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[1985.10] ’85 日本の快バンド大放出その① 森本タケルとエラ・ジ・エスチ Takeru Morimoto e Era de Este

 e-magazine LATINA の2021年2月の特集「日本のラテンシーンを作ってきた人たち〜ブラジル音楽編」に関連して、中原 仁さんのご協力で、月刊ラティーナ1985年10月号からアーカイヴ記事を掲載します。

紹介人●中原 仁

 このページではこのところ日本国ラティーナ音楽圏で異彩を放っている面白いグループなどを、随時紹介していきます。

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 森本タケルさんの名前は、読者の皆さんならよく御存知だろう。サンバのこよなき愛情にあふれた文章を読んでいると、そこに書かれたアーティスト同様に、書き手である森本さんの人柄が浮かびあがってくる。
 しかし、彼の本来の姿、サンバ歌手としてのすばらしさを知る人が、意外に少ないのは残念だ。ひいき目でなく、ぼくは森本さんを日本一のサンビスタだと思う。そのフィーリングもさることながら、文章家としての彼同様、歌に暖かい人間性が感じられるところがすばらしい。森本さんが、最も敬愛するカルトーラの曲を歌う時、ぼくはとても幸せな気分になり、そして胸がキュンとしめつけられる。それは、カルトーラ自身やネルソン・カヴァキーニョ、そしてドリヴァル・カイーミの歌を聴く時と同質の感情だ。
 森本さんが率いるグループ「エラ・ジ・エスチ」の活動も3年目に入った。メンバーは、森本タケル(ヴォーカル)、笹子重治(ギター)、 秋岡欧(カヴァキーニョ、バンドリン)、八尋洋一(べース)、吉田和雄(ドラムス)、八尋トモヒロ、立嶋直樹(パーカッション)、大井研二(フルート)、山口卓也(トロンボーン)の9人。日本のサンバ界の精鋭がズラリそろった、何ともゼイタクなバンドだ。主なレパートリーは、サンバ・エンレード、カルトーラのサンバ・カンソン、そしてショーロ。「愛するポルテーラ」から「沈黙のバラ」。先月の末、FM東京のディレクターからサンバのスタジオ・ライヴのコーディネイトを依頼され、即座にエラ・ジ・エスチ・ウィズ向井滋春のセッションを組んだのだが、幅広く、しかも一本太い筋が通った選曲、演奏で、通から一般の音楽ファンまで楽しんでもらうことができた。ありがとう。
 この「通から一般のファンまで」というレンジの広さが、エラ・ジ・エスチの音楽の基本である。「音楽の好きな人達だけが集まって、楽しんでやればいいというのは、アマチュアの発想だよね。プロとして活動していく以上、サンバをまったく知らない人が聴きに来ても、何だかわからないけど、楽しい音楽だな、と思ってもらえるようにしなければ。だいたいぼくは、歌手というより芸人だと思ってる。『見せたい』という意識を持って、本当のエンターテインメントを生みだして行きたいね。」そんな森本さんの発言に、ぼくは無条件で賛同する。もっとも、森本さんは謙遜してこう言ったが、すばらしい歌手だからこそ正味の芸人になりうるのだと、ぼくは思うけどね。

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