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[2023.9]最新ワールドミュージック・チャート紹介【Transglobal World Music Chart】2023年9月|20位→1位まで【聴きながら読めます!】

e-magazine LATINA編集部がワールドミュージック・チャート「Transglobal World Music Chart」にランクインした作品を1言解説しながら紹介します! ── ワールドミュージックへの愛と敬意を込めて。20位から1位まで一気に紹介します。

※レーベル名の後の [ ]は、先月の順位です。
「Transglobal World Music Chart」は、世界各地のワールドミュージック専門家の投票で決まっているワールドミュージックのチャートです。主な拠点がヨーロッパなので、ヨーロッパに入り込んだワールドミュージックが上位にランクインする傾向があります。


20位 Bilja Krstić & Bistrik Orchestra · Biljur

レーベル:Jugoton Croatia [-]

 1955年生まれのセルビアのベテラン歌手、ビリャ・クルスティッチの最新作。1970年代にはバンドのヴォーカルとして活動していた。バンド解散後はソロ活動を開始。1983年にファーストアルバムを発表。ポップス志向のレコードを3枚リリースし、セルビアの首都のベオグラード国立劇場で多くの舞台音楽を担当した。その間、彼女は音楽芸術大学を卒業し、ラジオ・ベオグラードの音楽エディターとして働き始めた、という経歴を持つ。
 セルビア中部の民族的伝統の中で育った彼女は、ポップシーンで大活躍したが、幼少期から思い入れのある伝統的な民族音楽の曲をレコーディングする活動を開始。5年以上かかって、コソボ、南セルビア、マケドニア、東セルビア、ルーマニア、ハンガリーなどの名も無い民謡を根気よく集め続け、その成果として2001年にアルバム『Bistrik』をリリース。その後もその活動を続け、2007年にはアルバム『Tarpoš』がヨーロッパでもリリースされ、ワールドミュージックの批評家やリスナーたちから大きく評価を得た。
 本作も伝統的な民族音楽を、現代的なアレンジで演奏された楽曲が収録されている。ピアノと歌だけの感情的で胸をギュッと掴まれるようなメロディ、東欧と中東がミックスされたバルカン半島独特のエスニック感、ポップやロックも感じられ、彼女だからこそ表現できる豊かな作品となっている。その地域の民謡にはあまり縁がないが、なぜか懐かしい気持ちになる不思議な感覚。演奏しているビストリク楽団の情緒あふれる演奏も聴き応えある作品。

19位 Fatoumata Diawara · London Ko

レーベル:3ème Bureau / Wagram Music [4]

 マリのワスル地方出身の両親を持つ、コートジボワール生まれで、現在はフランス在住の女優/シンガー・ソング・ライター、ファトゥマタ・ジャワラ(Fatoumata Diawara)のソロ名義3作目のアルバム。前作『Fenfo (Something To Say)』から5年ぶりで、2011年に『Fatou』でデビューしてから12年で3作と寡作といってもいい作品数である。

 女優として活躍していたファトゥマタはしだいに歌に目覚め、ウム・サンガレやロキア・トラオレといったマリ人歌手らに触発されプロを目指すようになった。
 本作は、マリの音楽を愛好しているBlur / Gorillaz のデーモン・アルバーンと共同制作した作品で、一緒に歌っているのはもちろん、曲作りも共同で行っている。デーモンが参加している先行シングルTr1「Nsera」の音色には、かなりGorillazと共通したものも感じる。前作に比較して、ワスル音楽色は薄れて、ヴァラエティに富んだアフロ・ポップ/ソウル寄りの作品となっている。

 ゲストに共同名義のアルバムのあるRoberto Fonseca(キューバ|Tr3)の他、Angie Stone(米国|Tr2)、M.anifest(ガーナ|Tr5)、Yemi Alade(ナイジェリア|Tr11)ら、カラフルな面々が参加。

18位 Omara Portuondo · Vida

レーベル:One World [8]

 現在92歳のキューバの至宝「オマーラ・ポルトゥオンド(Omara Portuondo )」。全11曲中10曲に、一流のゲストを迎えており、ベスト盤か何かの企画盤かと見間違うようなレパトリーの面構えだけれど、92歳のオマーラがリリースした新作オリジナル・アルバムで、タイトルは「人生(Vida)」だ。心して聴くべし!

 前作『Omara Siempre』をリリースしたのは87歳の時。90歳のオマーラは、パンデミックによって、ツアーを中断しせざるを得なくなりハバナから動けなくなったが、この人類史の重要な時期に、やはり音楽で表現することを選んだ。オマーラの息子で、彼女のキャリアを20年以上支えてきたAriel Jiménez Portuondoは、近年グラミー賞にもノミネートされているグアテマラ出身のシンガーソングライター、ギャビー・モレノ(Gaby Moreno)という今のオマーラにとって完璧なプロデューサーを見つけ、オマーラと繋ぎ、レコーディングを企画した。
 オマーラは、本作に多くの愛情を注ぎ、長年の友人や音楽で繋がった仲間たちと、リモートで繋がり、本作の制作に参加してもらい、オマーラの築き上げてきた音楽的遺産へのトリビュートでもいうべき、濃密な本作が完成した。

 時代を超越する楽曲たちを、伝説となる歌手たちと歌っている。人生へのオマージュを表現したTr1「Bolero A La Vida
feat. Gaby Moreno」やTr10「Gracias A La Vida. feat. Natalia Lafourcade」。Tr2「Silencio. feat. Andy Montañez」、Tr4「Duele. feat. Gonzalo Rubalcaba」、Tr7「Se Feliz. feat. Keb’ Mo’」というバラードには、パンデミックによって失われた親愛なる友人たちを悼むオマーラのメランコリーが反映されている。また「BLM(ブラック・ライヴズ・マター)」運動に共感し、今再び歌わなければいけない楽曲として、1963年にレナ・ホーンが歌い、70年代にオマーラがキューバで有名した楽曲Tr8「Now」を取り上げている。ビッグバンドに乗せて歌うオマーラ・ポルトゥオンドの歌声は、とてもとても力強い。

 また、本作がラストアルバムなどというわけではなく、間も無くステージで歌うことを再開し、録音も続けていく。しかしながら、「人生(Vida)」というタイトルにも現れているように、音楽活動を通じて人生を愛してきたオマーラの音楽的遺産が散りばめられた特別なアルバムだ。

17位 Idrissa Soumaoro · Diré

レーベル:Mieruba [-]

 マリ共和国出身の作曲家、歌手、ギタリストで、カマレン・ンゴニ(西アフリカの伝統的な弦楽器)の名手でもあるイドリサ・スーマオロの最新作。サリフ・ケイタも所属していた伝説的なバンド、レ・アンバサドゥール・ドゥ・モテール・ド・バマコのメンバーでもあった。
 1949年首都バマコ郊外の村に生まれ、小学生の頃に校長先生のギターと出会い、それ以来ギターに夢中になる。ギターだけでは飽き足らず、様々な楽器にも魅了され、1968年にバマコの国立芸術学院に入学する。その頃から音楽活動や作曲も行い、芸術学院卒業後は音楽教師となる。音楽教師として最初に赴任したのが、本作タイトルでもある町、ディレ(Diré)である。昼は教師、夜はアーティストとして、多くのステージに出演し続け、レ・アンバサドゥール・ドゥ・モテール・ド・バマコにも参加することとなる。
 バンド解散後は、視覚障害者に力を与える必要性を世間に認識させるため、自ら保健省へ出向し、目の見えない人と見える人で構成されたオーケストラを立ち上げた。さらには、点字音楽学を学ぶためイギリスにも奨学金留学する。マリに戻ってからは様々な責任ある役職を歴任し、1996年マリの文部省音楽総監に任命され、2011年に退官するまでその職を務めた、というすごい人。
 2003年に自身のソロアルバム『Koté』をリリース。2010年にはアリ・ファルカ・トゥーレとの共演作「Bèrèbèrè」を収録したアルバム『Djitoumou』をリリースし、本作はそれに続くソロ3作目となる作品。
 本作は2012年から制作を開始したが、制作途中でプロデューサーが急逝し、制作は中止されていた。しかし、パンデミックによりじっくり制作する時間ができ、今回のリリースに至った。イドリサの意向により、マリのブルースの故郷である町セグーを拠点とするインディペンデント・レーベル、Mieruba からのリリース。構想から制作、流通に至るまで、「マリが繁栄できるよう、共に立ち向かおう」というメッセージが本作に込められている。

16位 Shono · Kolkhozoy Traktor

レーベル:CPL-Music / CPL-Musicgroup [17]

 ロシア連邦の一つでバイカル湖の東岸、モンゴルの隣国に位置するブリヤート共和国のバンド、Shonoのセカンドアルバム。
 ブリヤート人の音楽家で喉歌の達人、教師でもあるアレクサンドル・アルヒンチェフによって2014年に結成されたバンドで、ブリヤートの伝統音楽と西洋のロックが融合された音楽を演奏する。メンバーは4人で、モリンホール(馬頭琴)、モンゴルの琴ヤトガ(yatga)、ベースとドラムの構成。1stアルバムでは、ブリヤートの伝統音楽だけでなくオリジナル曲も収録、様々な喉歌を披露した。二作目となる本作では、アレクサンドルが子供の頃に祖父母から聞いた曲を現代的にアレンジした曲が収録されている。自然や動物に対してのブリヤート民族の価値観を表現し、ブリヤートの文化的な遺産を守り、後の世代へと受け継いでいく伝統へのオマージュが込められている。
 伝統楽器を使い、かつ現代ロックの楽器であるベース、ギター、ドラムも使い、疾走感あるサウンドを展開、そしてそこに喉歌が入っているのがとても斬新。高いテクニックを持つバンドだと認識させられる。
 本作アルバムタイトル『Kolkhozoy Traktor』は「稼ぎ手」「鉄の馬」という意味で元々はブリヤート民謡のタイトル。農業機械(要はトラクター!)の力と信頼性について、そしてどんな天候でも夜明けから夕暮れまで畑で仕事をする、善良で勤勉な人々を賞賛している歌だそうだ。それにしてもトラクターの上で演奏するなんて……(上記動画より)と、思わず見入ってしまう。
 また、バンド名を日本語で「生の〜」と表現しており、それが1作目のアルバムジャケットから入っているのがとても気になる。「の」はなぜひらがななのか?当て字ならば「野」とか「乃」でもよかったのでは?などと余計なことを考えてしまうのだが……。もちろん本作のジャケットにも記載あり。どういう経緯でこの日本語が入っているのか?とジャケから興味をそそられる作品。

15位 Saîdê Goyî · Jinê

レーベル:Saîdê Goyî [9]

 トルコ東南部シュルナク県ウルデレ地区出身のクルド人 Saîdê Goyî (サイデ・ゴイ)のデビューアルバム。長年音楽活動に携わってきたが、昨年EPをリリース、アルバムとしては本作が最初となる。先月12位で初ランクインし、今月は9位!
 彼はデンベジ(dengbêj:クルド語に由来し「deng(声)」と 「bêj(伝える)」が融合した)と呼ばれる吟遊詩人。クルドの民族音楽はクルド文化の重要な一部であり、伝統的にデンベジによってクルドの歴史に関する物語を伝えるために使われてきた。これらの吟遊詩人たちは、その無限のレパートリーと比類なき即興の技で、数え切れないほどの世紀にわたる詩を遺してきた。彼もその一人である。
 息子に背中を押され昨年EPをリリースしたが、同じクルド人のアリ・ドゥガン・ギョニュルタシュ(Ali Doğan Gönültaş)がプロデュースを担当。(アリはソロでも活躍する音楽家で本チャートにも登場している)本作もアリがプロデュースし、また一緒に歌ってもいる。
 本作『Jinê』とはクルド語でJinêは人生と女性を意味する。サイデの人生で忘れがたい女性たちへの賞賛と愛情が込められているそうだ。詳細な彼の年齢はわからないが、歩んできた人生の豊かさ、そして伝統的な文化の豊かさも込められており、味わい深い彼の声が響く。言葉の意味がわかればなおいいのだろうが、声とチェロやネイなどのシンプルな組み合わせだけでも堪能できる作品。今後も世界にクルドの伝統文化を広めてほしい。

14位 Cantares del Pacífico · Aguajes de Mar y Manglar

レーベル:Chaco World Music [19]

 コロンビア西部の都市ブエナベントゥラで2005年に結成された音楽グループ Cantares del pacífico(カンタレス・デル・パシフィコ)の最新作。
 彼らはコロンビアの伝統音楽などの文化の保護と、地域の社会的基盤の再構築のための財団として活動、コロンビアを代表する様々な場面において活躍している。
 本作は、コロンビア・イセシ大学のコロンビア伝統音楽の研究プロジェクトの一環で制作された。一昨年から昨年にかけて本チャートにもランクインしたコロンビアのブジェレンゲの女王、ペトローナ・マルティネスのアルバム制作を行なったレーベル、Chaco World Music からリリース。ブエナベントゥラを流域とするいくつかの川で生活する人々の、先祖代々伝わる音楽を収録した作品。
 チョンタと呼ばれる椰子の木で作られたマリンバ(Marinba de Chonta)の女性奏者であるエリエン・コラス(Eryen Korath)を中心とし、20代、30代の若手から94歳まで様々な年齢層による演奏が収録されている。ベテランのテクニックと若々しいエネルギーが融合し、音に豊さと深みを与えている。また、一つではなく、いくつかの川の流域の土地の音楽であるところが良く、その地域の多様性を表現している。先祖代々その土地に伝わる音楽は、その土地と精神性を結び付けており、アフロ太平洋における葬送儀礼という神聖さも表現されている。
 何よりマリンバの音がとても心地よい。主張し過ぎず、でも楽曲の土台はしっかり守っており、民族楽器の音の良さが充分に表現されている。そして、素朴なヴォーカルやコーラスとの組み合わせが、人々の生活を感じさせるようだ。このように貴重な音源を聴けるのが、とても素晴らしい。

13位 Baaba Maal · Being

レーベル:Marathon Artists [14]

 ユッスー・ンドゥールと並ぶセネガルの音楽家、バーバ・マールの最新作。前作は2016年リリースなので、7年ぶりのリリースとなる。
 セネガル北部の町ポドール出身で、パリにも音楽留学し30年以上音楽活動をしているベテランミュージシャン。海外でも公演するなど、国外のミュージシャンたちとの繋がりも深い。フラ族の言語であるプラール語で歌い、その伝統を広く伝えている。また、人道的な活動も精力的に行っており、国連親善大使にも任命されている。
 本作のタイトル直訳は「〜であること」。アフリカ出身であること、シンガーソングライターであること ……など、パンデミック期間中に「ただ存在すること」が重要だと感じて名付けられた。
 プロデューサーのヨハン・カールバーグ(Johan Karlberg)と、アイデアやデータをやり取りしながら制作したとのこと。エレクトロニックとアコースティック、スピード感とスロー感、自然とテクノロジー、古代の儀式のような感じと未来への高揚感など、相対する部分がシームレスに融合した音楽となっている。ロンドンのグループ The Very Best のシンガーでマラウィ出身の Esau Mwamwaya や、新人シンガー Rougi、モーリタニアのラッパーGeneral Paco Lenol もゲスト参加している。
 砂漠のブルースやトランスっぽさもあり、そしてスピリチュアルさも感じられる。高揚感を得て、最後の曲は儀式で歌われているよう。歌というより世界に向けた彼の魂の祈りに聞こえる。アルバムに引き込まれてしまい、何度もリピートしてしまう。素晴らしい!

12位 Damir Imamović · The World and All That It Holds

レーベル:Smithsonian Folkways Recordings [6]

 本作で聴くことができるのは、東欧ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦の首都サラエヴォが生み出した大衆音楽が「セヴダ」。アラビア語の「愛」に由来するこの音楽は、同地がかつてオスマン帝国に支配されていた時代に起源を持つ。20世紀になると大衆音楽として大きく成長を遂げた。「セヴダ」のサウンドからは、バルカン半島からアラブ、トルコの息吹が存分に感じられる。

「セヴダの王様」ことダミール・イマモヴィッチ(Damir Imamović|1978年サラエヴォ生)は、父や祖父もセヴダの音楽家という家系に生まれ、2004年に、26歳でプロ・デビューした。ドキュメンタリー映画でその音楽活動が取り上げられたことがきっかけで人気を博した彼は、その後も若者たちにセヴダの魅力をアピールし続ける作品を数枚リリース。2016年、ドイツのレーベル“Glitterbeat”から発表した『ドヴォイカ~セヴダへの誘い』や、2020年の『シンガー・オヴ・テイルズ』で、世界のワールドミュージック愛好家にも名前が知られるようになった。

 ボスニア系アメリカ人作家アレクサンドル・ヘモンによる同名小説のサウンドトラックとして本作は制作され、アレクサンドルのよる小説執筆に並行して制作が進んだ。同小説は、2人のボスニア人男性、セファルディ・ユダヤ系のピントとイスラム教徒のオスマンとの間に繰り広げられる愛と喪失、苦難と忍耐の物語だ。本作でダミールは、その物語を、ボスニア語、セファルディ語、ラディノー語という3種の言語を使用し、タンブール、タール、アコーディオン他の美しい演奏を伴奏に、力強くも絶妙なテナー・ヴォーカルで聴かせている。

↓国内盤あり〼。(日本語解説付き)

11位 Ali Farka Touré · Voyageur

レーベル:World Circuit [7]

 マリの伝説的なギタリスト/ヴォーカリスト、アリ・ファルカ・トゥーレの未発表音源集。アリの息子のヴィユー・ファルカ・トゥーレとクルアンビンが、アリをリスペクトしてリリースしたコラボ作品が今年1〜3月の本チャートにランクインしていたのも記憶に新しいが、本作はアリ自身の作品。2011年にグラミー賞ベスト・トラディショナル・ワールド・ミュージック賞を受賞したアルバム『Ali & Toumani』以来のリリースとなる。
 マリの伝統的な音楽スタイルとブルースの明確な要素を融合させ、今では「デザート・ブルース(砂漠のブルース)」としてよく知られる画期的な新ジャンルを生み出した。残念ながら2006年に亡くなってしまったが、今なおアフリカ音楽、ワールド・ミュージックの伝説とされている。
 本作は、1991年から2004年にかけて即興のジャムセッションやコンサートのリハーサルで録音された未発表の音源で、息子のヴィユーの協力を得て制作された。それぞれ録音されたのだろうが、アルバム全体の流れとしてはとても自然に感じられ、まるであらかじめ制作する予定であったかのように聴こえるのが素晴らしい。本チャートの2021〜2022のシーズンベストアルバムにも選ばれたマリ出身のベテラン女性歌手ウム・サンガレも参加し、マリのスーパースターの共演が実現されている。
 タイトルは「旅人」を意味する。彼の生涯、そして亡くなってもまだ「旅人」であることを意味しているのであろう。伝説として世界的に尊敬されていることを再認識した作品だ。

10位 Matthieu Saglio · Voices

レーベル:ACT [20]

 フランス出身で現在はスペイン・バレンシアを拠点に活動しているチェリスト/作曲家のマテュー・サリオの最新作。
 クラシックで活動していたが、1996年からジャズへと転向。2002年にバレンシアに移住してからは、フラメンコと、フラメンコギタリストとして有名なリカルド・エステベ(Ricardo Esteve)と出会い、フラメンコ、ジャズ、クラシックを融合させたトリオ「Jerez Texas」を結成。25ヶ国で500回以上のコンサートを行い、5枚のアルバムをリリースしている。この他にもクラシック音楽から即興音楽、ジャズ、フラメンコ、伝統音楽といったように多様なプロジェクトに参加し活動している。2015年にフランス系アルジェリア人シンガーでチェロ奏者のネスリーヌ・ベルモク、スペイン人ドラマーのダヴィッド・ガデアとともに新たなトリオ「NES」を立ち上げた。2018年に
ドイツの名門レーベルACTからアルバム『Ahlam』をリリースし本格的に活動を開始、アラビックなセンスとジャズの即興をミックスした作品は国際的に高く評価された。
 彼のソロアルバムとなる前作『El camino de los vientos』は、2020年4月にACTからリリース、Spotifyだけでも700万回以上再生され、こちらも国際的な批評家から高い評価を得た。
 そして最新作となる本作はチェロの音色で最もよく言われる特徴である人間の声との類似性を強調する作品となっている。タイトルが『Voices』と付けられていることからも窺える。本作には、ペルーのスサーナ・バカ、アゼルバイジャンのアリム・カシモフ、ベルギーのナタチャ・アトラス、スウェーデンのニルス・ランドグレン、セネガルのワシス・ディオプ、スペインのアンナ・コロン、フランスのカミーユ・サリオといったように世界各地の歌手が参加している。彼のチェロ、レオ・ウルマンのヴァイオリン、スティーヴ・シェーンのドラム、クリスチャン・ベルオムのピアノのカルテットで演奏。前作の成功と勢いを土台にしており「地中海、アフリカ、アジアを巡る変化に富んだ音楽の旅」と表現されている。歌だけでなく彼のインスト曲も収録され、魅力的なチェロの音が堪能できる作品となっている。

9位 Mokoomba · Tusona: Tracings in The Sand

レーベル:Outhere [-]

 ジンバブエの6人組バンド、モコンバの最新作。前作は2017年リリースの『Luyando』で、6年ぶりのリリースとなる。
 他のアーティスト同様、パンデミック中はライヴ活動ができなかったため、彼ら自身によるセルフプロデュースで制作し、録音を行ったのが本作品。変化する社会における愛、喪失、勇気をテーマとし、彼らが得意とするジンバブエの伝統的な音楽と現代的なサウンドを融合した楽曲、またハイライフやアフロ・ビート、ズールー音楽など他のアフリカ地域の音楽ジャンルも交えて表現。ルヴァレ語、ショナ語、リンガラ語など様々な現地の言葉で歌っている。ジンバブエの伝統楽器を使ったポップでダンサブルな楽曲や、しっとり聴かせる楽曲も収録。これまでの経験を全てこの作品に注ぎ込み、彼ら独自のサウンドを作り上げている。
 アルバムタイトルは、アフリカ南部のルヴァレ族の儀式で使われる砂に描かれた古代のデザインで、伝統的な文化に対する彼らの敬意が感じられる。またジャケットのデザインも、ジンバブエの若手ビジュアルアーティストによるもので、同じく儀式で使われる伝統的な仮面をポップで現代的に表現している。
 本作ゲストには、ジンバブエ出身女性シンガーのULETHU、コンゴ人シンガーの Desolo Bも参加、ガーナのハイライフユニット “Santrofi” のメンバーも一部の楽曲でホーン演奏で参加しており、独自色だけでない多彩なサウンドも楽しめる。
 また、前作に収録された3曲が再録音されている。アコースティック色が強かったサウンドがエレクトリック楽器やホーン隊も加わり、クールなダンス音楽へと変化させている。大きく評価された前作をも上回るほどのクールな作品で、今後もランキング上位に食い込んでいくだろうと期待される。

↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付き)

8位 Bantu · What Is Your Breaking Point?

レーベル:Soledad Productions [5]

 13人編成のアフロファンク/アフロビート音楽集団、Bantu(バントゥ)の最新作。
 1996年ドイツ系ナイジェリア人のアデ・バントゥ(Ade Bantu)とアビオドゥン(Abiodun)兄弟によってドイツで結成された。アフロビートやアフロファンク、ハイライフ、ヨルバ音楽などナイジェリアの豊かな音楽遺産と、アフリカの都会とディアスポラのハイブリッド・サウンドを融合した楽曲を展開。社会正義への強い願望を原動力としており、彼らの音楽と歌詞は、当初からドイツやヨーロッパ、ナイジェリアやアフリカを問わず、汚職、不正、移民、外国人嫌悪、都市疎外などの問題を取り上げてきた。
 また、レコーディングや作曲などの制作活動以外にも、過去10年以上にわたってナイジェリアのラゴスで毎月開催してきたコンサート・シリーズ&音楽フェスティバル「Afropolitan Vibes」を通じて、ナイジェリアのライブ・ミュージック・シーンの復活にも貢献してきた。結成以来、ヨーロッパとアフリカでヒットを連発、主要な賞を獲得してきた。
 本作は、2017年リリース『Agberos International』、2020年リリース『Everybody Get Agenda』に続き、ジャンルと時代を定義する3部作の3作目となるアルバム。タイトルは「あなたの限界点はどこですか?」と聞いている。パンデミックと共に、ナイジェリアでは警察の横暴や犯罪行為に対する前代未聞の抗議デモが起こり、ナイジェリア人は限界点に達した。アフリカで最も人口が多く文化的に重要な国であるナイジェリアの政治の変化と音楽の進化に、グローバルな視点で注視してほしいと我々に迫っている。質問と同時に彼らの声明としての表現も込められている。
 と、メッセージ性ある作品ではあるが、サウンド自体はファンキーですごく格好いい!ホーン隊とコーラスのバランスがとてもいい。本作では、アフリカ系アメリカ人のラッパー、アクア・ナル(Akua Naru)もゲストで参加。疾走感あるサウンドに彼女のラップが乗り、とても心地良く、コーラスとのコラボが素晴らしい!ユニットの結束力がサウンドに表現されている作品。これは良いです!

7位 Bokanté · History

レーベル:Real World [3]

 スナーキー・パピーのリーダー、マイケル・リーグをはじめ数人のメンバーも参加しているユニット Bokanté(ボカンテ)の3作目となるアルバム。
グループは2016年にマイケル・リーグにより結成され、2017年には1stアルバム『Strange Circles』、2018年には2作目『What Heat』をリリース。2ndアルバムはグラミー賞にノミネートされるほど高く評価された。
 ユニット名の Bokanté とは、ヴォーカルのマリカ・ティロリアンが幼少期を過ごしたグアドループ(カリブ海に浮かぶ西インド諸島の島嶼群にあるフランスの海外県)のクレオール語で「交流」を意味する。4大陸5カ国(グアドループ、アメリカ、日本、ガーナ、スウェーデン)から9人のメンバーで構成されており、それぞれの音楽的アイデンティを融合させながらグローバルな音楽を創り上げていくのに相応しい名前と言えよう。(ちなみに日本からのメンバーはスナーキー・パピーのメンバーでもある小川慶太氏)
 アルバムタイトル曲「History」(マイケルとマリカによる共作詞)以外の全曲はマリカがグアドループ・クレオール語で作詞。歌詞は、黒人の歴史や、アイデンティティ、脱植民地化、戦争の無益さ、世界的な団結などといった問題に焦点を当て、最近の時代精神を表現している。また音楽的には、前作同様に西アフリカとアラブ世界におけるブルースのルーツを辿りつつ、彼らが得意とする西洋音楽と融合させている。アラビア音楽のウード、モロッコのゲンブリやカルカバ、そしてアフリカのジャンベやンゴニなどの民族楽器を使い、独自の世界観を表現している。何より4人のパーカッショニスト(ウィーディー・ブライマー、アンドレ・フェラーリ、ジェイミー・ハダッド、小川慶太)のテクニック、音がとても特徴的。マリカのクレオール語のリズミカルなヴォーカルと重なったグルーヴ感が半端ない。
 パンデミックでしばらく物理的に会えなかったメンバーが、スペイン・バルセロナ郊外の小さな村にあるマイケルの自宅に集合し、レコーディングしたそう。全ての要素がうまく重なって出来上がったグルーヴ感が本当に素晴らしい。前進するために「歴史」を振り返る、そのためのアルバム。

6位 Wilson das Neves · Senzala e Favela

レーベル:FundiSom [11]

 ウィルソン・ダス・ネヴィスの口癖として、皆がよく知っていた言葉がある。このアルバムでも誰かが引用しているのかなと思って耳を澄ましていたら、ホベルタ・サーが引用していた。その言葉は、「Ô Sorte!(幸運を!)」。

 ブラジルのレジェンド・ドラマー兼作曲家・歌手のウィルソン・ダス・ネヴィス(Wilson das Neves)が、2017年に、81歳で亡くなったのは、このアルバム『Senzala e Favela(奴隷小屋とファヴェーラ)』のレコーディングのためにスタジオに入る2日前だった。それ故、本作でウィルソンの歌声がはっきりと聴ける曲は、冒頭とラストの2曲のみで、残りの16曲は、ウィルソンのその長くて輝かしいキャリアで深い共演してきたブラジル音楽を代表する歌手たちが遺志を受け継ぎ、歌っている。

 ウィルソン・ダス・ネヴィスは、おそらく自分の生涯最後のアルバムになるだろうと、熱量と想いを込めて、2枚組アルバム全18曲のレパートリーの準備を進めていた。18曲のうち、13曲は未発表の新曲で、18曲のうち13曲は、生涯の共作パートナーである大作詞家パウロ・セーザル・ピニェイロ(Paulo César Pinheiro)との共作曲だ(全18曲の作曲はウィルソン・ダス・ネヴィス)。

 タイトル曲の「Senzala e Favela(奴隷小屋とファヴェーラ)」も、ウィルソン・ダス・ネヴィスとパウロ・セーザル・ピニェイロの共作曲だ。この曲が象徴するように、このアルバムは、ブラジルという国の成り立ちにおける黒人への人種差別と不平等を、テーマに扱っている。本来は、タイトル曲は、盟友シコ・ブアルキとウィルソンがデュエットする予定だったが、ウィルソンは歌の録音を残す前に旅立ってしまった。生前、ウィルソンからこの曲のメロディーが吹き込まれたカセットテープを送られていたラッパーのエミシーダ(Emicida)がこの大役を引き受けた。シコとエミシーダがデュエットしたこの曲は、先行シングルとして配信され、大きく注目された。

「今でも、敬愛するウィルソンから電話がかかってくるんじゃないかと、電話を見てしまうんだ。彼から多くのことを学んだ。一本のタバコをへし折るのは簡単だけど、一箱のタバコを折るのは簡単じゃない。だから、このアルバムに参加することだって、偉大なマエストロへの敬意を示すことと同時に、私たちが連帯していることを示す方法なんだ」と、エミシーダは言う。
 
 音楽面でのプロデュースは、カシン(Kassin)と、ジョルジ・エルデル(Jorge Helder)の2人という鉄壁の布陣。伝統的なサンバ/MPBのアレンジに、良質で現代的なポップスな要素が加えられている。

 ドラマーとして、エリゼッチ・カルドーゾ、クララ・ヌネス、エリス・レジーナ、シコ・ブアルキ、ベッチ・カルヴァーリョ、ホベルト・カルロス等々、サンバ/MPBを中心地を支え続けたウィルソンは、作曲家/歌手としても素晴らしいアルバムを残してきた。

 近年も、カシンやモレーノ・ヴェローゾ、ドメニコらが結成したブラジル新世代のビッグ・バンドで、一人年齢が離れながらもメンバーだったり、エミシーダと数々のコラボレーションを残したりと、生涯、尊敬された人生だった。それ故に、アルバム用に残されたレパートリーから、死後の企画盤や途中まで録音したものを完成させたというわけでなく、ウィルソンが作りたかったアルバムとして本作が完成した。こんなケース、他にあるんだろうか? 私は聞いたことがない。本作が存在すること自体が、ウィルソン・ダス・ネヴィスが、如何に人望があり才能があったのかを象徴している。

 最後に、Voで参加したミュージシャンの一部を紹介したい。ウィルソン・ダス・ネヴェスのために、また、ウィルソンが愛したサンバを祝福するために、ブラジル音楽界の最良の才能たちが集った。 シコ・ブアルキ、ゼカ・パゴヂーニョ(Zeca Pagodinho)、マリア・ヒタ(Maria Rita)、ネイ・マトグロッソ(Ney Matogrosso)、ホベルタ・サー(Roberta Sá)、エミシーダ、セウ・ジョルジ(Seu Jorge)、マルセロ・デードイス(Marcelo D2)、ホドリゴ・アマランチ(Rodrigo Amarante)。レーベルの「FundiSom」は、リオのライヴシーンで重要な役割を果たしてきている Fundição Progresso がスタートしたレーベルで、本作が最初のリリース作品だ。

5位 V.A. · Lost In Tajikistan

レーベル:Riverboat / World Music Network [-]

 中央アジアに位置するタジキスタン、国土の大部分が「世界の屋根」と呼ばれるパミール高原とそれに連なる山脈から成る。パミール高原を境に中国やインドのアジアと、アフガニスタンやイランなどの中東との「文明の十字路」とも言える地位を確立してきた国だ。アジア、中東両地域からの音楽文化がもたらされ、この国独自の音楽文化が発展してきた。しかし、地理的なこともありそれが国外へと発信される機会は非常に少なかった。
 本作は滅多に触れられないタジキスタンの音楽の伝統と、革新的な音を併せた楽曲が収録されている。中央アジアの音楽文化研究でも知られる英国の音楽家ルー・エドモンズが、2008年に現地で録音/収集した貴重な音源集となっている。タジキスタンの首都ドゥシャンベ、ホログのパミリの町、およびグント渓谷近くの2つの村で録音され、タジキスタン各地方で歌い継がれてきた伝承歌を継承するグループ Mizrobなどをはじめとした全5組による音源。
 フレーム・ドラムのダフ、弦楽器や弓奏楽器などが使われ、中東とアジアがミックスされた音であるのが非常に興味深い。口琴も入る楽曲もあり、モンゴル地域の影響もかなり受けているのがよくわかる。歴史と文化、そして音楽の形成が表現されているのが感じられる。豊かで貴重な作品だ。

↓国内盤あり〼。(日本語説明帯付き)

4位 Dudu Tassa & Jonny Greenwood · Jarak Qaribak

レーベル:World Circuit [22]

 イスラエルのSSWドゥドゥ・タッサと、レディオヘッドの作曲家/ギタリストであるジョニー・グリーンウッドがタッグを組んだ作品。
 アルバムタイトル「Jarak Qaribak」はアラビア語で「隣人は友達」という意味。本作に収録されているヴォーカリストは、アルジェリアやエジプト、パレスチナ、ヨルダン、モロッコなどの中東地域各国から参加、また曲も中東各国の楽曲で、ヴォーカリストたちは自国以外の曲を歌い、まさに国境を越えたコラボレーションを実現している。
 ジョニーは本作の収録楽曲を組み立てるにあたって、「もしクラフトワークが1970年代のカイロにいたら何をしただろうかと想像してみる」ということを考えたそう。面白い!また、ドゥドゥは楽曲に政治的なニュアンスがかすかにでも感じられないか、歌詞のひとつひとつをできる限り注意深く吟味し、政治的な主張をしているようには見せたくなかったと言う。
 彼らがアプローチしたヴォーカリストの中には、イスラエル人アーティストと仕事をすることに不安を抱く者もいたそうで、「中東のすべてのアラビア諸国が友人同士というわけではない」と言っている。だからこそ、このタイトルが付けられたのだろうか。
 中東の楽曲が、中東の楽器と、ドラムやギター、トランペットなどの西洋楽器とうまく融合・表現されており、かなり面白い。さすがこの二人による作品だ!

3位 Tinariwen · Amatssou

レーベル:Wedge [1]

 サハラ砂漠西部のトゥアレグ族によって1979年に結成されたマリ共和国のグループ、Tinariwen(ティナリウェン)。フランス語とトゥアレグ語による歌詞で、“砂漠のブルース” と称され、彼らの民俗的な要素も反映させた彼ら独自のスタイルで世界を魅了している。2012年、2018年のグラミー賞で最優秀ワールドミュージック・アルバム賞も受賞しており、世界的にも広く認められている。そんな彼らの9作目となる最新作がランクイン。今年5月に世界同時リリースされ、本チャートにいつランクインしてくるのか?と思っていたが、堂々一位でのランクインとなった。前作は2019年にリリースされた『Amadjar』で、4年ぶりのリリースとなる。 
 本作は、彼らのサウンドの特徴である催眠的なグルーヴ “砂漠のブルース” とアメリカのカントリーやブルーグラスがミックスされている。タイトル『Amatssou』は、トゥアレグ語のひとつであるタマシェク語で「恐怖を越えて(Beyond The Fear)」ということを意味しており、サウンドはまさにそれを体現したもの。長年のファンを公言しているアメリカのミュージシャン、ジャック・ホワイトが、ナッシュヴィルにあるプライベートスタジオでレコーディングしないかと声をかけたことからスタートしたそうだ。しかし、パンデミックでマリからアメリカへの入国が困難になってしまい、リモートで制作することとなった。アンビエント・ミュージックの名手ダニエル・ラノワがプロデュースし、ペダル・スティールでも参加している。
 彼らのサウンドは今まで通りであるものの、どことなくアメリカのカントリーミュージックも感じられ、今までとはちょっと違った面も垣間見える。しかし自分達の音楽的ルーツに忠実であり続けており、それがやっぱり格好いい。12月には来日も決定しているのがとても楽しみ!

e-magazine LATINA の吉本秀純さんによる連載「境界線上の蟻(アリ)」の5月で紹介されました。こちら↓もどうぞ!

↓国内盤あり〼。

↓6年ぶりに来日し〼。(12月に東京・大阪でライヴ開催!)

東京公演
2023年12月6日(水)
SHIBUYA CLUB QUATTRO
問い合わせ:SMASH (03-3444-6751) [https://smash-jpn.com]

大阪公演
2023年12月7日(木)
UMEDA SHANGRI-LA
問い合わせ:SMASH WEST (06-6535-5569) [https://smash-jpn.com]

[全公演共通]
OPEN 18:00 / START 19:00
前売チケット: ¥7,800 (税込) ドリンク別 / 整理番号有
チケットは発売中!


2位 Kayhan Kalhor and Toumani Diabaté · The Sky Is the Same Colour Everywhere

レーベル:Real World [2]

 カイハン・カルホール(Kayhan Kalhor)と トゥマニ・ジャバテ(Toumani Diabaté)という、ソリストとして当地ではそれぞれ巨匠として知られる2人が、即興で演奏するデュオ・ツアーの最終公演を終えた後に録音された。
 ツアーが行われたのは2016年9月で、8年の歳月を経て、この特別なアルバムが世に出た。

 何世紀にもわたる音楽の伝統の担い手である2人によるスピリチュアルな瞑想の世界は、1人の時間に座って聴くのに相応しい。天空の音楽。

 イラン出身のカイハン・カルホールは、ヴァイオリン、フィドルの源流の楽器と言われる擦絃楽器「ケマンチェ(kamancheh)」の名手。4本の弦を短い弓で弾く。膝をついて演奏するこの楽器の演奏について「野生の馬に乗るようなもの」とカイハンは言う。西洋クラシック音楽の範疇では扱えないくらいの微分音を駆使する楽器だ。カイハンは、Yo-Yo Ma’s Silk Road Ensemble、Kronos Quartet、Shujaat Khan、Erdal Erzincan、the Rembrandt Trioらとコラボレーションしてきた。

 マリ出身のトゥマニ・ジャバテは、ひょうたん、牛の皮で作られた西アフリカが発祥のリュート型撥弦楽器、コラの名手。コラは、300年以上に渡って受け継がれてきた伝統的な民族楽器で、21弦ある。ハープやギターの原型とも言われ、アフリカの民族楽器の中でも最も美しい音色を持つとされる。トゥマニ・ジャバテは、グラミー賞を3回受賞、Ballaké Sissoko、Taj Mahal、Ali Farka Touré、Björk、ロンドン交響楽団とレコーディングとこれまでレコーディングしてきた。

 イラン出身のカイハンが、アフリカのミュージシャンとコラボレーションするのは今回が初めて。
「ペルシャ音楽において、私が好きな特徴のミニマリズムとトランスの特徴は、トゥマニの音楽にもあると思います。アフリカ音楽の質の高さには、ずっと惹かれてきました。トゥマニの音楽もとても質が高い」と、カイハンは言う。
 このデュオのアイデアは、カイハンがこれまで何度か演奏してきたドイツの音楽フェスティバル「the Morgenland Festiva」のディレクター、Michael Dreyerによるものだった。カイハン と トゥマニ による準備は最小限のもので、音階や構造についての話にすらならなく、「ある確かなもの」を確認しただけのサウンドチェックで、2人は約90分の演奏に入っていった。

1位 Mari Kalkun · Stoonia Lood / Stories of Stonia

レーベル:Real World [13]

 エストニアのSSWで、カネレ(kannel:エストニア伝統音楽の民族楽器で弦楽器)奏者でもあるマリ・カルクンの最新作。先月13位に初登場だったが、今月は1位にランクイン!本作が8枚目のソロアルバムとなる。日本でも何度も公演を行っており、その度に評価を博してきた。フィンランドのカンテレ(フィンランドの撥弦楽器)奏者でもあるマイヤ・カウハネンともユニット組んだり、様々なミュージシャンたちとも共演し、広く活躍している。
 彼女はエストニア南東部のヴォルマーで生まれ、その地域で話されているヴォロ語でも作詞している。ヴォロ語は話す人が今では約75,000人しかおらず、絶滅の危機に瀕している言語で、マリがヴォロ語で歌うことによりその危機を少しでも回避しようと努力している。
 エストニアの森から語りかけてくるような歌声、自然と共に共存する音楽を構築してきた。本作でもそのイメージ変わらない。伝統音楽からインスピレーションを受けた楽曲、自然の音と電子音、そしてカネレの優しい音色で彼女の故郷の自然を表現している。
 本作では、イギリスのミュージシャンで民俗学者のサム・リーがプロデュースで参加。彼女の世界観をさらに押し広げている。魂に響くような彼女の声が素晴らしく、その空気感がなんともたまらない。自然の優しさや力強さが溢れており、森の中でゆったりと聴いているような気分になれるアルバム。良いです。

前回来日した時のインタビュー記事ついては、以下↓をご覧ください!

(ラティーナ2023年9月)

↓8月のランキング解説はこちら。

↓7月のランキング解説はこちら。



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