[2020.10]映画評|『おもかげ』『82年生まれ、キム・ジヨン』『ウルフウォーカー』|女性の秘めた想いに寄り添いエールを贈る、 3つの国の3つのストーリーと、その社会的な視点。
文●圷 滋夫(あくつしげお/映画・音楽ライター)
スペイン映画『おもかげ』は、まず冒頭で描かれる1シーン1カットの約15分に圧倒され、いきなり半ば強引に物語の中へと引きずり込まれてしまう。
主人公エレナに電話が掛かる。離婚した元夫ラモンと旅行中の6歳の息子イバンからだ。最初はなごやかに話しているが、すぐにイバンを置いてその場を離れたラモンが戻らず、一人浜辺に取り残されていることを知る。エレナは場所も状況も分からないイバンをなだめながら問いかけ、ラモンの友人や警察に連絡して手がかりを探ろうとするがどうにもならず、次第に取り乱してゆく。そして電話の電池が切れそうになった時に、イバンに近づく怪しい男の声が聞こえてくる。不安、もどかしさ、恐怖がごっちゃになって大きくなり、電池が切れた瞬間その感情は極限に達し、エレナは部屋を飛び出す。その緊張感に、観ているこちらの胸も張り裂けそうに高鳴り、そして呆然とするしかなくなる。エレナを演じたマルタ・ニエトの熱演が凄まじい圧巻の15分だ。
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