[2021.09]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2021年9月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】
e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。
※レーベル名の後の()は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。
20位 V.A. · Cameroon Garage Funk
レーベル:Analog Africa (-)
ドイツの復刻専門レーベル“Analog Africa”のコンピレーション・シリーズの最新作。本作は、1970年代にカメルーンの首都ヤウンデで録音されていた強烈なサイケロック、サイケファンクをまとめたもの。
1970年代のヤウンデは活気に満ちていて、どの場所にも音楽があふれていたが、カメルーンには適切な録音設備がなく、多くのアーティストたちは自分の曲をテープに録音すること自体が冒険のようなものだった。もちろん、国営放送局とサウンドエンジニアを契約すればいいのだが、お金のないアンダーグラウンドなアーティストには、とても無理な話である。このアルバムに収録されているアーティストの多くは、教会のエンジニアであるムッシュ・アウォノのおかげで、録音設備のあるこの教会で秘密裏に録音することができたのだ。録音したものは、フランスのレーベルであるSonafricが製造と販売の仕組みを提供し、多くのカメルーン人アーティストがそのプラットフォームを利用してキャリアをスタートさせることができた。
そして今回、“Analog Africa”はこのリイシューにあたり、1970年代のヤウンデの音楽シーンを解明するため、現地に何度も足を運び、多くのインタビューを重ねたそうだ。無名のアーティストもいただけにその苦労は計り知れない。
ヤウンデやその周辺の伝統音楽をベースに、ファンクやアフロ、ロックなどと融合し、当時の強烈な曲が集められたアルバム。これが50年前に録音されていたのはとても驚きだ。生のグルーヴと壮大な曲の並外れた遺産、貴重な音源と言えるだろう。
↓国内盤あり〼。(音楽の背景やアーティストの紹介、最新のインタヴューや貴重な写真などを織り交ぜた詳細なブックレット、さらに日本語解説を付けてその内容をより分かり易く紹介しており、ぜひフィジカルで持っていたいものとなっている)
19位 Ballaké Sissoko · Djourou
レーベル:Nø Førmat! (8)
マリの作曲家/コラ奏者であり名手である、バラケ・シソコのニューアルバム。今回はソロ作品だが、何人かのアーティストをゲストに迎えコラボレーションしている。ゲストは、デュオアルバムもリリースしている盟友のヴァンサン・セガールを筆頭に、マリの巨匠サリフ・ケイタ、フランス人歌手のカミーユ、アフリカ系イギリス人でコラ奏者のソナ・ジョバルテ、フランス人MCのオキシモ・プッチーノなど。コラの音色とゲストによる音(声だったり楽器だったり)の融合が素晴らしく、心に沁み渡る優しい作品。もちろん、ソロでの曲も素晴らしいことは言うまでもない。
アルバム名の「Djourou」は、マリで話されている言語であるバンバラ語で「糸」という意味。バラケ自身とゲストや、リスナーたちと音楽の糸で繋がっているということを表している。まさに、このアルバムに織り込まれている糸を、聴くことによって感じられる名盤である。
18位 Antonis Antoniou · Kkismettin
レーベル:Ajabu! (3)
キプロスの人気バンド、Monsieur DoumaniとTrio Tekkeのメンバーであるアントニス・アントニウの初めてのソロアルバム。
アルバムタイトル「Kkismettin」は運命や宿命という意味。紛争で分断されたキプロス島の二つのコミュニティに対し、この苦しい状況を島の運命として受け入れることはできないという政治的なメッセージを込めて作られた。またこのアルバムは、コロナでロックダウン中に制作され、分断されたこの国では、移動の自由やその他の基本的な自由が制限されていることを思い知らされたという。
アントニウは、母国語であるギリシャ・キプロス語で、クラシック音楽からジャズ、ロック、伝統音楽、実験音楽、サウンドアートまで、サウンドスケープとテクスチャーを融合させている。キプロスの主要な伝統楽器のひとつであるリュートの中近東風のメロディーが、アナログシンセサイザーのグライドやエッジの効いたギターリフと共鳴し、境界線を押し広げ、独特の現代音楽のモザイクを形成している。分断された都市ニコシアの検問所の樽が、文字通り楽器となり、リズムの基盤となり、錆びたような陰鬱な雰囲気を醸し出している。
今後、この分断の象徴とも言える樽が、解体される“運命”になることを願いたい。
17位 Maher Cissoko · Cissoko Heritage
レーベル:Ajabu! (-)
セネガル人コラ奏者のマヘル・シソコの最新作。スウェーデンの女性アーティストSousouとのデュオ Sousou & Maher Cissoko でも世界的にも活躍しているが、ソロ作品としては二作目となる。
セネガルで700年以上にわたり受け継がれてきた偉大なグリオの一族に生まれた彼だが、そのグリオの伝統をアレンジし、独自の爆発的でダンサブルな演奏スタイルを開発してきた。コラを演奏するだけでなく、彼はパーカッショニストでもあり、彼のリズミカルな演奏方法からもそれが伺える。様々なバンドで演奏しており、レゲエ、ラテン、ファンク、ジャズなど他のジャンルのスタイルやテクニックにも影響を受けている。
本作のほとんどは彼自身により制作、プロデュース、録音を行ったが、一部はマリの音楽家/プロデューサーで世界的に活躍しているアハメド・フォファナともコラボレーションしている。
前作はコラの魅力を全面的に表現したアコースティックなアルバムだったが、本作はグリオの伝統をアフロビートやアフロポップ、レゲエなどと組み合わせ、エレクトロニクスやビートと見事に融合しつつ、コラの音色も充分に活きている。その融合っぷりが実に見事で、彼独自の新しい音楽を創り出した。コラの可能性が大きく広がったとも言える作品だろう。これからの活躍が期待されるアーティストである。
16位 Dobet Gnahoré · Couleur
レーベル:Cumbancha (5)
コートジボワール出身の女性シンガー、ドベ・ニャオレの最新作。本作で6枚目のアルバムとなる。2010年にグラミー賞を受賞し、アフリカの歌姫として愛されている1人である。2007年にアルバム『Na Afriki』をリリースして高い評価を得たアメリカのCumbanchaレーベルへの復帰作でもある。
フランス在住であったが、コロナのパンデミックで地元コートジボワールに戻り録音したアルバム。地元の若い才能を活かすため、彼女は地元で人気の作曲家/プロデューサーである21歳のTam Sirに制作を任せた。現代アフリカの都会的なエネルギー、華やかさがあるアフロポップ作品に仕上がっている。
また、女性の権利や、強さ、創造性、そして困難な時代にもかかわらず前向きで勇敢な女性を称えている作品ともなっている。アフリカの女性たちへの語りかけているような存在感のある歌声、グルーヴ感がとても心地よい。MVでの彼女のダンスはとても素晴らしい。そして何よりもアフリカン・ポップな色彩が溢れる作品ばかりであることにとても惹かれる。まさにアルバムタイトル『Couleur』(フランス語で色)通りの作品だ。
↓国内盤あり〼。
15位 Ben Aylon · Xalam
レーベル:Riverboat / World Music Network (12)
イスラエル出身のパーカッショニスト/音楽家であるベン・アイロン。国境を越えるミュージシャン、パーカッショニストとして定義されるベンは、自身のソロプロジェクト「One Man Tribe」において、彼の革新的なドラミング・スタイルを紹介しており、10種類のアフリカン・ドラムのセットを同時に演奏し、現地の音楽家たちをも凌駕してきた。
2020年1月、ベンはセネガルの首都ダカールを中心に単独公演を行い、数百万人が視聴するセネガルの有名テレビ番組で紹介され、セネガルで全国的な知名度を得た。セネガルの「次世代パーカッショニスト」と期待されている存在。
この作品は、7年の歳月をかけて制作され、国際的なデビュー作品となるもの。2018年に亡くなったマリの歌姫カイラ・アービーと、サバール・ドラミングの伝説的存在であるドゥドゥ・ンジャエ・ローズが参加している。セネガルとマリの伝統的な音楽と楽器を、新鮮で現代的なものに変えている。
↓国内盤あり〼。
14位 Natacha Atlas · The Inner & the Outer
レーベル:Wise Music Publishing (7)
エジプト系ベルギー人歌手ナターシャ・アトラスの最新作EP。プロデューサーであるサミー・ビシャイとのコラボレーション作品。
ナターシャは、イギリスのワールドフュージョンユニット「Transglobal Underground」のメンバーとして活動を開始、1995年にエレクトロニカのデビューアルバム『Diaspora』で大ブレイクし、ソロ活動に専念することとなった。西洋と中東の伝統的なヴォーカルを巧みに融合させることで知られており、様々な文化圏の多くのミュージシャンとコラボレーションしてきた。
本作品は、COVID-19のパンデミックが始まって以来、社会が抱えている不安や不確実性、断片化された社会や、喪失感を反映した歌詞が特徴的で、社会のディストピアをテーマにした作品となっている。
ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカを融合させた、ビシャイの実験的な領域に一歩踏み込んだ作品で、ナターシャの魅惑的なヴォーカルと見事に融合している。静寂と空間を巧みに利用し、想像力を掻き立てられ、リスナーを感情的で魅力的な旅に連れて行き、瞑想的な雰囲気で精神を充電させてくれるかのような作品。中東のサウンド、エレクトロニカ、ジャズが絶妙に交差する美しいアルバム。
13位 Efrén López, Christos Barbas · Atlas
レーベル:Seyir Muzik (31)
スペイン人ミュージシャンのエフレン・ロペスと、ギリシャ人のネイ/ピアノ奏者であるクリストス・バルバスのデュオ作。二人は約20年近く友人関係であり様々なプロジェクトで共演してきたが、二人の名義で出したのは本作が初めて。
エフレンの弦楽器(ラバブ(アフガンの弦楽器)、ウード(アラブのリュート)、ラウタ(トルコのリュート))と、クリストスのネイ(1曲だけ二人ともラウタによる演奏)によるアコースティックな音楽で、哀愁を帯びたネイの音色とそれを包み込むような弦楽器の音色が見事に調和している。アルバム中1曲(「Ben voorga, sisser poges」)は、13世紀半ばにフランスの吟遊詩人が作曲した器楽曲で、それ以外は彼らのオリジナル作品である。
即興性も感じられるが、緻密な計算により編み出された余韻も感じられるアルバム。また、二人だけの音であるにも関わらず、こんなにも壮大に風景や時間を感じさせるような音楽があるだろうか。静謐な音楽と言える美しい作品。
12位 Altın Gün · Âlem
レーベル:Glitterbeat (-)
オランダとトルコの混成グループで、サイケ・フォーク・バンドのアルトゥン・ギュンの最新作!2月にも新作をリリースしており今年になって2作目となる。本作は、Bandcampのみで販売され、収益はすべて、自然保護団体のネットワークと協力して地球規模で土地を保護する活動を行っている非営利団体「Earth Today」に寄付されるとのこと。国境を越えたバンドであるため、パンデミック中はツアーができなかった。そこで余った時間を持続可能な生活に貢献すべく、このような支援活動を行うことにしたそうだ。そしてまだ足りないとも語っている。音楽活動を行いながら環境活動の支援をも行うとは頭が下がる。
トルコの人気女性歌手 Nese Karabocek が歌った有名で伝統的な曲「Yali Yali」から始まり、本作も伝統的なトルコの民族音楽とサイケデリックなエレクトロニック・サウンドの融合を貫いている。80〜90年代を感じるポップな空気感なのだが、何故だか今聞いても新鮮さ、斬新さを感じられる不思議な作品。前作以上にその空気感は半端なく、とても幻想的で魅力的な作品となっている。このアルバムをBandcampで購入すれば環境活動へも参加できる、一石二鳥の作品。
11位 Joseph Tawadros · Hope in an Empty City
レーベル:Joseph Tawadros (-)
世界的にも評価されているウード奏者、ジョセフ・タワドロスの最新作。カイロ生まれで幼少期よりオーストラリア・シドニーに移住し、今年38歳。音楽と作曲への貢献が認められ、2016年にはオーストラリア勲章を授与されるほどの若き才能。またウードコンクールの審査員を務めるなどし、ウードの世界でも評価されている。また、ヨーロッパ、アメリカ、アジア、中東などで、国際的に活躍するアーティストたちと幅広いツアーを行ってきた。
本作は、ジョセフの他にアメリカで活躍する実力派ミュージシャン4人(レイス・シディック(ヴァイオリン)、スコット・コリー(コントラバス)、ダン・ワイス(ドラム)、デヴィッド・"フューズ"・フュージンスキー(ギター))が、このアルバムのために集まり、ニューヨークで録音したアルバム。
ヴァイオリニストのレイスがヨルダン出身。アラブ音楽に親しんで育ち、今ではジャズやクラシック、ワールドミュージックなどあらゆる音楽に精通し、現在はアメリカでアラブ音楽を普及するディレクターとして活動しているため、このアルバムのアラブ感はレイスとジョセフに導き出されたところが大きい。しかし伝統的なアラブのパーカッションを使うのではなく、ジャズのドラムセットを使用しているので一般的なアラブ音楽というよりは、むしろジャズ寄りに仕上がっている。ジャズとアラブが斬新にうまく融合されている素晴らしい作品。ジョセフのウードのソロ曲も堪能できる。前作はオーケストラとの共演作だったが、それとはまた違う世界で、彼の音の世界がまた大きく広がった作品と言えるだろう。
10位 Toumani Diabaté and The London Symphony Orchestra
レーベル:Kôrôlén · World Circuit (4)
グラミー賞を受賞したマリのコラの名手トゥマニ・ジャバテと、レコードや映画、舞台でのオーケストラ演奏で世界的に活躍するロンドン交響楽団のコラボレーション作品。ロンドンのバービカン・センターの特別プロジェクトとして依頼され、ワールド・サーキットによって制作されたアルバム。
何世代にもわたって音楽を受け継いできたグリオであるジャバテは、フラメンコ、ブルース、ジャズなどの異文化と交流し、マリの伝統音楽を現代に、そして世界へと発信し続けてきた。今回はクラシックとのコラボ。マリの著名な音楽家たちがいるジャバテのグループが参加し、ニコ・ミューリーとイアン・ガーディナーの編曲とクラーク・ランデルの指揮によるものとなっている。
タイトルの「Kôrôlén」は、マンディンカ語で「先祖代々」を意味する。伝統的なメロディーとコラの音色の美しさが、西洋のオーケストラ・アレンジと見事に融合されている。まさにアフロ・ネオ・クラシック・サウンドと言える作品だ。
9位 Rachel Magoola · Resilience: Songs of Uganda
レーベル:ARC Music (-)
ウガンダでは著名なシンガーソングライターであるレイチェル・マグーラの最新作。ソロ作品としては7作品目となる。
彼女はウガンダで伝説的なバンド「Afrigo Band」のメンバーで活動しソロとしても活動。音楽活動だけではなく慈善活動も行い、ウガンダの文化の中で長きに渡り人道的な活動をしてきた。その結果として、今年のウガンダ総選挙で国会議員に選出された。政治に携わりながらもこのアルバムをリリースするとはすごいエネルギー!いや政治に携わったからこそ、このコロナ禍において、音楽を通して伝えたいメッセージがあったのかもしれない。
アルバムは、ウガンダの文化と歴史にインスパイアされた楽曲で構成されており、レイチェルのオリジナル曲やコラボレーション曲に、ウガンダの伝統的な歌の解釈を織り交ぜている。ウガンダの伝統楽器の音も入り、全体的にハイテンポで陽気なサウンドで、思わず踊りだしたくなるような曲ばかり。この陽気な曲調と生き生きしたヴォーカルの裏には、平等、エンパワーメント、若者の教育に対する彼女の情熱が表現されている。ウガンダの人々に対し、彼らの強さと、彼らや祖国が直面するあらゆる苦難にもかかわらず、誇りを持ち続けて行こうと伝えている。タイトルを直訳すると「回復力:ウガンダの歌」まさにパンデミックの危機を歌を通して乗り越えようという彼女の強いメッセージが窺える。エネルギーを感じる素晴らしい作品。
8位 Coşkun Karademir, Tord Gustavsen, Derya Türkan, Ömer Arslan · Silence
レーベル:Kalan (13)
トルコの伝統弦楽器バーラマを演奏するジョシュクン・カラデミル、ノルウェー出身のジャズピアニスト、トルド・グスタフセン、トルコの擦弦楽器ケメンチェ奏者デリヤ・テュルカン、トルコのパーカッショニスト、オメール・アルスランによるユニットのアルバム。
アナトリア(トルコ東部)やアゼルバイジャンの民謡から、オスマン帝国の皇帝スルタンが19世紀に作曲した曲、そして彼らのオリジナル曲などが収録されている。曲数は9曲だが、合計1時間以上でとても聴きごたえある作品となっている。
弓で弾くケメンチェの音色とカラデミルの弾くバーラマのコントラストがとても絶妙。そこにパーカッションとピアノが重なると、とても幅広いサウンドに仕上がっている。ジャズっぽいアレンジになっている曲もあり、トルコ伝統音楽とは一括りにはできない。インスト曲だけではなく、カラデミルが歌っている曲もあり、彼の伸びのある歌声(美声!)にも驚きだ。
アルバムタイトルのように「沈黙」を表しているかのようなところもいくつかある。音楽の空間を使っているという感じか?のちの曲への誘導にとても効果的に使われており、じっくり聞かせるような仕上がりとなっている。トルコ伝統音楽とジャズとの組み合わせの可能性が広がったとも言える作品だろう。
7位 Boubacar “Badian” Diabaté · Mande Guitar: African Guitar Series, Volume I
レーベル:Lion Songs (10)
アメリカ人のベテランギタリストであり、ジャーナリストであるバニング・エアが設立した新しいレコードレーベルからの最初のリリース作品。アフリカの偉大なギタリストたちの新しい録音シリーズの一環として制作されたアルバム。ギタリストは、マリのギタリストであるブバカル・"バディアン"・ジャバテ。バニングがマリでギターを学んでいた頃に出会い、バディアンの超絶なテクニックと叙情的なタッチはバニングにとって衝撃的だったとのこと。
その数年後にバディアンは西アフリカのコミュニティで演奏するためにニューヨークを訪れるようになり、バニングにCD制作の協力を何度も頼んだそう。バニングは、バディアンがギターを弾くだけで、ボーカルやパーカッションなどの楽器を使わないという条件で承諾した。出来上がった作品には、ギターのデュオがあったり、1曲だけパーカッションが入っている曲も収録されている。
インストのみで聞き惚れてしまい、収録時間である1時間はあっという間に過ぎる。ぜひ多くの人に聞いてほしい作品。
バニング・エアによる新しいレーベルから、まだまだ続き新たなアーティストが紹介されていくことを期待したい。
6位 V.A. · Henna: Young Female Voices from Palestine
レーベル:Kirkelig Kulturverksted (1)
今もなお紛争が続いているパレスチナの新世代の女性アーティスト達による作品。7人の若いシンガーとグループが、それぞれ1〜2曲を収録。カヌーンや、ウード、ネイなどの民族楽器が使われ、占領下での生活を反映した歌だけでなく、強い抵抗の意志と永続的な希望についても歌っている。
これらの若手アーティスト達が学んだパレスチナにあるエドワード・サイード国立音楽院(ESNCM)のディレクター、スハイル・クーリー氏によって制作されたアルバムである。録音はESNCMのスタジオで行われ、ノルウェーのレーベルKKVとの共同作業により8年間かけてつくられた。(スハイル・クーリー氏は、2020年7月にイスラエル警察により身柄を拘束されてしまった)
このノルウェーのレーベルは、リム・バンナやテレス・スリマンなど、パレスチナの重要な他のアーティストの作品もリリースしており、今回のリリースは、ノルウェー外務省の助成を受けている。ノルウェーは文化的側面からパレスチナをサポートしていることがうかがえる。
イスラエルの軍事占領下で最も影響を受けやすい存在である女性、しかも若い女性たちが、自ら歌を通して意思表示をしているということに強く応援したい気持ちになる。彼女たちをはじめとした若い人々に明るい未来があることを祈り続けたい。
5位 Eva Quartet · Minka
レーベル:Riverboat / World Music Network (21)
世界的に有名でグラミー賞を受賞歴もある、ブルガリアの女声合唱団「Le Mystere des Voix Bulgares」のメンバー4人により1995年に結成されたユニット、Eva Quartetの最新作。
2012年に発表された前作『The Arch with Hector Zazou』では、坂本龍一やビル・フリゼールなど豪華音楽家がゲスト参加し、アンビエント/アヴァンギャルド・ジャズといった先進性の高い音楽と融合し好評を博したが、本作は彼女たちの原点に立ち返り、ア・カペラ・スタイルを中心とした作品となっている。
アルバムに収録されている曲は、結婚や母の愛についての心のこもった物語など、音楽がブルガリアの村の生活に根付いていた昔の時代を思い起こさせる伝統的なブルガリア民謡。25年以上にわたってブルガリア民謡の第一線で活躍し続けて来た彼女たちが、真摯に伝統に向き合い、多様な方法で伝統的な歌を読み解きながら、歌の純粋さ、美しさを追求した結果がこの作品に美しいポリフォニー・コーラスによって描かれている。
(上記動画は本作には収録されている曲ではありませんが、彼女たちが歌っている姿がよくわかる動画だったので掲載しました。息の合った感じ、美しい声をご堪能ください)
↓国内盤あり〼。
4位 Angelique Kidjo · Mother Nature
レーベル:Decca (18)
先日のオリンピックの開会式にも登場した、ベナン出身でアフリカを代表するシンガー、アンジェリーク・キジョーの最新作。前作『Celia』はセリア・クルースへのオマージュアルバムで、グラミー賞を受賞するなど大好評を得たが、今回は7年ぶりのオリジナルアルバムとなっている。
2019年からこのアルバムに収録する曲を書き始め、パンデミックで隔離されたこの1年間で制作されたもの。アフロビートやアフロ・ポップ、EDM、ヒップホップやR&Bといった様々なジャンルが融合し、アフリカを全面に表現、多数のアーティスト達がゲストとして参加している。彼女と同じベナン出身のLionel Louekeや、Salif Keitaなどベテラン勢をはじめ、ナイジェリアの Yemi Alade、Mr Eazi や Burna Boy、ベナンの Zeynab などなど… 総勢12組!現代アフリカを代表する若手アーティストや、アメリカ、フランスなどで人気あるアーティストたちともコラボしている。キャリアがあってもなお若いアーティスト達と新しいものを創りあげていく姿勢がとても素敵。
アフリカへの愛が満載のアルバム。アフリカの伝統を受け継いでいることへの純粋な喜びがこちらに伝わってくるようだ。
3位 V.A. · Changüí: The Sound of Guantánamo
レーベル:Petaluma (-)
イタリア出身でニューヨーク在住の音楽ジャーナリスト Gianluca Tramontanaが、キューバの最東端グアンタナモ州で録音した伝統音楽チャングイ(Changüí)が、51曲収録されているアルバム。チャングイはグアンタナモ地方で150年以上の歴史を持つ伝統音楽で、サトウキビの精製所や、奴隷が住む農村で生まれ、ソンの前身とも言える音楽。グアンタナモ州のバラコアの町からグアンタナモ市、そして山村まで行き、現地の(プロとは言えない無名の)ミュージシャンたちの自宅や裏庭、ポーチなどでフィールド録音を行った非常に貴重な音源である。
独特のリズムパターンがあったり、クラーベを使っている曲があまりないことなど、キューバのような大きくない島であるにも関わらず、地域差があることがよくわかる。小さなコミュニティで日常的に音楽と関わっている姿が想像できる素晴らしいアルバム。
フィジカルでは、100枚以上の写真を含む120ページ、フルカラーのハードカバー本も付属したデラックスなCD3枚組だそうだ。これは欲しい!
https://diskunion.net/latin/ct/detail/1008325765
2位 Canzoniere Grecanico Salentino (CGS) · Meridiana
レーベル:Ponderosa Music (2)
Canzoniere Grecanico Salentino(CGS)は、1975年にイタリアの作家リナ・ドゥランテによって結成された、イタリア南東部サレント地方の伝統音楽アンサンブルグループ。その最新作。
7人編成によるこのグループは、南イタリアの伝統的な音楽と踊りを現代風にアレンジしてパフォーマンスを行う。これまでに18枚のアルバムを発表し、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、中東などで多くの公演い、高く評価されてきた。2007年には、バンドリーダーだったダニエレ・デュランテから息子のマウロ・デュランテに引き継がれた。
アルバムタイトル「Meridiana」は「日時計」という意味。アルバムのデザインも日時計を表現、日時計の時間が12であるように曲数も12曲ということで表現している。今回のアルバムでは、サレント地方の伝統的な曲と、ピッツィカ(イタリア・サレント地方に伝わる伝統的な踊りで男性と女性によるペアの踊り)を使った現代的なオーケストレーション作品を収録している。過去と現在が重なり合い、時間が拡大したり縮小したりしながら、12曲が流れていくイメージのアルバムだ。
アルバムのホームページを見ると、このアルバム自体が、時間をテーマにした幅広いプロジェクトとなっている。科学と文化の世界の著名人から提供されたビデオ、画像、テキスト、寄稿文が集まり、マルチメディアと学際的なオリジナルのモザイクを構成している。稀に見る困難な年だからこそ生まれたプロジェクトではないだろうか。全体を通して聴いてみると、物語の全体が見えてくるかのようだ。必聴です。
1位 Namgar · Nayan Navaa
レーベル:ARC Music (6)
ロシアのシベリア南部、モンゴルや中華人民共和国との国境近くにある小国ブリヤート共和国出身のシンガー、「モンゴルのビョーク」と呼ばれるナムガル。彼女名義のバンドによるアルバムである。
バンドは、モンゴルやロシアの伝統的な楽器(ヤトガ(13弦の撥弦楽器)、チャンザ(3弦のリュート)、モリンホール(馬頭琴:2弦の弓楽器)など)と、エレクトリック・ベース、ドラムを使って独自のサウンドを生み出し、2005年に結成以来、ノルウェー、マレーシア、アメリカなど世界各地のフェスティバルのステージに立っている。2014年にも来日している。
今回の作品は、サンクトペテルブルク、モスクワ、ブリヤートの古文書館で、忘れ去られたブリヤートの伝統的な歌(民謡)を100曲集め、その中から選んだ曲を収録している。伝統的な歌を伝統楽器で演奏する、というと伝統音楽っぽく仕上がると予想できるが、彼らの音楽はそういうことはない。ロック調のものあり、現代的なアレンジとなっている。そこに伝統的な発声や楽器などのスパイスが効いてる感じだ。
この地方の伝統的な歌には、多彩で多様性に富み、自然が大きく関わっていることが彼女の声から想像できる。今後も大事に聞いていきたい作品。彼女の声の虜になることは間違いない。
(ラティーナ2021年9月)
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