[2021.11]【太平洋諸島のグルーヴィーなサウンドスケープ⑯】 移動・移住・観光―ヴァヌアツの記憶―
文●小西 潤子(沖縄県立芸術大学教授)
「島の人たちって、身軽に移動するんだなぁ」―さまざまな島を回って、感じることの1つです。こちらは、身勝手な調査者。そのときに会いたいと思う方を訪ねると、「〇〇さんは、××(別の島や外国)に行っている」とよく返ってきます。で、「いつお戻りですか?」と聞くと、大抵は「さぁ、知らない」と。日本に住んでいても、東京出張とか京都へ旅行など、ご不在のことはあるでしょう。しかし、帰る日も知らせないまま出ていくとは。フラッと島を出て、フラッと戻ってくるような自由さが羨ましく思いますが、それぞれの事情もあるようです。
島からの移動は、程度の差はあっても、当人たちにとっても大変なこと。みんながみんな好き好んで、島から離れるわけでもありません。学校、病院などの社会インフラ、仕事などの経済活動といった事情によって、島外への移動を余儀なくされることも、しばしば。これは、日本国内の離島や過疎地域にも当てはまりますね。ミクロネシア連邦の島々では、白内障などの手術を受けるために、高齢者がハワイ、グアム、近年ではフィリピンなど外国に行くことも。行った先で手術待ち、入院待ちとなれば、「帰着日不明」となるわけです。彼らが日常の延長で島外に移動できるのは、そこに移住している家族や親族、知人などが出迎えてくれるからでもあります。だから、送り出す側も心配することなく、気長に待っていられるというわけです。
一方、人々の都市や町への移住の結果、シドニー、オークランド、ホノルルなどへの人口集中のみならず、パプアニューギニアのポートモレスビー(2021年4月号)やヴァヌアツのポート・ヴィラ(2021年10月号)のように、島嶼国内でも首都への人口流入が進んでいます。
そのようななかで、ヴァヌアツでは町に移住した共同体の人々が、故郷の文化を若者世代に継承すること、その観光資源化によって共同体が収益を得ることを目的に、文化観光を行っています。ペンテコスト Pentecost 島北部からエスピリトゥ・サント Espiritu Santo 島の町ルーガンビル Luganville近郊に移住した集団からなるVilvil 村の文化観光も、その1つです。そこでは、割れ目太鼓といった楽器、音楽や踊り、染織、砂絵、料理、さらには儀式に欠かせない飲料カヴァを作るためにカヴァの木を栽培するなど、モノや自然資源を技術と共に移住先に持ち込んで、観光客に披露しています(写真1~4)。
写真1 現地の文化体験ができる Vilvil 村ツアー
(於:エスピリトゥ・サント島、ヴァヌアツ 2012年3月2日
撮影:小西潤子)
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