[2021.10]現代ウルグアイ音楽事情(前編)
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[2021.10]現代ウルグアイ音楽事情(前編)

文●谷本雅世 texto por Masayo Tanimoto (PaPiTaMuSiCa)

 日本・ウルグアイ外交関係樹立100周年を記念し ウルグアイの国宝級大スター、ルベン・ラダ初来日ツアーがいよいよ11月後半からスタートする。
 ラダの輝かしい音楽実績と膨大な足跡については本誌の斎藤充正さんによる特別寄稿「来日記念! ルベン・ラダの軌跡を辿る・拡大版」およびラティーナ特設サイト「ルベン・ラダ 日本ウルグアイ外交関係100周年記念公演」をご参照頂くとして、ここでは2回にわたり現代ウルグアイ音楽について焦点をあてたい。

 ウルグアイ音楽を形成する要素の特徴として挙げたいのはまずタンゴで、意外と思われるかもしれないが、世界で最もよく知られる「ラ・クンパルシータ」が生まれた国である。一方、ガウチョの伝統をくむギターと歌を中心としたフォルクローレとその伝統に社会性を加え、ウルグアイ独自のヌエバ・カンシオンへの橋渡しをした歌手のアルフレド・シタローサはウルグアイ音楽を語る上で忘れられない存在である。また、都市モンテビデオの黒人居住区を中心にカーニバルを主軸として国を代表する音楽の地位を築いたカンドンベがあり、もうひとつのウルグアイ・カーニバルの花形であるムルガ、そして、ラテングラミー・ノミネート常連のスーパーバンド「ノ・テ・バ・ア・グスタール」に代表されるようなスペイン語ロックの存在や、第一線で活躍しアカデミー賞受賞経験のあるSSWホルヘ・ドゥレクスレルに代表されるような 詩とリズムを大切にしたポップスの潮流などがある。そしてタンゴとカンドンベはユネスコが制定する世界無形文化遺産にもなっている。

 ブラジルとアルゼンチンに挟まれた南米の小さな国だが、 ウルグアイに暮らす人々は日々日常生活の中でなんらかの形で音楽に触れていて、音楽・ダンス・アートにかかわる人口は多く、マーケットが小さいため活動の場を求め近隣国で活動したり、国内外を行き来して活動するアーティストが多いのも特徴といえる。
 そんな背景の中で今聞くべきウルグアイ音楽を紹介する。

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トリオ・ベンターナ(Trío Ventana) 

 双子の兄弟ニコラス・イバルブル(Nicolás Ibarburu) (ギター・ボーカル)、マルティン・イバルブル(Martín Ibarburu)(ドラム・パーカッション・ボーカル) とエルナン・ペイロウ(Hernán Peyrou)=別称チャン・ペイ(ピアノ・キーボード・メインボーカル)の3人により2015年結成されたトリオ。国内外での演奏活動やツアー経験豊富な3人が瑞々しいセンスでウルグアイの名曲と自身のつくる新しいウルグアイ音楽を表現している。

 そのアルバム『Amigo Imaginario』はジャズ・カンドンベを主軸にミロンガ、サンバ(zamba)などアルゼンチン現代フォルクローレにも通じる牧歌的余韻をたたえたアコースティックな歌と演奏の作品集で、サポートメンバーには友人としての交流も深いアルゼンチン・ブエノスアイレス在住のミュージシャン、フアン・キンテーロ(Juan Quintero)(ギター/アカ・セカ・トリオ)と、フアン・パブロ・ディ・レオーネ(Juan Pablo Di Leone)(フルート)、パラナー在住のフェルナンド・シルバ(Fernando Silva)(ベース)、地元ウルグアイのサラ・サバー(Sara Sabah)(ボーカル)とナチョ・マテウ(Nacho Mateu)(ベース)らを迎えメンバーの楽曲作品にもフォーカスを当てた活動をしている。サラとナチョは後述のユニット、ナイール・ミラブラット(Nair Mirabrat)を率いるマルティン・イバラ(Marín Ibarra)と日頃から演奏する仲間だ。
 ウルグアイの人里離れた未舗装道路しかない村、カボ・ポロニオで録音・制作を行った異色作。

 ニコラス・イバルブル(Nicolás Ibarburu)はコンポーザーとしても評価が高く、ソロアルバム『Casa Rodante』『Anfibio』、フアン・パブロ・チャピタル(Juan Pablo Chapital)とのデュオ名義で『Amanecer en Tandil』を発表。心にやわらかく刺さるような楽曲が得意。

 マルティン・イバルブル(Martín Ibarburu)はドラマー、パーカッショニストとして本国ウルグアイの他、隣国アルゼンチンでも重用され、フアナ・モリーナ(Juana Molina)やウーゴ・ファトルーソ(Hugo Fattoruso)が日本ツアーを行った際の帯同メンバーとして来日もしており、様々なアーティストのアルバムに彼の名を見つける事が出来る。双子のニコラスと兄アンドレスの3兄弟で結成したトリオ・イバルブル(Tró Ibarburu)名義で3枚のアルバムを発表している。

 エルナン・ペイロウ=チャン・ペイ(Hernán Peyrou)は人気バンド、ロス・クエルポス(Los Cuerpos)のリーダーとして活動し、コンポーザー・ピアニスト・SSWとしてソロやデュオなど様々なユニットで多数の楽曲を発表している。ロス・クエルポス(Los Cuerpos)名義で発表されたアルバム『Hombre Vela』では彼の才能の一端が垣間見られる。

トリオ・シマロン(Trío Cimarrón)

 前述のエルナン・ペイロウ(Hernán Peyrou)と、マヌエル・コントレーラ(Manuel Contrera)二人の鍵盤楽器奏者にサンティアゴ・アコスタ(Santiago Acosta)のパーカッションという珍しい編成の異色トリオ。粗削りながら小気味よいパーカッシブな中にたゆたう浮遊感が心地よい。ちなみにマヌエルはルベン・ラダ・バンドのキーボード担当で今回来日する。

その他:
 その他にも、ブラジル、ウルグアイの音楽に造詣深い作品を発表している隣国アルゼンチン・パラナーのSSW、シルビナ・ゴメス(Silvina Gómez)が8月発表したアルバム『Volátil』にはサポートメンバーとしてマルティン・イバルブルがドラム、エルナン・ペイロウがキーボード・アコーディオンとボイスで、ゲストにキケ・シネシとエルナン・ハシントが参加している。シルビナと同郷カルロス・アギーレ主宰のShagrada Medraレーベルよりリリース。

 ニコラス・イバルブルとエルナン・ペイロウがアルゼンチンのシルビナ・ゴメス、 アナ・アルチェッティ(Ana Archetti)(トリオ・ファミリア)と共演するハーモニー美しい一曲。


マルティン・ブスカグリア(Martín Buscaglia)

 ルベン・ラダ、ウーゴ・ファトルーソ、エドゥアルド・マテオら巨匠と同時代に共に活動したミュージシャン・ジャーナリストで舞台も手掛ける俳優・作家だったオラシオ・ブスカグリアの息子がこの人マルティン・ブスカグリア。現在のウルグアイ音楽金字塔Jr.世代を代表する奇才で、歌・演奏もさることながらそのカラフルなパフォーマンスぶりやエネルギッシュなプロデュース力でどんな楽曲もブスカグリア節の極上ポップスへと昇華する魔力をもった人物だ。
 過去のアルバムでは早い時期にフアナ・モリーナやラダと共演の他、スペインの キコ・ベネーノ(Kiko Veneno)、マルティンとは親ほど年の離れたアントリン(Antolín)らとデュオ名義でアルバムを制作。最新作『Basta de Música』、最近リイシューされた2000年発表の『Plácido Domingo』でその大器ぶりを感じる事が出来る。ウルグアイ音楽をけん引し続ける真のクリエイターと言える。


ナイール・ミラブラット(Nair Mirabrat)

 今年初めウルグアイのギタリスト、マルティン・イバラ(Marín Ibarra)のユニット、 ナイール・ミラブラット(Nair Mirabrat)が放ったアルバム『Juntos Ahora』は新星のごとく、各地で話題をさらった。
本作はプロデュースにブラジル音楽の才人アントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)を迎え、ウルグアイ音楽にもともとあるプログレ要素とハイブリットな南米音楽をミクスチャーした浮遊感あふれる超大作になっている。ロウレイロは来日ではピアノと歌のソロが主体だったが、ドラム・ビブラフォンなど様々な楽器を操るマルチ演奏家でミナス音楽にも精通、その繊細かつ複雑で浮遊感あふれる音楽性を複雑に構築し織りなすことでミュージシャンにも定評がある人物で、SUKIYAKI MEETS THE WORLD、くるりの京都音博、カート・ローゼンウィンケルの 「Caipi Band」メンバーとして来日経験がある。
 本作の参加メンバーにはマルティンの兄であるフアン・イバラ(Juan Ibarra)、ウルグアイから前述のウーゴ・ファトルーソ(Hugo Fattoruso)(キーボード)、ニコラス・イバルブル(Nicolás Ibarburu)(ギター)、アルゼンチンよりラミーロ・フローレス(Ramiro Flores)(アルトサックス)、男女4名ユニットのペロタ・チンゴー(Perotá Chingó)(ボーカル)と、ブラジルからイチベレ楽団出身でミナス音楽にも精通するジョアナ・ケイロス(Joana Queiroz)(クラリネット)が参加。
 アルバム収録楽曲以外にもサブスクでは優れたアレンジのアルバム未収録曲が聞けるのでぜひ堪能してもらいたい。限定レコード(カラーディスク)は現在発売中で、CDはルベン・ラダ初来日記念に合わせ今月下旬Musasレーベルより発売される。より詳しい情報やインタビューについては特設サイトを参照いただきたい。

Nair Mirabrat ナイール・ミラブラット 特設サイト



谷本雅世(PaPiTaMuSiCa)●プロフィール
PaPiTa MuSiCa(音楽レーベル&プロデュース)主宰。
JICA日系社会青年ボランティアでアルゼンチン首都ブエノスアイレス日本庭園を管理する財団に3年間赴任。Webサイトと広報全般に携わる。在任中より南米音楽全般に親しみ帰国後中南米の音楽レーベル、国際協力出版会、JICA本部に勤務後フリーランスとなる。 定期的に南米巡回を続けアルゼンチンは北部アンデス辺境地から最南端パタゴニアまで巡る。 これまで旅した国はウルグアイ、チリ、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ドミニカ共和国、北米、欧州諸国、インドネシアなど。
アカ・セカ・トリオ、リリアナ・エレーロなど多数の南米音楽日本盤の歌詞対訳・ライナーノーツ執筆の他、PaPiTaMuSiCaとして来日ミュージシャンのアテンド、ツアーサポート、南米文化紹介の講座・映画上映会・イベントなどを行う。
日本緑茶協会認定マテ茶アドバイザー。
ラティーナ誌では2004年よりタンゴ・現代フォルクローレ・ポップスのディスクレビューとインタビューを執筆。
著書「旅の指さし会話帳(40)アルゼンチン」(情報センター出版局)
共著「旅の指さし会話帳JAPAN(69)スペイン語」、「暮らしの指さし会話帳(6)スペイン語」
http://papitamusica.com.ar/

(ラティーナ2021年10月)

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