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[2022.8]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年8月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】
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[2022.8]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2022年8月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

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e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。

20位 Kobo Town · Carnival of the Ghosts

レーベル:Stonetree [16]

 トリニダード・トバゴにルーツを持つ Drew Gonsalves がリーダーをつとめるカナダのバンド Kobo Town の最新作。これが4枚目のアルバムとなる。バンド名は、カリプソが誕生したトリニダード・トバゴの首都、ポート・オブ・スペインの歴史的な地域にちなんで名づけられた。
 Drew は13歳の時にトリニダード・トバゴからカナダに移住した。18歳の時にトリニダードに残った父に会いに行き、そこでカリプソに魅了されてしまった。それ以来カリプソやスカなどカリブ海の民族音楽にインスパイアされたオリジナルの楽曲を制作している。カナダ在住でトリニダード出身のメンバーを集め2005年にバンド結成。2006年にデビュー作をリリース。以降、海外でのフェスティバルなどに参加し、多くの観客を魅了してきた。前作のアルバム『Where The Galleon Sank』は、カナダで Juno賞を受賞し大きな評価を得ている。
 カリプソやスカ、レゲエなどカリブ海の陽気なメロディなのだが、骨太ロックのようにも聞こえる。歌詞の内容は、人生の儚さや社会的な批判などがこめられた非常に哲学的な内容となっている。そのギャップが彼らの良さであるとも言えるだろう。とても聞き応えある作品。

19位 Amélia Muge · Amélias

レーベル:Uguru [8]

 モザンビーク生まれのポルトガル人歌手、楽器演奏家、作曲家、作詞家で、ファドの声と詩的な歌詞で知られているアメーリア・ムージェの最新作。最初のソロアルバムをリリースしたのは1992年、キャリアは30年にも及ぶ。伝統音楽のルーツ探求や多文化フュージョンへの挑戦、ポルトガルでは声楽のパイオニアでもあり、自分の声からサンプルを作り、音色の可能性を開発、表現するなど多彩なクリエイターでもある。
 本作はアカペラを中心とした女性グループ歌唱の豊かさへのオマージュとして制作された。パンデミックにより各自が隔離された状況に直面し、芸術の世界の脆弱性を深刻に感じ、無力感を抱いていた時に本作を制作することを決めたという。2018年作『Archipelagos - Passages』でギリシャとポルトガルのミュージシャン数十人と共同開発したが、そのメンバーも遠隔で加わり自宅で制作されたそうだ。
 とても魅力的なアメリアの声がメインとなり、そこに女性コーラス、電子音やパーカッションが加わっている。シンプルな構成だが、音色、雰囲気がとても豊かな作品となっている。まさにタイトル『Amélias』通り、彼女の思い描く世界が見事に表現されたアルバムとなっている。

18位 Oriental Brothers International Band · Oku Ngwo Di Ochi

レーベル:Palenque [-]

 ナイジェリアの伝説的バンド、オリエンタル・ブラザーズ・インターナショナル・バンドの最新作。1973年にデビューアルバムをリリースし来年で50年を迎えることを記念し、アフロ・コロンビア音楽とアフリカ音楽を専門とするコロンビアのレーベル、PALENQUE RECORDSよりリリースされた。
 ナイジェリアの南東部イモ州の州都であるオウェリを拠点とし、イボ・ハイライフ(西アフリカのポピュラー音楽であるハイライフとイボ族の伝統音楽がミックスされた音楽)系のバンドとして人気があった。パワフルな歌詞と巧みな演奏で知られ、独自のハイライフのスタイルを持ち数十年にわたって活動してきた。結成当時は3人だったが、途中メンバーの加入や離脱などが頻繁に起こった。離脱したメンバーが新たにバンドを結成しバンド名に “オリエンタル・ブラザーズ” を取り入れるなど、結果的には “オリエンタル・ブラザーズ” 系バンドが複数あったという少々複雑な経緯がある。
 創設時のメンバーの1人、Dr Sir Warriorは1999年に亡くなってしまったが、他のメンバーは彼が亡くなった後も昔の曲をライブで演奏するなどして、バンドの名前を継続させている。
 今回は当時のメンバー2名が中心となっている。若いメンバーも加わりリフレッシュされた感じ。彼らのキレキレのギターとヴォーカル、イボ族の伝統的なリズムは未だ健在で、むしろ新しく感じられる。今となっては、かつての複雑な経緯も良い感じに新陳代謝が行われた結果なのかもしれない。ベテラン勢も若手もお互いに刺激し合っているのが感じられる活き活きとしたアルバム。

17位 Minyeshu · Netsa

レーベル:ARC Music [-]

音源についてはリリース前のためまだ公開されていません。アルバム関連動画についてもまだ公開されていないようなので、過去の動画を貼付いたします。(公開され次第、内容を更新いたします)

 エチオピア出身のヴォーカリスト、ミネイシュの5作目となる最新作。歌だけではなく、ダンサーや振付師、プロデューサー、俳優としてもキャリアを築いている。現在はオランダ在住で、世界のフェスティバルでパフォーマンスを行なっている。
(音源はまだ聴けていないので、公開され次第内容を更新いたします。すみません!)

16位 Avalanche Kaito · Avalanche Kaito

レーベル:Glitterbeat [37]

 ベルギー・ブリュッセル在住のトリオ、アヴァランチ・カイトのデビュー作。今年1月にEP『Dabalomuni』をリリースしていたのだが、フルアルバムとしては本作が初となる。(ちなみにそのEPと本作は曲が被っておらず全くの別物。そちらも聴き応えあり!)
 西アフリカのブルキナファソ出身でグリオ(伝統的な口頭伝承者)家系の生まれである Kaito Winse が、グリオで使う楽器を用いマルチインストゥルメンタリスト/シンガーとしてブリュッセルで活動していたところ、ノイズパンクミュージシャンのBenjamin Chaval、Nico Gittoと出会い、このトリオが生まれた。Kaito Winse がヴォーカルを務め、他にグリオで使う楽器タマ(トーキングドラム)やペウルフルート、口琴、マウスボウ(ブラジルのビリンバウのような形で横にして使う楽器:上記動画2つ目参照)を演奏。そしてBenjaminはドラム、pure data(音楽用プログラミング言語)、エレクトロニクス担当、Nico Gitto がエレキギターという構成。伝統楽器を使いながら、エレクトロニクスも加わるという異質な組み合わせであるのだが、それが不思議と相性が良い。
 彼らは自らの音楽を「グリオ・パンク・ノイズ」と呼んでいる。Kaito の繰り返すヴォーカル(先祖代々受け継がれてきた諺をもとに歌詞が作られているとのこと。歌詞もわかればなお面白いかも!)や、そしてパンク?プログレ?メタル?かと思わせるドラム、それでいて曲によってはアフリカの土着も感じられる。「グリオ・パンク・ノイズ」、確かにその通りで、全てが絶妙な組み合わせとなっている。これは聴かなければわからない!中毒性のある音楽なので、ご注意を!

↓EP『Dabalomuni』(2022年1月リリース)

15位 Master Musicians of Jajouka, Led by Bachir Attar · Dancing Under the Moon

レーベル:Glitterbeat [17]

 ローリング・ストーンズのリーダーだったブライアン・ジョーンズ(1942-69)やオーネット・コールマンといった著名な音楽家たちを魅了したモロッコの神秘的音楽として世界に知られているジャジューカ。しかしモロッコ国内ではほとんど知られていなかったというなんともミステリアスな音楽でもある。精力的にワールド・ミュージックをリリースするドイツのレーベルであるGlitterbeat が、ジャジューカの最新アルバムをリリースした。
 亡くなる1981年までジャジューカのリーダーだったハージ・アブドゥッサラーム・アタールの実息バシールが率いるグループによるこの2枚組は、ジャジューカ音楽の神秘性と精神性を、最高精度を誇る音響機材が忠実に捕らえた大傑作。コロナ禍が始める直前の2019年11月にジャジューカ村で録音され、最新の録音機材を同村に持ち込み様々な伝統音楽スタイルを可能な限り高音質で録音した。使用されているのはガイタ(ダブルリードの木管楽器)、リラ(竹製の笛)、カマンジャ(ヴァイオリン)、ロウタール(リュート)、その他ティベル(両面太鼓)を始めとする打楽器類で、曲によっては祝祭色溢れるヴォーカルもある。もちろん西洋音楽の歩み寄るようなミクスチュアは一切無く、代々受け継がれてきた伝統に則った演奏が、リアルな音質と共に繰り広げられている。恍惚の世界へと導く不思議な魅力に満ちあふれる作品である。

↓国内盤あり〼。

14位 Ali Doğan Gönültaş · Kiğı / Gexî / Kegui

レーベル:Ali Doğan Gönültaş [12]

 イスタンブール出身のトルコ系クルド人バンド Ze Tijê のリードヴォーカル Ali Doğan Gönültaş のソロ作品。バンドは2007年に結成され、2015年にデビューアルバムをリリース、現在まで2作品をリリースしている。2018年頃よりソロで活動をはじめ、ソロコンサートも行なっていた。本作がソロアルバムとして初めてのリリースとなる。バンド活動だけでなく、映画音楽の制作や、テレビ番組にも出演するなど、幅広い活動をしている。
 本作のタイトルは、トルコ東部にある彼の生まれ故郷の街の名前だそうだ。彼自身の物語と、この地域の150年の歴史と文化に音楽的、そして言語的な側面からスポットを当て表現しているとのこと。この地方の言語であるザザキ語をはじめ、クルド語やトルコ語でも歌っている。この地方の伝統的な音楽だけでなく、彼が思い描いていた実験的な要素も本作で表現されている。ソロ作品ではあるが、楽器やヴォーカルでサポートメンバーも多数参加している。彼本人のヴォーカルだけでなく、女性ヴォーカルの曲もあり、男声と女声が交互に歌っている曲などバラエティ豊な曲が多数収録されている。トルコの弦楽器であるバーラマや、メイ、ドゥドゥク、ズルナ、クラリネットなどの木管楽器の音色が、彼の世界観にぴったり嵌まっている作品。

13位 Noori & His Dorpa Band · Beja Power!: Electric Soul & Brass from Sudan’s Red Sea Coast

レーベル:Ostinato [7]

 スーダンの革命のサウンドトラックであり、ベジャ文化の中心地であるスーダン東部の紅海沿岸の都市、ポートスーダン出身のバンド、ヌーリ&ドルパバンドの最新作。ベジャ・サウンドとして初の国際リリースとなる。
 タイトルの『Beja Power!』のBejaとは、スーダンの北東部の部族、べジャ族のこと。その祖先は数千年前にまでさかのぼることができ、古代エジプトやクシュ王国の末裔とも言われている。ベジャ族の文化はあまり知られていないがそれには意図的な理由がある。紅海に面したスーダン東部の彼らの土地は、膨大な金鉱床に恵まれまた呪われてもおり、その多くは外国企業に売却されている。ベジャ族を認め、自分たちの土地で採掘された富を利用しようとするベジャ族の声に、歴代のスーダン政府は目をつぶってきた。ヌーリは、ベジャ族の音楽を解き放つことが、公平と正義を求める彼らの最も強力な抵抗行為になると考え音楽活動を行なってきた。
 ベジャのメロディーは、ノスタルジックで、希望に満ち、甘美で、曖昧で、正直で、何千年も前から存在している。古いベジャの録音はほとんど制作されておらず、残っていたとしてもとても少ない。そんな中で本作の国際的リリース。これはとても貴重な音楽であると言えよう。
 エレクトリック・ソウル、ブルース、ジャズ、ロック、カントリーなどの音楽のスタイルにトゥアレグ(砂漠のブルース)、エチオピア、ペルー、タイの音楽がミックスされたようなグルーヴ感がなんともやみつきになる感じ。またヌーリが自作した4弦楽器(上記動画で確認できます)も面白い!
 彼らのベジャ音楽は、脈々と受け継がれてきた魅力的なサウンドの、途切れることのない連鎖を形成している。ベジャの文化がさらにこのまま続くよう希望を持ちながら聴きたい。

12位 Perrate · Tres Golpes

レーベル:Lovemonk [6]

 フラメンコ歌手(カンタオール)Tomás de Perrate の11年ぶりの3枚目となるアルバム。彼は、19世紀半ばからフラメンコが花開いたスペイン・アンダルシアの町ウトレラ出身で、フラメンコ歌手であるペラーテ・デ・ウトレラを父にもち、叔母も有名なフラメンコ歌手(カンタオーラ)、従兄弟たちも有名なパフォーマーである。また母方にはフラメンコの伝説的歌手マヌエル・トーレもおり、歌や踊り、ギターといった文化に囲まれて育った。若い頃はジャズやロックのバンドで歌ったこともあるそうだ。
 本作は彼自身のルーツの遺産となる伝統的な歌を現代に蘇らせ、それをフラメンコの未来へも繋がるよう現代性を探りつつ制作された。プロデューサーは、シルビア・ペレス・クルスのアルバム『Granada』や、ロサリアのデビューアルバム『Los Ángeles』の名プロデューサーであり、マルチインストゥルメンタリストでもある Raül Refree が担当。数年かけたプロジェクトとしてこのアルバムのコンサートも含めて制作された。収録曲はアフリカ人奴隷、アメリカ先住民、スペイン人とポルトガル人を中心としたヨーロッパの冒険家たちが集まっていた「アフロ・アンダルシア・カリビアン」と呼ばれる多文化地域を通過した16〜17世紀の古い曲をPerrateが選曲し、アレンジしたものがほとんどである。
 Perrateの父親譲りの深い声と、ギターの相性がとても心地よい。新進気鋭のプロデューサーとタッグを組み、フラメンコの進化を感じさせ、時代を超えた作品である。 

11位 BKO · Djine Bora

レーベル:Les Disques Bongo Joe [-]

 マリの五人組ユニットBKOの最新作で、本作が3作目となる。2015年にワールドミュージック・フェス「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」で来日(その時のユニット名は BKO QUINTET)、大盛況のステージだった。2017年にリリースされた2ndアルバムも好評を博した作品だったが、本作はそれ以来5年ぶりのリリースとなる。
 BKOとはマリのバマコ空港のコードのことで、文字通りバマコを拠点に活動しているグループ。アフリカ音楽の新世代として注目されている。グリオが使う伝統的な弦楽器ジェリ・ンゴニ、狩りの儀式に使う弦楽器ドンソ・ンゴニを電気増幅させて演奏、そこにジャンベ、パーカッションのリズムセクション、グループのカリスマ的シンガーであるファサラ・サッコの嗄れた声のヴォーカルが加わり、彼ら独自の新しいサウンドを生み出している。
 本作のタイトルは「精霊の出現」という意味。マリの最近の状況は、2020年に軍事クーデターが起こるなど政治的にもとても厳しい状況。マリの精霊たちを彼らの音楽で呼び起こし、マリの政治的危機や貧困など人々の身近の問題に訴えかけようとしている。神秘的でいて、彼らの熱いエネルギーが感じられる。

10位 Leyla McCalla · Breaking the Thermometer

レーベル:Anti- [35]

 ニューヨーク生まれのハイチ系のアフリカ系アメリカ人で、現在はニューオーリンズ在住、SSWでもありチェロ奏者のレイラ・マッカーラの最新作。ソロとして4作目となる。2013年リリースの前作『Vari-Colored Songs: A Tribute to Langston Hughes』は、昨年リイシュー盤がリリースされこちらも好評だった。(2020年12月〜2021年1月で本チャートにランクイン)
 本作は演劇パフォーマンス作品「Breaking the Thermometer to Hide the Fever」のための楽曲が収録されている。このプロジェクトは、ハイチ初の独立系ラジオ局で、1970年代にはハイチ人の多くが話すクレオール語でニュースと解説を伝える唯一の存在だったラジオ・ハイチの物語がベースになっている。政治的抑圧を受けながらも局は存続していたが、2000年にオーナーでありジャーナリストであった Jean Dominique が暗殺されてしまい、その後3年間はなんとか放送を続けたが、2003年には閉鎖せざるを得なくなった。このラジオハイチの貴重なアーカイブがノースカロライナ州のデューク大学に残されており、ステージやアルバムの中で効果的に使われている。
 本作には、レイラのオリジナル作品が多く収録されているが、他にもハイチの活動家/SSWでもあり海外にも亡命経験のあるマンノ・シャルルマーニュや、ハイチ系アメリカ人のギタリスト/作曲家フランツ・カセウスらの曲や、カエターノ・ヴェローゾが亡命中に制作した曲「You Don’t Know Me」なども収録されている。ブルースやクレオールのアクセントがきいている彼女のオリジナル作品と、これらの曲が物語としてうまくマッチしている。ハイチの人々の数世紀にわたる厳しい政治的抑圧や、貧困といった現実の問題、そして活動家たちへの敬意もこの作品で表現している。移民と活動家であるハイチ人の両親の間にニューヨークで生まれた彼女のルーツともなる物語がこのアルバムに込められている。ハイチ人の不屈の精神、抵抗、表現の自由が胸に響く。

9位 Ana Alcaide · Ritual

レーベル:Ana Alcaide [13]

 スペイン・トレド在住の演奏家 / 作曲家 / 音楽プロデューサーであるアナ・アルカイデの6作目となるアルバム。7歳からクラシック・ヴァイオリンを始め、マドリードの音楽院で学ぶが、スウェーデンやメキシコ、スペインでも大学に行き、生物学の学位を取りつつも音楽活動をしていた才女。
 2000年にスウェーデン留学中に、スウェーデンの伝統楽器ニッケルハルパと出会い、その音色に魅了され独学で演奏していた。2005年には本格的にニッケルハルパを学ぶためまたスウェーデンに戻り、ニッケルハルパ専門の演奏者となった。そして、2006年にデビューアルバムをリリースした。
 スペインの古代都市トレドにインスピレーションを受けた彼女の音楽は「
トレドのサウンドトラック」と評され、彼女独自の音楽的解釈が世界的に評価されている。また世界各国の音楽家ともコラボレーションし、各地でのコンサートや、独自のプロジェクトを推進するなど、精力的な活動を行なっている。
 本作のタイトルは訳すと「儀式」。日々の儀式を通じて得た力を賛美するために作られたとのこと。スピリチュアルな感じがするが、今まで活動してきた努力、実力の成果とも言える美しい楽曲ばかりが収録されている。イランの歌手レザ・シャイエステともコラボしており、中東音楽のような感じも受ける。何よりニッケルハルパの音色がとても深く、豊かで美しい。

8位 Catrin Finch & Seckou Keita · Echo

レーベル:Bendigedig [3]

 イギリスのハープ奏者カトリン・フィンチとセネガルのコラ奏者セク・ケイタのデュオ最新作。このデュオとしては、2013年のデビュー作『Clychau Dibon』、2018年作『SOAR』に続く三部作の三作目となり、デュオ10周年を記念した作品。
 前作は好評を博した作品だったが、本作もそれを越えるような作品。さすがデュオ10周年ともなると、ジャンルの垣根を越え二人の呼吸がぴったり合った作品となっている。
 本作の基本テーマは、彼らの関係を、ひとつのシームレスな創造的全体へと発展させることだそう。タイトルの『エコー』は、愛、人間関係、死、記憶の重要性にも焦点を当てている。これらのテーマは、この2年間の世界的な状況を考え、多くの人が考えている大きな実存的なテーマとなっている。
 音色が似ているともいえるコラとハープ、これらの音が重なるとさらに美しく豊かに広がるのが本当に素晴らしい。収録されている曲数は7曲とそんなに多くはないが、各曲が長めとなっていて、美しさを充分に堪能できる。じんわりと心に沁み入る音色が美しい作品。

7位 Moktar Gania & Gnawa Soul · Gnawa Soul

レーベル:MusjoMusic / Nuits d’Afrique [9]

 モロッコの港町エッサウイラを拠点に活動するグナワ音楽のアーティスト、モクタール・ガニアと彼のバンド、グナワ・ソウルのデビューアルバム。エッサウィラは、1997年から毎年夏の初めに開催されるグナワ・フェスティバルの開催地であり、まさにそのメッカとも言える街で活動しているグループ。
 モクタールは、数多くの西洋音楽家とコラボレーションし、グナワ音楽を世界的に広め、2015年に亡くなったマフムード・ガニアの弟でもある。家系的にも長い歴史を持つ音楽家の家系を継ぎ、現在のグナワ・シーンで重要な地位を確立している。グナワ音楽には欠かせない弦楽器ゲンブリの名手であり、マアレム(マスター)の称号を持つ。モクタールもまた兄と同様、世界のミュージシャンたちと共演している。
 参加メンバーは、作曲家 / ギタリストのAnoir Ben Brahim、編曲家 / パーカッショニストの Yacine Ben Ali、そしてこれもグナワ音楽には欠かせない鉄製のパーカッション、カルカバ担当の Simo Errabaa 。他にコラ奏者や、ゲストヴォーカルでモロッコ出身のイスラエル人歌手 Neta El Kayam も参加している。
 催眠術にかかりそうなゲンブリの低音の連続、エレキギターのリフ、リズムはグナワ音楽特有でとても魅力的なのだが、楽曲はどれも今までのグナワ音楽よりも洗練された音のような気がする。と思っていたら、ミキシングはグラミー賞を4回受賞したプロデューサーのChris Shawがアメリカで行い、マスタリングはロンドンで行なったという。モロッコ人アーティストとしては初めてメジャーレーベルのプロデュースを受けることになったそうで、ユニバーサル(MENA:中東・北アフリカ地域)からのリリースが決定したとのこと。これがデビューアルバムということだが、今後の活動も非常に楽しみなユニットである。

6位 África Negra · Antologia Vol. 1

レーベル:Les Disques Bongo Joe [5]

 赤道付近に位置するアフリカの島国サントメ・プリンシペのグループ、África Negra のアンソロジー作品。本作は彼らの代表曲12曲をセレクトしリマスタリングしたもの。
 África Negra は1970年代初頭に結成され、サントメ・プリンシペでよく知られたグループである。最初の録音は1981年に行われ、アンゴラやカーボベルデ、ポルトガルなどを回るツアーを成功させた。
 サントメ・プリンシペは、かつてポルトガル領であり、サトウキビやコーヒー、カカオの栽培が盛んで、奴隷貿易の中継地点でもあったため、ポルトガル、アンゴラやカーボ・ヴェルデなどから多くの人が流入した。そのような背景から、アンゴラのセンバやカーボ・ヴェルデのコラデイラ、さらにはブラジル音楽やカリブのメレンゲ、コンゴ共和国のリンガラ音楽など、多くの音楽文化が取り入れられ、サントメ・プリンシペ独自のPuxa(プシャ)と呼ばれる音楽が成立した。África Negra は、そこにアフリカ音楽特有のエレキギターによるフレーズを入れ、キャッチーなメロディーと陽気なリズムが組み合わさる魅力的な音楽を展開していた。
 本作は選び抜かれた楽曲が集められているだけに彼らのグルーヴ感やエネルギーがとても感じられる作品。この続編として、ツアーマネージャ―が残していたというスタジオテープからデジタル化された未発表音源もリリースされるという。それも非常に楽しみである!

5位 Madalitso Band · Musakayike

レーベル:Les Disques Bongo Joe [21]

 アフリカ南東部の国マラウイの二人組、マダリツォ・バンドの最新作。国際リリース盤としては、二作目となる。2019年にリリースされた前作は国内盤としても発売され好評を博した作品だった。
 彼らはマラウイの街角で演奏していたところを発見され、そこからデビューへと繋がった。ババトニ(babatoni)と呼ばれる手作りの一弦ベースを演奏するヨブ・マリグワ、4弦ギター(おそらく元は6弦ギターなのだが…)を弾きながら、これまた手作りの牛革のキック・ドラムを踵で操るヨセフェ・カレケニによるデュオである。ヨブがリードヴォーカルで、ヨセフェがコーラスを担当。ドラムの速いテンポにババトニのアクセントが加わり、素朴ながらも力強さが感じられる。上記動画二つ目の演奏風景に見入ってしまう。シンプルな楽器を使い二人で演奏しているとは思えない音の豊さ、そして何より二人の笑顔がすごく良い!観ていてリズムに引き込まれてしまう演奏だ。(お揃いの衣装が可愛い!)
 彼らはすでに Womex や Womad などでも演奏し、ヨーロッパでもツアーを行なっているそうだ。前作よりもキャリアを重ねているのが、本作のサウンドから感じられる。人柄の良さが演奏に出ているのは変わらないので、そこはずっと変わらず活躍していって欲しい。

4位 Lamia Yared & Ensemble Oraciones · Ottoman splendours / Lumières ottomanes

レーベル:Analekta [4]

 レバノン生まれでカナダ・モントリオール育ち、現在はモントリオールを拠点に活動している歌手/ウード奏者のラミヤ・ヤレドの最新作。2019年リリースの前作以来、本作が2作目となる。モントリオールの音楽財団、Centre des musiciens du monde の協力のもと制作された。彼女のプロジェクトである「Ensemble Oraciónes」もこの財団に登録されており、ワークショップを行ったり、海外でも公演するなど財団のサポートのもと音楽活動を行っている。
 彼女は、ギリシャ、トルコ、レバノンを旅し、アラブやトルコの古典音楽の著名な巨匠たちと出会い、その地方の歌や、ウード演奏の技術を磨き活動してきた。ギリシャの民謡やギリシャの大衆歌曲であるレベティコ、トルコやアラビアの古典音楽を探求し、オスマン帝国時代にその地域周辺の民族達が何世紀も共存してきたセファルディ音楽をはじめとする音楽、そしてその文化について研究し、それを音に具現化したのがこのアルバムだそうだ。
 セファルディ音楽は、基本的には女性によって歌い継がれてきたもの。結婚式で歌う歌や恋の歌など、日常生活での身近な歌が収録されている。一方で、オスマン帝国の宮廷音楽も収録されており、非常に多様なレパートリーとなっている。演奏しているメンバーも多様で、カナダ出身者だけでなく、シリアやトルコなどの一流ミュージシャンたちが参加している。カヌーンやケメンチェといった伝統楽器からチェロやヴィオラ、クラリネットなど音の彩りがとても豊かである。そしてラミヤの歌もとても美しくて素晴らしい。ラディーノ語、ギリシャ語、トルコ語で見事に歌い上げており、楽曲の豊さを際立たせている。歴史的にも非常に価値があるアルバムといえよう。

3位 Cimarrón · La Recia

レーベル:Cimarrón Music [1]

 コロンビアのグループ、シマロンの最新作で、4作目のアルバムとなる。先月いきなり1位にランクインし、今月は3位に。
 ベネズエラからコロンビアにかけての内陸部のオリノコ川流域の平原地帯(ジャノ)の伝統音楽「ホローポ(joropo)」を世界に発信しているグループで、アルパ奏者のカルロス・"cuco"・ロハスとヴォーカルのアナ・ヴェイドーが中心となり2000年に結成された。残念ながらカルロスは2020年に65歳で亡くなってしまったが、現在はアナがリーダーでグループを継続している。2017年には日本でもツアーを行い、各地で大盛況だったことは記憶している。その時国内盤としてリリースされたアルバム『Orinoco』は、2019年国際的にリリースされ、ラテン・グラミー賞にもノミネートされるなど高く評価された。本作は、それ以来の作品となる。
 カルロスが亡くなったため彼の演奏する音はもう聴けないのかと思いきや、本作では彼が亡くなる前に制作準備の作業で残していた音源が一部使われている曲もある!彼を偲んだ曲「Cuco en el Arpa」にもその音源が使われている。
 また、本作ではアマゾン先住民が儀式やコミュニケーションのために使っていた伝統打楽器、マンガレーも使われている。その音は20km先まで聞こえるそうで民族同士の宣戦布告や愛の告白(!)にも使われていたようだ。
 本作のタイトルは訳して「強い女性」。ホローポは男性中心の社会で生まれた音楽のため、女性であることがいかに困難であったかとアナは語っている。この地域において強い女性であること、そしてそれを求める女性たちを認めることをこのアルバムで訴えかけている。
 スピリチュアルなサウンド、22年に及ぶキャリアの中で育んできたテクニックで、伝統的なホローポの枠を超えた表現をしている。大きなレーベルとは組まず、彼ら自身のレーベルからリリースしており、商業的なフォルクローレに対する批判も込めている。カッコイイです。

2位 Oumou Sangaré · Timbuktu

レーベル:World Circuit / BMG [2]

 マリ・バマコ出身のベテラン女性歌手ウム・サンガレの最新作。今月も上位をキープ!
 5年ぶりの作品で、本作が9作目となる。現在のマリ、コートジボワール、ギニアの3カ国の国境が交わる地点を囲み、ワスル川流域にある文化圏および歴史的地域でもあるワスル地方の伝統音楽、ワスル音楽を代表するアーティストでもある。
 1989年に1stアルバムをリリースして以来精力的に活動しており、これまでリリースされたアルバムがグラミー賞のベスト・ワールド・ミュージック・アルバムにノミネートされるなど、大きな評価を得ている。また、アリシア・キーズとテレビ番組でデュエットしたり、同じマリ出身のアーティストAya Nakamura が彼女に捧げる歌「Oumou Sangaré」をリリースしたり、2019年にはビヨンセが映画『ライオンキング:ギフト』のサウンドトラック「Mood 4 Eva」で、彼女の代表作の一つ「Diaraby Néné」をサンプリングするなど、多くのアーティストから慕われている偉大な存在。
 本作はパンデミック中に渡米したところロックダウンとなってしまい、滞在が延長され、その中で生まれた楽曲がほとんどを占めている。同郷の旧知の友人であるカマレ・ンゴニ奏者のママドゥ・シディベとともに楽曲制作を行った。彼女の30年にわたるキャリアの中で一番、音楽、歌詞に向き合った時間だったと言う。
 タイトルの『Timbuktu』は、マリ中部にある砂漠の民トゥアレグ族の都市のこと。崩壊の危機にあるマリの現在の政治状況を憂慮し、かつて栄えたこの都市がマリの象徴である歴史に希望を見出すべく名付けられたそうだ。また、アフリカの悪しき習慣、強制結婚や一夫多妻制などで制限されている女性達の状況も表現している。強く訴えているかのような低くパンチのある声、そして時には女性達に寄り添うような優しさ溢れる声がとても印象的。ワスル音楽の伝統的なリズムと現代的なアレンジがうまく噛み合い、サウンドが心地良い。
 彼女は実業家でもありマリで事業を興し、そこで雇用を生み、また彼女自身の財団を作り生活に困難な女性や子供達を支援するなど、音楽活動だけに留まらず、社会活動にも大きく貢献している。マリはもとよりフランスからも勲章が授与され、ユネスコ賞も受賞、2003年に彼女は国際連合食糧農業機関 (FAO) の親善大使も任命されている。
 彼女の活動、社会的貢献を考えると、本作はヒューマニズムの信念に基づく芸術活動の集大成とも言える説得力のあるアルバムだと言えよう。

1位 Vieux Farka Touré · Les Racines

レーベル:World Circuit / BMG [19]

 マリのギタリスト、SSWであるヴィユー・ファルカ・トゥーレの最新作。ソロ名義としては10作目のアルバムとなる。先月19位に初ランクインし、今月は堂々1位!
 2006年に亡くなったマリの伝説的なギタリスト、アリ・ファルカ・トゥーレの息子であり、“サハラのヘンドリックス”として知られている。父親アリと一緒に作り、録音した曲がヴィユーのデビューアルバムに収録され、それが父親最後の録音となった。ヴィユーは、マリの音楽だけでなく他のアフリカ音楽、ロックやラテン音楽などの要素も取り入れ、彼独自のサウンドを発表し、世界各国から高い評価を受けてきた。また、ソロ作品以外にも、アメリカのSSWジュリア・イースタリンやイスラエルのSSWイダン・レイチェルとのアルバムをリリースするなど、ジャンルを超えた活躍を見せている。
 コロナのパンデミックで全てのツアーが中止となり、自宅のスタジオ(亡き父に敬意を表して「Studio Ali Farka Toure」と名付けたそう!)にこもり、ずっと制作活動をして生まれたアルバム。本作のタイトルは「ルーツ」を意味する。亡き父が世界に紹介してきたマリ北部の伝統音楽、ソンガイ音楽のルーツを探求し、彼なりに作り上げた作品。そして本作は、父が自身の作品のほとんどを録音・発表し、そして世界的な知名度を獲得した英国の名門レーベルであるWorld Circuitから初めてのリリースとなった。
 自分のルーツである父の音楽がベースにあり、部族や民族間の緊張により絶え間ない暴力に悩む母国や世界各国において人々が一つになることを切望するために制作された。時代を超えたグルーヴ感、彼自身のアイデンティティが感じられる深い作品。亡くなった父親アリも天国でさぞかし喜んでいることだろう。

(ラティーナ2022年8月)

↓7月のランキング解説はこちら。

↓6月のランキング解説はこちら。

↓5月のランキング解説はこちら。


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