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[2022.10]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年10月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Catrin Finch & Seckou Keita · Echo

レーベル:Bendigedig [18]

 イギリスのハープ奏者カトリン・フィンチとセネガルのコラ奏者セク・ケイタのデュオ最新作。このデュオとしては、2013年のデビュー作『Clychau Dibon』、2018年作『SOAR』に続く三部作の三作目となり、デュオ10周年を記念した作品。
 前作は好評を博した作品だったが、本作もそれを越えるような作品。さすがデュオ10周年ともなると、ジャンルの垣根を越え二人の呼吸がぴったり合った作品となっている。
 本作の基本テーマは、彼らの関係を、ひとつのシームレスな創造的全体へと発展させることだそう。タイトルの『エコー』は、愛、人間関係、死、記憶の重要性にも焦点を当てている。これらのテーマは、この2年間の世界的な状況を考え、多くの人が考えている大きな実存的なテーマとなっている。
 音色が似ているともいえるコラとハープ、これらの音が重なるとさらに美しく豊かに広がるのが本当に素晴らしい。収録されている曲数は7曲とそんなに多くはないが、各曲が長めとなっていて、美しさを充分に堪能できる。じんわりと心に沁み入る音色が美しい作品。

19位 Fanfara Station · Boussadia

レーベル:Garrincha Gogo [14]

 イタリアを拠点に活動する多国籍トリオ、Fanfara Station の2作目となる最新作。メンバーは、チュニジア出身のマルチ・インストゥルメンタリスト Marzouk Mejri、イタリア在住歴が長いアメリカ人トランペッター/トロンボーン奏者の Charles Ferris、電子音楽DJ/プロデューサー Ghiaccioli e BranziniことMarco Dalmasso 。
 本作品は、メンバーそれぞれの文化を探求する三部作の第一章として構想され、まず Marzouk Mejri のルーツを辿る内容で、チュニジアで現地のアーティストとの共同作業を行い、録音された。チュニジアの黒人社会と深く結びついた音楽ジャンルと言われる「スタンベリ(Stambeli)」をインスパイアした内容となっている。スタンベリはアニミズム(精霊信仰)の音楽であるが、根深い構造的な人種差別により国家はこの音楽ジャンルをチュニジアの文化遺産として扱わず、むしろ異質なものとして扱ってきた。しかし、ここ数年スタンベリに興味を持つ若者が増えているそうで、スタンベリの音楽家たちは、スタンベリ音楽に西洋の楽器を導入し、融合させることで継続性を確保しようとしているという動きもある。
 この虐げられてきた音楽とは一体どういうものなのだろうか?と興味深々で聴き始めたら、悲鳴か?雄叫びか?とも思えるパワー溢れる声からスタート。トロンボーンの音と催眠的なリズム、電子音楽がミックスされ、圧倒的なパワーを感じる。ほとんどの楽曲は、ライブの即興演奏を録音して作られた楽曲で、スタンベリの古典音楽も現代的にアレンジされ収録されている。聴けば聴くほどクセになるアルバム。三部作の第一章というから、今後の二作も大いに期待できる。

18位 Leyla McCalla · Breaking the Thermometer

レーベル:Anti- [6]

 ニューヨーク生まれのハイチ系のアフリカ系アメリカ人で、現在はニューオーリンズ在住、SSWでもありチェロ奏者のレイラ・マッカーラの最新作。ソロとして4作目となる。2013年リリースの前作『Vari-Colored Songs: A Tribute to Langston Hughes』は、昨年リイシュー盤がリリースされこちらも好評だった。(2020年12月〜2021年1月で本チャートにランクイン)
 本作は演劇パフォーマンス作品「Breaking the Thermometer to Hide the Fever」のための楽曲が収録されている。このプロジェクトは、ハイチ初の独立系ラジオ局で、1970年代にはハイチ人の多くが話すクレオール語でニュースと解説を伝える唯一の存在だったラジオ・ハイチの物語がベースになっている。政治的抑圧を受けながらも局は存続していたが、2000年にオーナーでありジャーナリストであった Jean Dominique が暗殺されてしまい、その後3年間はなんとか放送を続けたが、2003年には閉鎖せざるを得なくなった。このラジオハイチの貴重なアーカイブがノースカロライナ州のデューク大学に残されており、ステージやアルバムの中で効果的に使われている。
 本作には、レイラのオリジナル作品が多く収録されているが、他にもハイチの活動家/SSWでもあり海外にも亡命経験のあるマンノ・シャルルマーニュや、ハイチ系アメリカ人のギタリスト/作曲家フランツ・カセウスらの曲や、カエターノ・ヴェローゾが亡命中に制作した曲「You Don’t Know Me」なども収録されている。ブルースやクレオールのアクセントがきいている彼女のオリジナル作品と、これらの曲が物語としてうまくマッチしている。ハイチの人々の数世紀にわたる厳しい政治的抑圧や、貧困といった現実の問題、そして活動家たちへの敬意もこの作品で表現している。移民と活動家であるハイチ人の両親の間にニューヨークで生まれた彼女のルーツともなる物語がこのアルバムに込められている。ハイチ人の不屈の精神、抵抗、表現の自由が胸に響く。

17位 Purbayan Chatterjee & Rakesh Chaurasia · Saath saath

レーベル:Purbayan Chatterjee / Believe [-]

 インドのシタール奏者 Purbayan Chatterjee と、その友人でバンスリ(インドの竹製フルート)の名手 Rakesh Chaurasia による最新作。二人の他にもタブラ奏者二名(Ojas Adhiya, Satyajit Talwalkar)が参加している。
 北インドのラーガ(旋律を基本とするインド古典音楽の音楽理論、旋法)の精神と伝統に則って即興演奏した、全7曲(本作の場合、7ラーガとも言う)が収録されている。ラーガは演奏するのにふさわしい時間帯やムード、感情があるそうで、本作では夜明けのラーガからスタートし、昼と夜が行き交うというテーマで演奏された。1曲が10〜19分で、CDでは2枚組、合計1時間45分のボリュームとなっている。Purbayan は Ojas と、Rakesh は Satyajit とのデュオ作をそれぞれ過去にリリースしており、今回はこの4人が集結した作品。前半3曲は、Purbayan と Rakesh 、そしてそれぞれのデュオの演奏、後半の4曲は4人での演奏が収録されている。
 Purbayan と Rakesh は20年来の友人で、古典の伝統を重んじながらも、その枠にとらわれず、異なるジャンルの音楽を取り入れるなど果敢に挑戦してきた。Purbayanの前作となる2021年リリース作品『Unbounded Abaad』は、プログレッシブ・ジャズ・ロックであったし、また Rakeshはフュージョンバンド「Rakesh and Friends」でも活躍している。
 本作のタイトル『Saath Saath』は、「一緒に」や「一緒に何かをする」という意味。彼らの友情を前面に押し出し、シタールとバンスリという楽器を通して、2人の魂を結びつける親密なダイナミズムを表現している。
 複雑なメロディーで構成されているが、シタールの奥行きある響きと音階、バンスリの膨よかな音色の組み合わせがとても心地よい。じっくり1時間45分この音楽に浸ると、心が浄化されるようだ。

16位 Madalitso Band · Musakayike

レーベル:Les Disques Bongo Joe [8]

 アフリカ南東部の国マラウイの二人組、マダリツォ・バンドの最新作。国際リリース盤としては、二作目となる。3ヶ月連続で20位以内にランクイン!2019年にリリースされた前作は、国内盤としても発売され好評を博した作品だった。
 彼らはマラウイの街角で演奏していたところを発見され、そこからデビューへと繋がった。ババトニ(babatoni)と呼ばれる手作りの一弦ベースを演奏するヨブ・マリグワ、4弦ギター(おそらく元は6弦ギターなのだが…)を弾きながら、これまた手作りの牛革のキック・ドラムを踵で操るヨセフェ・カレケニによるデュオである。ヨブがリードヴォーカルで、ヨセフェがコーラスを担当。ドラムの速いテンポにババトニのアクセントが加わり、素朴ながらも力強さが感じられる。上記動画の演奏風景に見入ってしまう。シンプルな楽器を使い二人で演奏しているとは思えない音の豊さ、そして何より二人の笑顔がすごく良い!観ていてリズムに引き込まれてしまう演奏だ。(お揃いの衣装が可愛い!)
 彼らはすでに Womex や Womad などでも演奏し、ヨーロッパでもツアーを行なっているそうだ。前作よりもキャリアを重ねているのが、本作のサウンドから感じられる。人柄の良さが演奏に出ているのは変わらないので、そこはずっと変わらず活躍していって欲しい。

15位 Ali Doğan Gönültaş · Kiğı / Gexî / Kegui

レーベル:Ali Doğan Gönültaş [11]

 イスタンブール出身のトルコ系クルド人バンド Ze Tijê のリードヴォーカル Ali Doğan Gönültaş のソロ作品。バンドは2007年に結成され、2015年にデビューアルバムをリリース、現在まで2作品をリリースしている。2018年頃よりソロで活動をはじめ、ソロコンサートも行なっていた。本作がソロアルバムとして初めてのリリースとなる。バンド活動だけでなく、映画音楽の制作や、テレビ番組にも出演するなど、幅広い活動をしている。
 本作のタイトルは、トルコ東部にある彼の生まれ故郷の街の名前だそうだ。彼自身の物語と、この地域の150年の歴史と文化に音楽的、そして言語的な側面からスポットを当て表現しているとのこと。この地方の言語であるザザキ語をはじめ、クルド語やトルコ語でも歌っている。この地方の伝統的な音楽だけでなく、彼が思い描いていた実験的な要素も本作で表現されている。ソロ作品ではあるが、楽器やヴォーカルでサポートメンバーも多数参加している。彼本人のヴォーカルだけでなく、女性ヴォーカルの曲もあり、男声と女声が交互に歌っている曲などバラエティ豊な曲が多数収録されている。トルコの弦楽器であるバーラマや、メイ、ドゥドゥク、ズルナ、クラリネットなどの木管楽器の音色が、彼の世界観にぴったり嵌まっている作品。

14位 Yanna Momina · Afar Ways

レーベル:Glitterbeat [25]

 アフリカ北東部にあるジブチ共和国の女性歌手ヤンナ・モミナのアルバム。作家で、Tinariwen などをプロデュースしグラミー賞を受賞したアメリカ人プロデューサーのイアン・ブレナンが、フィールド録音のため2018年春ジブチを訪れた際に録音したものが収録されている。Glitterbeat’s レーベルの「Hidden Musics」シリーズ第10弾としてリリースされた。もちろん本作のプロデュースはイアン・ブレナンである。
 ヤンナ・モミナは、ジブチの全人口35%を占めるエチオピア系のアファール人。アファールの人々はほとんどの人がテレビを持っていないため、夜は自分たちの娯楽のため毎晩のように演奏したり歌ったりし、音楽は「見せるためにやるものではない」と彼女は言っている。
 ヤンナは1948年生まれ。アファール人女性としては珍しく自分で曲を書き、歌っており、彼女の住む地方でその名を知られている。とてもユニークな声で、ビブラートのかけ方も独特、自身で曲を書いているためかソウルフルなメッセージがダイレクトに感じられ、彼女独自の世界観を醸し出している。ソロでアカペラで歌うこともあれば、アコースティックギターやカラバシ、パーカッションなどの伴奏でも歌っている。ライヴ録音中、突然アカペラで「私の家族は愛する人と結婚させてくれない(I Am Forced to Wed My Uncle)」という、集まった友人たちも聞いたことがないような曲を歌い出したそうだ。(アルバム最後の曲として収録)このハプニング的な楽曲もライヴ録音ならではであろう。このように本作でもイアンのライヴ録音の収集力に圧倒された。収集だけでなく、実際にリリースに繋げているところも頭が下がる思いだ。

↓国内盤あり〼。

13位 Adédèjì · Yoruba Odyssey

レーベル:One World [-]

 ナイジェリアの大都市ラゴス出身のシンガー&ギタリスト、アデデジの最新作。本作が3作目となる。2012年リリースの1stアルバム、2017年リリースの2ndアルバム共に国際的に高い評価を受け、受賞歴もある。
 5歳の時にラゴスの教会の聖歌隊に入り、10歳になる頃にはその聖歌隊を率いるまでになった。その後、バックヴォーカリストとして精力的に活動、ラジオのジングルや広告、映画のサウンドトラックなどナイジェリア全土で彼の歌声を聴くことができた。ナイジェリアの大学で音楽技術やクリエイティブ・アートを学び、さらにはロンドン、オランダの音楽学校でも演奏や歌を学んだという才能溢れるアーティストである。
 今回の新作は、プログレッシブ・ジャズ・ファンクに、伝統的なヨルバ音楽や、ゴスペルとともに育ってきた影響が色濃く反映されている。グルーヴィーなリズムセクションと、豪華なホーンセクションの演奏に、彼の歌とパワフルなバックコーラスがかっこよく絡み合い、ファンク、ソウル、ジャズ、アフロビートを表現。歌詞はヨルバ語、英語、ピジン英語で歌われており、歌詞の中でヨルバ文化の伝統的なアイデンティティを、なぞなぞやことわざを使って再定義し、社会について語っている。タイトルの訳は「ヨルバの遍歴」。伝統的なヨルバ音楽が、モダンなサウンドと融合、洗練されたジャズ・ファンクになっている。2021年にリリース予定だったが、世界的なパンデミックの影響でリリースを延期、今年の8月にようやくリリースされた。聴いていてグルーヴ感がとても心地良い。気分がアガる作品だ!

12位 Wesli · Tradisyon

レーベル:Cumbancha [-]

 ハイチ出身、現在はカナダ在住のソングライター/ギタリスト/プロデューサーである Wesli の6作目のアルバム。
 1980年ハイチの首都ポルトー・プランス生まれ。8人兄弟で、裕福とは言えなかった家庭に生まれたが、音楽が生活の一部であった。2001年カナダ政府主催の奨学金コンテストで優勝しカナダのモントリオールに移住、アレンジとパーカッションを学びながら様々なアーティストの作品に参加していた。2009年にデビューアルバム『Kouraj』をリリース、以降4枚のアルバムをリリースした。2018年にリリースしたアルバム『Rapadou Kréyol』は高く評価され、2019年カナダのJuno賞(ワールドミュージックアルバム部門)を受賞した。本作はそれ以来の作品となる。
 自身のルーツに立ち返り、ハイチの伝統の隠された側面を探るべく彼は数年かけて旅に出た。何百年も前にハイチに持ち込まれたアフリカの言葉の歌を学ぶためにハイチのブードゥー教信者の集会所やコミュニティグループを訪れたり、ハイチの民族楽器などのテクニックを研究した。本作では、その成果が結集された作品となっており、ハイチの過去を語り、未来を想像する2部作の1枚目としてリリースされたもの。ヴードゥー教のカーニバル音楽「ララ」やレゲエなどハイチ音楽の幅広く伝統的なジャンルに、エレクトロニック、アフロビート、ソウル、ファンク、ヒップホップなどを融合させ、とても魅力的な楽曲を作り出している。また、ハイチのルーツともなるアフリカの文化とも見事に融合、ハイチの豊かな音楽史に敬意を表し、その魅力を余すところなく伝えている。2部作の2枚目もぜひ聴いてみたい!

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

11位 Vieux Farka Touré · Les Racines

レーベル:World Circuit / BMG [2]

 マリのギタリスト、SSWであるヴィユー・ファルカ・トゥーレの最新作。ソロ名義としては10作目のアルバムとなる。7月に19位で初ランクインし、8月には1位、9月は2位と上位をキープし、今月は11位に。
 2006年に亡くなったマリの伝説的なギタリスト、アリ・ファルカ・トゥーレの息子であり、“サハラのヘンドリックス”として知られている。父親アリと一緒に作り、録音した曲がヴィユーのデビューアルバムに収録され、それが父親最後の録音となった。ヴィユーは、マリの音楽だけでなく他のアフリカ音楽、ロックやラテン音楽などの要素も取り入れ、彼独自のサウンドを発表し、世界各国から高い評価を受けてきた。また、ソロ作品以外にも、アメリカのSSWジュリア・イースタリンやイスラエルのSSWイダン・レイチェルとのアルバムをリリースするなど、ジャンルを超えた活躍を見せている。
 コロナのパンデミックで全てのツアーが中止となり、自宅のスタジオ(亡き父に敬意を表して「Studio Ali Farka Toure」と名付けたそう!)にこもり、ずっと制作活動をして生まれたアルバム。本作のタイトルは「ルーツ」を意味する。亡き父が世界に紹介してきたマリ北部の伝統音楽、ソンガイ音楽のルーツを探求し、彼なりに作り上げた作品。そして本作は、父が自身の作品のほとんどを録音・発表し、そして世界的な知名度を獲得した英国の名門レーベルであるWorld Circuitから初めてのリリースとなった。
 自分のルーツである父の音楽がベースにあり、部族や民族間の緊張により絶え間ない暴力に悩む母国や世界各国において人々が一つになることを切望するために制作された。時代を超えたグルーヴ感、彼自身のアイデンティティが感じられる深い作品。亡くなった父親アリも天国でさぞかし喜んでいることだろう。

10位 Minyeshu · Netsa

レーベル:ARC Music [9]

 エチオピア出身のヴォーカリスト、ミネイシュの5作目となる最新作。
 彼女は歌だけではなく、ダンサーや振付師、プロデューサー、俳優としてもキャリアを築いており、現在はオランダ在住、世界のフェスティバルでパフォーマンスを行なっている。パンデミックでツアーが中止され、時間ができ改めて音楽と向き合い、このアルバムが制作された。タイトル『Nesta』とはエチオピアの公用語であるアムハラ語で「自由」を意味する。身体の一部でもあり、そして自身を自由にしてくれる音楽を探求し、曲を制作しながら自由になるための時間を待っていたそうだ。
 彼女はエチオピアでの学生時代に、エチオピア・ジャズの父と呼ばれる作曲家ムラトゥ・アスタトゥケに出会い、彼の影響を大きく受けた。今回の作品でもそれを感じることができる。ギター、サックス、ドラムなど西洋の楽器の他に、エチオピアの伝統楽器であるマセンコ(1弦の弓奏楽器)やクラル(6弦の竪琴)、ワシント(竹製の管楽器)なども使われ、サウンドが見事に融合されている。また、Tizita(ティジータ:Tezata とも言う)と呼ばれるエチオピア音楽のジャンル(ブルースやバラードに例えられ、多くの人の心を揺さぶるような音楽。言葉としてはポルトガル語のサウダーヂ(郷愁)と同義)の曲も収録されている。聴いたことがある感じだなと思ったら、日本の民謡や演歌と同じように五音音階で作られているそうだ。これもこの Tizita の特徴で、まさに胸がキュンとする感じ。
 ジャズやレゲエをも感じさせるエチオピアのグルーヴ感と、彼女のヴォーカルがとても良い!コーラスで2曲、南アの女性ユニット Afrika Mamas も参加しており歌声に彩りを与えている。聴いているとパワーをもらえ、自由に羽ばたいていきそうになるアルバム。これは名盤です。

9位 BKO · Djine Bora

レーベル:Les Disques Bongo Joe [5]

 マリの五人組ユニットBKOの最新作で、本作が3作目となる。2015年にワールドミュージック・フェス「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」で来日(その時のユニット名は BKO QUINTET)、大盛況のステージだった。2017年にリリースされた2ndアルバムも好評を博した作品だったが、本作はそれ以来5年ぶりのリリースとなる。
 BKOとはマリのバマコ空港のコードのことで、文字通りバマコを拠点に活動しているグループ。アフリカ音楽の新世代として注目されている。グリオが使う伝統的な弦楽器ジェリ・ンゴニ、狩りの儀式に使う弦楽器ドンソ・ンゴニを電気増幅させて演奏、そこにジャンベ、パーカッションのリズムセクション、グループのカリスマ的シンガーであるファサラ・サッコの嗄れた声のヴォーカルが加わり、彼ら独自の新しいサウンドを生み出している。
 本作のタイトルは「精霊の出現」という意味。マリの最近の状況は、2020年に軍事クーデターが起こるなど政治的にもとても厳しい状況。マリの精霊たちを彼らの音楽で呼び起こし、マリの政治的危機や貧困など人々の身近の問題に訴えかけようとしている。神秘的でいて、彼らの熱いエネルギーが感じられる。

8位 Cimarrón · La Recia

レーベル:Cimarrón Music [3]

 コロンビアのグループ、シマロンの最新作で、4作目のアルバムとなる。7月にいきなり1位にランクイン、8月、9月は3位、今月は8位と上位をキープしている。
 ベネズエラからコロンビアにかけての内陸部のオリノコ川流域の平原地帯(ジャノ)の伝統音楽「ホローポ(joropo)」を世界に発信しているグループで、アルパ奏者のカルロス・"cuco"・ロハスとヴォーカルのアナ・ヴェイドーが中心となり2000年に結成された。残念ながらカルロスは2020年に65歳で亡くなってしまったが、現在はアナがリーダーでグループを継続している。2017年には日本でもツアーを行い、各地で大盛況だったことは記憶している。その時国内盤としてリリースされたアルバム『Orinoco』は、2019年国際的にリリースされ、ラテン・グラミー賞にもノミネートされるなど高く評価された。本作は、それ以来の作品となる。
 カルロスが亡くなったため彼の演奏する音はもう聴けないのかと思いきや、本作では彼が亡くなる前に制作準備の作業で残していた音源が一部使われている曲もある!彼を偲んだ曲「Cuco en el Arpa」にもその音源が使われている。
 また、本作ではアマゾン先住民が儀式やコミュニケーションのために使っていた伝統打楽器、マンガレーも使われている。その音は20km先まで聞こえるそうで民族同士の宣戦布告や愛の告白(!)にも使われていたようだ。
 本作のタイトルは訳して「強い女性」。ホローポは男性中心の社会で生まれた音楽のため、女性であることがいかに困難であったかとアナは語っている。この地域において強い女性であること、そしてそれを求める女性たちを認めることをこのアルバムで訴えかけている。
 スピリチュアルなサウンド、22年に及ぶキャリアの中で育んできたテクニックで、伝統的なホローポの枠を超えた表現をしている。大きなレーベルとは組まず、彼ら自身のレーベルからリリースしており、商業的なフォルクローレに対する批判も込めている。カッコイイです。

7位 Lass · Bumayé

レーベル:Chapter Two / Wagram Music [7]

 セネガル出身で現在はフランス在住のアフロポップ歌手 Lass のデビューアルバム。全て彼のオリジナル作品で、歌詞はセネガルのウォロフ語で書かれている。タイトル『Bumayé』はコンゴのリンガラ語で「彼を殺せ」と意味(「猪木ボンバイエ」 “ボンバイエ” の語源です!)だが、「どうぞ」という意味も持っている。自分を鼓舞しながら、故郷のことを思い、「アフリカのために戦え」というメッセージを込めて付けられたとのこと。
 セネガルでは貧しい暮らしで音楽学校には通っていなかったが、毎日海に向かって歌の練習をし、波よりも大きな声(!)で歌っていたとのこと。音楽をやりたいという夢を持ち2009年に渡仏。渡仏後は、別の仕事をしながら音楽の道を探っていたところ、フランス人プロデューサーの Bruno "Patchworks" hovart と出会い、彼のプロジェクト『Voilaaa』に参加、徐々に道を切り拓いていった。フランスのエレクトロ・デュオ Synapson とも共演し、「Toujours」をリリース、今やプラットフォーム上で400万回以上聴かれている。(上記動画二つ目)
 幼い頃から Omar Pene や Ismael Lô の演奏を見たり、Orchestra Baobab などのアフロ・キューバサウンドに触れながら育ってきた。本作はそんな彼のルーツが色濃く感じられる。エレクトロ、アフロポップ、アフロ・キューバン、レゲエ、セネガルの伝統音楽が、モダンにうまくミックスされている。そして、彼の深く力強い、時には甘いエレガントな歌声が、もうたまらない!彼の故郷セネガルへの愛が強く感じられる作品。ブラジル人女性歌手 Flavia Coelho や、ドイツ出身のSSW/歌手の Patrice もゲストで参加している。
 昨年、今年と各国の音楽フェスに引っ張りだこのようで、今勢いあるシンガーの一人、今後の活躍がとても期待される。

6位 Solju · Uvjamuohta / Powder Snow

レーベル:Bafe’s Factory [-]

 フィンランド最北の自治体ウツヨキ出身のサーミ人、Ulla Pirttijärviとその娘 Hildá Länsman による母娘デュオ Solju のセカンドアルバム。
 ラップランドに暮らす先住民サーミ人の伝統歌謡であるヨイクを現代的な音楽と組み合わせ、サーミ人のルーツを持つ彼女たちならではの音楽を展開している。2018年にデビューアルバムがリリース、世界的にも高評価を博し、カナダ国際先住民音楽賞をはじめ多くの賞を受賞した。本作はそれ以来のオリジナル作品となる。
 自然とコミュニケーションを取るためのツールとして歌われ、シャーマニズムとも深い関わりがあるヨイクを現代的に表現している。ヨイク独特の歌唱法による声や楽曲から、サーミ文化が育まれてきた豊かで、時には厳しい壮大な自然が頭に思い浮かぶ。幽玄的で絵画的なアルバムと言えるだろう。
自分たちのルーツに誇りを持ち、それを音楽で世界に示したいと思っている彼女たちの思いが静かに伝わってくる。心落ち着くひとときを与えてくれる素晴らしいアルバム。

5位 Oumou Sangaré · Timbuktu

レーベル:World Circuit / BMG [4]

 マリ・バマコ出身のベテラン女性歌手ウム・サンガレの最新作。今月も上位をキープ!
 5年ぶりの作品で、本作が9作目となる。現在のマリ、コートジボワール、ギニアの3カ国の国境が交わる地点を囲み、ワスル川流域にある文化圏および歴史的地域でもあるワスル地方の伝統音楽、ワスル音楽を代表するアーティストでもある。
 1989年に1stアルバムをリリースして以来精力的に活動しており、これまでリリースされたアルバムがグラミー賞のベスト・ワールド・ミュージック・アルバムにノミネートされるなど、大きな評価を得ている。また、アリシア・キーズとテレビ番組でデュエットしたり、同じマリ出身のアーティストAya Nakamura が彼女に捧げる歌「Oumou Sangaré」をリリースしたり、2019年にはビヨンセが映画『ライオンキング:ギフト』のサウンドトラック「Mood 4 Eva」で、彼女の代表作の一つ「Diaraby Néné」をサンプリングするなど、多くのアーティストから慕われている偉大な存在。
 本作はパンデミック中に渡米したところロックダウンとなってしまい、滞在が延長され、その中で生まれた楽曲がほとんどを占めている。同郷の旧知の友人であるカマレ・ンゴニ奏者のママドゥ・シディベとともに楽曲制作を行った。彼女の30年にわたるキャリアの中で一番、音楽、歌詞に向き合った時間だったと言う。
 タイトルの『Timbuktu』は、マリ中部にある砂漠の民トゥアレグ族の都市のこと。崩壊の危機にあるマリの現在の政治状況を憂慮し、かつて栄えたこの都市がマリの象徴である歴史に希望を見出すべく名付けられたそうだ。また、アフリカの悪しき習慣、強制結婚や一夫多妻制などで制限されている女性達の状況も表現している。強く訴えているかのような低くパンチのある声、そして時には女性達に寄り添うような優しさ溢れる声がとても印象的。ワスル音楽の伝統的なリズムと現代的なアレンジがうまく噛み合い、サウンドが心地良い。
 彼女は実業家でもありマリで事業を興し、そこで雇用を生み、また彼女自身の財団を作り生活に困難な女性や子供達を支援するなど、音楽活動だけに留まらず、社会活動にも大きく貢献している。マリはもとよりフランスからも勲章が授与され、ユネスコ賞も受賞、2003年に彼女は国際連合食糧農業機関 (FAO) の親善大使も任命されている。
 彼女の活動、社会的貢献を考えると、本作はヒューマニズムの信念に基づく芸術活動の集大成とも言える説得力のあるアルバムだと言えよう。

4位 Angelique Kidjo & Ibrahim Maalouf · Queen of Sheba

レーベル:Mister Ibé [29]

 本チャートでもおなじみ、アフリカ・ベナン出身の歌姫アンジェリーク・キジョーと、レバノン・ベイルート出身でフランス在住のトランペッター/作曲家/マルチインストゥルメンタリスト、イブラヒム・マーロフによる初のコラボ作がランクイン。
 本作は、ヘブライ語の聖典や新約聖書、コーラン、ヨルバ族の言い伝えなどに登場するシバの女王マケダとソロモン王のエルサレムでの出会いの伝説がテーマとなっている。伝説では、シバの女王はソロモン王にいくつかのなぞなぞを尋ねたとされている。アンジェリークがイブラヒムと出会った時に、そのなぞなぞのいくつかをイブラヒムに話したところ、それがあまりにも詩的だったため、それら一つ一つに曲を付けることを思い付いたそうだ。アンジェリークはシバの女王とソロモン王の愛の物語を伝える7つのなぞなぞを選び、新たな解釈を加えた詩をヨルバ語で作り、そしてイブラヒムはこれらの詩を音楽に変換し、アフリカのグルーヴと中東の音階やメロディーをミックスした楽曲を作り上げた。
 イブラヒムは、彼の父が開発した四分音を出すことができる “微分音トランペット” を用いる世界唯一のトランペット奏者として知られている。この微分音トランペットと、オーケストラの演奏、そしてアンジェリークの力強くも魅力的なヴォーカルが見事にミックスされ、この物語を壮大なものにしている。芸術的なコラボレーションが堪能できるアルバム。

3位 Antonis Antoniou · Throisma

レーベル:Ajabu! [-]

 2022年8月にワールドミュージック・フェス「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」で初来日したキプロスのバンド、ムシュー・ドゥマニのリーダー、アントニス・アントニウのソロ二作目。一作目は、2021年7月の本チャートでも1位になり世界的にも高評価された。
 ムシュー・ドゥマニの日本公演もとても盛り上がったが、今年はバンドで世界ツアーを催行。しかし本作はほとんど一人で制作したそうだ。(一体どこにそんな時間があるのか謎である……)
 本作でもギリシャの伝統楽器のジュラ(小型サズ)を使い、ダーティなアナログシンセの音色と催眠的リズムによるループが続く。タイトルの訳は「ささやき声」。囁くようなヴォーカルが演奏に乗り、サイケデリックでアンダーグラウンドな雰囲気が醸し出されている。前作よりもさらに独自の世界観が広がっているようだ。また、母国語であるギリシャ語で歌われており、歌詞は実存主義に対する詩的な考察により特徴付けられているとのこと。この辺りもアントニスだから表現できるのだろう。
 上記二つ目のMVは、来日した時に東京(チームラボプラネッツ)で撮影した映像を使い制作されたもの。東洋的で幻想的な雰囲気が楽曲と非常にあっており、とても良い。来日の成果がこのような形で表現されるとちょっと嬉しい気もする。
 バンド同様に、彼のソロ活動も今後注目していきたい。更なる多様な世界観が期待できる要注目のアーティストである。

↓(10/21追記)国内盤あり〼。(11/20リリース予定)

2位 Maya Youssef · Finding Home

レーベル:Seven Gates [1]

 シリア出身のカーヌーン奏者マヤ・ユセフの最新作で、本作が彼女のセカンドアルバムとなる。先月いきなり1位にランクインし、今月は2位に。
 カーヌーンは、アラブ音楽で伝統的に使われる撥弦楽器で、台形の共鳴箱に78本の弦を張ったもの。箏のように爪弾いて演奏する。
 シリア・ダマスカスの進歩的な芸術一家に生まれたマヤ・ユセフは幼少の頃から音楽に親しみ、7歳から音楽院で基礎を学んでいた。9歳のある日、音楽院に行くために母親と乗ったタクシーの中で、ラジオから流れてきたカーヌーンの音色に心を奪われ、マヤはこの楽器をやりたいと叫んだが、タクシーの運転手は「これは女の子は弾かない楽器なのだよ」と笑った。その後音楽院でカーヌーンのクラスが開講し参加、それ以来彼女のカーヌーン人生が始まった。12歳の時にシリア全国音楽コンクールで最優秀賞を獲得し、高等音楽院での学士号もカーヌーンを専攻。2007年ドバイでカーヌーンのソロリストとしてデビューしたが、その後より広く国際舞台で活動したいと活動拠点をロンドンに移した。今や「カーヌーンの女王」と呼ばれている。
 2011年にシリア戦争が始まって以来、彼女は他人の作品を解釈するだけでなく、作曲家としても活動を始めた。怒りと絶望が、彼女自身の音楽を創り始めるきっかけとなった。2017年にリリースされた前作のデビューアルバム『Syrian Dreams』では、この戦争によって愛する人や場所を失ったという喪失感や悲しみの激しい感情を表現した。本作では、その激しい感情はいくらか癒やされ、戦争で破壊された故郷を離れ、心の故郷を見つけることを痛切に反映し、「人類」や「世界」が自分の故郷であるということを表現している。
 アラビア音楽の伝統に根ざしているが、ジャズ、クラッシック、フラメンコとの融合も試みており、彼女独特のスタイルが確立されている。カーヌーンの他に、ピアノやストリングスなどの西洋楽器、またフレームドラムとのアンサンブルも堪能できる。カーヌーンの美しく豊かな音色が優しく寄り添い、私達を故郷に誘ってくれるかのような作品。

1位 Al-Qasar · Who Are We?

レーベル:Glitterbeat [-]

 アラブ系移民が多く暮らしているパリのバルベス地区で2017年に結成されたフランス人/モロッコ人の混成五人組バンド、アル・カサールのデビューアルバムがいきなり1位にランクイン!
 バンド結成後、最初はフランス、次にヨーロッパと中東でライブを行い、カイロで録音されたEP『Miraj』を2020年にリリースし高い評価を得ていた。本作は、満を持して制作されたフルアルバムである。
 サイケデリックな音色を持つエレクトリック・サズを演奏するトマ・アタル・ベリエを中心に、モロッコ人歌手ジャウアド・エル・ガルージュによるアラビック・テイストと、ドラムズ/ベースによるエッジの効いたロック・テイストとが高純度に融合したミクスチュア・サウンドである。
 伝統的なアラブ音楽のグルーヴと、グローバルなサイケデリック、北アフリカのトランス・ミュージック、そして現代のパンクやロックが爆発的に混ざり合ったサウンドとなっている。
 カイロの街から、結成されたパリのバルベス地区まで、アラブの若者たちは抑圧的な指導者、人種差別、貧困に我慢している。ストリートの喧騒とエネルギー、一部のエリートと大多数の人々の生活環境の格差…といった現実を本作で表現。まさに今の流動的な世界のために作られた楽曲が詰め込まれている。
 ゲストに、リー・ラナルド(Sonic Youth)やジェロ・ビアフラ(Dead Kennedys)といったパンキッシュな大物ゲスト、そしてウードの名手、Mehdi Haddab(Speed Caravan)も参加。また、スーダンやエジプトの女性歌手も参加し、美しく力強いメッセージを表現している。
 タイトルで「我々は何者なのか?」と問いかけ、その答えはアルバム・ジャケットで表現している。正体不明の二人が鏡を持ち、鏡でお互いを見るよう促しているようだ。自分自身を改めて確認しろと言わんばかりに…。強いメッセージ性が感じられ、いきなり1位になるのも納得できる作品。

↓国内盤あり〼。


(ラティーナ2022年10月)


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