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[2025.1]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2025年1月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 Dogo du Togo & The Alagaa Beat Band · Avoudé

レーベル:We Are Busy Bodies [-]

 西アフリカ、トーゴ共和国出身の SSW/ギタリスト、ドゴ・デュ・トーゴ(Dogo du Togo)と、彼のバンド The Alagaa Beat Band によるデビュー作。ドゴ自身のソロ名義では2022年にデビュー作『Dogo du Togo』がリリースされているが、このバンドとの名義では本作が初めてとなる。
 1972年トーゴの首都ロメで生まれたドゴは若い頃から音楽を始め、大学生の頃にはさまざまなバンドで演奏していた。2000年頃にアメリカへ移住、ワシントンD.C.を拠点とするアフロポップ・バンド Elikeh(「ルーツ」という意味) を結成し、数枚のアルバムをリリースしている。ライヴでのパフォーマンスやアルバムが各方面から絶賛された。
 近年はアメリカとロメを行き来する生活で、かつてロメで一緒に音楽活動をしていた友人達と組んだのが、この The Alagaa Beat Band。「Alagaa」とは、約40~45の民族が居るトーゴで最大民族エウェ族の言葉、エウェ語で「トランス」を意味している。トランスに陥るビートということを表現しているのだろうが、本作は本当にその通りの作品とも言える。彼らのルーツであるトーゴの伝統的なリズムを全面的に取り入れ、エレキギターやホーンなど現代的な楽器と融合させている。トーゴに根付いている文化や宗教から派生したと言われるメロディがなんともやみつきになる。ファンクやレゲエ、ロックなどの影響も感じられる作品で、トーゴ出身の彼らだからこそ表現できるのだろう。エキサイティングですごく良い作品!

19位 Seun Kuti & Egypt 80 · Heavier Yet (Lays The Crownless Head)

レーベル:Record Kicks [9]

 現代アフロビートの最高峰、ナイジェリアのシェウン・クティと、彼の父である伝説的カリスマ、フェラ・クティから引き継いだバンド、エジプト80との最新作。ミラノのインディペンデントレーベル、Record Kicksよりリリース。グラミー賞にノミネートされた前作『Black times』から6年ぶりのリリースとなる。
 それだけでも話題作になること間違いないのだが、さらに本作のプロデュースは伝説的ミュージシャン、レニー・クラヴィッツがエグゼクティブ・プロデューサーを務め、フェラ・クティのオリジナル・エンジニアであるソディ・マルシゼウアー(芸術プロデューサー)がプロデュースを担当。また、ボブ・マーリーの息子でレゲエ界のアイコン、ダミアン・マーリー、ザンビア出身のラッパー/SSWで、現代屈指の革新的な作詞家であるサンパ・ザ・グレートもゲストで参加している。
 本作は、アーティストとして、また活動家として、シェウンの輝かしいキャリアにおける重要な節目となる作品。前作以上にアフロビート全開でグルーヴ感がめちゃめちゃカッコいい!エンターテイメント性だけでなく、彼の行動力と解放の精神を鼓舞するアルバムと言えるだろう!

18位 L’Alba · Grilli

レーベル:Buda Musique [-]

 地中海西部、イタリアの西に位置するフランス領コルシカ島の男性6人組ユニット、L'Alba(ラルバ)の最新作。2005年にメジャーデビュー以来、本作が6枚目となる作品。2021年リリースの前作『À principiu』も本チャートに3ヶ月ランクインしていた。本作はそれ以来となる。
 前作の内容から引き継ぎ本作においてもコルシカ島伝統の音楽を尊重しつつ、3部構成のポリフォニー・コーラスを中心としている。本作のタイトルはコルシカ語で『コオロギ』(原題:Grll)を意味しており、「Grilli」をキーワードにし、歌詞の楽曲や、朗読を展開。収録された各曲がそれぞれの個性を持ちながら、キーワードである「Grilli」を共通項とし全体的な創作の一部であるという没入感を提供している。コルシカ音楽やそのアイデンティティ、それらが与える様々な影響についてのビジョンを示している。アルバム最終曲はコオロギの音だけで締めくくっているのが徹底しており面白い。
 本作では、セネガル系モロッコ人の打楽器奏者モクタル・サンバ、ヴィエル・ア・ル(ハーディ・ガーディ)奏者のジル・シャベナ、マルチ楽器奏者のピエール・サングラ、エジプト人ウード奏者タレク・アブダラーといった著名なゲストも参加し、彼らの音楽にさらに深みと華やかさを加えている。
 地中海という、ヨーロッパ、アラブ、アフリカが交錯する地をリアルに描き出す彼らのサウンドは、ワールドミュージックファンにとって必聴の作品!

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)


17位 Seckou Keita · Homeland (Chapter 1)

レーベル:Hudson [11]

 セネガル出身、現在はイギリス在住のコラ奏者セク・ケイタ(Seckou Keita)の最新作。近年はイギリスのハープ奏者カトリン・フィンチや、キューバ出身のピアニストオマール・ソーサなどとのデュオ、オーケストラとの共演したリリース作品が多かったが、本作は久しぶりにソロ名義の作品。
 タイトルは「故郷」を意味する。「故郷」とは何かと問いかけ、自身のアイデンティティ、イギリスという第二の故郷と母国セネガルとの関係を探求し本作で表現している。セネガル、イギリス、ベルギー、ドイツの4か国で2022年頃から録音・ミックスされたものが収録されており、マンディンカ語、ウォロフ語、英語、フランス語の4言語が使われている。
 アルバム冒頭とエンディングには、マンディンカ文化の継承者でありグリオであるアブドゥライ・シディベによる瞑想的な口調で語るパフォーマンスが置かれ、グリオのルーツを持っているセクならではの表現となっている。
 本作では他にも、セネガルのヒップホップグループで現在はフランスを活動拠点としている Daara J Family、英国の詩人ハンナ・ロウ、ゼナ・エドワーズも参加している。セネガルの伝統的なリズムを、アフロポップスやヒップホップ、さらにはスポークン・ワードの要素と融合させ、国境やジャンルを越えた作品。セネガルの豊かな文化を称えると共に、グローバル化した世界で生きることの課題や可能性について考えさせる内容となっている。伝統的でありながらも現代的で洗練され、そしてコラの美しい音色と彼の柔らかい歌声がなんとも心地よい作品。名盤です。

16位 Jake Blount & Mali Obomsawin · Symbiont

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings [10]

 アメリカ東部ロードアイランド州プロビデンスを拠点に活動するミュージシャン、ジェイク・ブラントと、カナダ、ケベック州オダナックの先住民族アベナキ族のルーツを持つセファルディム系ユダヤ人SSW、マリ・オボムサウィンによる最新作。
 ジェイクはブラック・フォークミュージックの演奏家として活動し、アフロフューチャリズムの道を切り開いてきた。それに加え自身の音楽活動に関する研究、ブラック・ストリング・バンドの音楽の歴史に関する講義やプレゼンテーションも頻繁に行い、教育者としても活動している。知識に裏打ちされたパフォーマンスを行うミュージシャンとして評価されている。
 マリは、バークリー音楽大学でアップライトベースを専攻し、2022年にアルバム『Sweet Tooth』でデビュー。エスペランサ・スポルディングなど著名なミュージシャンたちと共演、ジャンルの枠を超えた演奏で知られるベーシスト、作曲家、ボーカリストである。
 本作は先住民の未来主義を体現した斬新なコラボレーションアルバムとなっており、近年世界で起こる気候変動、人種問題をテーマにし、未来や現在形に関する問いを音楽で表現している。フィドルやバンジョー、ベース、シンセサイザー、ドラムマシンが使われ、お互いのルーツや活動を刺激し合うかのように、ジャンルにとらわれない素晴らしい音楽を創り上げている。自然の美しさや儚さ、そこに介在する人間の存在、歴史を表現している。

15位 Lucibela · Moda Antiga

レーベル:Lusafrica [7]

 “黄金の声”、“世界が待ち望んだセザリア・エヴォラの再来”などと最大級の賛辞が送られてきたカーボ・ヴェルデ出身の女性歌手、ルシベラ(Lucibela)が3枚目のフルアルバム『Moda Antiga(昔ながらのスタイル)』を発表し、その深く包容力のある歌声を再び世界に届ける。
 本作について、ルシベラは、このようにコメントしている。
「『Moda Antiga』は、カーボ・ヴェルデの音楽遺産を称える作品です。このアルバムは、私にとって3枚目のアルバムであり、その名前が示す通り伝統的な作品です。数多くの古い楽曲が収録されていますが、同時に、この群島の伝統から逸脱しない新しい曲も含まれています。私のインスピレーションは、これまでずっと聴いてきたさまざまなアーティスト(歌手、作曲家、ミュージシャン)から得ています。また、これまでの私の道のりの一部となった人々や、日々接し、私たちの伝統をより深く理解する手助けをしてくれる人々からも影響を受けています」
 音楽監督とアレンジは、これまでの2作と同じくトニ・ヴィエイラ(Tony Vieira)が務め、ギターはセザリア・エヴォーラの音楽監督だったカーボ・ヴェルデの名ギタリスト、バウ(Bau)も担当している。その他、エルナーニ・アルメイダ(Hernani Almeida|ギター/サウンドエンジニア)、トチーニョ(Totinho|サクソフォン)も参加している。収録された楽曲は、Anu Nobu、Manuel de Novas、Mario Lucio、Zeze di nha Reinaldaなど、カーボベルデの著名な作曲家による人気曲が選ばれた。録音は、レーベルLusafricaの所有するカーボ・ヴェルデのミンデロのスタジオの他、オランダやフランスでも録音された。
 フレッシュな歌声を世界に届けたデビュー作『LAÇO UMBILICAL(2018年)』、カーボ・ヴェルデ女性にオマージュを捧げた作品『AMDJER(2022年)』と作品を重ね、ルシベラは、カーボ・ヴェルデの音楽遺産のルーツを深く振り下げる3作目『Moda Antiga』に到達した。

14位 Ruşan Filiztek · Exils: De la Mésopotamie à L’Andalousie

レーベル:Accords Croisés [13]

 トルコ南東部の都市ディヤルバクル出身のクルド人ミュージシャン/サズ奏者/歌手のルシャン・フィリステックの最新作。2021年にソロデビュー作をリリースしたが、本作はそれ以来2作目となる作品。
 幼い頃父親からサズを習い、青春時代はイスタンブールで過ごし、その後シリアやイラク、アンダルシアからヨーロッパまで音楽を通して旅をし、2015年にアルメニア人、トルコ人、クルド人が共存するパリのポルト・サン・ドニ地区に辿り着く。パリのソルボンヌ大学で民族音楽学の修士号を取得し、幅広い演奏活動や様々なミュージシャン達とコラボレーションを行い、現在はパリで活動している。
 本作タイトルは「亡命」を意味し、彼のこれまでに音楽的、人間的な探求を反映した作品となっている。フラメンコ・ギタリストのフランソワ・アリア、パーカッショニストのファン・マヌエル・コルテス、ケルトのフルート奏者シルヴァン・バルー、アルメニアのドゥドゥク奏者アルチョム・ミナシャン、ヴィオラ奏者のマリー=スザンヌ・ドゥ・ロワ、ギリシャの歌手ダフネ・クリタラス、フラメンコ歌手のセシル・エヴロット、ジャズ・ベーシストのレイラ・ソルデヴィラとエムラー・カプタンらの友情が織り成す作品となっている。
 まだ全作は聴けていないが、上記動画はフラメンコとのコラボレーション。フラメンコギターとクラップ、そしてサズが入り、楽曲は中東音楽とフラメンコが融合しているのがお見事!

13位 Kapela ze Wsi Warszawa / Warsaw Village Band & Bassałyki · Sploty / Twines

レーベル:Karrot Kommando [-]

 ポーランドの首都ワルシャワで1997年に結成されたミクスチャー・バンド、ワルシャワ・ヴィレッジ・バンドの最新作。2021年リリースの前作『Uwodzenie / Waterduction』も本チャートにランクインしている。
 現在は8人編成で、中欧の伝統音楽を、ダルシマーやハーディ・ガーディ、スカ(フィドルのような弦楽器)などのポーランドの伝統的な民族楽器と、ポリフォニックなヴォーカル・スタイルを使って、伝統と現代の融合を図るミステリアスなサウンドを展開している。
 結成当初から様々なコラボを行っていたが、本作では、サックス奏者、アンビエント音響制作者、打楽器奏者による男性3人のユニット、バッサリキ(Bassałyki)をゲストに迎えている。現代的なエレクトリックなサウンドと、伝統的な民族楽器の音色が美しく融合し、そこにポリフォニックなヴォーカルが重なり、彼ら独自の世界を表現している。バッサリキとのプロジェクトは2022年より始めていて、本作がその集大成とも言える作品となっている。
 これまでも高く評価されていたバンドだが、本作で新たな世界が開拓された。良作!

12位 Nesrine · Kan Ya Makan

レーベル:ACT Music [-]

 アルジェリア系フランス人のチェロ奏者/SSW、ネスリーヌ(Nesrine)の最新作。かつてはダニエル・バレンボイムのウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団や、バレンシア歌劇場管弦楽団などに所属し、クラシックのチェリストとして活動していた。また、シルク・ドゥ・ソレイユにもゲストとして参加したことのある実力派奏者。スペインの打楽器奏者ダビド・ガデア(David Gadea)とフランスのチェロ奏者マチュー・サグリオ(Matthieu Saglio)とトリオ「NES」を結成し2018年にアルバム『Ahlam』をリリースし、高評価を得た。2020年にはソロデビューアルバム『Nesrine』をリリース、昨年はオランダのメトロポール・オーケストラとのEPもリリースし、精力的にソロ活動を行っている。
 本作はソロアルバムとしては2作目の作品で、タイトルはアラビア語で「昔々」を意味する。「自分自身を反映し、自分の創造の旅と伝統について語っているアルバムを作りたかった」と語っており、チェロのソロ演奏から始まる本作ではそれが充分に反映されている。
 アラビア語、フランス語、英語で歌われ、北アフリカの民族楽器ゲンブリや打楽器の音も入っている楽曲や、バッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」の前奏曲が引用されている楽曲、セルジュ・ゲンズブールとアラビック・リズムを組み合わせた楽曲などが収録されており、彼女独自の世界観が見事に表現されている。彼女自身の演奏によるチェロも、クラシックの技術を活用しながら現代曲へと巧みに融合させているテクニックに脱帽!
 ジャズ、北アフリカの民族音楽、クラシック、そしてR&Bがうまくミックスされており、「国境のない音楽世界」と雑誌で評されたのが納得できる。

11位 The Bongo Hop · La Pata Coja

レーベル:Underdog [-]

 フランス人トランペット奏者、エティエンヌ・セヴェ(Etienne Sevet)が率いるアフロ・カリビアン・ユニット The Bongo Hop の最新作。本作が4作目となる。
 当時音楽ジャーナリストだったエティエンヌは世界中を旅し、コロンビアのカリに8年間定住、そこでコロンビア音楽の豊かさと出会い、創造意欲が湧き、コロンビア音楽を中心としたラテン音楽、アフリカ系コロンビア音楽のユニットを作ることになった。結果としてミュージシャンへと転身!
 のちにグラミー賞にノミネートされるほど有名になったコロンビア人歌手ニディア・ゴンゴラ(Nidia Gongora)ともコロンビアで出会っている。彼らの作品では、毎作ゲストシンガーが歌っているのだが、ニディアは2016年にリリースされた1作目から毎回参加し、本作にも参加している。本作では他にも、ニディアの姪でコロンビア人歌手のフランシー・ボニーヤ(Francy Bonilla)、フランス人シンガー、ローレーヌ・ピエール=マニャーニ(Laurène Pierre-Magnani)、フランス在住ブラジル人ミュージシャン、ルーカス・サンタナ(Lucas Santtana)、同じくフランス在住ハイチ人歌手でブードゥー教の巫女でもあるムーンライト・ベンジャミン(Moonlight Benjamin)、パリ在住のハイチ人ミュージシャン、ケフィニ・エリアチン(Kephny Eliacin)、カメルーン出身のベーシスト/歌手のジャン・チュミ(Jean Tchoumi)も参加し、多国籍な顔ぶれとなっている。歌われている言語もフランス語、スペイン語、ポルトガル語と様々。ジャズやレゲエ、アフロポップも感じられ、とてもカラフル!多様なリズムについつい身体を揺らしてしまうようなとてもクセになる作品。これはたまりません!

10位 Buzz’ Ayaz · Buzz’ Ayaz

レーベル:Glitterbeat [5]

 キプロスのバンド、ムシュー・ドゥマニが2022年夏に来日、日本のワールド・ミュージック・ファンに大きな感動を与えたことは記憶に新しい。そのの創設者であるアントニス・アントニウが新たに結成したバンド、バズ・アヤズ(Buzz' Ayaz)のデビュー作。5ヶ月にわたって上位をキープ!
 ヨーロッパ各地からの観光地として知られているキプロス島は、ギリシャ系住民とトルコ系住民の間で政治的な緊張状態にあり、島は分断されている。しかしエリアによっては、二つの文化が混ざり合い互いに文化的な交流が行われている。このバンドは分断されたキプロスが音楽的に融合することを目的に結成され、分断された両地域から集まった4人のメンバーにより構成されている。アントニスのエレクトリック・ジュラ(ギリシャの弦楽器)、トルコ系のドラム、ギリシャ系の鍵盤奏者によるベースシンセ/オルガン、キプロスに移住してきたイギリス人によるバスクラリネットという編成。
 60〜70年代のロックやサイケデリックオルガンがベースとなり、ギリシャとトルコが融合したメロディックなサウンドはとても重厚で、幻想的、催眠的に繰り返されるグルーヴ感がクセになる。ギリシャとトルコが融合した現代のキプロスのサウンドとも言え、彼らの目的が見事に成功している作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

9位 Moana & The Tribe · Ono

レーベル:Black Pearl [16]

 ニュージーランド出身のSSWモアナ・マニアポト(Moana Maniapoto)、ニュージーランド先住民マオリ族のルーツを持つマオリ語学者のテ・マナハウ・スコッティ・モリソン(Te Manahau Scotty Morrison)、ニュージーランドのミュージシャン/プロデューサーのパディー・フリー(Paddy Free)によるユニットMoana & The Tribe の最新作。
 タイトルはマオリ語で「6」を意味する。ニュージーランドから始まり、彼らが公演を行った土地(ノルウェー、オーストラリア、台湾、カナダ、ハワイ、スコットランド)の先住民族6人の女性たちとコラボし、先住民族の言語、文化、声を紹介している。彼女たちの個性豊かなヴォーカルと、エレクトロニカ・ダブを見事に融合させており、希望と団結を象徴するようなまさにワールドミュージックと言えるアルバムとなっている。
 それぞれの場所は全く異なる地域であるが、このアルバムを聴くと地域の繋がりが感じられ、どこか統一性のあるサウンドとなっているのが不思議。各地域の連帯、植民地支配の経験の共有、そして先住民文化の豊かな多様性を称えている作品となっている。民族音楽という感じではなく、現代的なサウンドを展開しているところが素晴らしい。

8位 Afro Celt Sound System · Ova

レーベル:Six Degrees [4]

 現代のワールドミュージック・シーンの先駆者の1つとも言えるグループ、アフロ・ケルト・サウンド・システム(Afro Celt Sound System)の最新作。1995年結成、メンバーは多国籍で、ケルト音楽のメロディと西アフリカの伝統音楽のリズムを現代的に融合させ革新的な音楽を作り上げている。アルバムの売り上げはトータル150万枚を超え、これまでに2度グラミー賞にノミネートされ、世界中でツアーを行っている。
 グループ創設者であるサイモン・エマーソン(Simon Emmerson)が昨年3月に亡くなってしまったが、亡くなる前からすでに構想は持っていて、まさに本作が彼の遺作となってしまった。彼亡き後も残ったメンバーでグループは存続することがサイモンの希望であった。サイモンへの追悼も込めてのリリースで、リリースツアーも行われることが決まっている。
 タイトル『OVA』は、古代ケルト人が信仰していた宗教ドルイド教の用語である「ovate」の略語を示している。彼らの過去のアルバムにも、O、V、Aの3文字が絡み合ったロゴが使われている。
 ケルトとアフリカそれぞれの楽器が使われ、うまい具合に融合されている。その他にもインドや中東の要素も加わっている印象を受けた。楽器の音色や熟練のヴォーカルを活かしつつ、現代のテクノロジーも程よく絶妙にブレンドされているのが素晴らしい。アルバム全体の世界観はさらに壮大なものになっている。彼らの約30年におよぶキャリアの集大成とも言える作品だろう。サイモンから受け継がれた音楽が、今後も聴けることに感謝!

7位 Christine Zayed · Kama Kuntu

レーベル:T-Rec [-]

 パレスチナ人で現在はフランス在住の音楽家でカヌーン奏者のクリスティン・ザエド(Christine Zayed)のソロデビュー作。
 音楽を愛する家庭だったため幼い頃からパレスチナの伝統的なメロディや、クラシックや現代のアラブ音楽などにも親しんできた。現在は音楽家である2人の兄とともに、彼女はウードの演奏と歌を幼い頃から習い始めた。9歳でパレスチナの国立音楽院に入学、ヴァイオリンや音楽理論、音楽史を学んだが、中東の伝統楽器カヌーンに魅了されたことがきっかけとなり、アラブ音楽、マカーム(アラブ音楽の旋法に基づく即興演奏の理論と実践)、リズム、音楽史を専門とするようになった。彼女の才能はパレスチナを越えて知られるようになり、カヌーン奏者、歌手として世界各地のさまざまなフェスティバルに出演するようになった。21歳のとき、音楽学とジャズ研究の修士号取得を目指してフランスに移住、音楽院でギリシャ、トルコ、アンダルシアのレパートリーを含むさまざまな音楽の伝統について研究した。現在はその音楽院で教鞭をとっている。
 音楽院時代には多くのアーティストとコラボし、様々なプロジェクトを立ち上げた。2018年末頃からソロ活動を開始し、古典的なアラブ音楽のレパートリーや自身のオリジナル作品を、カヌーンで演奏し、自身で歌っている。本作は彼女の芸術的な集大成の始まりとも言える作品で、自身のルーツやこれまでの音楽活動や歴史を探求。パレスチナでの過去とフランスでの現在を融合させ、音楽を2つの対照的な世界の架け橋として表現している。彼女の見事なカヌーンはもちろん、その周辺の民族楽器(タール、バーラマ、タブラ、バンスリ、ヴィオラ・ダ・ガンバなど)も多く使われ、豊かな音色が堪能できる。伝統的な中東音楽と、現代的な感覚が美しく融合しているのが素晴らしい。ゲストにイギリス人ミュージシャンピアーズ・ファッチーニ(Piers Faccini)や、タールの若手女性名手ソゴル・ミルザイ(Sogol Mirzaei)、さらには彼女の兄たち(バーラマ、ピアノ:バセル・ザエド(Basel Zayed)、パーカッション:ユセフ・ザエド(Yousef Zayed))も参加し、彼女の音に広がりを与えている。特に弦楽器の音色の美しさが非常に堪能できる作品。

6位 Nusrat Fateh Ali Khan & Party · Chain of Light

レーベル:Real World [2]

 パキスタン出身イスラム教神秘主義スーフィズムにおける儀礼音楽カッワーリーの歌い手として世界的に有名なヌスラット・ファテ・アリ・ハーンの作品。彼は1997年に亡くなったが、この度新たな録音が見つかりリリースされることとなった。先々月1位、先月2位だったが、今月も上位をキープ!
 西洋の多数の聴衆の前で公演した南アジアで最初の歌手のひとりであり、1988年マーティン・スコセッシ監督の映画『最後の誘惑』のサウンドトラックに参加、これをはじめとしたいくつかのアルバムやサウンドトラックに参加し西洋や日本での知名度を上げることとなった。カッワーリーを西洋や日本の聴衆に知らしめた彼の功績は非常に大きい。
 本作は、1990年に Real World Records のスタジオで行われたセッションからの未発表音源で、まさに西洋に名を知られはじめた頃、彼の絶頂期ともいえる頃の音源。ヌスラットのメロディックでパワフルなボーカルが、タブラ、ハルモニウムの音色とコーラスと重なり、歌声のエネルギーや、メロディックな妙技が堪能できる。
 非常に素晴らしいパフォーマンス!未発表音源が発見されて本当に良かった!

5位 Aboubakar Traoré & Balima · Sababu

レーベル:Zephyrus [17]

 ブルキナファソ出身のカメレンゴニ(西アフリカの民族弦楽器)の名手アボウバカール・トラオレ(Aboubakar Traoré)と、多国籍なメンバーで構成されるバンド、バリマ(Balima)による最新作。本作が2作目となる。2019年リリースの前作は高く評価され、国際的なステージに出るきっかけとなった。
 西アフリカ諸国の階級社会では、伝統的にグリオの家に生まれない限り、コラやドンソンゴニを演奏することはできなかった。しかし、1960年代にカメレンゴニが作られ、一般の人々も演奏することが可能になると若者たちがそれに飛びついた。アボウバカールもその1人で、カメレンゴニや、グリオの伝統的な歌い方を独学で学んだ。
 本作は、アボウバカールのオリジナル曲を中心に構成され、バンドメンバーと共にアレンジされた楽曲が収録されている。ブルキナファソの伝統をソウルフルなジャズやレゲエなど現代的なサウンドと融合させている。エレキギターやドラムの音がありながら、カメレンゴニやバラフォン(西アフリカで使われる木琴で、木の枠組の上に固定した木片をバーとして下には共鳴用のひょうたんがが取り付けてある伝統楽器)の音色もきこえる。サウンド的にも見事に融合されているのが素晴らしい。
 またアボウバカールの力強いヴォーカルがとても情熱的。ブルキナファソの歴史に誇りを持ち、西アフリカの歴史を築いてきた人々への敬意を表しながら、故郷であるブルキナファソをはじめアフリカ全体に影響を及ぼしている社会・政治構造に異議を唱える物語を提示している。バンドメンバーとの掛け合いで歌っているのもとても良く、彼らの底力を感じさせるアルバム。

4位 Al Andaluz Project · The Songs of Iman Kandoussi: Traditional Arabic Andalusian

レーベル:Galileo Music Communication [-]

 2005年に結成されドイツを拠点に活動している、アル・アンダルース・プロジェクト(Al Andaluz Project)の最新作。2006年から4枚のスタジオアルバムと1枚のライヴアルバムをリリース、当時は日本でも国内盤としてリリースされていたので、多くのファンに親しまれてきた。2013年の前作『サラーム』以来なので11年ぶり、実に久しぶりのリリースである!
 彼らは、中世イベリア半島でイスラーム、ユダヤ教、キリスト教の信仰を持つ人々が共存し、信仰の枠を超えて哲学や科学、芸術が大いに花開いた「アンダルース時代」を現代に蘇らせることを目的としている。アラブ・アンダルース音楽は口伝が中心で、楽譜に記録されたのは20世紀に入ってからとのこと。このように記録の乏しい音楽を、さまざまな手掛かりをもとに再構築し、かつての黄金時代のサウンドを現代化した。ヨーロッパを中心に世界の国際フェステバルに多く出演、ドイツで最も重要な民族音楽賞である「グローバル・ルース賞」を受賞するなど、高く評価されている。
 グループには、マリア・アランダ(Mara Aranda:スペイン出身)、カンドゥッシ(Iman Kandoussi:モロッコ出身)、シグリッド・ハウゼン(Sigrid Hausen:ドイツ出身)の3人の女性ヴォーカリストが所属しているが、本作ではイマン・カンドゥッシのヴォーカルがメインで録音されている。アラブ音楽には欠かせない伝統楽器、ウード、ラバーブ、カーヌーン、サズ、ハーディ・ガーディ、各種アラビック・パーカッションなどが使われ、伝統的なアラブ・アンダルース音楽を踏襲したアコースティックなアンサンブルが収録されている。
 時空や場所を越えて体感できる素晴らしい音楽。アラブ音楽ファンならずとも惹き込まれる作品。

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き)

3位 BaBa ZuLa · İstanbul Sokakları

レーベル:Glitterbeat [6]

 1996年結成のトルコのオルタナティブ音楽グループ、BaBa Zula の最新作がランクイン!2019年リリース『Derin Derin』以来となる5年ぶりのスタジオ録音作品。
 トルコの民謡をベースにした音楽「ハルク」を基本とし、エレクトリックでディープなビート、ヘビーなダブの振動を取り入れたサイケデリックなサウンドを実験的に演奏してきた。ダルブッカやカシュイカーといった打楽器が伝統的なフォークダンスのリズムを奏でる一方、エレクトリック・サズを演奏し現代的な増幅効果を加えた奥深いアナトリアのムードを醸し出している。
 本作では、タクシーム(taksim)と呼ばれるトルコ古典音楽の重要な要素を取り上げ、トルコ音楽の伝統を現代的にアレンジする試みをさらに追求している。インドのラーガで通常冒頭に演奏されるアラープ(alaap)と密接な関係にあるタクシームは、伝統的には即興のイントロダクションであり、ルート音のドローン(持続音)にメロディのバリエーションを重ねて特定の音階のムードを確立するもの。20世紀初頭はトルコ文化において非常に人気があったが、その後この伝統は徐々に廃れていったという。それを本作でぜひ使いたいとバンド創設者であるムラト・エルテル(Murat Ertel)は思ったそうだ。
 アルバムタイトルは「イスタンブールの街角」を意味している。イスタンブルの駅のアナウンスやバザールの雑踏などの効果音を取り入れた楽曲もあり、まさにその風景を音で描いている。彼らの代名詞ともなっている催眠的なジャムもふんだんに盛り込まれていたり、モダンな雰囲気と伝統的なトルコのテイストが融合した独特のサウンドも展開しており、彼ら独自の世界をたっぷりと堪能できる。BaBa Zula ワールド全開の作品!いいです!

↓国内盤あり〼。(日本語解説帯付き、LPもあり〼)

2位  Justin Adams & Mauro Durante · Sweet Release

レーベル:Ponderosa Music [1]

 イギリスのギタリスト/作曲家のジャスティン・アダムズ(Justin Adams)と、イタリアの伝統音楽グループ CanzionIere Grecanico Salentino(CGS)のバイオリニスト/歌手/パーカッショニストであるマウロ・デュランテ(Mauro Durante)によるデュオ2作目。11月に8位で初登場し、先月月は1位、今月も2位と上位をキープ!
 2021年にリリースされたデュオ1作目『Still Moving』についても、本チャートに5ヶ月もランクインしていて高評価だった。その前作のリリースワールドツアーによって形付けられ本作の制作へと繋がったそうだ。
 前作同様に骨太のロック、砂漠のブルース、そしてデュランテの故郷である南イタリア・プーリアの伝統音楽タランタが散りばめられているが、前作と異なる点は女性ヴォーカルのゲスト参加により、華やかな印象を与えていること。デュランテと同じCGSのメンバーのアレッシア・トンド(Alessia Tondo)、先月まで本チャートにランクインしていたモロッコのバンド Bab L’ Bluz のフロントウーマン、ユスラ・マンスール(Yousra Mansour)、ニューヨークのロック・ソウル・グループ Faith NYC のシンガー兼ベーシスト、フェリーチェ・ロッサー(Felice Rosser)が参加している。それぞれが異なるジャンルで活躍している実力派のミュージシャンだが、ジャスティンとマウロの手腕と化学反応により見事にそれぞれの世界観を表現している。多様な音楽がうまくまとめられた圧巻の作品。

1位 Mari Boine · Alva

レーベル:By Norse Music [3]

 ノルウェーのサーミ人歌手/作曲家、活動家、そして先住民族サーミ族の文化的な象徴でもあるマリ・ボイネのソロ最新作。今年初めにリリースされたノルウェーのジャズ・アーティストとのデュオ作も本チャートに3ヶ月ランクインしていたが、同年内にソロ作を発表。今月はとうとう1位!
 先住民族であるサーミ族は、国内での認知度は高まっているがいまだ差別されることがあるという。1990年に国際的にデビューして以来、彼女のルーツとなるサーミ族の伝統歌唱ヨイクと、現代的な電子楽器の要素を取り入れたサウンドを展開し、サーミ族への差別と立ち向かってきた。この最新作でもシンセサイザーなどの電子楽器を最大限に活用した彼女独自のサウンドとなっている。
 本作では、厳格な宗教的環境での幼少期を捨て、活動家としての人生を歩むことを選んだ彼女の人生の一端を本作で表現している。サーミ族の文化や歴史を音楽を通じて世界中の人々と共有するという、彼女の孤独な使命と、彼女自身の旅や人間関係とのバランスを見つめ直す内容。それは、例えば彼女が自身の母親との関係を嘆いた楽曲や、彼女と息子の関係について考えを巡らせている楽曲などとなっている。アルバム最後の収録曲では、サーミ音楽界で有望な若手歌手のエラ・マリエ・ハエッタ・イサクセン(Ella Marie Hætta Isaksen)ともデュエットしている。異なる世代の2人の個性的な歌声が絡み合うのが幽玄的で非常に素晴らしく、サーミ族の連帯、パワーが感じられる。
 楽曲によって歌声を変化させているのがとても特徴的。遊牧民族であるため壮大な自然の中で開放感のある伸びやかな歌声があれば、嘆き悲しむ悲哀の歌声もあり、彼女の表現力に圧倒される。そして、デビュー以降も差別と闘い、革新的な音楽を創り続けている彼女の姿勢にも感服させられる。とても美しい作品。


(ラティーナ2025年1月)

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