[2021.10] マリーザ・モンチ 国内独占最新インタビュー|Newアルバム『Portas』 CDリリース決定!
Marisa Monte ©️Leo Aversa
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インタビュー・文●中原 仁
EMI(現UNIVERSAL)からSONYに移籍したマリーザ・モンチの、スタジオ録音のオリジナル・アルバムとしては『O Que Você Quer Saber de Verdade(あなたが本当に知りたいこと)』から10年ぶり、待ちに待った最新作『Portas(ポルタス)』が配信でリリースされたのは、2021年7月1日、マリーザの54歳の誕生日だった。
当初から、時期を空けてCDをリリースすることも聞いていたがリリース時期が伸び、CD発売日が11月19日と発表された。日本を含む各国同時発売。ウルグアイのホルヘ・ドレクスレルとの共作・共演曲「Vento Saldo」も追加収録され、全17曲となる。
Marisa Monte ©️Leo Aversa
マリーザのセルフ・プロデュースだが約20年ぶりにアート・リンゼイと共同プロデュースした曲もある。1曲を除いて全てマリーザがソングライティングに関わった、シンガー・ソングライターのアルバムでもある。共作者、共演者、アレンジャーなど、新旧の興味深い顔ぶれが続々と登場! その要素を中心に7月初旬、ZOOMでインタビューを行なったインタビュー。持ち時間は20分と短かったので全編、ノーカットで掲載する。
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── 『ポルタス』に収録した曲は、コロナのパンデミックが起こる前に全て完成していましたか? パンデミック期間中に作った曲があれば、それは何ですか?
マリーザ・モンチ(以下、MM) 全部ではありませんが大半は。この数年間、様々な共作者と曲を作り、スタジオで録音できる段階まで準備してきました。当初、2020年5月にレコーディングを始める予定でしたが、この年の3月以降、全てが不可能な状態になってしまったので私たちは扉を閉め、待つことにして、11月にレコーディングを始めました。それによってエクストラ・タイムが手に入ったので、新たに4曲のレパートリーを加えることができました。アルナルド・アントゥニスと共作した「Vagalumes」、マルセロ・カメーロと共作した「Sal」と「Você Não Liga」。そしてマルセロが一人で作詞作曲した「Espaçonave」は、アレンジも出来上がっている状態の音源を聞き、録音することにしました。パンデミックの間にこの4曲が加わって、レパートリーが増えました。このアルバムは、トリバリスタスの時期を含む私のこの数年間の、次のソロに向けての集成です。
──『ポルタス』には新たな知らせが満載です。まず最初の2曲「Portas」と「Calma」は、アート・リンゼイとの約20年ぶりの共同プロデュースで、ニューヨークのミュージシャンたちが録音に参加しています。その意図と目的は?
MM 当初、私はニューヨークに行ってバンドを組んで録音することを考えていました。アートは現在、ブラジルに住んでいますが約1年間、アメリカの大学で教えるためにニューヨークに滞在していました。その期間を利用して私がニューヨークに行き、かつての良き時代のように彼との共同プロデュースで何曲か録音する予定でいましが、パンデミックで旅行が不可能になってしまったので、11月にアートが彼のバンドと一緒に37丁目のスタジオに入り、ニューヨークとリオを結んでZOOMでリモート録音しました。最初は音のディレイ(時差)があったので同時録音が出来ませんでしたが、ヴィオラォンと歌とガイドのリズムを録音してニューヨークに送り、これに乗って彼らが聴いて演奏して、結果としてとても短時間で2曲を録音することが出来ました。この録音はとても重要で、この経験で、リモートで録音する際の、お互いへの遠慮や不安がなくなりました。以降、リスボン、マドリード、バルセロナ、ロサンゼルスといった世界の様々な都市を結んでリモート録音を行ない、最もインターナショナルなコラボレーションの多いアルバムとなりました。私がリオデジャネイロから出ることがなかったにも関わらず。
── シコ・ブラウン(カルリーニョス・ブラウンの息子、シコ・ブアルキの孫)、フロール(セウ・ジョルジの娘)、シルヴァ、ホーン・アレンジを行なったアントニオ・ネヴィス(エドゥアルド・ネヴィスの息子)など若い、新たな才能の持ち主たちとの共同作業が目立つアルバムでもあります。新世代と組むことは、アルバム制作の初期段階から考えていました?か
MM 私はキャリアの初期から、トランスジェネレーションな見地からアルバムを作ってきました。私が若かった頃は、年上の人たちと一緒であることが多かったけど(笑)。私は言語や感情の異なる人たちが一緒になることは興味深いと思います。年齢を重ねたものには成熟さがあり、若者には大胆さがあるでしょ。そこで私は例えばアルトゥール・ヴェロカイ、マルセロ・カメーロ、アントニオ・ネヴィスといった、言語や感情、世代の異なる人たちとアレンジを行ないました。曲作りの分野ではシコやフロールを彼(彼女)が生まれた頃から知っていて、彼らは私たちが、カルリーニョス、アルナルド、セウ・ジョルジ、私の家で曲づくりのブレインストーミングするのを見ていたから、彼らが私と曲作りするのも自然なこと。才能ある人たちでもあります。
Marisa Monte ©︎Elisa Mendes
── 中でもシコ・ブラウンと5曲、共作したことは大きなニュースです。作詞、作曲はあなたと彼が分担したのですか? 作詞も作曲も共同ですか?
MM 決まりはありません。私も彼も作詞家であり作曲家でもあります。私が曲と歌詞の大半を作って彼のところに持っていき完成したことも、その逆の場合もありましたから、分業とは違います。私は大半の共作者と、そのようなやり方で一緒に作っています。時には分業のケースもある。「Vagalume」はアルナルドが歌詞を作って私に送り、私が作曲しました。実際に会うのが困難な時期なので、リモートの形で。
── シコ・ブラウンは、録音にも参加していろんな楽器を演奏しています。彼の特徴・個性は?
MM 彼は天才的な音楽家。マルチ・インストゥルメタル奏者で、様々な楽器をとても上手く演奏します。彼は自身を音楽に捧げ、つねに作曲し、発明し、演奏しています。思うに彼は才能があり、しかもその才能が見事なまでに磨かれています。音楽を聴いて育ち、今日まで音楽を学び、準備している。彼は自分のインスタグラムで、つねに音楽と共に生き、新たなことをやり、演奏しています。彼自身がまるで音楽の実験室のよう。
── マルセロ・カメーロとの初めての共作もビッグ・ニュースでした。「Espaçonave」はアルバムの中で唯一、あなたが曲作りに参加していない、彼の作詞作曲です。この曲を入れた動機は?
MM 私が曲を気に入ることも、曲が私を好きになることがあります。この曲のように(笑)。彼が、アレンジも出来ていた曲を聞かせてくれて、私は夢中になりました。この曲をアルバムに入れることにして以降、マルセロとの距離がさらに近づきました。彼は寛大です。その後、昨年末に彼は、現在住んでいるポルトガルからブラジルに来ました。私たちはリオで頻繁に会い、話し相手となりました。彼は全ての曲を聴き、曲に関する私のアイディアを知りたがり、プリプロダクションから制作に至るプロジェクトに大きく参加しました。そして、この共同作業の期間に、私とマルセロ・カメーロは「Você Não Liga」と「Sal」を共作しました。
── カメーロは、ソングラティングに関わった以外の曲でも、ストリングスのアレンジを行なっています。彼に依頼した動機は?
MM 私は、彼が作編曲した交響楽のアルバム(『Sinfonia No.1 – Primitiva』2018年)を聴いて感動し、編曲者としての才能を理解しました。そこで彼に6曲の編曲を依頼したのです。彼は偉大なコンポーザーで、彼の音楽はロス・エルマーノスを通じてよく知られていますが、それに比べて知られていない、交響楽の編曲の巨大な才能があり、その面を出せたことがとても良かったと思います。
── 一方、アルトゥール・ヴェロカイがあなたのアルバムで初めてストリングスのアレンジを行なった曲もあります。ヴェロカイの音楽性の素晴らしさは?
MM ヴェロカイは私たち全てにとってのマエストロです。膨大な経験。円熟。音楽的なプロフェッショナリズム。オーケストレーションの言語。「Dèjá Vu」と「Pra Melhorar」で、とても美しいアレンジをしてくれました。彼と仕事することは夢で、私のレコーディングに迎えることは失い難いものでした。
── 懐かしい名前もあります。コンクリート・ポエムを思わせる言葉遣いが印象的な「Praia vermelha」は、ナンド・ヘイスとの共作。これは昔、作った曲ですか? それとも新曲?
MM このアルバムのレパートリーの中で最も古い曲です。おそらく『O Que Você Quer Saber de Verdade』のアルバムよりも前に出来ていました。私が彼に曲を送り、彼が作詞した。歌詞はとても視覚的、映画的(シネマトグラフィカ)です。
Marisa Monte ©️Leo Aversa
Marisa Monte『Portas』
── アルバムのヴィジュアルをマルセラ・カントゥアリアに依頼した理由は?
MM マルセラは30歳少々の若いカリオカ。才能あふれるアーティストで、南米、ブラジルのアイデンティティと、フェミニズムを備えています。幻想的、象徴的、シュールレアリズムの要素も。壁画の伝統にも精通していて、多様な要素を取り入れて一人の人物にオマージュします。私は約2年前から彼女の作品に接してきました。自宅にこもっていた期間、インスタグラムで彼女の製作を見て、私のアルバムのヴィジュアル面にぴったりな人物だと判断しました。そして今年の1月、彼女をプロジェクトに迎え、私たちは3カ月間、一緒に仕事し、彼女は「Portas」と題する絵のシリーズを16作品、描きました。それぞれの絵がそれぞれの曲に対応して、私が表現したかった世界、アルバムの制作期間に私の周りにあった世界を表しています。彼女は注文を遥かに上回る、とても美しい作品を創ってくれました。また、このアルバムの音楽面では、私が組んだ人たちは圧倒的に男性が多いですが、ヴィジュアル面で女性と組めたことをとても幸せに感じています。私が思うに、彼女の仕事は適切で、楽曲が聴き手と繋がることができる潜在力を高めてくれました。アルバムの音に寄り添う、想像的/映像的な世界の全てを作り上げてくれました。
── 最後に、パンデミックで先の予定が立てづらい時期ではありますが、アルバムのリリース・ライヴのアイディアは考えていますか?
MM それは、当分の間は夢ね(笑)。プランを考えるのが困難な時期ですから。可能であれば、2021年末に何か行なって、2022年、パンデミックの様子次第で……。日本に行きたい!サウダージ!
オンラインインタビューに答えるマリーザ・モンチ
(ラティーナ2021年10月)
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