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[2021.05]【TOKIKOの 地球曼荼羅⑩】5月はパリの物語 ─自由と愛の革命家たち

文●加藤登紀子

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❶ ジーナが歌った「さくらんぼの実る頃」

㈰ジーナ1

ジーナ(『紅の豚』)

 1992年7月18日にロードショーがスタートした『紅の豚』は、今からちょうど100年前の1920年代を描いています。

 第一次世界大戦が終わって、たくさんの飛行機乗りが戦死、その苦い思いを胸に、次の時代を夢見る人たちの物語です。

 この中でジーナが歌っている挿入歌の「さくらんぼの実る頃」は1871年パリで起こった市民革命「パリ・コミューン 」で歌われた歌。約150年前の歌ということになります。

 ナポレオン3世とドイツの宰相ビス・マルクとの対決、普仏戦争でフランスが敗れたその混乱の中で起きたパリ・コミューン 。フランスの7都市で革命自治政府としてのコミューンが結成され、パリ市民の樹立した革命政府は約2ヶ月続きますが、最後の1週間で、ドイツ軍の助けを借りた臨時政府のベルサイユ軍に倒されます。

「さくらんぼの実る頃」はパリ・コミューン の指導者、ジャン・バチスト・クレマンが作った歌、この悲しい結末を決して忘れまい、と人々が革命後に歌い、ヨーロッパ中に広がったのです。

 このパリ・コミューン で「血の1週間」と呼ばれる5月21日から28日まで革命軍の兵士が立て籠ったのがペール・ラシェーズ 墓地。ここに今、パリコミューン の記念碑が立っています。
 
 この普仏戦争で勝利したドイツがさらなる覇権を求めて引き起こした第一次世界大戦、その地獄のような時代を経て、ジーナが、素晴らしかった「ひと夏の青春」のようなパリ・コミューン を偲んで、アドリア海に浮かぶホテルアドレアーノで「さくらんぼの実る頃」を歌っている、というわけです。

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