
【追悼】 エルザ・ソアレスの91歳の死 ─ 壮絶な人生の最期は栄光に包まれ穏やかに ─
■エルザ・ソアレスの91歳の死
エルザ・ソアレスの死が、彼女のSNSアカウントの投稿により伝えられました。コメントは、彼女のマネージャーと、孫娘、家族、エルザの制作チームの連名で出されました。
“É com muita tristeza e pesar que informamos o falecimento da cantora e compositora Elza Soares, aos 91 anos, às 15 horas e 45 minutos em sua casa, no Rio de Janeiro, por causas naturais. Ícone da música brasileira, considerada uma das maiores artistas do mundo, a cantora eleita como a Voz do Milênio teve uma vida apoteótica, intensa, que emocionou o mundo com sua voz, sua força e sua determinação. A amada e eterna Elza descansou, mas estará para sempre na história da música e em nossos corações e dos milhares fãs por todo mundo.
Feita a vontade de Elza Soares, ela cantou até o fim”
(拙訳)
歌手であり作曲家であるエルザ・ソアレスが(1月20日)15時45分にリオデジャネイロの自宅で91歳で老衰で死亡したことを、大きな悲しみとともにお知らせします。ブラジル音楽の中心的存在であり、世界で最も偉大なアーティストの一人とされる「ボイス・オブ・ザ・ミレニアム(voice of the millennium|1000年の声 ※)」に選ばれた歌手は、神々しいまでの激しい人生を送り、その声、その強さと、その行動力で世界中を感動させました。愛すべき、永遠のエルザは休むことになりましたが、音楽の歴史に、そして私たちと世界中の何千人ものファンの心の中に永遠に残るでしょう。エルザ・ソアレスが望んだように、彼女は最後まで歌い続けました。
※BBC による企画
近年も新たな黄金期を迎えていたブラジルの偉大な黒人女性歌手、エルザ・ソアレス(Elza Soarez)が、2022年1月20日15時45分(現地時間)にリオデジャネイロの自宅で、老衰で亡くなった。91歳だった。
マネージャーであり友人でもあるペドロ・ロウレイロ(Pedro Loureiro)によると、家族に向かって「私は死ぬと思う」と言った後、彼や家族と40分ほど話しをし、力を失い、目を閉じて亡くなったそうだ。苦しむことなく、安らかに亡くなった。「エルザは、病気で苦しんで死ぬことを恐れていた。エルザはスイッチを切っただけだ」とペドロは言う。「彼女の最期は女王そのものだった。DVDを収録し、歌を歌い、新しい家を買い、別荘も買った。すごく幸せで、すごく元気で、70年のキャリアの絶頂で亡くなった」

今月17日と18日に、エルザは元気そのもので、DVDの収録を行っていたそうだ。「いつもと同じように始まり、朝起きて、理学療法を行い、すべてが正常だった。少し疲れ気味で息苦しさもありましたが、理学療法のせいだと思っていた」と1月20日のことを、ペドロは振り返る。
「その後、エルザは休みたいと言い、少し言葉を吃り始めた。それで、ぼくや家族が気になったが、“大丈夫だから”と言って、エルザはぼくらと喧嘩した。“私は死ぬと思う”と言ったのはそれから暫くしてから」
DVDの収録の最後に歌った歌は、「Mulher do Fim do Mundo(世界の終わりの女)|2017年」で、このような歌詞で終わる。
Mulher do fim do mundo Eu sou
Eu vou Até o fim Cantar
私は世界の終わりの女
私は最期まで歌う
実際に、最期まで歌い続けた、91歳の偉大な歌手人生であった。
奇しくも1月20日という日付は、1966年から1982年まで婚姻関係にあり、人生で最愛の人だったとエルザが言うガリンシャ (Garrincha|ブラジルではペレに並ぶ人気サッカー選手だった)が1983年に亡くなった日と同じ日付であった。
彼女の死の報を受け、駐日ブラジル大使館もSNSでコメントを発表した。
■駐日ブラジル大使館
ブラジルの偉大な歌手、エルザ・ソアレスさんの訃報を受け、深い悲しみに包まれています。驚異的な歌唱力と確かな音色を持つエルザはブラジルで最も偉大なアーティストの一人とされています。サンバからジャズ、ボサノバ、ロック、ファンク、ヒップホップなど、様々なリズムを自由自在に操り、ブラジル音楽の歴史に名を刻みました。彼女のご家族、ご友人、ファンの皆様に心からお悔やみ申し上げます。
■MAKO
エルザ・ソアレスが本国でどんなにか尊敬された存在かを伝えるために、それを端的にテキスト化しているリオ在住の日本人女性歌手Mako氏の追悼コメントも引用したい。
ブラジルの全ての女性がリスペクトしている、黒人女性歌手、エルザ・ソアレス(Elza Soares)が、午後3時45分にリオデジャネイロの自宅で、自然死(老衰)のため91歳の人生を終えました。
黒人女性として、社会の中で起こる家庭内暴力や人種差別などに苦しみ、政治問題に取り組み、自身のアルバムでも、バイオレンスや差別問題を訴え、観客達の心を大きく震わせる作品を多く残した歴史に残る、ブラジル音楽を代表する黒人女性歌手でした。
「スキャンダルだらけのブラジルに降りかかる大きな社会問題の一つ、バイオレンスや差別問題はブラジル政府が正に真剣に直面していくべき重大なことだ!」と声をあげ、女性として、歌手として成功を収め、歴史に名を刻んだ、まさに伝説のアーティストです!
エルザ!あなたの芸術、遺産、力強い声、模範となるような勇気ある行動に、永遠なる尊敬とリスペクトを込めて。
合掌
ブラジルの音楽家も一斉に追悼コメントを出した。日本でも馴染みのある音楽家のコメントからいくつか紹介したい。
■CAETANO VELOSO
こちらはカエターノ・ヴェローゾのSNSから。カエターノが載せた動画は、カエターノとエルザが歌う「Língua(言語 / 舌)」。
Elza Soares foi uma concentração extraordinária de energia e talento no organismo da cultura brasileira. Tendo sido fã de sua voz e musicalidade desde os meus anos de ginásio, tive a honra de ser procurado por ela quando de sua iminente decisão de abandonar a carreira e/ou o Brasil. Fui capaz de convencê-la a ficar porque entendi que aquilo era uma espécie de pedido de socorro. Compus o samba-rap "Língua" e a convidei para cantar a parte melódica. Assim ela voltou a cantar e a receber atenção. Voltou à televisão e, depois, figuras tão díspares quanto Lobão e Zé Miguel Wisnik fizeram questão de trabalhar com ela. Recentemente jovens músicos paulistanos (e ao menos um carioca que vive em Sampa) têm feito com ela o que ela merece. Morreu na glória a que fazia jus, numa idade respeitável, afirmando a grandeza possível do Brasil. ♥️🌹
(拙訳)
エルザ・ソアレスは、ブラジル文化という有機体の中で、並外れたエネルギーと才能を凝縮した存在でした。私は幼少の頃から彼女の歌声と音楽性のファンでしたが、エルザがブラジルでのキャリアを断念しそうになったとき、私は、光栄にも彼女に声をかけられたのです。それが一種の助けて欲しいという言葉だと理解できたので、私は彼女にブラジルに留まるように説得しました。私は、サンバ-ラップの「Língua」を作曲して、エルザにメロディー部分を歌ってもらうことにしました。そうして、彼女は再び歌うようになり、再び注目を浴びるようになりました。彼女はテレビに露出するようになり、ロバォン(Lobão)やゼー・ミゲル・ヴィズニキ(Zé Miguel Wisnik)といった特別な才能を持つ音楽家がエルザと仕事をするようになりました。近年は、サンパウロの若い音楽家たち(少なくともサンパに住むリオデジャネイロの音楽家も)が、彼女に相応しい演奏をしています。ブラジルの大きな可能性を確信しながら、彼女に相応しい栄光のうちに、驚くべき年齢で、エルザはこの世を去ったのです。♥️🌹
カエターノが書いているのは、1984〜5年頃のエピソード。ガリンシャの死(1983年)の責任をエルザ・ソアレスに押し付ける一部の声によって、エルザのブラジルでの名声が落ちていた。しかしながら、ガリンシャの引退(1972年)後、酒癖が酷くなるガリンシャを立ち直させるために、エルザはブラジルでの歌手としてのキャリアを捨て、ヨーロッパに共に移住するなど、ガリンシャのために尽くしていた。エルザがいなければ、ガリンシャはもっと以前に破滅していたというのが妥当だろう。ガリンシャの家庭内暴力が息子に及ぶことを恐れ、エルザはガリンシャとの生活から離れたのだった。
■EMICIDA
Que a eternidade lhe abrace como sua voz abraçou a todos nóiz Elza!
あなたの声が私たちを包んでくれたように、永遠があなたを包んでくれますように。エルザ!
■ROBERTA SÁ
Das maiores referências musicais da minha vida. Quando comecei a escutar Elza, não tinha noção da importância da sua luta que existia para muito além do alcance do seu canto, infinito. A mulher do fim do mundo, do planeta fome e que inaugurou a nova era, se foi. E o sol e(n)solaralará a estrada dela, mas a vida sem dúvida, fica menos bela. Descanse em paz, Elza.
私の人生の中で最も大きく音楽的影響を受けた1人です。エルザを聴き始めた頃は、彼女の歌唱のはるか彼方、無限ともいえる彼方にあるその闘いの重要性を全く理解していませんでした。世界の終わりの女で、飢えた惑星の女であるあなたは、新しい時代の到来を告げましたが、行ってしまいました(※近年のアルバム『A mulher do fim do mundo(世界の終わりの女)』と『planeta fome(飢えた惑星)』より)。太陽は彼女の道を照らすでしょうが、彼女のいない生活は間違いなく美しさを失ってしまうでしょう。人生は安らかに眠れ、エルザ。
■PEDRO LUÍS
Lambuzado do seu beijo
Eu digo:
Elza é rainha.
Deusa é mulher.
Isso é história e o resto ?
É o resto.
エルザのキスで舐められる
僕は言う;
エルザは女王だ。
神は女性だ。
それが歴史であり、残りは?
残りはもう残りなのだ。
◾️PAULINHO DA VIOLA
Quando Elza lançou "Se acaso você chegasse", a força da sua voz e a sua personalidade conquistaram todos de uma só vez.
Uma mulher que lutou desde muito cedo contra várias formas de opressão e cuja contribuição vai além do universo da música brasileira.
Elza tem um lugar especial em nossos corações e na nossa história.
Tive a honra de ouvir em sua voz a estreia do meu samba "Sei Lá Mangueira" que fiz com Hermínio Bello de Carvalho.
Uma despedida que me entristece e, por isso, fico sem condições de dizer tudo o que gostaria sobre ela.
Um momento triste, mas um pouco menos triste por tudo o que ela deixou para nós.
Só quero agradecer.
エルザがアルバム『Se acaso você chegasse』をリリースした時、彼女の声のパワーとその個性的な性格は、皆を一度で虜にしました。
かなり早い時期からさまざまな抑圧を戦った女性で、彼女の貢献はブラジル音楽の世界にとどまりませんでした。エルザは私たちの心の中で、我々の歴史の中で、特別な場所にいます。
私がエルミニオ・ベロ・ヂ・カルヴァーリョ(Hermínio Bello de Carvalho
)と作曲したサンバ「Sei Lá Mangueira」を、彼女の声で初めて歌ってもらったのを聴くことができたのは、とても光栄なことでした。
別れはあまりに悲しく、それ故、彼女について話たいことを話せる状況にありません。
悲しい時ですが、彼女が私たちに残してくれたもののおかげで、少しは悲しみを和らげることができます。
ただただ、ありがとうと言いたい。
その他にも、本当に多くの追悼のコメントが出ており、こちらにもまとめられていた(ポルトガル語)。
エルザ・ソアレスの波乱万丈な人生については、書き始めたらいつまでもこの記事をアップできないので、また機会を改めて記したい。合掌。
(ラティーナ2022年1月)
(文責:花田勝暁)
ここから先は

世界の音楽情報誌「ラティーナ」
「みんな違って、みんないい!」広い世界の多様な音楽を紹介してきた世界の音楽情報誌「ラティーナ」がweb版に生まれ変わります。 あなたの生活…