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[2024.12]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2024年12月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 África Negra · Antologia Vol. 2

レーベル:Les Disques Bongo Joe [12]

 赤道付近に位置するアフリカの島国サントメ・プリンシペのグループ、África Negra のアンソロジー作品の第二弾。第一弾は2022年4月にリリースされ、本チャートに5ヶ月間ランクインしていた。今回は、ツアーマネージャーが残していたというスタジオテープからデジタル化された未発表音源の中から13曲を厳選し、リマスタリングした作品。前作リリース時にその情報が出ていて大変楽しみにしていたが、ようやくリリース!
 バンドは1974年に「Conjunto África Negra」として結成された。サントメ・プリンシペがポルトガルから独立した後、彼らはサウンドにさらにアフリカの要素を加えた。1976年ジョアン・セリアがヴォーカルとしてバンドに参加、軽快なリズムと優雅なハーモニーで最も成功した時代が始まった。何度かのメンバーチェンジを経て、バンドは1996年に解散。しかし、2008年より再び活動を再開、それ以来3枚の新作アルバムを発表し、現在もツアーを続けている。2023年にはヴォーカルのジョアン・セリアが死去し、サントメ・プリンシペで国葬が執り行われた。国葬が行われるほどの人だということは、このバンドがサントメ・プリンシペで最も重要で影響力のあるバンドであることを証明している。
 本作はそのジョアンへの追悼の意味も込められており、第一弾同様、サントメ・プリンシペ独自のPuxa(プシャ)と呼ばれる音楽、またプシャだけでなくルンバ、プシャとルンバが融合したエネルギッシュで陽気なリズムが堪能できる。エレキギターで奏でるキャッチーなメロディがとても心地良く印象的。

19位 Sinimuso · Nouskaa Sisaret

レーベル:Sinimuso [16]

 マリ国内のさまざまな音楽的背景を持つ女性ミュージシャンと、フィンランドの2人の女性ミュージシャンにより2022年に結成された女性だけのユニットSINIMUSO(シニムソ)のデビュー作。ユニット名はバンバラ語で「未来の女性たち」を意味している。
 フィンランドのフィン・ウゴル語族や北欧の音楽の伝統にしっかりと根ざしているカンテレ(フィンランドの伝統的な撥弦楽器)奏者、マルヨ・スモランダー(Marjo Smolander)はセネガルやマリで演奏する機会があり、そこから西アフリカの音楽に惹かれ始め、バマコの音楽学校にも留学。留学中に様々な音楽や、ミュージシャンたちと出会った。
 現在のマリでは、異なる民族間の交流や異文化交流は一般的だが、女性ミュージシャンの立場は依然として弱いままだそう。この音楽プロジェクトによって、女性ミュージシャンたちにネットワークを広げる機会や、互いに学び合う場を提供することを目的としている。2022年に開催された「World Wide Women〜国境を越え、未来を築く女性音楽家たち」というプロジェクトの一環としてこのユニットが生まれた。
 フィン・ウゴル語族のルーンソングとカンテレのメロディが、サハラ・ブルースやグルーヴィーなバンバラのビート、マリの木琴バラフォンが奏でるメロディとミックスされている。マリとフィンランドという文化が全く異なる2国の伝統音楽が本作で見事に融合している。そしてプロジェクトの目的でもある女性の生き方や、彼女たち自身と世界のために作りたい未来に触れるトピックを歌詞に反映している。
 国境を越えたコラボレーションで、大変意義のある活動を心から応援したい。とても面白い作品です。

18位 Vigüela · We

レーベル:Mapamundi Música [11]

 スペイン中南部のカスティーリャ・ラ・マンチャ出身のユニット、ヴィグエラ(Viguela)の最新作。2022年リリースの前作『A la Manera Artesana』も本チャートに長期間ランクインしていたが、本作はそれ以来で10作目となる作品。以前は5人組だったが、現在は4人で活動しているようだ。スペインの伝統音楽の遺産を探求し続け、それを現代に再構築し世界的に発信しているグループ。
 本作でも、スペインの舞踏音楽であるファンダンゴ、ロンディーニャ、セギディージャなど、スペインの伝統音楽が収録されている。彼らの祖先が不完全なまま残した古代の音楽言語を復活させる、というバンドのコミットメントが見事に反映されている。ギターや伝統的な民族楽器から、生活雑貨の瓶やフライパンまでも楽器として演奏、生活に根付いていた伝統音楽を演奏している。そして手拍子などを交えながら、力強くストレートに歌っているのがとても印象的。

17位 Aboubakar Traoré & Balima · Sababu

レーベル:Zephyrus [-]

 ブルキナファソ出身のカメレンゴニ(西アフリカの民族弦楽器)の名手アボウバカール・トラオレ(Aboubakar Traoré)と、多国籍なメンバーで構成されるバンド、バリマ(Balima)による最新作。本作が2作目となる。2019年リリースの前作は高く評価され、国際的なステージに出るきっかけとなった。
 西アフリカ諸国の階級社会では、伝統的にグリオの家に生まれない限り、コラやドンソンゴニを演奏することはできなかった。しかし、1960年代にカメレンゴニが作られ、一般の人々も演奏することが可能になると若者たちがそれに飛びついた。アボウバカールもその1人で、カメレンゴニや、グリオの伝統的な歌い方を独学で学んだ。
 本作は、アボウバカールのオリジナル曲を中心に構成され、バンドメンバーと共にアレンジされた楽曲が収録されている。ブルキナファソの伝統をソウルフルなジャズやレゲエなど現代的なサウンドと融合させている。エレキギターやドラムの音がありながら、カメレンゴニやバラフォン(西アフリカで使われる木琴で、木の枠組の上に固定した木片をバーとして下には共鳴用のひょうたんがが取り付けてある伝統楽器)の音色もきこえる。サウンド的にも見事に融合されているのが素晴らしい。
 またアボウバカールの力強いヴォーカルがとても情熱的。ブルキナファソの歴史に誇りを持ち、西アフリカの歴史を築いてきた人々への敬意を表しながら、故郷であるブルキナファソをはじめアフリカ全体に影響を及ぼしている社会・政治構造に異議を唱える物語を提示している。バンドメンバーとの掛け合いで歌っているのもとても良く、彼らの底力を感じさせるアルバム。

16位 Moana & The Tribe · Ono

レーベル:Black Pearl Ltd [-]

 ニュージーランド出身のSSWモアナ・マニアポト(Moana Maniapoto)、ニュージーランド先住民マオリ族のルーツを持つマオリ語学者のテ・マナハウ・スコッティ・モリソン(Te Manahau Scotty Morrison)、ニュージーランドのミュージシャン/プロデューサーのパディー・フリー(Paddy Free)によるユニットMoana & The Tribe の最新作。
 タイトルはマオリ語で「6」を意味する。ニュージーランドから始まり、彼らが公演を行った土地(ノルウェー、オーストラリア、台湾、カナダ、ハワイ、スコットランド)の先住民族6人の女性たちとコラボし、先住民族の言語、文化、声を紹介している。彼女たちの個性豊かなヴォーカルと、エレクトロニカ・ダブを見事に融合させており、希望と団結を象徴するようなまさにワールドミュージックと言えるアルバムとなっている。
 それぞれの場所は全く異なる地域であるが、このアルバムを聴くと地域の繋がりが感じられ、どこか統一性のあるサウンドとなっているのが不思議。各地域の連帯、植民地支配の経験の共有、そして先住民文化の豊かな多様性を称えている作品となっている。民族音楽という感じではなく、現代的なサウンドを展開しているところが素晴らしい。

15位 Ayom · Sa.Li.Va

レーベル:Ayom / Believe [7]

 地中海のアイデンティティを持つ音楽家たちのユニット Ayom の2作目となる作品。バンド名はアフリカ系ブラジル人のカンドンブレに登場する「音楽の神」を意味する。先々月14位で初登場して以来、今月もランクイン!
 ヴォーカルとパーカッション担当のブラジル人ミュージシャン Jabu Morales が2008年にバルセロナに移住し、イタリア人アコーディオン奏者Alberto Becucci、ギリシャ系イタリア人のパーカッショニスト Timoteo Grignani と出会ったことからこのプロジェクトが始まった。その他のメンバーは、アフリカのグルーヴとフラメンコを得意とするアンゴラ人ギタリストRicardo Quinteira、アンゴラ人ミュージシャン兼DJの Walter Martins、さらに、ブラジル音楽とアフロ音楽を専門とするベーシスト Francesco Valente。また本作のプロデュースはブラジル人パーカッショニスト/プロデューサーで、ベンジャミン・タウブキンなどとも共演経験のあるギリェルミ・カストルッピ(Guilherme Kastrup)が担当し、国際色豊かな面々による作品。
 ブラジルのフレーヴォやマラカトゥ、アンゴラのセンバ、カーボベルデのフナナーなど各国の伝統的な音楽と、メンバーが現在住んでいるバルセロナやポルトガルなどヨーロッパのグルーヴがうまくミックスされていてとても魅力的なサウンド!カンドンブレのオリシャの名前が付けられている楽曲もあって、カンドンブレがベースにあることがうかがえる。
 フレーヴォの楽曲にはブラジル人歌手のジュリアナ・リニャレス(Juliana Linhares)、センバの楽曲にはアンゴラのセンバを長年歌っている歌手パウロ・フローレス(Paulo Flores)、イタリアの50年代からの名曲を2017年のユーロヴィジョンで優勝したポルトガル人歌手サルヴァドール・ソブラル( Salvador Sobral)がゲストで参加している。
 タイトル『SA.LI.VA.』は、「SA」は「sagrada(神聖なもの)」、「LI」は「liberdade(自由)」、「VA」は「valentia(勇気)」の頭文字をくっつけたもので、精神性や自由、勇気をテーマにしたことを表している。
 我々を柔らかく包み込むような彼女の歌声がとても心地良く、アコーディオンとの相性がとても素敵。ブラジル音楽ファンだけでなく、ポルトガル語圏の音楽が好きな人にはたまらない作品!とてもいいです!

14位 Manu Chao · Viva Tú

レーベル:Because Music [23]

 伝説のラテン・パンクバンド、マノ・ネグラ(Mano Negra)を率いたスペイン系フランス人ミュージシャン、世界のレベル・ミュージック・シーンを牽引する代表格の一人で、リアルな最前線にい続けるカリスマ、マヌ・チャオ(Manu Chao)による最新作!
 ポップ、ルンバ・フラメンカ、シャンソン、クンビア、レゲエなどのジャンルからインスピレーションを得て、自身のシグネチャースタイルを貫いている。本作では、幅広い層にアピールする軽快でキャッチーな楽曲と、フラメンコやレゲエなどの陽気な側面を基調とした楽曲が収録されている。
 ゲストにアメリカのカントリーミュージシャン、ウィリーネルソン、フランス人、アルジェリアとカリブ海にあるフランス海外県グアドループにルーツを持つフランス女性ラッパー、レティ(Laeti:Laetitia Kerfa)もゲストで参加している。スペイン語、フランス語だけでなく、英語やポルトガル語でも歌われている。ポルトガル語で歌われている楽曲は、ポルトガル語圏とスペイン語圏の伝統を見事に融合させ、彼独自の世界を繰り広げている。
 これまで彼自身の周囲の世界や文化との深いつながりを探究し続け、彼の音楽的進化、世界旅行、社会正義への献身を反映させている素晴らしい作品。この不安定な世界を憂うかのようなマヌワールド全開の作品に圧巻!

13位 Ruşan Filiztek · Exils: De la Mésopotamie a L’Andalousie

レーベル:Accords Croises [9]

 トルコ南東部の都市ディヤルバクル出身のクルド人ミュージシャン/サズ奏者/歌手のルシャン・フィリステックの最新作。2021年にソロデビュー作をリリースしたが、本作はそれ以来2作目となる作品。
 幼い頃父親からサズを習い、青春時代はイスタンブールで過ごし、その後シリアやイラク、アンダルシアからヨーロッパまで音楽を通して旅をし、2015年にアルメニア人、トルコ人、クルド人が共存するパリのポルト・サン・ドニ地区に辿り着く。パリのソルボンヌ大学で民族音楽学の修士号を取得し、幅広い演奏活動や様々なミュージシャン達とコラボレーションを行い、現在はパリで活動している。
 本作タイトルは「亡命」を意味し、彼のこれまでに音楽的、人間的な探求を反映した作品となっている。フラメンコ・ギタリストのフランソワ・アリア、パーカッショニストのファン・マヌエル・コルテス、ケルトのフルート奏者シルヴァン・バルー、アルメニアのドゥドゥク奏者アルチョム・ミナシャン、ヴィオラ奏者のマリー=スザンヌ・ドゥ・ロワ、ギリシャの歌手ダフネ・クリタラス、フラメンコ歌手のセシル・エヴロット、ジャズ・ベーシストのレイラ・ソルデヴィラとエムラー・カプタンらの友情が織り成す作品となっている。
 まだ全作は聴けていないが、上記動画はフラメンコとのコラボレーション。フラメンコギターとクラップ、そしてサズが入り、楽曲は中東音楽とフラメンコが融合しているのがお見事!

12位 El Khat · Mute

レーベル:Glitterbeat [3]

 イエメンのルーツを持つミュージシャン、エヤル・エル・ワハーブ (Eyal el Wahab)がリーダーを務めるアラビック・サイケデリア・バンド、エル・カート(EL Khat)の三作目となる最新作。2022年にリリースした前作も本チャートにランクインしていた。イスラエルのテルアビブで結成され、前作リリース時にはテルアビブで活動していたが、2023年の夏に活動拠点をベルリンに移した。DIY楽器を巧みに用い、他の人が捨ててしまうようなものから音楽を作り出しているのが彼らの特徴である。
 本作でも個性的な音が溢れている。他に類を見ないDIYの打楽器や弦楽器の音と、ホーン楽器、オルガンなどの柔らかいメロディの音色、催眠的なイエメン音楽、すべてが一体となって中毒性のある陶酔的なサウンドスケープを作り出している。不思議な感覚にハマってしまう。
 タイトル「ミュート」はご存知の通り音を消すこと。距離や言葉、そしてその欠如を探求しているアルバムだとエヤルは言う。現在も続いているイスラエルでの戦争に対し、「我々イエメン系アラブ系ユダヤ人はガザ地区での戦争を非難します。戦争は沈黙であり、指導者の行動は沈黙であり、イスラム教とユダヤ教、あるいはその他の宗教を分断するのも沈黙です。肌の色や生まれた場所、民族性によって人を判断することは、無意味です。」と言っており、戦争に対するメッセージも込められている。実際に、本作最後の曲には曲中に30秒ほどの無音状態(沈黙)が入っている。
 メッセージ性がある作品だが、DIY楽器の素朴な音にほっこりし、豊かで包み込まれるような感覚もある。妥協することなく、冒険的に作られた、とても魅力的な作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

11位 Seckou Keita · Homeland (Chapter 1)

レーベル:Hudson [18]

 セネガル出身、現在はイギリス在住のコラ奏者セク・ケイタ(Seckou Keita)の最新作。近年はイギリスのハープ奏者カトリン・フィンチや、キューバ出身のピアニストオマール・ソーサなどとのデュオ、オーケストラとの共演したリリース作品が多かったが、本作は久しぶりにソロ名義の作品。
 タイトルは「故郷」を意味する。「故郷」とは何かと問いかけ、自身のアイデンティティ、イギリスという第二の故郷と母国セネガルとの関係を探求し本作で表現している。セネガル、イギリス、ベルギー、ドイツの4か国で2022年頃から録音・ミックスされたものが収録されており、マンディンカ語、ウォロフ語、英語、フランス語の4言語が使われている。
 アルバム冒頭とエンディングには、マンディンカ文化の継承者でありグリオであるアブドゥライ・シディベによる瞑想的な口調で語るパフォーマンスが置かれ、グリオのルーツを持っているセクならではの表現となっている。
 本作では他にも、セネガルのヒップホップグループで現在はフランスを活動拠点としている Daara J Family、英国の詩人ハンナ・ロウ、ゼナ・エドワーズも参加している。セネガルの伝統的なリズムを、アフロポップスやヒップホップ、さらにはスポークン・ワードの要素と融合させ、国境やジャンルを越えた作品。セネガルの豊かな文化を称えると共に、グローバル化した世界で生きることの課題や可能性について考えさせる内容となっている。伝統的でありながらも現代的で洗練され、そしてコラの美しい音色と彼の柔らかい歌声がなんとも心地よい作品。名盤です。

10位 Jake Blount & Mali Obomsawin · Symbiont

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings [37]

 アメリカ東部ロードアイランド州プロビデンスを拠点に活動するミュージシャン、ジェイク・ブラントと、カナダ、ケベック州オダナックの先住民族アベナキ族のルーツを持つセファルディム系ユダヤ人SSW、マリ・オボムサウィンによる最新作。
 ジェイクはブラック・フォークミュージックの演奏家として活動し、アフロフューチャリズムの道を切り開いてきた。それに加え自身の音楽活動に関する研究、ブラック・ストリング・バンドの音楽の歴史に関する講義やプレゼンテーションも頻繁に行い、教育者としても活動している。知識に裏打ちされたパフォーマンスを行うミュージシャンとして評価されている。
 マリは、バークリー音楽大学でアップライトベースを専攻し、2022年にアルバム『Sweet Tooth』でデビュー。エスペランサ・スポルディングなど著名なミュージシャンたちと共演、ジャンルの枠を超えた演奏で知られるベーシスト、作曲家、ボーカリストである。
 本作は先住民の未来主義を体現した斬新なコラボレーションアルバムとなっており、近年世界で起こる気候変動、人種問題をテーマにし、未来や現在形に関する問いを音楽で表現している。フィドルやバンジョー、ベース、シンセサイザー、ドラムマシンが使われ、お互いのルーツや活動を刺激し合うかのように、ジャンルにとらわれない素晴らしい音楽を創り上げている。自然の美しさや儚さ、そこに介在する人間の存在、歴史を表現している。

9位 Seun Kuti & Egypt 80 · Heavier Yet (Lays The Crownless Head)

レーベル:Record Kicks [4]

 現代アフロビートの最高峰、ナイジェリアのシェウン・クティと、彼の父である伝説的カリスマ、フェラ・クティから引き継いだバンド、エジプト80との最新作。ミラノのインディペンデントレーベル、Record Kicksよりリリース。グラミー賞にノミネートされた前作『Black times』から6年ぶりのリリースとなる。
 それだけでも話題作になること間違いないのだが、さらに本作のプロデュースは伝説的ミュージシャン、レニー・クラヴィッツがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、フェラ・クティのオリジナル・エンジニアであるソディ・マルシゼウアー(芸術プロデューサー)がプロデュースを担当。また、ボブ・マーリーの息子でレゲエ界のアイコン、ダミアン・マーリー、ザンビア出身のラッパー/SSWで、現代屈指の革新的な作詞家であるサンパ・ザ・グレートもゲストで参加している。
 本作は、アーティストとして、また活動家として、シェウンの輝かしいキャリアにおける重要な節目となる作品。前作以上にアフロビート全開でグルーヴ感がめちゃめちゃカッコいい!エンターテイメント性だけでなく、彼の行動力と解放の精神を鼓舞するアルバムと言えるだろう!

8位 Lo’Jo · Feuilles Fauves

レーベル:Yotanka / Integral [10]

 1982年フランスで結成されたベテランユニット、Lo'Jo の最新作。フランスの地方公演から始まり、ヨーロッパツアー、そして最終的にはアフリカやアメリカなどを含む世界ツアーをも行ったグループ。その様々なフェーズの中で、多くのミュージシャンが参加してきたが、現在は男性3人、姉妹の女性2人の混成5人組で活動している。創設メンバーであるデニス・ペアン(Denis Péan)、 リシャール・ブロウ(Richard Bourreau)の二人は現在も所属している。
 彼らの音楽はまさにワールド・ミュージックで、パンク、ジャズ、ロックから派生した音楽、そしてシャンソンなどフランスの音楽はもとより、ジプシー、アフリカなど世界のあらゆる音楽ジャンルやリズムを要素にした楽曲を創り、演奏している。本作でもそれは表現されており、ピアノ、ヴァイオリンなど西洋の楽器も使われヨーロッパの音楽を感じながら、ンゴニの音色も聞こえアフリカの要素も感じられる、グローバルなサウンド。
 また、コンゴ民主共和国のバンドで、昨年SUKIYAKIフェスで来日したJupiter & Okwess、レユニオン出身でフランスで活動しているアコーディオン奏者ルネ・ラカイユ(René Lacaille)、ハイチ系カナダ人のSSWメリッサ・ラヴォー (Melissa Laveaux)もゲストで参加。彼らの世界観に彩りを添えている。
 姉妹メンバーのハーモニーがとても息ぴったりで素晴らしく、そこにデニスの低音ヴォーカルが重なるとインパクトが大きくなる。幻想的で妖艶、アルバム全体に陰影が感じられ、彼ら独自の多様な音楽世界がたっぷり堪能できる作品。

7位 Lucibela · Moda Antiga

レーベル:Lusafrica [21]

 “黄金の声”、“世界が待ち望んだセザリア・エヴォラの再来”などと最大級の賛辞が送られてきたカーボ・ヴェルデ出身の女性歌手、ルシベラ(Lucibela)が3枚目のフルアルバム『Moda Antiga(昔ながらのスタイル)』を発表し、その深く包容力のある歌声を再び世界に届ける。
 本作について、ルシベラは、このようにコメントしている。
「『Moda Antiga』は、カーボ・ヴェルデの音楽遺産を称える作品です。このアルバムは、私にとって3枚目のアルバムであり、その名前が示す通り伝統的な作品です。数多くの古い楽曲が収録されていますが、同時に、この群島の伝統から逸脱しない新しい曲も含まれています。私のインスピレーションは、これまでずっと聴いてきたさまざまなアーティスト(歌手、作曲家、ミュージシャン)から得ています。また、これまでの私の道のりの一部となった人々や、日々接し、私たちの伝統をより深く理解する手助けをしてくれる人々からも影響を受けています」
 音楽監督とアレンジは、これまでの2作と同じくトニ・ヴィエイラ(Tony Vieira)が務め、ギターはセザリア・エヴォーラの音楽監督だったカーボ・ヴェルデの名ギタリスト、バウ(Bau)も担当している。その他、エルナーニ・アルメイダ(Hernani Almeida|ギター/サウンドエンジニア)、トチーニョ(Totinho|サクソフォン)も参加している。収録された楽曲は、Anu Nobu、Manuel de Novas、Mario Lucio、Zeze di nha Reinaldaなど、カーボベルデの著名な作曲家による人気曲が選ばれた。録音は、レーベルLusafricaの所有するカーボ・ヴェルデのミンデロのスタジオの他、オランダやフランスでも録音された。
 フレッシュな歌声を世界に届けたデビュー作『LAÇO UMBILICAL(2018年)』、カーボ・ヴェルデ女性にオマージュを捧げた作品『AMDJER(2022年)』と作品を重ね、ルシベラは、カーボ・ヴェルデの音楽遺産のルーツを深く振り下げる3作目『Moda Antiga』に到達した。

6位 BaBa ZuLa · İstanbul Sokakları

レーベル:Glitterbeat [-]

 1996年結成のトルコのオルタナティブ音楽グループ、BaBa Zula の最新作がランクイン!2019年リリース『Derin Derin』以来となる5年ぶりのスタジオ録音作品。
 トルコの民謡をベースにした音楽「ハルク」を基本とし、エレクトリックでディープなビート、ヘビーなダブの振動を取り入れたサイケデリックなサウンドを実験的に演奏してきた。ダルブッカやカシュイカーといった打楽器が伝統的なフォークダンスのリズムを奏でる一方、エレクトリック・サズを演奏し現代的な増幅効果を加えた奥深いアナトリアのムードを醸し出している。
 本作では、タクシーム(taksim)と呼ばれるトルコ古典音楽の重要な要素を取り上げ、トルコ音楽の伝統を現代的にアレンジする試みをさらに追求している。インドのラーガで通常冒頭に演奏されるアラープ(alaap)と密接な関係にあるタクシームは、伝統的には即興のイントロダクションであり、ルート音のドローン(持続音)にメロディのバリエーションを重ねて特定の音階のムードを確立するもの。20世紀初頭はトルコ文化において非常に人気があったが、その後この伝統は徐々に廃れていったという。それを本作でぜひ使いたいとバンド創設者であるムラト・エルテル(Murat Ertel)は思ったそうだ。
 アルバムタイトルは「イスタンブールの街角」を意味している。イスタンブルの駅のアナウンスやバザールの雑踏などの効果音を取り入れた楽曲もあり、まさにその風景を音で描いている。彼らの代名詞ともなっている催眠的なジャムもふんだんに盛り込まれていたり、モダンな雰囲気と伝統的なトルコのテイストが融合した独特のサウンドも展開しており、彼ら独自の世界をたっぷりと堪能できる。BaBa Zula ワールド全開の作品!いいです!

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

5位 Buzz’ Ayaz · Buzz’ Ayaz

レーベル:Glitterbeat [2]

 キプロスのバンド、ムシュー・ドゥマニが2022年夏に来日、日本のワールド・ミュージック・ファンに大きな感動を与えたことは記憶に新しい。そのの創設者であるアントニス・アントニウが新たに結成したバンド、バズ・アヤズ(Buzz' Ayaz)のデビュー作。4ヶ月にわたって上位をキープ!
 ヨーロッパ各地からの観光地として知られているキプロス島は、ギリシャ系住民とトルコ系住民の間で政治的な緊張状態にあり、島は分断されている。しかしエリアによっては、二つの文化が混ざり合い互いに文化的な交流が行われている。このバンドは分断されたキプロスが音楽的に融合することを目的に結成され、分断された両地域から集まった4人のメンバーにより構成されている。アントニスのエレクトリック・ジュラ(ギリシャの弦楽器)、トルコ系のドラム、ギリシャ系の鍵盤奏者によるベースシンセ/オルガン、キプロスに移住してきたイギリス人によるバスクラリネットという編成。
 60〜70年代のロックやサイケデリックオルガンがベースとなり、ギリシャとトルコが融合したメロディックなサウンドはとても重厚で、幻想的、催眠的に繰り返されるグルーヴ感がクセになる。ギリシャとトルコが融合した現代のキプロスのサウンドとも言え、彼らの目的が見事に成功している作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)


4位 Afro Celt Sound System · Ova

レーベル:Six Degrees [6]

 現代のワールドミュージック・シーンの先駆者の1つとも言えるグループ、アフロ・ケルト・サウンド・システム(Afro Celt Sound System)の最新作。1995年結成、メンバーは多国籍で、ケルト音楽のメロディと西アフリカの伝統音楽のリズムを現代的に融合させ革新的な音楽を作り上げている。アルバムの売り上げはトータル150万枚を超え、これまでに2度グラミー賞にノミネートされ、世界中でツアーを行っている。
 グループ創設者であるサイモン・エマーソン(Simon Emmerson)が昨年3月に亡くなってしまったが、亡くなる前からすでに構想は持っていて、まさに本作が彼の遺作となってしまった。彼亡き後も残ったメンバーでグループは存続することがサイモンの希望であった。サイモンへの追悼も込めてのリリースで、リリースツアーも行われることが決まっている。
 タイトル『OVA』は、古代ケルト人が信仰していた宗教ドルイド教の用語である「ovate」の略語を示している。彼らの過去のアルバムにも、O、V、Aの3文字が絡み合ったロゴが使われている。
 ケルトとアフリカそれぞれの楽器が使われ、うまい具合に融合されている。その他にもインドや中東の要素も加わっている印象を受けた。楽器の音色や熟練のヴォーカルを活かしつつ、現代のテクノロジーも程よく絶妙にブレンドされているのが素晴らしい。アルバム全体の世界観はさらに壮大なものになっている。彼らの約30年におよぶキャリアの集大成とも言える作品だろう。サイモンから受け継がれた音楽が、今後も聴けることに感謝!

3位 Mari Boine · Alva

レーベル:By Norse Music [5]

 ノルウェーのサーミ人歌手/作曲家、活動家、そして先住民族サーミ族の文化的な象徴でもあるマリ・ボイネのソロ最新作。今年初めにリリースされたノルウェーのジャズ・アーティストとのデュオ作も本チャートに3ヶ月ランクインしていたが、同年内にソロ作を発表。先月5位で初登場し、今月は3位と上位をキープ!
 先住民族であるサーミ族は、国内での認知度は高まっているがいまだ差別されることがあるという。1990年に国際的にデビューして以来、彼女のルーツとなるサーミ族の伝統歌唱ヨイクと、現代的な電子楽器の要素を取り入れたサウンドを展開し、サーミ族への差別と立ち向かってきた。この最新作でもシンセサイザーなどの電子楽器を最大限に活用した彼女独自のサウンドとなっている。
 本作では、厳格な宗教的環境での幼少期を捨て、活動家としての人生を歩むことを選んだ彼女の人生の一端を本作で表現している。サーミ族の文化や歴史を音楽を通じて世界中の人々と共有するという、彼女の孤独な使命と、彼女自身の旅や人間関係とのバランスを見つめ直す内容。それは、例えば彼女が自身の母親との関係を嘆いた楽曲や、彼女と息子の関係について考えを巡らせている楽曲などとなっている。アルバム最後の収録曲では、サーミ音楽界で有望な若手歌手のエラ・マリエ・ハエッタ・イサクセン(Ella Marie Hætta Isaksen)ともデュエットしている。異なる世代の2人の個性的な歌声が絡み合うのが幽玄的で非常に素晴らしく、サーミ族の連帯、パワーが感じられる。
 楽曲によって歌声を変化させているのがとても特徴的。遊牧民族であるため壮大な自然の中で開放感のある伸びやかな歌声があれば、嘆き悲しむ悲哀の歌声もあり、彼女の表現力に圧倒される。そして、デビュー以降も差別と闘い、革新的な音楽を創り続けている彼女の姿勢にも感服させられる。とても美しい作品。

2位 Nusrat Fateh Ali Khan & Party · Chain of Light

レーベル:Real World [1]

 パキスタン出身イスラム教神秘主義スーフィズムにおける儀礼音楽カッワーリーの歌い手として世界的に有名なヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの作品。彼は1997年に亡くなったが、この度新たな録音が見つかりリリースされることとなった。先月1位だったが、今月も上位をキープ!
 西洋の多数の聴衆の前で公演した南アジアで最初の歌手のひとりであり、1988年マーティン・スコセッシ監督の映画『最後の誘惑』のサウンドトラックに参加、これをはじめとしたいくつかのアルバムやサウンドトラックに参加し西洋や日本での知名度を上げることとなった。カッワーリーを西洋や日本の聴衆に知らしめた彼の功績は非常に大きい。
 本作は、1990年に Real World Records のスタジオで行われたセッションからの未発表音源で、まさに西洋に名を知られはじめた頃、彼の絶頂期ともいえる頃の音源。ヌスラットのメロディックでパワフルなボーカルが、タブラ、ハルモニウムの音色とコーラスと重なり、歌声のエネルギーや、メロディックな妙技が堪能できる。
 非常に素晴らしいパフォーマンス!未発表音源が発見されて本当に良かった!

1位 Justin Adams & Mauro Durante · Sweet Release

レーベル:Ponderosa Music [8]

 イギリスのギタリスト/作曲家のジャスティン・アダムズ(Justin Adams)と、イタリアの伝統音楽グループ CanzionIere Grecanico Salentino(CGS)のバイオリニスト/歌手/パーカッショニストであるマウロ・デュランテ(Mauro Durante)によるデュオ2作目。先月8位で初登場し、今月は堂々1位に!来ましたね〜。
 2021年にリリースされたデュオ1作目『Still Moving』についても、本チャートに5ヶ月もランクインしていて高評価だった。その前作のリリースワールドツアーによって形付けられ本作の制作へと繋がったそうだ。
 前作同様に骨太のロック、砂漠のブルース、そしてデュランテの故郷である南イタリア・プーリアの伝統音楽タランタが散りばめられているが、前作と異なる点は女性ヴォーカルのゲスト参加により、華やかな印象を与えていること。デュランテと同じCGSのメンバーのアレッシア・トンド(Alessia Tondo)、先月まで本チャートにランクインしていたモロッコのバンド Bab L’ Bluz のフロントウーマン、ユスラ・マンスール(Yousra Mansour)、ニューヨークのロック・ソウル・グループ Faith NYC のシンガー兼ベーシスト、フェリーチェ・ロッサー(Felice Rosser)が参加している。それぞれが異なるジャンルで活躍している実力派のミュージシャンだが、ジャスティンとマウロの手腕と化学反応により見事にそれぞれの世界観を表現している。多様な音楽がうまくまとめられた圧巻の作品。

(ラティーナ2024年12月)

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