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[2021.12]【連載シコ・ブアルキの作品との出会い⑮】キリストの名を持つ、シングルマザーの息子 — Minha história

文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura

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中村安志氏の連載は「シコ・ブアルキの作品...」と「アントニオ・カルロス・ジョビンの作品...」を交互に掲載中です。今回は暑いブラジルのクリスマスの、ある現実を歌った名曲。(編集部)

 クリスマス・シーズン。今回は、キリストの名にちなんだ曲を1つ、ご紹介します。
 シコ・ブアルキは、体制を批判する歌への当局の弾圧を逃れるべく、1969年初頭から翌年3月まで、子供時代にも暮らしたことのあるローマで過ごします。そこで知り合ったイタリアの歌手ルチオ・ダッラの作品「少年イエス」(Gesù bambino)に感銘を受け、シコは、ダッラと親交を持つようになりました。
 このダッラの歌は、正式なタイトルを「1943年3月4日(4 marzo 1943)」と言い、更に「戦争の落とし子」という副題が付され、第二次大戦の犠牲となった兵士や、残された子供のことをアピールしているものと受け止められています。

2021年12月

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⇧ダッラの当時のレコード。Il fiume e la cittá(川と街)というA面の曲のB面に収められている。

 歌詞のあらすじは、外国人兵士と結ばれた女性が産み落とした男の子が、その父親が戦闘で命をなくした後も母一人の下で成長し、盗人や娼婦が暮らす社会に身を置いているが、母のつけた名のとおり「少年イエス」と呼ばれている、といったある種の人情物語です。最初静かに歌い始め、少年の成長が1ステージ進むごとに、演奏も賑やかになっていきます。

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