[2021.02]【中原仁の「勝手にライナーノーツ」⑦】 Gal Costa 『Nenhuma Dor』
文●中原 仁
───── 中原仁の「勝手にライナーノーツ」─────
近年、日本盤の発売が減少し、日本における洋楽文化の特徴である解説(ライナーノーツ)を通じて、そのアルバムや楽曲や音楽家についての情報を得られる機会がめっきり減った。
また、盤を発売しない、サブスクリプションのみのリリースが増えたことで、音楽と容易に接することが出来る反面、情報の飢えはさらに進んでいる。
ならば、やってしまえ!ということで始める、タイトルどおりの連載。
リンクを通じて実際に音楽を聴き、楽しむ上での参考としていただきたい。
2020年9月に75歳を迎えたガル・コスタの最新作。67年~81年に録音した10曲を、息子世代の10人の歌手とデュエットしている。2020年11月以降、曲単位でサブスクにアップされ、10曲が出揃った2月にアルバム化、CDも発売された。
ディレクションは、スタジオ録音の前々作『Estratosférica』(2015年)、前作『A Pele do Futuro』(2018年)と同じく、息子世代のマルクス・プレト。音楽監督は、前作で弦楽器のアレンジを行なったフェリーピ・パシェーコ・ヴェントゥーラ。彼は1988年生まれ、TONOと共にリオのオルタナ・ポップ第二世代を代表するバンド、バレイアの中心メンバーで、ギタリスト/ヴァイオリン奏者だ。
2010年代以降、ガルの声はシルキーな輝きを失い、声域も低くなった。だからと言って彼女が守りに入っていないことは、若手の楽曲を取り上げ若手と共演してきた近作が物語っている。
本作では自身の往年のレパートリーを、人生の歩みを振り返りながら想いをこめて歌うガルに、10組の男性陣が寄り添う。10曲中7曲が盟友カエターノ・ヴェローゾの作品だ(共作、既発曲のポルトガル語ヴァージョン作詞を含む)。
デュエットのパートナーを登場順に列記しておこう。ホドリゴ・アマランチ。シルヴァ。クリオーロ。アントニオ・ザンブージョ。ゼー・イバーハ。セウ・ジョルジ。チン・ベルナルデス。フーベル。ホルヘ・ドレクスレル。ゼカ・ヴェローゾ。近年、日本で注目されている人も多く、個人的には大いに納得の人選だ。
フェリーピの弦アレンジをはじめとするサウンド面にも安住の姿勢はなく、主に60~70年代に作られた楽曲に2020年の鼓動をもたらし、派手さはないが聴きごたえ十分だ。
ここから曲ごとに、ガルのオリジナル録音が収録されたアルバムと、デュエットのパートナーを紹介していく。各曲の初録音も聴き比べてほしい。
1. Avarandado
カエターノ・ヴェローゾとの双頭デビュー盤『Domingo』(67年)から、後にジョアン・ジルベルトも録音したカエターノの作品。
パートナーはロス・エルマーノス出身のホドリゴ・アマランチ。原曲よりテンポを上げたリズム・アレンジが新鮮だ。
初録音はこちら↓
2. Só Louco
ドリヴァル・カイミ作品集『Gal Canta Caymmi』 (76年)から。50年代に作った官能的なサンバ・カンサォンを、シルヴァとデュエット。ガルは前作でシルヴァの楽曲を歌っていた。
初録音はこちら↓
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