーナ2021年3月)
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