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[2020.11]名盤で聴くウルグアイ音楽(Vol.1)

文●宇戸裕紀

Text By Hironori Uto

 中古レコードが高値で取引され、近年では70年代、80年代の音源が海外のレーベルから再発になるなどコアな南米音楽ファンに人気の高いウルグアイ音楽。レコードを手に入れなければ聴けないという敷居の高い音楽であったものがSpotifyなどで手軽に誰でも触れられる時代になった。にも関わらず名前の発音もあやふやなアーティストさえいるくらいで、残念ながら各アーティストが築いてきたキャリアについては知られていないものが多い。ウルグアイ音楽を愛するファンの一人として、アーティストの代表的名盤を中心に50枚程度選び、その魅力をまとめてみた。なお、ブラジル・アルゼンチン・ウルグアイの音源の紹介書で「最後の牙城」たる『ムジカ・ロコムンド1&2』で紹介されていないもの、発刊以降にリリースされたもの(デジタル配信を含む)をメイン(一部ムジカロコムンドと被りあり)に紹介したい。

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①Alberto Wolf /Primitivo(1993)

アルベルト・ウォルフ/プリミティボ

 カンドンベビート、ポップ、フォーク、ロックの間を怪しく行き来する謎の奇人。「マンドラケ」の名でも知られ、80年代にカンドンベ・カンシオンの代表的存在ロス・テラペウタスや、エドゥアルド・マテオの楽曲を6人で奏でるマテオ・ポル・セイスのメンバーであり、現在はソロ活動を行なっている。1993年リリースの本作カセットが2017年に突如CDでリリースされた。この中毒性がクセになる。

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②Alejandro Balbis /El Gran Pez(2009)

アレハンドロ・バルビス/エル・グラン・ペス

 キャリア初期はムルギスタ(ムルガ歌手)としてカーニバルで活躍したということもあり、随所にムルガのコーラスワークが光るSSW。エドゥ・ピトゥーフォ・ロンバルドとともに「観る音楽」であったムルガを「聴く音楽」に高めた音楽家の1人ではないだろうか。ムルガとウルグアイロックをつなぐ敏腕プロデューサーとしても知られている。

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③Alfredo Zitarrosa /Zitarrosa en vivo(1983)

アルフレド・シタローサ/シタローサ・エン・ビボ(ライヴ盤)

 モンテビデオ市内にはシタローサの名を讃えたホールもあるほどで、真のウルグアイポピュラー音楽はこの人なしに語れない。熱心な共産主義者のため70年代に軍事独裁政権成立後は国外に亡命。詩というフィルターを通して民衆の貧しさや望郷の念を訴え、その姿は他国で例えるならばキューバのシルビオ・ロドリゲス、チリのビオレタ・パーラやビクトル・ハラ、アルゼンチンのメルセデス・ソーサやアタウワルパ・ユパンキと比べられるだろう。この1983年のアルゼンチン・ライヴ盤より後(1985年)にウルグアイは民政復帰することになり、故郷に対する強いメッセージが感じられる。「ベチョのバイオリン」、「我が国でのアダージョ」など名曲多数。

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④Antonino Restuccia /Otro Camino(2020)

アントニーノ・レストゥシア/オートロ・カミーノ

 ウルバノ・モラエス、ポポ・ロマーノ、ベト・サトラグニ(故人)、ダニエル・マサ、フランシスコ・ファットルーソら敏腕ベーシストが群雄割拠するウルグアイ。その次の世代の中心にいるのが1991年生まれのアントニーノ・レストゥシア。エルナン・ハシント、ウーゴ・ファットルーソらと共演し、カンドンベ・ジャズを中心にスケールの大きい音楽を構築している。満を持してリリースした新作でも同世代では頭一つ飛び抜けている。父ルイスは多くの名盤を生んできた名エンジニアで名門レストゥシア家の名に恥じることない。ウルグアイから世界へ大きく飛翔する1枚になるのではないだろうか。

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⑤Barcarola /Barcarola(1981)

バルカローラ/バルカローラ

 ウーゴ&オスバルドのファットルーソ兄弟、ピッポ・スペラ、マリア・ヂ・ファチマ、スサーナ・ボッシュら80年代の盟主が集結した1981年の名盤。一聴するとジャズロックなのだがカンドンベのリズムや80年に特有の哀愁漂う女性コーラスが随所に流れてきてすぐにウルグアイだとわかるのも面白い。永遠の名盤でウルグアイ音楽の最大のマスターピース『Musicasión』(1971年)と比べてエレキギター、キーボードが入った分軽快。

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⑥Beto Satragni /Ecológico (1991)

ベト・サトラグラニ/エコロヒコ

 ウルグアイ人だがキャリアの多くをアルゼンチンで過ごしたベーシストで、「カンドンベ・ビート」といわれるブームを影で支えた。ルベン・ラダ、チャーリー・ガルシア、スピネッタ、リト・ネビアにも慕われ、2009年にはスピネッタの集大成ともなったライヴ盤『LAS BANDAS ETERNAS』にも参加しており、誇りに思うウルグアイ人もいるようだ。2010年に55歳の若さで急逝。

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⑦Daniel Maza /Vo!!(2016)

「エル・ネグロ」や「エル・ゴルド」のあだ名で知られる敏腕ベーシスト。ファンク、ジャズ、カンドンベ…どのシーンにおいても欠かせない存在で、現在はアルゼンチンのジャズシーンでの活動が中心。その素朴なボーカルとウルグアイらしさを前面に押し出したお茶目なMCも人気が高い。ウーゴ・ファットルーソ、ファビアン・ミオドウニク、レオナルド・アムエドらとともにインストジャズバンド、「クアルテート・オリエンタル」のメンバーでもある。女性ボーカルとの親密なデュオ作や本作のように軽快なジャズなど多彩。

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⑧Daniel Viglietti /Trópicos(1974)

ダニエル・ビグリエッティ /トロピコス

 ウルグアイの国民的詩人・作家マリオ・ベネデッティとの共作でも知られ、2017年に亡くなった吟遊詩人。ウルグアイのフォルクローレを掘り起こす一方で政治にも深くコミットし、作家エドゥアルド・ガレアーノと双璧をなすウルグアイの左派知識人の中心人物でもあった。ブラジルのシコ・ブアルキ(本作でカバー)、カタルーニャのジョアン・マヌエル・セラートのような位置付けだろう。決して派手ではないが芸術の地位を高め、ウルグアイ音楽を語るにおいて外せない人物。

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⑨Diane Denoir /Quien te viera(2011)

ディアヌ・デノワール*/キエン・テ・ビエラ

 何と言ってもエドゥアルド・マテオとの共演で知られる女性歌手。70年代に独裁政権時ウルグアイから民主的国家だったベネズエラへ亡命。早くも歌手生活にピリオドが打たれたかと思いきや、1998年に自宅でお蔵入りとなっていたマテオとの共作『Inéditas』をリリース。その後また時間を置いて2011年にリリースした本作『Quien te viera』でもやはり瑞々しい歌声を聴かせてくれる永遠のミューズ。ウルグアイを代表する詩人・作家マリオ・ベネデッティ(2008年没)とも親交を結び、基金の委員を務めるなど文学にも造詣が深い。ウルグアイ東部マルドナード市にエドゥアルド・マテオの名を通りにつけるよう市に働きかけて実現したのもこの人のおかげ。

*両親はオーストリア系移民。様々なインタビューでの発音から判断するにディアヌ・デノワールに近い。

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⑩Edu Pitufo Lombardo /Murga Madre

エドゥ・ピトゥーフォ・ロンバルド/ムルガ・マドレ

 この人の声にドレクスレルを感じるのは筆者だけだろうか。ピトゥーフォはウルグアイで毎年夏に行われるカーニバルで風刺的要素を取り入れたムルガをポピュラー音楽に盛んに取り入れていれたパイオニア。1983年にムルガグループ、ファルタ・イ・レストでデビューし、90年代にはコントラファルサを指揮するなど常にムルガ界の中心に君臨し続ける。モンテビデオやブエノスアイレスのムルギスタたちにとっては神のような存在。ギターの弾き語りにムルガやカンドンベを落とし込む手法もお見事。

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⑪Eduado Mateo /Mateo solo bien se lame

 全てのウルグアイ音楽はこの人を中心に回っている。シンプルながら曼荼羅的ソングライティングでウルグアイ音楽史にこの人に並ぶ存在は今後も現れることはない圧倒的大横綱。60年代後半に伝説のバンド「エル・キント」をルベン・ラダらと結成後はソロとしてディアヌ・デノワール、ウーゴ・ファットルーソ、マリアナ・インゴールド、フェルナンド・カブレラ、エステラ・マニョーネらと録音を共にしてきた。1966年から数回に分けて開催された『Musicasión』ではウルバノ・モラエス、ディアヌ・デノワール、ルベン・ラダ、オラシオ・ブスカグリア、ピッポ・スペラといった錚々たるメンバーをそろえてライヴを行い、ウルグアイ音楽の曙を堂々と示し、革命的な影響力をミュージシャンに与えてきた。にも関わらず私生活は荒れに荒れていたようでルンペンと間違えられて劇場に入れなかったというエピソードもあるほど。残念ながら生前は一般にあまり評価されることもなく1990年に50歳を前にしてなかば野垂れ死ぬようにしてこの世を去ったのが悔やまれる。日本ではアカ・セカ・トリオやウーゴ・ファットルーソのカバーがよく知られている。

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⑫El Kinto /Circa 1968(1968)

エル・キント/シルカ1968

 Opaと並ぶ伝説的グループ。1960年代、エドゥアルド・マテオ、ルベン・ラダ、ウルバノ・モラエスといったウルグアイポピュラー音楽の黎明期を担った才人たちがこのバンドを踏み台にカンドンベとビートを掛け合わせたカンドンベ・ビートという新しいジャンルへと羽ばたいていった。「Muy Lejos Te Vas」「Esa Tristeza」など今でも多くのバンドにカバーされる名曲ぞろい。名門ソンドルレーベルが生み出した一つの金字塔。

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⑬El Syndikato /El Syndikato (1972)

エル・シンディカート /エル・シンディカート

 サイケ、ロック、カンドンベ、フォーク、そしてこの脱力系ジャケット…イギリスの影響は強く感じているのだけれど僕らはウルグアイ出身なのでそこはあえて目指してませんとでもいうかのよう。多くの影響を受けながらも個性あふれるこのバンドこそウルグアイ音楽のど真ん中に見事に君臨していると個人的には思う。1969年から74年までの活動だったようだが、いまだにファンは多い。

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⑭Estela Magnone & Jaime Roos/Mujer de Sal Junto a un Hombre Vuelto Carbón(1985)

エステラ・マニョーネ*&ハイメ・ロース/ムヘール・デ・サル・フント・ア・ウン・オンブレ・ブエルト・ア・カルボン

 エステラ・マニョーネは80年代前半、ハイメ・ロースの薦めによりマリアナ・インゴールドらと結成したヴォーカルグループ「Travesía(トラベシーア)」でウルグアイ最大の女流詩人イデア・ビラリーニョの詩に音楽をつけて作曲を開始。その後もラウラ・カノウラ&フラビア・リパとの「Las Tres(ラス・トレス)」で洗練された夢心地ほんわかヴォーカルを披露。その彼女の手をすまし顔でつなぐのが我らがハイメ・ロース。高尚と通俗が絶妙に入り混じる名盤で、年末にはLPプレスが決定している(祝)。

*インタビューで本人が「マニョーネ」の発音で答えている。

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⑮Fernando Cabrera /El tiempo está después(1989)

フェルナンド・カブレラ/エル・ティエンポ・エスタ・デスプエス

 『マテオ&カブレラ』(1987)でエドゥアルド・マテオと共演して以降、マテオの音楽路線を正当に受け継ぐのはこの人かウルバノ・モラエスかルベン・ラダか。現在でもアルゼンチン・ウルグアイの若いアーティストにも慕われているのはシンガーソングライター、詩人として高い才能を持ちつつも、マテオの音楽にポップさを注入して多くの人の耳に受け入れやすくした絶妙なアレンジも影響しているのだろう。2017年にBizarroレーベルからLPで発売。カブレラ初期の名作。

続く…

参考文献:Andrés Pampillón 『Ellas』

Guilherme De Alencar Pinto 『Razones Locas』


(月刊ラティーナ 2020年11月号)

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