[2022.2]【連載 アントニオ・カルロス・ジョビンの作品との出会い⑯】この世のすべてが君と同じだったなら - 《Se todos fossem iguais a você》
文と訳詞●中村 安志 texto e tradução por Yasushi Nakamura
亡くなった愛妻エウリディケを、黄泉の国に出向いて連れ帰りたいという願いを受け入れてもらったものの、この世に戻る未知の最後で後方を振り向いてしまい、エウリディケが消えてしまうというギリシャ神話の主人公、音楽の天賦に恵まれたオルフェウス(ポルトガル語ではオルフェ)。その物語を、リオのスラム街の若者とカーニヴァルを舞台とするストーリーに置き換え、各国で好評を博した映画『黒いオルフェ』(1959年、カンヌ映画祭パルムドール受賞。マルセル・カミュ監督作、フランス・ブラジル・イタリア共同制作)。映画の中で流れる名曲がフランスなどでも人気を博し、ブラジル音楽を世界に広める更なる原動力となったこの映画については、日本でもよく知られていると思います。
↑映画「黒いオルフェ」のテーマ「オルフェのサンバ」
ルイス・ボンファのギターが軽快に奏でる「オルフェのサンバ」など、この映画を通じ世界的に知られる曲が複数存在しますが、元々は、詩人ヴィニシウス・ヂ・モライスが、映画よりも前に演劇作品として作り上げた「コンセイサンのオルフェ」のために、ジョビンとコンビを組んで作り出した曲が中心でした。この劇は、1956年9月25日にリオのレプブリカ劇場で初演。舞台背景デザインは、新首都ブラジリアの都市建築設計を担当したオスカー・ニーマイヤーの手に託されています。
今回は、この演劇オルフェのために制作された音楽の中でも、長く歌い継がれている「Se todos fossem iguais a você(すべてが君と同じだったら)」という名曲をご紹介します。
この歌は、演劇と映画の成功後も、マイーザ、エリゼッチ・カルドーゾ、マリア・クレウザといった女性歌手、チト・マジ、カウビー・ペイショット、アゴスチーニョ・ドス・サントスといった男性歌手により続々と録音されるほどの人気ぶりで、この劇のために作られた歌の中でも、第三者に最も多く、かつ長く取り上げられている曲とも言われます。
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