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[2025.1]ブラジル映画として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされる快挙!! ウォルター・サレス監督 『I'm Still Here』 受賞なるか!?

文●編集部

 ブラジル映画 『I'm Still Here(原題:Ainda Estou Aqui)(「私はまだここにいる」の意)』が、アカデミー賞作品賞にノミネートされた。作品賞にブラジル映画がノミネートされるのは史上初の快挙!!! 同作の国際長編映画賞へのノミネートは有力視されていたが、作品賞へのノミネートにブラジルが沸いている。作品賞の他、国際長編映画賞、主演女優賞にもノミネートされ、計3部門にノミネートされた。

🏆作品賞
🏆主演女優賞:フェルナンダ・トーレス
🏆国際長編映画賞

 ブラジル映画から作品賞へのノミネートが初めてなだけでなく、南米という地域で捉えても、同地域からの作品賞へのノミネートが初となる。中米からは、2018年に、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』がノミネートされたのは初めてであった(メキシコ)。

 ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』(韓国、2019年)や、中国出身の映画監督、クロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』(米国、2020年)が受賞したのも記憶に新しく、アカデミー賞が作品賞の部門でも国際映画を以前よりも積極的に評価する傾向があり、本作の受賞にも期待が高まっている。

  国際的な映画批評サイト「Rotten Tomatoes」の批評家や観客による満足度を示す指標を元にしたノミネート作品のランキングでは、『I'm Still Here』がダントツの1位となっており、作品賞の受賞も夢物語ではなく、現実味があるんじゃないかという気がしてくる。

 さて、映画の紹介。 

『I’m Still Here』には、ブラジルの軍事独裁政権下での人権侵害や家族の絆が描かれる。監督は、『セントラル・ステーション(原題:Central do Brasil)』で、1999年にも外国語映画賞にノミネートされたことがあるウォルター・サレス(Walter Salles / ヴァルテル・サレス)。

イントロダクション:
 1970年、元国会議員のルーベンス・パイヴァRubens Paiva|ブラジル労働党(PTB))は、1964年のブラジル軍事クーデターの際に任期を剥奪され、6年間の自主亡命生活を経て、リオデジャネイロに戻る。彼は妻エウニセ(Eunice Paiva)と5人の子どもたちと共に、レブロン・ビーチ近くの理想的な家に暮らし、市民としてのキャリアに復帰した。一方で、家族に詳細を話すことなく、国外に亡命した人々への支援を続けていた。
 スイス大使が極左革命運動によって誘拐された事件をきっかけに、国内には政治的不安が広がった。そして1971年1月、軍による家宅捜索がパイヴァの家で行われ、パイヴァは逮捕され・失踪した。エウニセは夫の行方を公に問いただした結果、自身も逮捕され、12日間にわたり拷問を受けるが、家族を守るために強さを発揮し、その後は人権活動家として活躍する…

 主演のエウニセ・パイヴァをフェルナンダ・トーレス(Fernanda Torres|「クアトロ・ディアス」)が演じ、ルーベンス・パイヴァをセルトン・メロ(Selton Mello|「O MECANISMO[Netflix]」etc.)が演じている。また、高齢期のエウニセを、フェルナンダ・トーレスの実の母であるフェルナンダ・モンテネグロ(Fernanda Montenegro)が演じている。

 本作でのフェルナンダ・トーレスの演技は、特に高い評価を受けており、第82回ゴールデングローブ賞ではドラマ部門の主演女優賞を受賞している。過去、母のフェルナンダ・モンテネグロも『セントラル・ステーション』で主演女優賞にノミネートされたが、受賞には至らなかった。
 アカデミー賞においても、母フェルナンダ・モンテネグロは26年前に『セントラル・ステーション』で主演女優賞にノミネートされたが(ブラジル人女優初の歴史的快挙)、受賞には至らなかった。娘フェルナンダ・トーレスによってブラジル人女優初の悲願の達成なるか。アカデミー主演女優賞の受賞の行方は、こういう視点からも注目だ。

Director Walter Salles and lead actress Fernanda Torres promoting I'm Still Here at the 2024 BFI London Film Festival
(CC BY 2.0)
Fernanda Torres

 映画『I’m Still Here』の原作は、ルーベンスとエウニセの実子、マルセロ・ルーベンス・パイヴァ(Marcelo Rubens Paiva)が記し、2015年に上梓されたエウニセの半生を描いた伝記「Ainda estou aqui」だ。著者とその母エウニセとの繊細な関係や、家族の愛情を描きながら、軍事独裁政権時代(1964年~1985年)を中心にブラジルの歴史や政治的問題も描いた作品である。
 映画化にあたり、脚本は、ムリロ・アウザー(Murilo Hauser)とエイトール・ダリア(Heitor Dhalia)の2人が担当した。2人は、本作の脚本が評価され、第81回ヴェネツィア国際映画祭で、最優秀脚本賞を受賞している。

原作 Marcelo Rubens Paiva「Ainda estou aqui」

 『I'm Still Here』は、2024年9月1日に第81回ヴェネツィア国際映画祭で初上映され、10分以上のスタンディングオベーションを受けた。その後、トロント、ニューヨーク、ロンドンなどの映画祭でも上映され、2024年11月7日にブラジルで劇場公開された。ブラジル国内では公開初日に約50,320人を動員。2025年1月までに観客動員数は300万人を超え、パンデミック以降のブラジル映画として最高の興行成績を収めている。
 気になる日本国内での公開については、クロックワークス社の配給で2025年夏の公開予定だ。

 追記:劇中の音楽については1970年前後のブラジル音楽が主に使用されている。ムタンチスやトン・ゼー、カエターノ・ヴェローゾ、チン・マイア、ホベルト・カルロス、ガル・コスタらの楽曲だ。ブラジル以外では、ゲンズブール&ジェーン・バーキン、ダニー・ハサウェイの楽曲も取り上げされている。公式なサントラはなく、映画を見た有志が、プレイリストを作成している。

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『I’m Still Here』予告編(英語字幕)

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Fernanda Montenegro
Walter Salles / Fernanda Montenegro
Fernanda Montenegro

(ラティーナ2025年1月)

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