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[2021.06]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2021年6月|20位→1位まで【無料記事 聴きながら読めまっせ!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。

  20位から1位まで一気に紹介します!

※レーベル名の後の()は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Luís Peixoto · Geodesia

レーベル:Groove Punch Studios (19)

 ポルトガルで最も優れた弦楽器(カヴァキーニョ、マンドリン)奏者の一人であるルイス・ペイショットの最新アルバム。ポルトガルのコインブラ出身の41歳の音楽家で、学生時代からイベリア半島のフォークや民族音楽のシーンで活躍し、様々なアーティストやユニットで演奏してきたが、ソロ作品としては2017年『Assimétrico』以来、二枚目の作品となる。
 ポルトガルをはじめとしたイベリア半島の伝統的な音楽を学んできたペイショットによるこのアルバムは、その伝統的な音楽をベースとしたオリジナル曲で構成され、彼のマンドリンを中心としたアコースティックなサウンドで、2人の友人(ギター&ヴァイオリン)とのトリオでの作品となっている。また、イベリア半島、カナリア諸島、カーボベルデ、フィンランドなど各地からのゲストミュージシャンも参加。ガイタ(ガリシア地方のバクパイプ)、バウロン(アイルランドのフレームドラム)、ティン・ホイッスル(アイルランド発祥の笛)、オクタビージャ(6本の複弦を持つギターのような形の弦楽器)など、ゲストの民族楽器による音色が伝統音楽の世界をさらに広めている。ポルトガルやスペインの各地方の伝統音楽から、ケルト音楽までを巡る旅、そして最後は自身の子供たちに捧げた曲が我々の心に寄り添うかのように締めくくられている。弦楽器の響きが何とも心地よい一枚。

19位 Kapela ze Wsi Warszawa / Warsaw Village Band · Uwodzenie / Waterduction

レーベル:Karrot Kommando (2)

 2018年に日本でもリリースしたアルバム『Mazovian Roots』が大好評で注目を集めたポーランドの若手ミクスチャー・バンド、ワルシャワ・ヴィレッジ・バンドの最新作。
 首都ワルシャワにて1997年に結成された彼らはポーランドを中心とした中欧の伝統音楽を、若い感性で現代化させた。ポーランドに生まれた古い弦楽器スカやポリフォニックなヴォーカル・スタイルなどを駆使し、伝統と現代の融合を図るミステリアスなサウンドを展開している。
 最新作のキーワードは「川」と「水」。アルバムジャケットも川を思わせるデザインとなっている。故郷ポーランドのヴィスワ川、その両岸に広がるワルシャワ近くの民族的に微小地域のウルゼッツェからも作品のインスピレーションを得ている。バンドのヴァイオリニスト兼歌手であるシルヴィアは「支流のある川は血流の一部であり、現代都市の憩いの場でもある。音楽でそれを捉えたかった」と語っている。筏によってマゾヴィア(ポーランド北東北部の歴史的な地域)にポーランドや世界との接触の機会を与えた。それは自由、近代性、独立性の息吹をもたらし、活気に満ちた文化的モザイクを作り出した。その様子がこのアルバムでは見事に表現されている。
 タイトル曲「Waterduction」では、ポーランド南部の都市クラクフ出身の詩人であり音楽家でもあるMarcin Świetlickiとのコラボレーションが実現した。彼は実際にヴィスワ川を筏で下り、魅力的なスポークン・ワードと詩でバンドをサポートしている。

18位 Dagadana · Tobie

レーベル:Agora Muzyka (-)

 ポーランドとウクライナ出身の男女4人組ユニットによる、5枚目のアルバム。ポーランドのクラクフで行われたジャズワークショップで知り合い、2008年に結成された。それ以来、ジャズ、エレクトロニック、ワールドミュージックを通して、ポーランドとウクライナの文化の要素を見事に融合させている。2人の女性ヴォーカル、Daga Gregorowicz(エレクトロニクスも担当)とDana Vynnytska(ピアノ、キーボードも担当)の名前がバンド名となっている。2010年リリースのデビューアルバムはポーランド国内だけでなく、世界的にも評価され、今までに4大陸25カ国で1000回以上ライヴを行ってきた。
 本新作はあらゆる人たちと「やさしさ」を共有し、「やさしさ」を目覚めさせる必要性から生まれたとのこと。コロナ禍で世界が混乱していることを憂いたのだろうか。様々な国を旅して得られたスタイルの豊かさと、自分のルーツに敬意を払いながら音楽の世界を融合させることへの寛容さが込められたアルバムとなっている。
 伝統的で民族的なメロディー、ポリフォニーをベースにしつつ、ジャズのグルーヴやダンス・エレクトロニクス、ラップなどと融合し、現代的な音楽となっている。これはハマりそう!期待できるユニットである。

17位 Comorian · We Are an Island, but We’re Not Alone

レーベル:Glitterbeat (-)

 世界中の知られざる音楽をフィールド・レコーディングによって記録した『ヒドゥン・ミュージック・シリーズ』の第8弾。アフリカ大陸東南部マダガスカル島とモザンビークの間に浮かぶコモロ諸島の人々のオリジナル・ソングにフォーカスが当てられた。
 ボックス型ツィター〈Ndzendze〉やリュート型撥弦楽器〈Gambussi〉による煌びやかなストリング・サウンド、あるいは〈Guma〉と呼ばれる両面太鼓のプリミティヴなリズムに情感豊かなヴォーカルが乗せられたこのサウンドは、西洋音楽の持つ叙情性と土着的な儀礼音楽の間を自在に往来するような不思議な魅力を放つ。
 録音はティナリウェンのプロデューサーなどで知られるイアン・ブレナン。本当は、ンヅマラ(ndzumara :ダブルリードのパイプ、または原始的なオーボエ)の音を求めてこの島に来たのだが、ンヅマラの最後の奏者が亡くなってしまい、その録音は不可能となってしまった。でもせっかく来たのだからということで、現地の人を頼り、最終的にはコモロ人でミュージシャンのSoubiとMmadiを見つけ、今回の録音に至った。(現地に赴き精力的に録音するこの方には頭が下がります。先月の12位 Witch Camp (Ghana)のアルバムもフィールド録音でした。)
 コモロ諸島は、地元では「月の島々」として知られており、島の人々は漁で生計を立てている。シンプルな暮らしの中から産み出され、生活に根付いたローカルな音楽を聴く機会はなかなかない。しかもこの地域からリリースされた初めてのオリジナルアルバムということだから、非常に貴重なアルバムといえよう。

↓国内盤あり〼。

16位 Katerina Papadopoulou & Anastatica · Anastasis

レーベル:Saphrane (11)

 ギリシャでは数少ない、伝統的な歌の巨匠たちの芸術を今も受け継いでいる歌手の一人であるカテリーナ・パパドプールの新作。アルバムタイトルの「Anástasis」はギリシャ語で「復活」を意味する。
 彼女は、様々なボーカルスタイルを自在に操り、独自のボーカルと音楽表現でそれらを融合させていることで評価されている。また、ギリシャの伝統音楽分野の著名な巨匠や、国際的に活躍している音楽家たち、スペインのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者/指揮者のジョルディ・サヴァールや、ヨーロッパのバロックグループ「L' Arpeggiata」ともコラボレーションしている。また歌うだけでなく、ヨーロッパでギリシャ語の歌唱セミナーを開催したり、ギリシャアテネ国立カポディストリア大学の大学院で、ギリシャの伝統的な歌とレパートリーを教えてもいる。才媛!
 このアルバムは、2020年3月にアテネ(ギリシャ)のバウムシュトラーセ劇場で行われたライブ録音である。ギリシャの音楽がどのように旅し、変化し、そして生き続けるかを表現している。彼女の歌声を引き立たせるのは一流音楽家によるアンサンブル。エーゲ海のリラ、クレタ島のリラ、カーヌーン、ウードなどの伝統楽器を使っている。エーゲ海、トラキア(バルカン半島南東部)、マケドニア、ポントス(黒海南岸)、南イタリアなどの歌や曲が収録されており、かつてギリシャ人が定住していた地域や時代に我々を連れていってくれるアルバムだ。

15位 Bagga Khan · Bhajan

レーベル:Amarrass Records (-)

 インド西部ラジャスタン州のマンガニヤール族に属するフォークシンガー、バガ・カーンのアルバム。アルバムタイトル「Bhajan」(バジャン)とは、インドの寺院や宗教的な集いで歌われる、ヒンドゥー教の神を讃える内容をもった歌のこと。(マンガニヤール族はイスラム教徒だが、ヒンドゥー教の神々や女神を讃える歌を歌うそうだ)バガ・カーンは、このバジャンの名手として、何世紀にもわたる口承音楽の伝統を受け継いでいるアーティスト。古典音楽に使われるタンブーラ(5弦の撥弦楽器)を演奏する。
 このアルバムは、2016年1月にニューデリーで開催されたライヴコンサートの音源で、Thanu Khan(ボーカル、ハルモニウム、マンジーラ(インドの古典楽器で小さなシンバルのような楽器))、Sawai Khan(インドの打楽器であるドーラク)がサポートしている。
 宗教と深く関わる音楽となると敷居が高そうで敬遠しがちだが、それを考えずに聞いてみるとこのアルバムは非常に面白い。楽器はそんなにアピールするでもなくあくまでも伴奏という位置付けで、バガ・カーンの魂から出る声がメインとなっている。これがとても素晴らしく、古来から口承で受け継がれているというからすごいこと。彼のタンブーラの規則的な響きがとても心地よく、ずっと聞いていられる音楽だ。生活に根付いている音楽だからか?お経と通じるものがあるようだ。

14位 Arsen Petrosyan · Hokin Janapar: Music Performed on Armenian Duduk

レーベル:ARC Music (23)

 1994年生まれのアルメニア出身、アルメニアン・ドゥドゥクの主唱者の一人として注目を集めているアーティスト、アルセン・ペトロシアンのセカンド・ソロ・アルバム。A.G.AトリオやArsen Petrosyanカルテットなどのユニットでヨーロッパや中東などでも演奏しており、ソロでは北米でもツアーを実施、ワークショップ等も開催し世界で活躍している。
 アルバムタイトル「Hokin Janapar」とは、アルメニア語で「私の魂の旅」を意味している。魂を揺さぶる音楽を彼がノスタルジックに探究したもので、アルメニア国家の継続的なオデッセイを反映している。アルメニアン・ドゥドゥクを使い、アルメニアの歴史的な時系列の中で、さまざまな時代やジャンルを超えた多様な曲を紹介している。
 彼はアルメニアのチャレンツァバンで生まれ育ち、現在もそこに在住しているが、アルメニア民族の飛び地であるジャヴァフク(グルジア共和国)をルーツとし、エルズルム(現在のトルコ)を先祖代々の故郷としている。
 2020年の夏からこのアルバムのレコーディングを行っていたが、2020年9月から11月にかけて、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争が再燃し、アルバム制作に困難が生じた。その上で出来上がった作品。
 ドゥドゥクの音色が優しくそして刹那的でもあり、アルメニアの歴史と文化の一面に触れることができるアルバムだ。

13位 Kady Diarra · Burkina Hakili

レーベル:Lamastrock Prod' (18)

 西アフリカ、ブルキナファソ出身で、隣国コートジボワールのアビジャンでグリオの家族として育ったカディ・ディアラの三枚目のアルバム。現在はフランス南東部アルデシュ地方の小さな村で生活しており、このアルバムはパンデミックでロックダウン中に自宅の庭で録音された。娘のアセットゥ・コイタ(コーラス)をはじめ、ミュージシャンとしても活躍している甥のムサ・コイタ(ベース、コーラス)、サンバ・ディアラ(パーカッション、フルート、コーラス)、マブーロ・ディアラ(バラフォン、ンゴニ、パーカッション、コーラス)も参加している。
 このアルバムでは、彼女の家族はブルキナファソのブワバ族であるためブワバ語、母親がマリ出身であることからバンバラ語、ブルキナファソの首都で話されているモレ語、ブルキナファソ西部のボボ・ディウラッソで話されているディウラ語、そしてフランス語と、さまざまな言語で歌われており、アフリカにおける多様性を表現しているかのようだ。
 タイトルの『Burnika Hakili』とは「ブルキナの精神」という意味。前作のアルバムから10年以上経過しており、彼女の中であたためてきたものをその精神をもって作品に体現している。古くからアフリカの伝統に根ざした音楽に、西洋的で現代的な要素が加えられ、さらに彼女の声が見事に融合している。
 上記動画の「Mousso」は、純粋なバンバラの伝統に基づいたグルーヴでアフリカの女性を祝福するために作られた曲。女性たちの表情がとても素晴らしく、見ているこちらも幸せになる。多様性文化と共に生きてきた彼女ならではのアルバムだ。

12位 Kasai Allstars · Black Ants Always Fly Together, One Bangle Makes No Sound

レーベル:Crammed Discs (33)

 コンゴ・カサイ州出身の5つの異なる部族から生まれたバンド、カサイ・オールスターズの最新作。2008年のデビュー以来、電気親指ピアノによるエレクトロニックコンゴ伝統音楽(コンゴトロニクス)で、リリース作品は世界中で評価されてきた。
 今回の作品では、ギタリストのMopero Mupembaが初めてプロデューサーとして参加、アルバム収録曲の約半分を作曲している。また、複雑なプログラミングも担当しており、伝統的なトランス音楽や儀式音楽に由来するカサイ・オールスターズの独特のリズムパターンに完璧にマッチしている。また、新しい若手のボーカルBijouが加わり、新たなエネルギーが注入されたことにも注目すべきである。
 今までの作品よりポップになった印象を受けるが、根底にあるリズムは変わらない。メロウな曲もあり、リズムが速い曲もあり、緩急ついた内容。コンゴの伝統的な音楽の多様性を見事に表現しているアルバムと言える。

11位 San Salvador · La Grande Folie

レーベル:La Grande Folie / Pagans / MDC (7)

 南フランスの小さな村サン・サルヴァドール出身である男女6人編成ユニットのデビュー作。彼らは、兄弟、友人同士で、子供の頃から一緒に歌っていたそう。だからこそのチームワークというか、阿吽の呼吸みたいなものが作品から感じられる。
 彼らが住む地方の民族音楽を、6人の声、2つのドラム、1つのタンバリン、そして力強い手拍子により、彼ら独自の音楽として生み出している。シンプルで、美しく、繊細、パワフルでもあり、そしてシャーマニックでもある。何しろ圧倒的なエネルギーを感じる。
 歌っている言葉は、フランス南部で使われているオック語(他にもイタリア・ピエモンテ州の一部やスペインのカタルーニャ州の一部でも話されている)。中世の頃から使われている言語なのだが、地方言語が弾圧され現在窮地に立たされており、若い世代にどうやって継承するかが問題となっている。その言語をあえて使うということが、エネルギーとして歌に表現されている気がする。6人によるポリフォニーが素晴らしい、エネルギッシュな作品だ。

10位 Toumani Diabate and The London Symphony Orchestra · Kôrôlén

レーベル:World Circuit Records (-)

 グラミー賞を受賞したマリのコラの名手トゥマニ・ジャバテと、レコードや映画、舞台でのオーケストラ演奏で世界的に活躍するロンドン交響楽団のコラボレーション作品。ロンドンのバービカン・センターの特別プロジェクトとして依頼され、ワールド・サーキットによって制作されたアルバム。
 何世代にもわたって音楽を受け継いできたグリオであるジャバテは、フラメンコ、ブルース、ジャズなどの異文化と交流し、マリの伝統音楽を現代に、そして世界へと発信し続けてきた。今回はクラシックとのコラボ。マリの著名な音楽家たちがいるジャバテのグループが参加し、ニコ・ミューリーとイアン・ガーディナーの編曲とクラーク・ランデルの指揮によるものとなっている。
 タイトルの「Kôrôlén」は、マンディンカ語で「先祖代々」を意味する。伝統的なメロディーとコラの音色の美しさが、西洋のオーケストラ・アレンジと見事に融合されている。アフロ・ネオ・クラシック・サウンドと言える作品で、とにかく美しい!
(ちなみに、今月2位のバラケ・シソコと共演しているコラ奏者のソナ・ジョバルテは、トゥマニ・ジャバテのいとこだそうです。凄いファミリー!)

9位 Christine Salem · Mersi

レーベル:Blue Fanal (5)

 インド洋上、マダガスカル島東方にある、フランス海外県のレユニオン出身で、島の伝統音楽「マロヤ」を歌う代表的な存在であるクリスティーヌ・サレムの新作。6年ぶり7枚目のアルバムとなる。
 「マロヤ」は「セガ」と共にレユニオンの伝統音楽で、伝統的な打楽器と弓による伴奏、レユニオン・クレオール語で歌われる。1980年頃まで禁止されていたが、それを復活させた歌手でもあるのがクリスティーヌだ。
 アフロヘアに青い口紅と、とってもインパクトのあるジャケットで、前方を見据えている瞳の強さにとても惹かれる。その強さが作品に表れているとも言えるだろう。シブい低音ボイスで、マロヤ、ブルースやロックなど多彩なサウンドとなっている。
 上記動画の「Tyinbo」は、DVの被害者である女性を支援するメッセージが込められており、彼女が幼少期に住んでいた街、サン=ドニで撮影されたもの。登場する女性たちの眼差し、馬に跨ったクリスティーヌを先頭に行進する姿はとても美しく、かつ強さを感じる。
 アルバム最後の曲でタイトル名にもなっている「Mersi」は、アカペラでマロヤの祈りを唱えており、彼女の重低音ボイスが、島の人々の鼓動や優しさを伝えているかのよう。しなやかな強さとマロヤに対する愛が込められた名盤だ。

8位 Atine · Persiennes d’Iran

レーベル:Accords Croisés (15)

 パリを拠点に活動するイラン出身5人組の女性アンサンブル、ATINE(アティネ)のデビューアルバム。アラブ音楽で伝統的に使われてきた楽器、タール(ネックが長いリュート属撥弦楽器)や、カーヌーン(台形型の箱に多数の弦を張り巡らせ琴のようにつま弾く撥弦楽器)、トンバクやダヤラなどのパーカッション、そしてヨーロッパの古典楽器ヴィオラ・ダ・ガンバと、古典的な歌唱による深みのあるヴォーカルの編成となっている。
 イランの著名な詩人であり学者のシェイク・バハイの詩や、13世紀のイランの詩人サアディーのガザル(抒情詩)を曲に乗せ、古典的なペルシャ音楽を忠実に演奏しつつも、現代的に再構築しており、彼女達独自の音楽となっている。
 ペルシャの古典楽器と、ヴィオラ・ダ・ガンバの音色が重なるのが何とも美しい。そこに、節回しが見事な古典的歌唱が加わり、精緻かつ神秘的な作品に仕上がっている。これがデビュー作というのだから、これからの活躍がとても期待されるユニットだ。

7位 Jupiter & Okwess · Na Kozonga

レーベル:Zamora Label (3)

 2017年リリースのアルバム『KIN SONIC』が大好評だった、コンゴのバンド、ジュピター&オクウェスの最新作。
 これまでのバンドの旅の成果とも言える作品で、世界で出会ったアーティストたちとのコラボレーションが収められている。ニューオリンズのプリザヴェーション・ホール・ジャズ・バンド(Preservation Hall Jazz Band)、アメリカのシンガー、マイヤ・サイクス、ラティーナとしては、ブラジル人アーティスト、ホジェー(Rogê)、Marcelo D2、チリのヒップホップ・アーティスト、アナ・ティジュ(Ana Tijoux)が気になるところ。それぞれのアーティストのカラーになりつつも、彼らのバンドのサウンドは根底にあるのがすごい。
 アルバム名にもなっている「Na Kozonga」とは、コンゴの言語であるリンガラ語で「帰還」という意味で、同タイトルの曲は、先日亡くなったバンドリーダーのジュピター・ボコンジの父親に捧げられたものである。

6位 Ben Aylon · Xalam

レーベル:Riverboat / World Music Network (-)

 イスラエル出身のパーカッショニスト/音楽家であるベン・アイロン。国境を越えるミュージシャン、パーカッショニストとして定義されるベンは、自身のソロプロジェクト「One Man Tribe」において、彼の革新的なドラミング・スタイルを紹介しており、10種類のアフリカン・ドラムのセットを同時に演奏し、現地の音楽家たちをも凌駕してきた。
 2020年1月、ベンはセネガルの首都ダカールを中心に単独公演を行い、数百万人が視聴するセネガルの有名テレビ番組で紹介され、セネガルで全国的な知名度を得た。セネガルの「次世代パーカッショニスト」と期待されている存在。
 この作品は、7年の歳月をかけて制作され、国際的なデビュー作品となるもの。2018年に亡くなったマリの歌姫カイラ・アービーと、サバール・ドラミングの伝説的存在であるドゥドゥ・ンジャエ・ローズが参加している。セネガルとマリの伝統的な音楽と楽器を、新鮮で現代的なものに変えている。
 上記動画は、彼が過去10年間に西アフリカを旅したときの貴重な映像を使ったこのショート・ドキュメンタリー。このアルバム制作の過程がわかる非常に興味深い内容となっている。これからの活躍が期待できる「次世代」のアーティストだ。

↓国内盤あり〼。

5位 Balkan Taksim · Disko Telegraf

レーベル:Buda Musique (36)

 ルーマニアのブカレストを拠点に活躍する、2人組ユニット(マルチ・インストゥルメンタリスト/アーティストのサーシャ=リヴィウ・ストイアノヴィッチと、エレクトロニカ・プロデューサーのアリン・ザブラウツァーヌ)のデビューアルバム。
 サーシャは、旅をしながらバルカン半島の音楽や文化を探求し、曲や物語、そして楽器を集めてきた。彼が収集した楽器の音と、伝統的な曲や物語を基にして新しい曲を作り、それをアリンのエレクトロニカのスキルと融合させ、「グルーヴィー・バルカン・ストーム」を生み出した。
 アルバム収録曲は、民族性とそれに関連する物語の背景を尊重しており、時にはロマンチックに、時にはメランコリックに表現している。サズ(ブズーキに似た3弦のリュート)、ネイ(先の尖ったフルート)などの伝統的な楽器とエレクトロニクスが見事に融合し、革新的な音楽となっている。「トラディショナル+エレクトロニック」が成功している作品と言えるだろう。とても魅力的な音楽が詰まったアルバムだ。いきなり5位にランクインされるのも納得できる作品。

↓国内盤あり〼。

4位 Antonis Antoniou · Kkismettin

レーベル:ajabu ! (4)

 キプロスの人気バンド、Monsieur DoumaniとTrio Tekkeのメンバーであるアントニス・アントニウの初めてのソロアルバム。
 アルバムタイトル「Kkismettin」は運命や宿命という意味である。紛争で分断されたキプロス島の二つのコミュニティに対し、この苦しい状況を島の運命として受け入れることはできないという政治的なメッセージを込めて作られた。またこのアルバムは、コロナでロックダウン中に制作され、分断されたこの国では、移動の自由やその他の基本的な自由が制限されていることを思い知らされたという。
 アントニウは、母国語であるギリシャ・キプロス語で、クラシック音楽からジャズ、ロック、伝統音楽、実験音楽、サウンドアートまで、サウンドスケープとテクスチャーを融合させている。キプロスの主要な伝統楽器のひとつであるリュートの中近東風のメロディーが、アナログシンセサイザーのグライドやエッジの効いたギターリフと共鳴し、境界線を押し広げ、独特の現代音楽のモザイクを形成している。分断された都市ニコシアの検問所の樽が、文字通り楽器となり、リズムの基盤となり、錆びたような陰鬱な雰囲気を醸し出している。
 今後、この分断の象徴とも言える樽が、解体される“運命”になることを願いたい。

3位 Samba Touré · Binga

レーベル:Glitterbeat Records (9)

 ソンガイ・ブルースのスタイルを今に受け継ぐ正統な伝承者でマリ人ギタリスト、サンバ・トゥーレの最新作。2018年リリースの『ワンデ〜愛する人よ』以来3年ぶりとなる。コロナ禍の2020年夏にマリの首都バマコで録音され、ソンガイの伝統に根ざしたサウンドとなっている。
 タイトルの『ビンガ』とは、マリのサハラ砂漠の下に広がる広大な地域のこと。彼が育った場所であり、今でも彼の心の拠り所となっている場所で、彼のルーツとも言える。そのルーツを前面に押し出し、シンプルな編成で純粋なソンガイ・ブルースを表現している。また、故郷マリの現実、クーデター、反乱、民族間の虐殺が繰り返され近年は悪化していること、医療や学校のシステムはただでさえ非常に遅れているのに、コロナのせいで更に状況は悪化し、子供たちが教育を受けられていないことをこのアルバムで訴えている。シンプルなサウンドがよりその深刻さが伝わってくる。ソンガイ・ブルースの伝統曲とオリジナル曲で、今彼が世界に伝えたかったことをしかと受け取めたい。説得力のある傑作だ!

↓国内盤あり〼。

2位 Ballake Sissoko · Djourou

レーベル:Nø Førmat! (1)

 マリの作曲家/コラ奏者であり名手である、バラケ・シソコのニューアルバム。今回はソロ作品だが、何人かのアーティストをゲストに迎えコラボレーションしている。ゲストは、デュオアルバムもリリースしている盟友のヴァンサン・セガールを筆頭に、マリの巨匠サリフ・ケイタ、フランス人歌手のカミーユ、アフリカ系イギリス人でコラ奏者のソナ・ジョバルテ、フランス人MCのオキシモ・プッチーノなど。コラの音色とゲストによる音(声だったり楽器だったり)の融合が素晴らしく、心に沁み渡る優しい作品。もちろん、ソロでの曲も素晴らしいことは言うまでもない。
 アルバム名の「Djourou」は、マリで話されている言語であるバンバラ語で「糸」という意味。バラケ自身とゲストや、リスナーたちと音楽の糸で繋がっているということを表している。まさに、このアルバムに織り込まれている糸を、聴くことによって感じられる名盤である。

1位 CGS Canzoniere Grecanico Salentino · Meridiana

レーベル:Ponderosa Music & Art (-)

 Canzoniere Grecanico Salentino(CGS)は、1975年にイタリアの作家リナ・ドゥランテによって結成された、イタリア南東部サレント地方の伝統音楽アンサンブルグループ。その最新作がいきなり1位。
 7人編成によるこのグループは、南イタリアの伝統的な音楽と踊りを現代風にアレンジしてパフォーマンスを行う。これまでに18枚のアルバムを発表し、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、中東などで多くの公演い、高く評価されてきた。2007年には、バンドリーダーだったダニエレ・デュランテから息子のマウロ・デュランテに引き継がれた。
 アルバムタイトル「Meridiana」は「日時計」という意味。アルバムのデザインも日時計を表現、日時計の時間が12であるように曲数も12曲ということで表現している。今回のアルバムでは、サレント地方の伝統的な曲と、ピッツィカ(イタリア・サレント地方に伝わる伝統的な踊りで男性と女性によるペアの踊り)を使った現代的なオーケストレーション作品を収録している。過去と現在が重なり合い、時間が拡大したり縮小したりしながら、12曲が流れていくイメージのアルバムだ。
 アルバムのホームページを見ると、このアルバム自体が、時間をテーマにした幅広いプロジェクトとなっている。科学と文化の世界の著名人から提供されたビデオ、画像、テキスト、寄稿文が集まり、マルチメディアと学際的なオリジナルのモザイクを構成している。稀に見る困難な年だからこそ生まれたプロジェクトではないだろうか。全体を通して聴いてみると、物語の全体が見えてくるかのようだ。必聴です。

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(ラティーナ2021年6月)


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