[2021.08]【沖縄・奄美の島々を彩る歌と踊り13】 八重山のアンガマ −帰還する祖先神との交流−
文:久万田晋(くまだ・すすむ 沖縄県立芸術大学・教授)
沖縄県の南端に位置する八重山の島々では、旧盆(盂蘭盆)のことをソーロン(精霊)と呼ぶ。島によっては、この時期にアンガマといって顔を笠や手拭いで覆い隠した青年男女の一行が集落の家々を歌い踊りながら巡り廻るのである。一行の先頭にはウシュマイ(爺)とンミ(婆)と呼ばれる老人の面を付けた存在がいて、各家で人々と数々の問答を行う。この老人は旧盆にムラに還ってきた先祖の代表すなわち祖先神であり、それに続く一行は祖先神に従う精霊たちでもあるのだ。
一行は各家を訪れると、まずウシュマイとンミが願詞を唱えたのち、念仏歌(親の御恩、無蔵念仏節)に合わせて踊る。その後は数々の歌舞を繰り広げる。それらの合間にウシュマイとンミが周囲で見守る群衆と機知を尽くした問答を繰り広げ(これはすべて裏声で行われる)、それによって人々に人生の教訓を教え諭して、また次の家へと移っていく。
石垣市登野城には300年近く前に作られた木製の面が伝わる一方で、「戦前までは竹皮や紙で作った面を使用していた」という言い伝えもあるようである。また鳩間島のソーラン(盂蘭盆)には、ウシュマイとンミの存在は現れない。これらを考えると、もともと庶民のムラにはウシュマイ、ンミは存在しなかったところに、士族居住地域で行われたアンガマの影響でそれが導入された可能性も考えられる(阪井芳貴氏説)。
石垣市登野城のアンガマ(2018年) 撮影:久万田晋
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